職場活性化

人と組織の活性化は、企業が業績を上げるうえでも、働く人がモチベーション高く働く意味でも欠かせないものです。働く価値観や人材の多様化、メンタルヘルスケアなどをおこないながら、どのように組織開発や職場活性化を実現するか。その秘訣や方法をご紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • 部署や事業、働く環境(場所)にかかわらず、縦横斜めのコミュニケーションが図れるようにしたい
  • 組織診断(ES調査)の結果を組織活性化に活用できるようにしたい
  • 人材の多様性を生かし、成果を出すマネジメントに変えていきたい
  • 心理的安全性のある職場づくりをしていきたい
  • 新しいアイデアや発想が生まれる、イノベーションが起きる組織に変えたい

取り巻く環境・変化 組織開発や職場活性化が求められる理由

「組織開発」は、1950年代にアメリカで誕生し、60年代に日本に導入されたといわれています。組織の中のコミュニケーションや、活性化に焦点を当てる施策を総称するものです。日本企業での注目はバブル崩壊後のハード面への投資優先でいったん下火になりますが、2000年代にその揺り戻しともいえる動きが現れ、コーチングやファシリテーションが特に脚光を浴びました。そして令和に入り、ますます注目が集まっているといえます。では、組織開発や組織活性化のテーマが注目されるのでしょうか。その背景については次のような変化が挙げられます。

(1)個(孤)業化

目標管理の浸透により、個人にタスクが割り振られ、そのタスクの成果で評価されることがあたりまえになったことにより、仕事が個人で閉じるようになってきました。また、新型コロナ禍において、在宅勤務、テレワーク、リモートワークが拡大したことにより、個(孤)業化にいっそうの拍車がかかっています。

(2)短期成果志向

本来、目標管理のもと、プロセスと成果を求めてきましたが、環境変化が激しい中で、成果に比重が置かれるようになりました。それにより、プロセスが置き去りになってしまい、年度単位の短期成果を追い求めるようになりました。

(3)情報の共有化・見える化

これまで管理者が握っていたさまざまな情報が、情報共有のシステムの登場・浸透により、管理者とメンバーの情報格差が小さくなりました。また、日々変化する現場の情報はメンバーしかもちえない状況となり、情報の共有化・見える化の必要性が高まるようになりました。

(4)管理者のプレイヤー化・マネジメント機能の集中

組織のフラット化によりマネジメント機能が管理者に集中し、また、短期成果志向により、任せて育てるよりも自ら行動し、成果を出すことを選択してしまう結果、管理者自身の仕事量が増大し、結果として管理者自身も自覚がある中で職場不全が起こってしまっています。またこれにより、目標達成をしたい管理者と具体的な指示を待ってしまうメンバーとの間で相互に依存する関係が増すことになりました。

ポイント解説 職場活性化に必要な視点

人と組織の活性化は、企業が業績を上げるうえでも、働く人がモチベーション高く働く意味でも欠かせないものです。しかし、働く価値観や人材の多様化、メンタルヘルス不全問題の深刻化などの状況もあり、その効果を持続させ、継続的にモチベートするということは、容易なことではありません。一過性に終わらない、持続する組織活性化の秘訣や方法とは何なのでしょうか。以下に、これから組織開発や組織活性化に取り組む際には以下のような視点を押さえることが大切といえます。

(1)理念浸透・目的共有

企業や組織としてありたい姿を実現するためには、めざす目的にむかって思いを共有し、行動することが重要です。そのために、「何を大切にしながら、何をめざすのか」を明らかにした経営理念を理解することが重要です。これにより目的や価値観が共有され、物事の意思決定をする際の判断軸になっていきます。

(2)心理的安全性

Googleのプロジェクトアリストテレスで、チームにとっての重要性が一気に認知された「心理的安全性」。チームワークやリーダーシップの観点で考え方を取り入れる日本企業も増えていますが、その本質は「ヌルい職場」にならず、「健全な衝突」によりチームの力を引き上げることです。そのために、管理者が部下一人ひとりに寄り添う対話をつうじて「心理的安全性」を高めるとともに、相互理解を深めながら「組織適応性」を高めることで、仕事に対する主体性を引き出すことが重要となります。

(3)技術的問題と適応課題

リーダーシップの研究者ロナルド・A.ハイフェッツによると、問題には『技術的問題』と『適応課題』の側面があると述べています。技術的問題とは、既存の解決策や知識・テクノロジー・スキルがあれば解決できる問題です。他方、『適応課題』とは、そうした知識やスキルがあるだけでは解決が難しく、人々の思考様式や行動が変わることが必要とされる課題です。人と組織の活性化には技術的問題の解決に加え、新たな状況に向かい合い、その対処方法を組織や個人が対話を通じて考えていく必要があるといえます。

(4)人事諸制度(評価・職能要件の書き換え)

コロナ禍において働き方の見直しが進む中で、これまで日本企業の主流と言われてきた「メンバーシップ型」雇用システムから「ジョブ型」雇用のシステムへの移行を検討する企業が増えてきました。「ジョブ型」が注目される背景としては、仕事の内容や範囲、責任、権限の範囲、必要とされる資格、経験などの詳細が「ジョブディスクリプション(職務記述書)」として明示されることにより、今まで曖昧になりがちであった業務配分や評価を明確にしていきたいという意図があります。もちろん、この移行に関しては多くのメリットがあるものの、制度面にだけ目をむけるのではなく、企業文化も考慮しながら、自社にとって有効な人事諸制度は何かを再考する必要があるといえます。

成長支援の方向性 職場活性化の取り組み

組織活性化に取り組む際には、「対話に着目した組織開発」「メンタルヘルスケア」「健康経営」など、さまざまな要素を取り入れていくことが大切になります。活性化の方法は様々ありますが、ここでは以下の点に注目して、従業員目線の組織活性化策にはどんなものが考えられるのかをご紹介(※)します。

(1)仕事の意義を共有する

働く人がモチベーションを高く維持し続けるには、自分たちの“仕事の意義”を確認することで、心の深いところから仕事をする嬉しさや、納得感を抱く必要があるといえます。

(2)多様性を受容する

近年の職場では多様な人材の価値や発想を活かそうという「ダイバーシティ」の考え方が進んでいます。一方で、ICTの進化、在宅勤務やテレワークの急速な普及などの影響で個人仕事の増加やコミュニケーションギャップも多く生じています。そのため、対話などを通じて一人ひとりの働く価値観や背景を共有し、うまく協力し合うことが、生産性向上や成果に直結するようになってきているといえます。

(3)コミュニケーションのケア

ニューノーマル時代に突入し、働き方の自由度が増したとしても、職場内のコミュニケーションが健全でなければ、やはり活性化はなされず、心の調子を崩す人も出てきます。実際、コロナ禍において外出の自粛や環境の変化が長期化することにより精神的な不調が起こるリスクが増すような報道もされています。その意味では、「対面」「オンライン」に関わらず短時間でも職場内のコミュニケーション頻度を高めることは大切です。また、コミュニケーションがよくとも、仲よしクラブ的な組織では、成果や新しい価値は生まれにくいといえます。そのため職場内で心理的安全性の正しい理解を深め、ヌルい職場にならず、健全な衝突によりチームの力を引き上げることも重要となります。

(4)心身の健康維持への意識向上

「ワーク・エンゲイジメント」という言葉があるように、精神的に安定し、仕事から活力を得ていきいきしている状態をつくり上げることは経営的視点でみても重要課題といえます。この状態をつくり上げることは結果として、メンタルヘルス不調者が出にくい「いきいきとした職場づくり」にも寄与します。このような背景もあり、近年社員の健康管理を経営的視点から考える「健康経営」に取り組む企業は急増し、健康経営度調査の回答法人数は開始した2014年度から2019年度までに4.7倍になっています(493法人→2,328法人)。

上記に紹介した4点以外にも、「メンバーの声を引き出すファシリテーション技術」「ムダムラムリな仕事の仕分け」「与えられた問題から、自ら考える問題設定」「人事部門の役割変化(HRBP化、チェンジエージェント化)」などはこれからの組織開発・組織活性化をめざす企業としては重要な要素となるといえます。

※月刊 人材教育(JMAM) 2015年5月号「働く人たちが元気になる組織活性化の秘訣」をもとに解説

まとめ 人事・教育担当者として職場活性化を支援するために

企業や組織には長年にわたり培ってきた文化が存在しています。そのため、組織開発や組織活性化にむけた具体的な打ち手は、企業や組織の課題によって異なります。しかし、組織開発の考え方と手法を応用し、機能する組織をつくることは、ビジネスの成果が出て、人もイキイキと働く会社をつくることと同義といえます。その実現にむけては人事・人材開発部門がオペレーショナル人事から脱却し(戦略人事へのシフト)、正しくデータを読み解きながら、めざす方向の舵取りをすることが重要といえます。