昇進・昇格

昇進・昇格制度を単なる選抜審査で終わらせず、マネジメントスキルの向上や、若手の早期登用や成長を促進重要な育成機会として運用するためにはどのような視点に留意すればよいのでしょうか。昇進・昇格審査設計の基本プロセスとともに紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • マネジメント職を中心に、上位層に必要な能力を備えた人を昇進・昇格させたい
  • 昇進・昇格に対する不公平感をなくし、若手のモチベーションを高めたい
  • 自社内の評価(社内価値)に加え、客観的な市場価値を昇進・昇格制度に取り入れたい
  • 早期選抜等、実力がある人を登用していく制度にしたい
  • 経営幹部を計画的に育成していきたい

取り巻く環境・変化 早い段階からマネジメントに必要な能力を測定する

テレワークが急速に進む中、メンバーの仕事が見えにくくなっていることもあり、管理職には適切な業務配分や必要なタイミングで部下を指導・育成することを期待されています。つまり、バーチャルでもチームを機能させるために今まで以上にマネジメントスキルの発揮が求められているのです。しかし、マネジメントスキルは、一般職で高い業績を出せる人であっても、全員が備えているわけではありません。組織で成果を出すための仕事の進め方、メンバーへの効果的な関わり方をスキルとして身につけているかどうかが、管理職として即戦力で活躍できるかどうかを左右します。
2000年代にICTの進化・普及により、さまざまな経営情報のデータ化が進んだものの、人事領域はまだまだ十分にデータが活用されてきませんでした。しかし、グローバル化やタレントマネジメントの広がり、個々人にあった仕事や指導方法などが重視されるなかで、近年ではビックデータ解析や人工知能(AI)やクラウドなどの最先端技術を活用して、人事に関する業務の課題解決や最適化を実現するサービス(HRテック)が急速に進み始めています。
また、高齢化が進む中、早期選抜による若手の登用も重視されています。この場合、候補者は期待人材であるものの、マネジメント力が不足している場合があります。そのため、早い段階からマネジメントに必要な能力を客観的に測定し、本人へフィードバックを十分に行い、計画的に育成していくことが重視されています。

ポイント解説 企業内価値と市場価値の両面から評価する

日本の企業の多くは、職務調査によってあらかじめ設定された職務遂行能力に基づく資格等級である「職能資格制度」によって各従業員を評価し、従業員を格付けする制度を導入しています。そして、多くの企業が成果主義的な人事制度への転換を試みており、昇進・昇格などの適正な運用がその成功の鍵を握るとされています。つまり、昇進・昇格審査の公平性や納得性をいかに確保するのか、人と組織をマネジメントするにふさわしい人物をどのように見極めるのか、昇進・昇格と教育をどのように連動させるのかなどの各課題に適切に対処する必要があるといえます。

昇進・昇格審査設計のプロセス

職能資格制度のもとにおける昇進・昇格審査は、現在格づけされている職能等級上の必要能力を十分習得しているか、上位等級に必要とされている職務能力があるかなどを複合的な審査方法を用いて、その基準にあった者だけを昇進・昇格させます。かつての昇進・昇格審査は「選抜」の要素が高かったため、審査プロセスも含め非公開の実施が大半でした。しかし、近年では人事制度や組織形態の多様化・複線化などに伴い、上位等級への期待要件を満たすための事前学習や合否判定のフィードバック、次なる成長支援などを盛り込む「育成」の要素を加えた運用が増えてきています。その意味で、昇進・昇格審査も「求める人材像の明確化」から「合否後の成長支援」まで一貫したプロセス設計が求められているといえます。

昇進・昇格審査プロセス

昇進・昇格審査を設計する際の評価の視点

では、昇進・昇格審査を設計する際はどのような視点に留意すればよいのでしょうか。一般的には昇進・昇格審査は「一般職層」「中間指導職層(係長など)」「管理職層(課長・部長など)」に応じて基準を変えながら運用されます。特に、職責が大きく変更する管理職層の審査においては、相応しい人材を登用するために、今までの実績や専門知識など自社内の評価(社内価値)とともに、上位職としてマネジメント力を発揮できるかポテンシャルを客観的な市場価値として確認し、その両面から審査を行うことが効果的です。実際に日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)がおこなった「昇進昇格審査実態調査(人事部門対象)」においても「昇進・昇格」に関する困りごととして、「女性の管理職登用が進まないこと」「審査に客観性を確保すること」「特定領域の専門性を評価しにくいこと」が上位に挙がっており客観性・公平性・透明性のある審査運営をおこなうことが課題になっていることが浮き彫りとなりました。

昇進・昇格審査における評価のバランス/「昇進・昇格」に関して困っていること

昇進・昇格審査における人材評価の側面と測定方法

人の能力は、下記のような能力構造図で捉えることができます。昇進・昇格審査において、前述の社内評価として、今までの業績等貢献度を人事考課や上長推薦で確認することは重要ですが、同時に、評価の客観性と優秀な人材の早期発掘のためにも客観的なアセスメントを用いて、職場行動や、潜在的に持っているスキルや意欲などを多面的に図ることが有効です。特に、管理職としての潜在的な能力を測定する手法としては、将来のマネジメント行動をシミュレーションする形で測定するアセスメントセンターがもっとも有効といわれています。

昇進・昇格審査における人材評価の側面と測定方法

成長支援の方向性 昇進・昇格審査を有効な育成の仕組みとして運営する

昇進・昇格審査前後の教育の重要性

弊社が実施した昇進・昇格調査では、昇進・昇格審査で合格する方の特徴は、審査に対してチャレンジ意欲があり、自分なりにポイントをおさえて、学習できる人でした。また、不合格になる人は審査に対して不安を覚えたり、何を学習してよいかわからなかったりするなどの特徴が見られました。しかし、どちらの場合も、審査を受けることは成長のきっかけになったと回答している方が多くみられました。この結果は、昇進・昇格審査を受けることは社員が成長する大きな転換点として有効であることを意味します。このような結果を踏まえ、昇進・昇格審査を単なる制度として運営するだけでなく、審査前の教育の仕組みを充実させたり、審査後のフィードバックとフォローを十分に行うで、人材をより成長させていく仕組みとして活用していくことが重要といえます。

フィードバックの充実

また前述の調査では、昇進・昇格審査で成長を感じた方は、上司からの事前のサポートと審査結果のフィードバックを十分に受けられた方が多くみられました。昇進・昇格審査を候補者の成長促進の機会としていくためにも、審査前に上司へ候補者支援について意識づけを行ったり、審査後のフィードバックを充実させることも審査設計の段階で考慮することが大切です。

まとめ 社内外と連携した継続活動が成果を高める

経営環境の変化が激しい時代、方向性自体も自分で考える力が求められたり、組織のマネジメントにおいても、テレワークなど働き方が大きく変わるなかで、改めて管理職の能力が問われています。従来の実績や貢献度だけではなく、これからの管理職に必要な能力を見極めながら、アセスメントなどを用いて能力を客観的に評価し、適切な人材を登用していくことがますます求められています。
同時に、昇進・昇格審査で何が求められているのかを明確に示すことで、事前の学習機会になり、結果を十分にフィードバックすることで求められている能力を伸ばす重要な気づきにもなります。その意味でも管理職候補者の運用に加え、若手の早期登用や成長を促進させていく重要な育成機会として本制度を運用していくことが有効といえます。