経営戦略と人材戦略の連動について、ポイントや具体的手法を解説します。
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Q「経営戦略と人材戦略を連動させる」とは、具体的には何をどうすることなのでしょうか?
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A会社によって方法は異なります。他社事例からプロセスやイメージ、具体策を学んで、自社が目指す方向性と照らし合わせて考える必要があります。
たとえば「人材版伊藤レポート2.0」実践事例企業の中では、三井化学が、大きな外部環境の変化と中期経営計画(VISION2025)の振り返り活動から起きた課題をもとに、中期経営計画の見直しを行い、新たな経営計画VISION2030に定めた「事業ポートフォリオ変革の追求等」の新たな基本戦略を実現していくために、人材戦略の中から3つの優先課題を特定して進めていると、公開資料に記載されています。
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Q全社的経営課題の抽出をするには、どのように進めると進みやすいでしょうか?
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A「人材版伊藤レポート2.0」では、CEOとCHROが経営戦略実現のために障害となる人材面の課題を整理して、経営陣や取締役と議論して抽出していくことを提案しています。その際には、「価値協創ガイダンス」(企業と投資家を繋ぐ「共通言語」として経産省が提唱)などのフレームワークを活用するとよいとも述べられています。
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Q自社が人的資本経営をどの程度実現できているか、現状を把握するためのポイントや、把握する方法があれば教えてください。
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A様々なポイントや方法が考えられますが、自社の経営戦略と人材育成方針に沿って、自社はどういう人材にどのように投資をして育成・獲得しようとしているのかという「人材投資基準」を基に、優先順位を確認しながら現状把握をするとよいでしょう。
網羅的に把握をされたい場合、経済産業省が2021年に行った「人的資本経営に関する調査」の調査項目を、自社に当てはめてチェックするという方法もあります(下記リンク先のP16以降に調査項目があります)。
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Q人的資本経営の文脈で設定されるKGI・KPIには特にどんなものがありますか? また、設定するうえで気を付けるべきポイントはありますか?
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AKGI(重要目標達成指標)には、ISO 30414の生産性のメトリックである人的資本ROIや、従業員一人当たり売上高・利益等が使われるケースが多いといわれます。
またKGIにぶら下がるKPIには、従業員エンゲージメント、ウェルビーイング、人材開発コスト、コグニティブダイバーシティ(認知的多様性。思考特性・スキル・経験など、後天的に変えられるもの)などがあります。
「人材版伊藤レポート2.0」は、設定するにあたり他社同行やトレンドにとらわれずに自社固有の指標を設定することや、指標を乱立させずに優先順位を明確にして取り組むべきと指摘しています。
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Q「人材ポートフォリオ」とはどのようなもので、どのように構築するとよいでしょうか?
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A「ポートフォリオ」とは、「トータルで最適なリスク/リターンにするために、様々なリスク/リターンのものを組み合わせること」です。人材に当てはめると「想定通り活躍をしないリスクはあるが将来活躍しそうな人材」、「リスクが低く着実に仕事を実行する人材」、「その中間の人材」などを、経営戦略に合わせて最適な組み合わせにすること、となります。
つまり「人材ポートフォリオ」とは、経営戦略に基づき、どんな能力(やリスク)を保有する人材が、どんなタイミングで、どのくらい必要になるかを明らかにした、人的資本の組み合わせです。「人材版伊藤レポート2.0」でも、これからの人材戦略に求められる要素の1つとして「動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化」が定められています。
基本的には、以下の流れで構築していきます。
- ①自社の方向性の実現に必要な職種・タイプの人員数を分析して定義する
- ②今の自社の人材を、タイプごとに当てはめる
- ③人材の過不足を確認し、余剰タイプと不足タイプに対する打ち手を考える
- ④打ち手を実行する
より詳細は下記記事をご参照ください。
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Qサクセッションプランの具体的プログラム化は、どのように進めていけばよいでしょうか?
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Aたとえばコアポジションを認定し、それぞれのポジションに対してリーダーのコンピテンシーや職務評価による定義等を整えながら、何年後かに後継者になれる人材を、何段階の層で分けて選抜育成するといった形があります。JMAM発行の人材開発専門誌『Learning Design』2022年7-8月号『経営人材育成の大研究』では、NTT・オムロン・JT・富士通の経営者育成(サクセッションプラン)事例を掲載しています。
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Q従業員にリスキリングを促すうえで効果的な方法があれば教えてください。
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Aリスキリングは企業側がこれから必要となる知識やスキルを身につけてもらうために従業員に対して施す取り組みです。そのため、求めるスキルや知識を明確にすることはもちろん、従業員が「そのギャップを可視化できる」「多様な習得(学習)の機会がある」「周囲からの支援や動機づけがある」「実践の場がある」など、現場と連携して継続的な活動がしやすい仕組みづくりが重要となります。
なお「人材版伊藤レポート2.0」では、社内外から、自社が必要としているスキル・専門性をもつキーパーソンをリスキリングの旗振り役として登用し、スキルを伝播させたり、誘導するというアイデアが述べられています。
キャリアの専門家・法政大学教授の田中研之輔氏は、従業員のリスキリングのための意識変革や学びの喚起にはトップによる丁寧な説明や表彰制度等による承認、学びの機会の凝縮化などを提案しています。
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Q人材版伊藤レポート2.0にある「知・経験のダイバーシティ」とは、どのような意味でしょうか?
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A人材版伊藤レポート2.0には、ダイバーシティに関連して、以下のような言及があります。
「中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーションを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである。このため専門性や経験、感性、価値観といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込むことが必要となる」
この記載には、性別、年齢、国籍などの人口統計学上の属性区分よりも、一人ひとりの人材が持つ専門性や価値観といった個別具体的な多様性こそ、真の意味で活かされるべきもの、という考え方が込められています。
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Qダイバーシティに関連して、女性管理職比率がなかなか上がりません。特に女性従業員にインポスター症候群(自信が持てない心理的状況)を乗り越えてもらうための効果的な方法としては、どのようなものがありますか?
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A前提としてインポスター症候群は精神疾患ではなく心理傾向で、男女に差はないという研究結果があります。よって、決して女性に限定した話ではありませんが、昨今女性が感じやすい状況になっているようです。なぜインポスター症候群に陥るのかには生育環境など諸説あります。基本的には当事者が、自分の経験や存在を肯定的に受け止めるよう、周囲が促すとよいでしょう。うまくいったことに目を向け、「できたこと」はメモや日記に残し時折見返す、「できなかったこと」は原因を分析し、自分の責任だけでなく人間関係や環境など他の要因でできないことがなかったかを確認・認識する、といった方法があります。また上下関係のない間柄による承認が効くと指摘する専門家もいます。
本人に認知を変えてもらうことも重要ですが、周囲の支援や声かけ、あまりに焦りや不安が大きい場合には相談できる機関をすすめるなど、安心して活躍できる環境づくりも併せて整えるとよいでしょう。
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Qダイバーシティ・マネジメントによい教育方法があれば教えてください。
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A長きにわたり「男性正社員」中心社会だった日本企業が、それを転換し多様性を包括し活かしていくためには、キーパーソンとしての管理職へのトレーニングも1つの解決策ですが、風土づくりとコミュニケーションスキルの向上、両方からアプローチする必要があります。下記サイトをご参照ください。
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Q副(複)業・兼業等は、なぜ認めるとよいのでしょうか?
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Aたとえば2016年という早期から副業を解禁したロート製薬では、心のある人的資本としての人材の、心に火をつける手段として複業・兼業が認められています。内外の人とのつながりのなかで経営ビジョンであるウェルビーイングが実現できるということや、足場を複数持ち、多角的視点を持つことが成長をドライブするという考え方に基づいています。もちろん、内容によっては本業によい影響のある実務的な利点もあります。