ダイバーシティ・インクルージョン
イノベーションや組織変革の起爆剤として期待の高まるダイバーシティ経営。マイノリティの視点を取り入れることで潜在的なニーズを開拓できるだけでなく、企業価値の向上にもつながります。ダイバーシティ推進を通じ組織の成長をドライブさせるにはどのようにすればよいのでしょうか。そのポイントをご紹介します。
いま、こんな課題はありませんか?
- ダイバーシティはマイノリティだけでなく、すべての従業員に関係するものという認識を醸成したい
- ダイバーシティ施策を推進するにあたり、運用側のマインド含めた教育を考えたい
- 組織で働く人の属性、価値観、働き方が多様化する中で、成果を創出できる組織にしたい
取り巻く環境・変化 多様な人材が“集まる”だけでは、変革にはつながらない
組織の多様性がイノベーションや新たな価値創造につながると、大手企業を中心に2000年代から推進を図ってきました。女性やシニア人材の活躍支援に外国人、障害のある人の積極的な採用、また近年ではLGBTなどのセクシャルマイノリティも、性自認や性的指向を隠すことなく働ける環境を整える企業が増えてきています。短時間勤務などの柔軟な働き方の実施やワークライフバランスの促進といった“働き方改革”は、女性をはじめ多様な人材の活躍につなげるための施策でもあります。
しかしながら、ダイバーシティ推進が経営課題の解決に結びついている企業はひと握り。ほとんどの企業では、取り組みが多様性を尊重する段階で留まってしまっているからです。差別や偏見のない環境の実現は、人権の観点から非常に重要なことといえます。けれどもそれだけでは不十分なことは、本来の目的と照らし合わせれば明らかです。この状況を重く見た経済産業省は、2018年に競争戦略としてのダイバーシティ経営指針である「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を策定しました。
現状の取り組みのどこに問題があるのか。ひとつ言えるのは、ダイバーシティを“属性”で捉えている点です。ダイバーシティは、性別や人種、年齢、肌の色など、比較的外見で判断しやすく本人の意思では変えられない要素の違いである「表層的なダイバーシティ」と、経歴やスキル、文化的背景の違いや個々のアイデンティティといった「深層的なダイバーシティ」の2つに分けられます。多様性を考える際は、表層的なダイバーシティのみならず、深層的なダイバーシティにも本来であれば目を向ける必要があります。ところが実際の施策の多くは、属性の違いをもとに設計されています。そのため管理職登用や採用比率の向上、また啓発といった表面的な取り組みに終始しがちです。
そしてもうひとつはダイバーシティマネジメントが、うまく機能していない現場の問題があります。もともと日本の社会は、異なる人種や宗教、言語が入り混じる諸外国に比べて同質性の高い構造をしています。加えて性別による役割分担に、新卒一括採用・年功序列・終身雇用といった日本独自の雇用慣行が長らく続いていたことから、企業には“考え方の近い”“健康”な“日本人”の“男性”中心の集団だった頃の常識や慣習が、まだまだ深く根づいているところがあります。
用いる言葉やキャリアも一様だった頃には阿吽の呼吸で意思疎通を図れていたことも、多様性の高い組織ではそうはいきません。またバックグラウンドがさまざまな人たちが集まる中で、これまでのやり方に当てはめるというのでは、せっかくの多様性も台無しに。考え方や理解の違いから生まれる多角的な意見をぶつけ合い、柔軟で先進的なアイデアの創出につなげることが、ダイバーシティマネジメントの本質といえます。
ポイント解説 成功のカギはインクルージョンにあり
ではどうすれば、いろんな人が“集まっている”だけの状態から共創につなげることができるのか。そのカギを握るのが、インクルージョン(Inclusion)という考えです。もとは包含、包括といった意味のインクルージョン。経営成果の創出に向けて誰もが自分の個性や強みを最大限に発揮し、自分らしく組織に参画していると感じられることをさします。つまり企業活動において属性の枠組みを越え、少数派の考えや意見を排除することなく相乗効果を図れている状態を実現することで、初めて多様性は力を発揮します。ダイバーシティ経営は、多様性とインクルージョンをセットで進めていく必要があるのです。
とはいえダイバーシティ&インクルージョンは企業文化とも密接に関係し、いきなり実践できるものでもありません。次の5つのポイントを踏まえ、少しずつ組織に浸透していくように働きかけていくことが重要です。
ダイバーシティ&インクルージョンの5つのポイント
(1)制度や仕組みの公正な運用
採用や教育研修、仕事の機会に評価、報酬や福利厚生に至るまで、社内の制度や施策はすべての従業員に対して公正に運用します。属性の違いによる処遇の格差は、モチベーションやエンゲージメントの低下、従業員間の不和にも影響します。従業員それぞれの能力を最大限発揮させるベースとして、公正さは欠かせません。
(2)違いの尊重・受容
組織に多様な人材が集まっているだけの状態は、かえって対立や差別を生み出しかねません。偏見をなくし、互いの違いを尊重し、受け入れ合う組織風土を築いていけるよう働きかけます。
(3)意思決定への参画
そしてダイバーシティ経営の最も重要な点は、あらゆる属性や異なる価値観の人材を集め、意思決定のプロセスに組み込むことです。多面的に課題を捉え、広い視野で議論や検討を重ねることで、より望ましい組織づくりやこれまでの常識を打ち破る画期的なビジネスの創出につながります。
(4)協調的解決風土の醸成
考え方のバリエーションが増えれば、それだけ意見の対立は起こりやすくなります。しかし組織変革やイノベーションにおいては、むしろ“健全な対立”は歓迎されるべきものです。他の人の意見を非難して自分の考えを押し通そうとしたり、場が気まずくなるのを恐れて発言を控えたりするのではなく、議論を重ねて協調的な解決を図るのが望ましいあり方です。
(5)めざす姿とのつながり感
ここでいう“めざす姿”とは、会社のミッションやバリューなど所属する組織の方針のこと。従業員一人ひとりが組織のめざす姿に共感し、共通の目的を理解したうえで強みや持ち味を発揮することが肝心です。
成長支援の方向性 風土とコミュニケーションの両面からアプローチする
●推進のキーパーソンはマネジャー
職場の風土や志向性は、管理者(マネジャー)の態度や言動が大きく影響します。組織にダイバーシティ&インクルージョンの考えを根づかせるには、その重要性を管理者が深く理解し、部下の持ち味を引き出すマネジメントを行えるよう、トレーニングを重ねることが肝心です。
●自分ごととして腹落ちさせる
「深層的なダイバーシティ」とは、言うなれば個人の特性のことです。同じ世代の男性社員であっても、価値観や考え方には違いが生じます。生まれてから積み重ねてきた経験や過ごしてきた環境がまったく同じという人はいないですし、同じ物事に直面したときの受け止め方はそれぞれで異なるからです。つまり他者が存在する時点で、ダイバーシティは生じているのです。ダイバーシティ&インクルージョンは特別なことではないという共通認識を、いかに培っていくかが問われます。
●無意識の偏見を自覚させる
「女性は細かいとこまで気が利く」「シニアはパソコンが苦手」というように、本人の資質ではなく属性で判断してしまうことはありませんか?このような思い込みを、アンコンシャスバイアスといいます。物事を解釈する際に脳の働きによって起こる、無意識の偏見です。これまでの経験や習慣などがもとになっていることから、誰もが何かしらのアンコンシャスバイアスを抱えています。
思いこみは瞬間的に生じ、かつ気づきにくいもの。そのつもりはなくても、相手の機会を奪っていたり、偏った評価をしていたりする可能性があります。特に仕事のアサインや評価を行う管理者は、気をつけたいものです。
●健全な対立を乗り越えるコミュニケーションスキルを磨く
多様性が進むということは、同じ体験や感覚を持ち合わせている人の割合が少なくなるともいえます。仕事の指示や自身の考えを伝えるのに、今まで以上に明確な表現が求められます。また健全な対立を生み出すには、互いを認め合いながら誰もが率直に発言できる関係性を築くことが重要です。そのうえで意見の対立を上手に扱い、信頼の喪失や関係性の悪化の引き金にならないようマネジメントする必要があります。
まとめ これからのダイバーシティ&インクルージョンとは
社会の複雑化によりさまざまな価値観が生まれ、キャリア観や働き方観も個別化が進んでいます。加えてテレワークの浸透にパラレルキャリアの普及と、組織との関わり方も選択肢の広がりを見せています。すべての人が個性を発揮し、パフォーマンスの最大化を図れるよう、人事は「真のダイバーシティ&インクルージョン」の実現に向けて一歩を踏み出す時期にあるといえます。
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