部長クラス
年功序列や終身雇用が当たり前だった頃、部長は部門のまとめ役として組織の年長者が就くポジションでした。しかし時代は変わり、部長は経営者をサポートしながら事業をドライブさせる、よりアグレッシブな立場として位置づけられています。よりビジネスがスピード化し複雑さを増す中、部長職には、どのような育成が有効なのか、そのポイントを紹介します。
いま、こんな課題はありませんか?
- 全体最適を意識し、事業レベルの課題解決まで視野を広げて活動している部長や候補者を増やしたい
- 将来の経営幹部候補となる優れた部長(上級管理者)を計画的に育てていきたい
- 課長時代の仕事の進め方や思考のクセをリセットし、部門経営者の感覚を養いたい
- 部長に必要なマインドセットや知識、スキルを習得させ、改革につながる行動変容を起こしたい
取り巻く環境・変化 課長の延長上では部長職は務まらない
グローバル化にITやAIを中心とした科学技術の発達、また人間の活動に伴う社会問題や環境問題の複雑深刻化など、現代社会は非常に混沌としています。「正解のない問い」が山積する中で、各企業は進むべき方向を定め、かつ迅速に行動に移さなくてはなりません。その舵取りをするのは経営者ですが、実際に事業を動かすのは現場の従業員です。そして従業員の力を経営の推進力に変えていくポジションが、部長になります。
実際にその役割を担うには、高度なスキルが要求されます。事業に対する深い理解に加え、部門のマネジメント能力に経営リテラシーを必要とするからです。これらの力は自然と身につくものではないため、部長候補となり得る人材は常に不足気味です。裏を返せば日本の組織は、部長のような上級管理者が育ちにくいシステムであるともいえます。
これらのことから部長教育に力を入れることは、経営上重要な投資であることがわかります。日本では、メンバーシップ型(職能型)と呼ばれる雇用慣行が長らく主流でした。職能型の人事制度では、勤続年数が長く、順調にキャリアを積み上げた人が昇進するのが基本です。このためほとんどの人は、部長になる前に課長を経験しています。課長での仕事ぶりが認められ、部長に昇進するというケースです。
同じ管理職であっても、課長と部長ではマネジメントの対象や性質はまったく異なります。課長はチームで成果を上げられるよう、業務の適切な差配やメンバーの成長支援が主な役割です。対する部長は、部門の経営者として役員の考えを事業に落とし込み、現場が動けるように環境を整えていくことが求められています。
役割が違うのですから、課長の延長上で部長の仕事をこなせるはずがありません。特に近年、課長はプレイングマネジャーであることが多く、マネジメントに専念しづらい環境にあります。部長になるには役割の認識に加えて思考や視点を切り替える機会を与えるなど、ポジションに見合う能力開発が必要なのです。けれども部長教育を十分に行えている企業は、現状ごくわずか。対策を講じなければ部長になっても現場業務の感覚から抜け切れず、日々の業務に追われたり今後の事業展開について単年での見通ししか立てられなかったりと、小さなスケールでしか動けない部長職と言う名の“大課長”に収まりがちです。
またこれから部長職に就くのは、1990年代後半から2000年代前半に社会人になった、いわゆるロスジェネ世代です。企業は採用を抑えた時期に重なるため、人材の層が薄いという指摘もあります。部長職に見合う人材が社内にいないなら外部から連れてくるという手段もありますが、層が薄いだけに獲得競争が激しくなるのは必至です。
ポイント解説 ビジネスと組織の変革こそ部長の役割
部長は事業経営者であり変革者
先ほど部長は、部門の経営者だという説明をしました。“経営者”ということは、社会や経済の動きを見据え、中長期的な視点で事業を展開していく必要があります。時代は変化し続けるのですから、現状維持ではやがて衰退の一途をたどることに。時代の先を読み、これから事業部が直面する壁や可能性をあらゆる角度から検討し、成長のシナリオを遂行してこそ、部長の存在価値は発揮されます。部長は言うなれば、変革者でもあるのです。
変革の観点は2つに分けられます。ひとつは業務の革新です。既存のビジネスモデルや仕事の進め方を見直し、新たな利益を生み出せる組織体質をつくりあげることが求められます。時に業界や社内の常識を覆すような、改革のメスを入れることもあるでしょう。大きな波を起こせば、当然ながら多方面から反発も起こるもの。周囲を巻き込み対立を乗り越え、実現につなげるだけの行動力が部長には問われます。
もうひとつは、組織に携わる人にまつわる部分の革新です。どんなに素晴らしく成果を上げていたとしても、完璧な組織などあり得ません。改善すべき行動や判断のクセはあるはずですし、成長フェーズが変わることで陳腐化した習慣には何かしら手を打つべきです。そして課長など現場マネジャーの育成も、部長の重要なミッションです。業務そのものの遂行は課長に託すことになりますから、取り組みの成否は課長の仕事ぶりにかかっているといえます。目の前のことでいっぱいになりがちな課長をフォローし、本人の持ち味を上手く引き出すこと、そして自身の後進を育てることが部長には求められます。
部長に望まれる4つの姿勢・態度
(1)全体最適
自身の振る舞いも含めた、経営全体の視点に立った発想や行動の姿勢をさします。部門や社内に限らず、国内外の市場の動向、業界全体へのインパクトなど、外にも広く目を向けたうえで意思決定を行います。部門の利益ばかり主張しているうちは、全体最適が行えているとはいえません。失敗や部下の反発に対する恐怖、責任を負いたくないといったネガティブな心理に打ち勝つタフネスさも必要です。
(2)長期指向
将来を見通し、成果が出るまで時間のかかることに取り組む姿勢、そして目先の小さなリスクに怯まずに中長期的に見て大きな成果となるものを重視する態度です。単年では成果の出ないものでも、数年先を見据えて先手を打つことで、市場に浸透したときには競合が追随できないほどの優位性を持つ可能性もあります。こうした大胆な戦略は、将来最適の発想があって初めてうまくいきます。
(3)重点集中
部門にまつわる課題は非常に幅広く、他の課題と相互に影響し合っていることが多いもの。すべてを解決しようとそれぞれの課題にまんべんなく手をつけてもきりがなく、効果も限定的になりがちです。そこで複数の課題に対し、連鎖的な改善につながるスイートスポットを見つけ一点突破する、思いきった発想と決断が部長には求められます。
(4)対案選択
部門が直面する課題の多くは複雑な構造をしていて、パーフェクトな解決策を見出すのは至難なことです。だからこそ部長は、あらゆる角度から可能性を検討し、複数の方策から最善の案を選ぶ習慣を身につける必要があるでしょう。思い込みや直感から「これだ!」と安易に飛びつくのは危険です。冷静で客観的な態度が求められます。
成長支援の方向性 ひとつ上の視座の醸成がポイントに
見える景色が今までと全く異なるポジションであることを踏まえ、視座を高めることが育成のカギです。
部長になると経営者と共に仕事するようになりますし、幹部しか知り得ない重要な経営情報に触れることにもなるでしょう。対外的にも経営者と接する機会が、格段に増えるようになります。同じ視座でコミュニケーションを図り、得られる情報や人脈をうまく活かすには、財務や経営のナレッジやリテラシーに加え、より高度な思考力に判断力、そして実行力を養うことを意識した研修や学習コンテンツの導入が有効です。
また部門経営は、シビアな局面の連続です。ビジネスと組織風土両面の変革に挑むには、人としての力量が問われます。部長という立場は他者から指導を受けることがほとんどなくなりますし、厳しい判断を下さなければならない場面にも遭遇します。常に自分を律しつつ、周囲を鼓舞し続けなければなりません。変革が加速するのは、部下からの信頼あってのことです。リーダーシップ研修やアセスメントなどを活用し、自分と客観的に向き合いながら望ましいエンパワーメントの発揮を考える機会を設けるとよいでしょう。
また部長は、将来の経営幹部候補でもあります。昇格時から任用数年後、経営幹部登用前と、中長期にわたり段階的な能力開発を計画することも大事なポイントです。
まとめ 人事は部長の育成施策を見直すタイミングにある
社会全体がパラダイムシフトにある昨今において、事業の持続的な成長を図るには優れた部長(上級管理者)の存在は不可欠です。人事は部長になるべき人材の要件や育成計画を改めて見直し、これからの時代に合った従業員のタレント価値向上と生産性を高める体系づくりが急務といえます。
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