エキスパート解説エキスパート解説

HRテクノロジーで
キャリアと学びを接合

  • ソニーピープル ソリューションズ 嶋谷康太郎氏

    嶋谷 康太郎

    ソニーピープル
    ソリューションズ

  • ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ 釣井翔太氏

    釣井 翔太

    ソニーグローバル
    マニュファクチャリング
    & オペレーションズ

経営戦略と連動した人材戦略を実践するうえで、HRテクノロジーは重要な役割を担います。
ソニーグループでは、独自のキャリアと学びのプラットフォームを開発し、人的資本経営に活用しています。ソニーのものづくりを担うソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(以下SGMO)への導入事例(2022年10月)をもとに、HRテクノロジーを人的資本経営にどのように活かしているのか、開発者と導入担当者に、実務家のエキスパートとして話を聞きました。

取材・文=谷口梨花 写真=ソニーグループ提供

目次

ソニーの人事理念・戦略を軸に経営課題を解決するHRテクノロジー

Qはじめに、ソニーグループ全体とSGMOの経営戦略と人材戦略についてお聞かせください。

嶋谷 康太郎(以下敬称略)

ソニーグループは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことをPurposeとしています。この感動を創るのは「人」であり、感動する主体も「人」です。よって、「人に近づく」ことを経営の方向性としています。グループ全体で多様な事業を展開しており、多様な「個」の成長が、「個」を受け入れる「場」であるグループ全体の成長につながると考えています。したがって、「自分のキャリアは自分で築く」という『個』と、「個に寄り添う人事施策」という『場』の関係性を大切にしています。

この『個』と『場』の関係性は、「人的資本経営の実現に向けた検討会」の報告書である「人材版伊藤レポート2.0」の人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素と、フレームは同じと捉えています。

【人材版伊藤レポート】人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素

釣井 翔太(以下敬称略)

SGMOは、開発や商品設計、製造、物流、修理といったソニーのものづくりのあらゆる機能を一貫して担う会社として、ソニーイーエムシーエスから社名変更し、2016年4月に発足しました。当社の経営戦略の1つは、「製造の会社からエンジニアリングの会社への変革」です。これまでは製造受託が中心でしたが、今後はものづくりを一気通貫で提案できる会社へ変革していこうとしています。このような背景により、これまでより高度なスキルを持った多様な人材を効率的に育成していく必要があります。

嶋谷

私が所属するソニーピープルソリューションズは、ソニーの人事理念や戦略を軸にグループ会社の経営課題の解決や経営戦略による変革をDXでサポートしています。その施策のひとつが、キャリアと学習のプラットフォーム「Connecting the dots」です。

Q嶋谷さんは「Connecting the dots」の開発チームを率いられてきたとのこと。「Connecting the dots」とは、どのようなものでしょうか。

嶋谷

「Connecting the dots」は、社員のキャリア自律とスキル習得を目的に開発したプラットフォームです。2020年よりグループ会社のソニーマーケティングに導入しています。「Connecting the dots」とは「点を結ぶ」という意味ですが、結ぶ対象はキャリアと学習の2つです。1つめは、「あの先輩のようになりたい」、「海外で働けるようになりたい」といった将来在りたい姿を描き、その実現に向け計画的にキャリアをつなげていくこと。もう1つは、学んだことを経験と結びつけて有益なものを生み出すという意味を込めています。今回SGMOの経営戦略と連動した人材戦略を実現するうえで、「Connecting the dots」が役立つのではないかと考えました。

「Connecting the dots」トップ画面イメージ

「Connecting the dots」トップ画面イメージ

釣井

SGMOの人材戦略の1つは、「スキルレベルをもとに効率的な人材育成を行うこと」ですが、当社では以前から独自の詳細なスキルカタログを整備し、全社員の保有スキルを数値化していました。さらに、これまで暗黙知であった技術やスキルを形式知化し、蓄積・進化・伝承していくことをめざした「ものづくり総合大学」を展開しており、内製の学習コンテンツもたくさん持っていました。これらの資産を活かして、HRテクノロジーでこの課題を解決できないかと嶋谷に相談したのです。

嶋谷

これまでは保有スキルに合わせて「個」に最適なコンテンツを人事が手動でレコメンドしていたため、人事が負担できる工数分しかレコメンドができていませんでした。また、当初の要望はレコメンドの自動化だったのですが、レコメンドだけでは受講率があまり伸びず、継続的な育成になりにくいという課題もありました。

というのも、人は、自分でキャリアのルートを設計し、在りたい姿を描けなければ仕事と学習に対して高いモチベーションで取り組み続けることはできないものです。そこで、キャリアと学習のポータルとして「Connecting the dots」の導入を提案し、SGMOの人材戦略に特化させた「Connecting the dots SGMO版」を開発しました。「自発的なキャリアルートの設定」と「効率的なスキル獲得サイクル」の2つを主にサポートします。

キャリアルートの自己決定による内発的動機づけ

Q「自発的なキャリアルートの設定」と「効率的なスキル獲得サイクル」の2つに、具体的にはどのようなサポートを行えるようになっているのでしょうか。

釣井

まず、「自発的なキャリアルートの設定」ですが、社員は「Connecting the dots SGMO版」の画面上で自己のキャリアの振り返り、大まかなキャリアルート設定、具体的なステップ(部署)の決定を行います。

大まかなキャリアルートの設定時には、「職務経歴紹介」の画面で見られる先輩たちのルートが参考になります。そして、「業務紹介」を確認しながら、経験やスキルを得るための具体的なステップ(部署)を確認します。さらには、「相談相手を探す」の画面から、在りたい姿に近いキャリアの先輩を探し、自分が設定したルートが現実的かどうか、どのような部署を経てスキルを獲得すればよいかなどを相談することができます。

Connecting the dots SGMO版

嶋谷

こうした、自らキャリアルートを設計し、目的意識を持ちやすくする仕組みにより、内発的動機づけがなされることがポイントです。だからこそ、仕事と学習に対して高いモチベーションで取り組み続けられるようになるのです。

「個」に最適なスキル獲得支援を実現

釣井

2つめは「効率的なスキル獲得サイクル」です。効率的にスキルを獲得するためには、まず個人のスキルの可視化が必要です。「Connecting the dots SGMO版」には「あなたのスキル」という画面が設けられており、自分の保有スキルとレベルの確認、そして、スキル獲得の目標設定と進捗管理が行えます。

ここでは上長のサポートが重要になります。上長と面談し、短期・中期・長期でどのスキルを伸ばしたいか、目標を設定します。そして、上長のサポートを受けながら、スキル獲得の進捗管理を行っていくのです。

ここまで設定できたら、あとは、個人の保有スキルのレベルに合わせて、最適なコンテンツが自動的にレコメンドされていきます。また、個人の保有スキルのレベルにあわせて最適なアドバイザーも推薦されるので、どんなスキルをどのように獲得していけばよいか相談することもできます。こうして得た知識やアドバイスをもとに学習や経験を積み、スキルを獲得していくという、効率的なスキル獲得のサイクルが回るようになりました。

Q様々なシステムがあるなかで、「Connecting the dots」を開発した理由は何だったのでしょうか。

嶋谷

「Connecting the dots」は“ストーリーのある見せ方”が実現できることが特徴です。一般的に、大規模基幹システムはデータの蓄積と加工に長けていますが、大きなシステムであるためUIが固定化されがちです。その点、「Connecting the dots」はWebアプリなので、表示コンテンツの組み合わせや入れ替えが可能です。キャリアルートの設定にしてもスキル獲得にしても、メッセージを持たせてストーリーで見せることが重要だと考えていますので、見せ方をアレンジできることは必須でした。

例えば、「Connecting the dots」では、「あなたのキャリア」で自分のキャリアを振り返ったら、すぐに「職務経歴紹介」の画面に遷移して、在りたい姿に近い先輩のキャリアルートを参考に、大まかなキャリアルートを設定することができます。また、経験やスキルを得るための各ステップ(部署)を決定し、その後、先輩に連絡を取り、選んだステップが現実的か確認することも簡単にできます。

このように社員にとってわかりやすくストーリーのあるユーザーエクスペリエンス(UX)を実現することは、利用率を高め成長を支援するために欠かせないポイントだと考えています。

Q導入の成果と今後の展望はいかがでしょうか。

釣井

導入して半年ほどですので成果はこれからですが、すでにいくつか変化が起きています。まずキャリアに関しては、「メンバーからの相談が具体的になった」という声がマネジメント層から多数上がっています。今までは「海外に行きたい」としか言わなかった人が、「このルートを通って海外に行きたい」などと相談してくるようになったというのです。また、学習の成果としては、学習コンテンツの受講率が手動でレコメンドしていた時と比較して2倍になりました。さらに、受講する社員数も増加しました。

嶋谷

今後は、コンテンツをさらに拡充し、「個」に最適な学びを拡充していきたいと考えています。ソニーグループ各社には内製コンテンツもたくさんあります。また、人材データやシステムも点在しています。これらの学習コンテンツや人材データを集約して学習機会を圧倒的に増やし、ソニーグループのシナジーを醸成して、個人の成長をさらに加速していきたいです。

人的資本の可視化で進む人的資本経営

Q企業が人的資本経営を進めるなかで、HRテクノロジーはどのような役割を担うとお考えですか。

嶋谷

「大きく4つの役割を担うと考えています。まずは「①データの可視化」とそれによる「②効率的なオペレーションの実現」です。人的資本を可視化することで、人的資本の獲得・育成・配置といった各フェーズで人的資本への投資が効率的にできるようになります。

次に、各社や部門が独自に持っていた情報やコンテンツなどの「③共有のためのプラットフォームの提供」という役割もあります。その過程で、各組織の中の暗黙知も形式知化されて、他組織へ展開・共有することが可能になります。スケールメリットという点からも、共有・共通化は今後ますます進んでいくでしょう。

最後は、共有・共通化を通じた「④シナジー醸成のきっかけ」です。ソニーグループでいえば、各グループ会社には多種多様な独自のノウハウが眠っています。それらを融合し、新しい技術やビジネスの創造につなげることができるのがHRテクノロジーです。

「Connecting the dots」は、「個」の成長を支援するというグループ共通の理念・戦略に根差しながらグループ各社の経営戦略と人材戦略を連動させ、「個」と「場」をつなぐことを可能にしたプラットフォームです。人的資本の可視化、それによる人的資本への投資、成果といった一連の流れを、人に近づく形でアジャイルに実現することによって、今後も人的資本経営に貢献していきたいですね。

ソニーピープルソリューションズグローバルHRプラットフォーム部門 ジャパン・ビジネス・コンサルティング部 嶋谷康太郎氏

嶋谷 康太郎

しまたに こうたろう

ソニーピープルソリューションズ
グローバルHRプラットフォーム部門
ジャパン・ビジネス・コンサルティング部

ソニーピープルソリューションズグローバルHRプラットフォーム部門 ジャパン・ビジネス・コンサルティング部 釣井翔太氏

釣井 翔太

つるい しょうた

ソニーグローバルマニュファクチャリング
&オペレーションズ
人事総務部門人材開発部

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