経営幹部
「VUCAな時代」と言われて久しい現代社会。“昨日までの当たり前”が通用しないほど、変化の激しい環境のもと、経営幹部は最適な意思決定をし続けなければなりません。不透明な時代においてすべてのステークホルダーに利益をもたらし、社会に愛される企業となるために、今の時代の経営幹部に必要な要素についてポイントをご紹介します。
いま、こんな課題はありませんか?
- 移り変わりが激しく不透明な時代おいて、意思決定できるリーダーを育てたい
- 経営幹部に判断の拠り所や確固たる軸を持ってもらいたい
- 過去の成功体験から脱却し、柔軟性の高いマネジメントを実現したい
- 経営幹部の社会課題に対する感度と経営センス、ビジョンを描く力を高めたい
- 経営幹部候補に必要な経験を積ませたい
取り巻く環境・変化 社会課題解決と利益の両立経営への期待が増加
時代の変化に伴い、経営を取り巻く環境はいっそう厳しさを増しています。特に近年、テクノロジーの発展や環境・社会問題の顕在化などにより、これまでの常識が次々と覆されています。最近では新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中の人々が生活様式も含めてニューノーマルへの転換を余儀なくされています。
内閣府はこれからの社会をSociety5.0と定義し、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間の融合により、経済発展と社会的課題の両立を図ることを打ち出しています。そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)時代の到来は、産業構造のシームレス化をもたらすと同時に、ビジネスの在り方を加速度的に変容させています。例えば、Googleなどのインターネット企業が自動車業界と競合することなど、少し前には考えられなかったことです。以前から「モノからコトへ」といった言葉が使われていましたが、単なる消費から体験価値の創造へと産業の軸が移り変わったといえます。経営は自社事業の異分野への応用も視野に入れつつ、顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)の戦略的な設計と改善に向け、スピード感を持って意思決定していく必要があります。
一方で過剰な市場競争が、環境破壊や資源の枯渇、貧困、格差といった負の側面をもたらしていることが問題視されています。投資家も事業と社会の持続可能性を重視する傾向にあり、売上至上主義のビジネスから脱却し、社会課題解決と利益の両立を図る経営をめざすべきです。
組織経営においても、日本の企業は変革を迫られています。終身雇用や年功序列といった雇用慣例が崩れ、“ひとつの会社で働き続ける”という常識は徐々に過去のものになりつつあります。また副業(複業)の解禁やテレワークの一般化などに伴い、同じ時間にひとつの場所に集まって働くことが、必ずしも合理的ではなくなってきました。法令に目を向ければ、同一労働同一賃金の徹底や有期雇用者の無期雇用への転換など、雇用する側の責任を問う内容のものが増えています。と同時に、外国人や障がい者の採用、若手の経営幹部への抜擢、パートタイマーの管理職登用やフリーランスの活用などを含め、労働力人口の減少に伴い、人事の柔軟性がそのまま企業の戦力に反映される時代です。時間や場所、雇用形態に縛られず、価値あるアウトプットを生み出し続けるには、働き手のキャリア自立を促し、主体的にビジネスを動かしていく感覚を高めることがカギに。働く人の価値観の多様化はマネジメントを複雑にしますが、イノベーション創発など競争力の源泉として不可欠なものです。一人ひとりの働きがいにフォーカスし、心身の健康とパフォーマンスの発揮を後押しすることも、経営の大きな役目といえます。
ポイント解説 これからのトップマネジメントに求められる3つの力
企業の経営環境がより一層厳しさを増す中、「経営力の強化」は重要なテーマです。経営人材には、力強いリーダーシップと改革を推進するイノベーティブな資質が問われます。
(1)ビジョンを示す力
かつてに比べてビジネスやテクノロジーや複雑さを増し、サービスやITなどの無形商材が圧倒的に多くなりました。どんなに優れた商材でも、機能性を前面に押し出したアピールでは、顧客や投資家の共感を得るのは難しいでしょう。
組織においても役割は細分化され、一つひとつの業務だけ見ていてもビジネスの全体像を捉えることはできません。モノづくり全盛の頃と比べると仕事の手応えはつかみづらくなっていて、働く人の中には虚無感を覚える人もいます。そしてグローバル化やダイバーシティに対応する組織をつくるということは、異なる体験やものの捉え方をする人たちと共に仕事をするということです。旧来の経営手法ではまとめることはおろか、かえって対立を生みかねません。
そこで大切になるのが、ビジョンの存在です。どういう企業でありたいのか、事業を通じて社会とどうつながりたいのかといっためざす姿を、すべてのステークホルダーにわかりやすく伝える必要があります。言語や世代や経験の違いを越え、価値の共感によって結びつく組織には、経営者から力強いメッセージを送り続けることが肝心です。
(2)問いを立てる力
先進国は社会が成熟し、長らく低成長の時代にあります。経済成長期と違い、確実にモノやサービスが売れる時代ではありません。安易なアイデアではLTV(ライフタイムバリュー)やコモディティ化までの時間は短く、他社を模倣したところで価格競争に呑まれるだけです。企業は独自の方向性を見出し、これまでにない価値を生み出す必要があります。とはいえフォーカスが時代とずれていては、いくらヒト・モノ・カネを投資しても成長にはつながりません。
そこで経営者に必要になるのは、良質な問いを立てる力です。問いの中身次第で常識を疑ったり、事象のつながりに目を向けたりと、答えに至るプロセスも変わってきます。世の中がどう動くか見えない中、ピントの合った答えを見出せるかは、経営者の立てる問いにかかっています。
(3)人間力
企業としての態度や風土は、良くも悪くも経営者の素養や特性が色濃く反映されます。経営者が保守的であれば事業も挑戦を避けるようになりますし、信頼がなければ理論上は正しいことでも従業員はついて来ません。もし倫理観に乏しいようならば、やがて不正も起こり得るでしょう。経営に対する深い理解やマネジメントスキルの熟達も重要ですが、経営者には人間的な魅力は欠かせません。熱い信念と誠実さ、高い倫理観に加え、感情の起伏をマネジメントし、周りによい影響を与える振る舞いが、トップマネジメントには求められます。
成長支援の方向性 ブレない軸を見出し、問いを立てる力を鍛える
「自分が何者か」を知る
経営幹部は孤独な存在です。周囲からの率直な助言を受ける機会も減るため、常に自身を律して客観的に判断する必要があります。それには思考や行動の癖、感情の傾向など自身の特性をよく知ることが重要です。360度評価などのアセスメントを利用し、“自身が思う自分”と“周りから見た自分”のギャップをつかんでおくとよいでしょう。
また日ごろの意思決定に一貫性を持たせるには、自身の価値観に基づく信念が不可欠です。そして信念の言語化には、第三者の存在がカギになります。異なる考えから刺激を受け、内省をくり返すことで、自身の想いや大切にしていることがだんだんと浮かび上がってくるからです。同僚や友人、家族とも異なる緩いつながり同士の対話は、抑えていた本音を導くこともあります。対話型研修への参加などを通じて自身を知り、ブレない軸を築き上げることが大切です。
教養が問いを立てる力を支える
問いを立てる力について先述しましたが、“よい問い”は多面的に物事を捉え、核心にアプローチする力を持ちます。この問いを見出すのに役立つのが教養(リベラルアーツ)です。経営学に加え、世界史や生命科学なども含めた幅広い学びが、気づきやシャープな洞察をもたらします。各分野の第一人者の話を聞くなど、良質なコンテンツから事業分野とは異なる領域の知に触れ、広く深く考える習慣を身につけておきたいものです。
経営幹部本人の本音に寄り添う体制を整える
優秀だった部門管理者ほど、不安を抱きます。この不安の自己処理を誤れば、どんなに優秀な人でも、容易に脱線してしまうのです。その意味では経営幹部本人の内省はもちろんのこと、社外の専門家からコーチングやカウンセリングなどを受けられる支援体制を整えることが効果的・効率的な経営幹部育成につながるといえます。
まとめ 中長期的視点で経営幹部の育成を
経営幹部に求められる知識や資質は幅広く、特に意思決定については経験を積んでスピードと確度を高められる側面があります。経営者になったからといって、一朝一夕で備わるものではありません。多くの意思決定の機会が幅広い視野をもたらし、思考を深めていきます。経営人材の育成には中長期視点を持ち、段階的な計画を意識しましょう。
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