ものづくり人材

どうすれば「現場力」のあるものづくり人材の確保と育成ができるのか。価格競争の激化、生産拠点のグローバル化、不安定な国際情勢など、めまぐるしいビジネス環境の変化に加え、熟練者の定年退職による技術力の低下は日本のものづくり産業にとって大きな課題となっています。OJTでは習得が難しい体系的な知識・技能をどのように高めていくか。そのポイントを紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • 品質、コスト、生産管理、安全、環境といった生産部門の管理技能が高まる総合的な教育を実施したい
  • 若手社員が生産・製造部門の改善をリードできる人材へと成長させたい
  • 全体最適で生産を語ることができる人材へと成長していくための基本ステップを知りたい
  • 中核人材育成のために、技術・技能だけでなく、意識・知識を高める教育も整備したい

取り巻く環境・変化 不確実性の時代における製造業の企業変革力

これまで製造業を支えてきた熟練のものづくり人材がリタイアの時期を迎えているが、世代交代がうまくいかず自社の根幹となる技術力が低下している、それに伴うものづくりの「現場力」の弱体化が著しいといった危機感を抱く経営者の声をよく耳にします。また、従来型のシステム(レガシーシステム)に依存しているため、爆発的に増加するデータを活用しきれず、急速に進むDX(デジタルトランスフォーメーション)に遅れをとるのではないかという不安も顕在化しています。つまり、次世代を担うものづくり人材育成と、デジタル化対応のための人材育成の両面が課題といえますが、これらに対してなかなか有効な解決策が見出せないのが現状です。
雇用情勢は近年着実な改善が見られていたものの、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の影響による雇用調整の可能性があるとする事業所もみられます。他業種と同様に、製造業も高齢化が進展している状況ですが、熟練者の定年退職による技術力の低下は大きな課題となっており、労働力不足が深刻化する今日では、生産性向上の実現に向け、いかに「現場力」の強化を図るかが最重要な取り組みといえます。

ポイント解説 ものづくり人材に期待される能力

経済産業省『製造基盤白書(ものづくり白書)2020年版』によると、民間や公的な教育訓練機関が実施するものづくり人材を対象とした OFF-JTで望む研修内容の質問に対して、デジタル技術を活用している企業では、「加工など製造技術に関する専門的知識・技能を習得させるもの」(50.1%)、「OJTでは習得が難しい体系的な知識・技能を習得させるもの」(38.4%)、「生産管理に関する専門的知識・技能を習得させるもの」(38.0%)と続く結果となった。この結果は「ICT などデジタル技術に関する知識」(17.5%)の回答割合を大きく上回っており、デジタル技術の活用が進む企業においても、ものづくりに関する能力は必要とされていることが表れている。

ものづくり人材を対象としたOFF-JTに対して希望する研修内容

ものづくり人材の能力開発のポイントは「現場力」

「強い現場」とは、すべての階層の社員がたゆまぬ改善や課題解決に挑んでいる現場です。しかし、改善や課題解決を行えるだけの人材は一朝一夕で育つものではありません。職場によっては課題解決以前に、課題や問題そのものを発見する力が不足している場合もありますし、若手の従業員がものづくりの現場で必須となる知識を身につけていない場合もあります。現場力を高めるためにはまず、働く一人ひとりが自身のポジションや役割にふさわしい知識や技能をきちんと有していることが前提で、そのためには適切な教育が必要になるのです。

生産活動に関するトータルな管理技能と改善能力を身につける

生産に携わるものづくり人材には、専門技能に加えて生産活動に関するトータルな管理技能と改善能力が求められます。特にIE(Industrial Engineering)やQC(quality control)といった管理技能の習得は、現場で働くものづくり人材の成長の土台となるとともに、改善と課題解決には欠かせない要素です。
加えて、デジタル活用を進めていくにあたっては、自社の製品や技術、設備・装置について熟知することはもちろん、社会情勢や自社を取り巻く外的環境に関する情報収集や、知識を最新状態にアップデートするための学びの習慣化も必要です。こうしたことに主体的に取り組める人材を計画的に育成するための教育体系の整備が大きなポイントになるのです。

教育体系の整備

成長支援の方向性 ものづくり人材の育成に求められる施策

階層ごとに、自身の役割理解と現場での業務遂行のために必要な能力を身につけるためには、R(役割)、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)、S(安全)、E(環境)およびIE・QC・TPMといった改善技術を体系的に学ぶための育成計画を整備することが大切です。こうしたインプットに加えて、現場の上司・先輩のOJTによる指導力向上も欠かせません。また、暗黙知であることが多い熟練技能者の継承を形式知化することや、国家技能検定資格や民間検定の取得の推奨も有効といえるでしょう。

まとめ

ものづくり企業では、海外工場の立ち上げにともなう指導者・監督者不足、ベテラン世代が退職した後の技能伝承など、現場を支える人材の育成が課題となっています。その意味では、生産にたずさわる人材には、技術や技能伝承だけでなく、品質、コスト、生産管理などを核としたトータルな知識が求められているといえます。現場に強いものづくり人材育成をしていくために、まず職場や組織が一体となって育成する環境を整えることが重要です。そのうえで、一人ひとりがインプットとしての学びを習慣化し、職場でベストなアウトプットを(成果)を出し、適切な振り返りによって気づきを得る。そして、さらなるインプットを行い改善や技術の向上に努めるといったサイクルを回していくことが期待されているといえるでしょう。