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  • 対象: 人事・教育担当者
  • テーマ: 人事制度・評価
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人材ポートフォリオとは?重視される理由、作る目的や作り方をわかりやすく解説!

人材ポートフォリオとは?重視される理由、作る目的や作り方をわかりやすく解説!

人材ポートフォリオとは、経営戦略に基づいて配置された人的資本の構成内容のことです。人材ポートフォリオを作ることで、経営戦略に基づき、必要な業務・職務に、必要な人材(職種、スキルや特性)を適切に配置できるようになります。
この記事では、人材ポートフォリオが重視されている理由、作るメリット、作り方について解説します。人的資本経営に注目する企業の経営者や、人事・人材育成に関わる方は、ぜひ参考にしてください。

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人材ポートフォリオとは

人材ポートフォリオとは、経営戦略に基づいて配置された人的資本の構成内容のことです。具体的にいうと、社内のどこに(場所)、どのような人材が(職種、スキルや特性)、どれくらい(人数や年数)いるかを示したものであり、これらを適切に組み合わせることで、経営や企業価値の最大化を目指します。

人材ポートフォリオを作ることで、社内の人的資本を可視化できるので、採用や人材育成、評価などに役立てることができます。

人材ポートフォリオが重視される理由

人材ポートフォリオの作成を重視している企業が増えています。その理由を解説します。

人材版伊藤レポートによる「人的資本経営」への注目

人材版伊藤レポートとは、2020年に経済産業省が発表した、人的資本経営についての取り組みや、人材戦略に関わる経営陣、取締役、投資家の役割などの方策等を検討する研究会の報告書です。正式名称は、「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」といい、通称「人材版伊藤レポート」とよばれています。2022年5月には、「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。
このなかに、これからの人材戦略に求められる要素の1つとして「動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化」が定められています。

また、企業の人的資本をいかに高めていくかといったことや、人的資本情報を開示する重要性も記載されています。人材ポートフォリオを作ることで、自社の人的資本情報を整理することができ、適切に人材への投資ができるようになります。これからの企業経営において、人材ポートフォリオの重要性はますます高まるといえるでしょう。

参照:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf

ISO30414の日本への適応

ISO30414とは、2018年に国際標準化機構(ISO)により出版された、人的資本情報開示のガイドラインです。米国では、ISO30414をベースに人的資本情報開示を義務化する動きに出たこともあり、日本においても人的資本情報開示が義務化される潮流が生まれています。
開示が義務化された際、自社の人的資本情報を正しく把握し、整理するためにも、人材ポートフォリオの作成は重要です。

人材ポートフォリオをつくるメリット

人材ポートフォリオの作成は、企業にとってどんなメリットがあるのでしょうか。

最適な人材配置ができる

人材ポートフォリオを作ることで、自社の事業内容に合わせて、適切な人材配置ができるようになります。人材ポートフォリオによって、社員それぞれの強みや弱み、キャリアの志向性を把握できるため、部署や業務の方向性に適した人材を配置することができ、結果的に人材育成にもつながります。

社員にとっては、自身の強みを生かせるポジションや、自身のキャリアの希望に沿った業務に携わることができるようになるため、モチベーションアップや生産性の向上にもつながります。

自社の人材が明確になる

人材ポートフォリオを作るためには、アセスメントを行ったり、ジョブローテーションを行いながら、社員一人ひとりの適性や持っているスキル、能力を明らかにしていく必要があります。
そのため、人材ポートフォリオ作りに取り組むことで、自社の人材の特性が明確になります。たとえば、アセスメントを行うことで、自社の社員の考え方の特性や偏りにも気づくかもしれません。また、これまで見落としていた社員の能力に気づくこともあるでしょう。
人材ポートフォリオを作ることは、自社の社員の能力の棚卸のきっかけにもなります。

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自社の方針や社員に合わせたキャリア支援ができる

人材ポートフォリオを作ることで、社員一人ひとりの強みや弱み、キャリアの志向性を把握することができます。キャリア観が多様化する現在、個人のキャリア自律を支援し、企業として社員のキャリアに合った教育機会や経験を付与することはとても重要です。適切に社員のキャリア支援を行うことは、社員から企業へのエンゲージメント向上にもつながります。
また、自社の方向性とキャリア志向が合致する社員がいれば、双方にとって良い相乗効果を生むでしょう。

人材・人件費の過不足を把握できる

人材ポートフォリオを作ることによって、自社の人材の過不足を把握できるようになります。
どのようなタイプの人材が多く、どのようなタイプが不足しているのかを把握することで、過剰なタイプを再配置する、不足しているタイプを採用・育成する、といった適切な対応を取ることができます。
また、無期雇用と有期雇用の社員の割合や、それぞれに対する役割も明確化されることで、人材を無駄なく配置することができ、人件費の削減にもつながります。

人材ポートフォリオの作り方

人材ポートフォリオを作る際は、専門家の知見を借りる場合も多いでしょう。一方で、基本的な流れを把握しておくことも重要です。ここでは、人材ポートフォリオの分析や作成について、基本的な流れを解説します。

自社の方向性を明確化する

漠然と人材ポートフォリオを作成しても、効果的な活用にはつながりません。何のために作成するのか、自社の経営計画や事業計画の方向性と照らし合わせながら検討しましょう。

自社に必要な人材や職種のタイプと人員数を分析・定義する

自社の方向性が明確になったら、どんな事業を拡大していきたいか、そのためにはどんな業務や職種、人材のタイプが必要で、現状とのギャップはどれくらいか、といった分析を行うことが重要です。

このとき、タイプの定義は、以下の一例のような縦軸と横軸の四象限で表現されることが一般的です。

①「個人でする仕事/チームでする仕事」×「クリエイティブ(新しいことを生み出す仕事)/ルーティーン(既存の仕組みを運用する仕事)」
このように仕事のタイプを定義すると、たとえば、「個人でする仕事」で「ルーティーン」であれば、決まったことを正確に行える人材が必要となるでしょう。具体的な事業内容を分析し、そこに必要な人材を適切に定義することが重要です。

②「ジェネラリスト(総合職)/スペシャリスト(専門職)」×「クリエイティブ(新しいことを生み出すことが得意)/ルーティーン(既存の仕組みを運用することが得意)」
このように個人のタイプを定義すると、たとえば、「ルーティーンが得意な専門職」の人は、①で定義された仕事に配置するといったことが考えられます。

他にも個人のタイプとして、「ジェネラリスト(総合職)/スペシャリスト(専門職)」×「個人でする仕事が得意/チームでする仕事が得意」といった分け方もできるでしょう。自社の方向性に応じ、この基準を定めることが重要です。

また、重要なのは、「現在自社にある仕事」「現在自社にいる社員」だけで考えず、将来的な方向性を見据え定めることです。人材ポートフォリオ作成においては、今後必要な仕事や人も定義することで、採用や育成の計画も立てられるようになります。

社内の人材をタイプごとに当てはめる

人材のタイプが定義できたら、次は、自社の人材を分析し、タイプごとに当てはめます。このとき重要なのは、定性的な所感だけでタイプ分けをしないということです。上司の所感コメントといった定性的なものを根拠にする場合、客観性に欠け、正しく分類できない可能性があります。

アセスメントや適性検査を行って、客観的かつ科学的な指標から社員の特性を分析し、タイプ分けしていくことが重要です。分析される従業員にとっても、納得感が高まるでしょう。

人材の過不足を確認する

理想の人材ポートフォリオにおける人材と、実際に自社にいる人材の数や質を比較し、過不足がないかを分析します。たとえば、「ルーティーンが得意な人材は余剰な一方、マネジメント人材は少ない」「経営幹部候補の数は揃っているものの、若い候補が少なく、十年後には不足が予想される」といった課題が見えてくるかもしれません。

余剰タイプ/不足タイプに対する打ち手を考える

以上のように、人材ポートフォリオ上の課題が見えてきたら、それに対する打ち手を考えていきます。打ち手は具体的にいうと、以下の通りです。

●採用 … 新卒採用、中途採用、派遣雇用等
例)不足する人材を外部から採用する

●育成 … 研修、OJT、自己啓発制度、目標管理、評価制度等
例)内部人材を育成することで不足する人材やスキルを補う

●配置転換 … 異動、転勤、出向等
例)余剰のポジションから不足のポジションに異動させる

●退出/解雇 … 役職定年制度、早期退職制度等
例)役職定年を設定し、適切な人材を役職抜擢する

ここで重要なのは、安易に「解雇」といった極端な方法を取らないことです。「適材適所ではない人材を減らす」=「適材適所となる位置に配置転換をする、適材適所となるようスキルを高めてもらう(リスキリング)」といった発想を持ち、社員にポテンシャルを発揮してもらうことを重視しましょう。

人材ポートフォリオを作る上での注意点

人材ポートフォリオを作る上で、注意すべき点について解説します。

個人の特性や能力を正しく把握する

人材ポートフォリオを作る上では、客観的かつ科学的な根拠を持って個人の特性・能力・スキルを把握するようにしましょう。評価制度の定性的な結果やコメントを参考にする場合もあるかもしれませんが、その評価が必ずしも客観的であるとはいえません。 適性検査など、客観的な指標を用いるようにしましょう。

パフォーマンスマネジメントを行う

パフォーマンスマネジメントとは、社員のパフォーマンスを高めるために、人事部や現場のマネジャーが社員と一緒に目標を考え、フィードバックを行い、成果につなげるマネジメントのことです。人材ポートフォリオを作り、施策を打っただけでは、持続的な成果創出は見込めません。
人材ポートフォリオが求められているのは、人的資本に対して適切に投資をし、その効果を最大化していくためです。たとえば、人材ポートフォリオに則り異動した社員には、異動後に適性を発揮してもらうためにサポートをしていくなど、パフォーマンス発揮まで見据えた仕組みを構築していきましょう。

出典)月刊『人材教育』2000年12月号 守島基博氏記事 図「戦略人事4つのステップ」より抜粋

まとめ

人材ポートフォリオは、人的資本経営が求められるいま、ますます重要視されています。一方、人材ポートフォリオ作成のためには、自社の方向性に合わせた必要な人材、業務の定義、社員一人ひとりの特性を知ることなど、取り組むべきことは様々です。

株式会社日本能率協会マネジメントセンターでは、様々な人事・人材教育に関するプログラムを実施しています。1979年から企業に通信教育講座を提供している実績を活かし、様々な企業の人事・人材育成に関する課題を解決しました。アセスメントや適性検査に関する相談も承っておりますので、ご利用ください。

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