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  • テーマ: 働き方
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昇格試験とは?具体的な実施方法と効果的に実施するポイントを解説

昇格試験とは?具体的な実施方法と効果的に実施するポイントを解説

多くの企業で採用されている昇格試験。従業員の能力を見極め、適切な人員配置のために不可欠な仕組みですが、どう実施すべきかわからないという方もいらっしゃるでしょう。本記事では、昇格試験の具体的な実施方法と効果的に実施するポイントを解説します。

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昇格試験とは

昇格試験とは、対象となる従業員が現在の等級で必要な資質・能力を十分に習得しているか、上位の等級で必要となる資質・能力を備えているかを判断するために実施する試験です。

人事考課、面接、小論文などさまざまな実施方法がありますが、社内評価だけでは主観的になってしまう恐れがあります。そのため、客観性を確保するために外部サービスを利用した社外評価の方法を取り入れる企業も増加しています。

試験の合否結果はもちろん、昇格基準・審査プロセスの透明性や公平性は、従業員の仕事に対するモチベーションにもつながるため、慎重に実施する必要があります。

職能資格制度と日本で採用されてきた背景

ここでは、職能資格制度とはどのような仕組みなのか、なぜわが国において多くの企業で採用されてきたのか、その背景について解説します。

職能資格制度とは

職能資格制度とは、職務調査によって従業員の職務遂行能力を評価し、その結果をもとに資格等級を設定、従業員を格付けする仕組みです。資格等級ごとに「職能給」の範囲が定められ給与と結びついているため、昇格試験に合格し資格等級が上がると給与額も増加します。

職能資格制度を採用している企業では、昇格試験の対象となる従業員が現在の等級で必要とされる能力を十分に習得しているか、上位の等級で必要となる能力を十分に備えているかを複合的な方法で審査し、最終的に昇格を判断します。

日本企業で広く採用されている背景

わが国では、1960年代から1970年代にかけて高度経済成長期を迎え、安定した経済成長のもとで「終身雇用」「年功序列」の考え方を基礎とする「日本型雇用」の体制が確立しました。各企業では安定した雇用の継続が重視され、これを人事制度面で支えてきたのが「職能資格制度」です。

職能資格制度においては、勤続年数の増加にともない職務遂行能力も向上すると考えられており、基本的に等級が下がることはありません。終身雇用を想定した場合、給与額は確実に増加していくことが保証されているため、従業員も安心して勤務できます。

したがって、日本型雇用に適した制度として、職能資格制度は多くの企業で採用されてきました。

昇格試験と昇進試験の相違点

「昇格試験」と混同しやすい用語に「昇進試験」があります。ここでは、それぞれの用語の意義を解説し、相違点を明らかにします。

昇格試験

「昇格」は、職能資格制度のもとで従業員の資格等級が上がることで、「昇格試験」は、上位の資格等級に必要な資質・能力を有しているかを判定するために実施されます。例えば、一般の従業員の資格等級を「S1、S2、S3」、幹部職員の資格等級を「M1、M2、M3」と定めている場合には、「S2からS3」「M1からM2」「S3からM1」などが具体的な昇格例として挙げられます。

「昇格試験」に合格すると、従業員の資格等級が変化するため、資格等級とひも付く給与額も変動します。

しかし、資格等級はあくまで会社内部における従業員の格付けのため、社外に対する影響は特にありません。

昇進試験

「昇進」は、会社内での役職(職位)が上がることを意味し、具体的には係長から課長へ、課長から部長への昇進などが挙げられます。従業員に上位の役職を任せる資質・能力が備わっているかを判定するために実施されるのが「昇進試験」です。

「昇進試験」に合格した場合には役職が変更になるため、名刺の肩書きも変わり、会社内での任務・責任範囲が変更になることで対外的な影響があります。

なお、役職は必ずしも給与体系とは直接結びついていないため、昇進試験合格のみでは給与額が変わらない点で昇格試験とは異なります。

昇格試験を行う目的

企業において昇格試験を行う主な目的を3つご紹介していきます。

職務遂行能力の有無を見極める

昇格試験には、従業員が上位の資格等級で求められる職務遂行能力を有しているかどうかを判断するという重要な目的があります。

職能資格制度を採用している場合、昇格の判断には「人事評価」に加え、「昇格必要年数」の考え方が用いられます。ここで「昇格必要年数」は、各資格等級で何年経過するとひとつ上の資格等級に上がるかを標準的に定めたものですが、年数で一律に昇格を決定した場合、昇格した従業員に必要な能力が備わっておらず、上位の資格等級の業務がこなせないという問題が生じるリスクがあります。

職能資格制度では、一般的に降格を想定していないため、従業員の昇格にあたっては職務遂行能力を慎重に判断する必要があるといえるでしょう。

公平性を確保する

昇格試験は、昇格に関する公平性を確保する目的でも実施されます。昇格基準が明確で、審査プロセスに透明性があれば、全従業員に平等に昇格のチャンスがあり、その結果仕事に対するモチベーションも高まるでしょう。

逆に、経営者や上司の主観で昇格が決定される会社では、従業員はどのようにすれば昇格できるかが理解できず、モチベーションの低下につながりかねないため注意が必要です。

従業員の成長を促進する

かつてのわが国では、昇格試験は「選抜」の要素が高かったことから、昇格基準・審査プロセスを非公開としている企業が大半でした。

しかし、近年人事制度や組織形態の多様化が進む中、昇格試験を「育成」ととらえ、上位等級に向けた事前学習や合否判定のフィードバックにより、従業員の成長を促進するための手段としての活用が進んでいます。

昇格試験の重要性

企業を取り巻く社会環境の変化により、以前にも増して昇格試験が重視されています。ここでは、昇格試験の重要性について解説していきます。

高齢化が進む中、若手の積極登用が重要

わが国では少子高齢化が進み、労働人口の減少が続いており、どの企業でも次世代のマネジメント人材の確保が緊急の課題となってきました。このため、早い段階からマネジメントに必要な能力を客観的に測定し、本人へのフィードバックを十分に行うことで、計画的に従業員を育成していくことが重視されています。

昇格試験により、能力のある若手を見極め積極的にマネジメントのポジションに登用することで、将来の管理職育成につながるでしょう。

管理職のマネジメントスキルが複雑化

新しい働き方としてテレワークが急速に普及したことで、管理職にはバーチャルでの適切な業務配分や部下の指導育成といった、これまで以上に複雑なマネジメントスキルが求められています。

しかし、マネジメントスキルは、一般職で高い実績を残していてもすべての従業員に備わっているわけではありません。組織で成果を出すための仕事の進め方や、メンバーとの効果的な関わり方をスキルとして身につけているかを昇格試験により見極めることで、管理職として即戦力で活躍してもらうことができます。

既存管理職の能力のばらつきを解消

これまで職能資格制度のもとで、社内評価を中心に昇格の判断がなされてきました。このため、多くの企業が管理職のマネジメント能力にばらつきがある点を課題として認識しており、外部評価の仕組みを導入することで管理職としての適性を客観的に確認しようという企業が増えています。

昇格試験に客観的な外部評価を取り入れることで、管理職登用の段階で適性がある従業員を見極めることができ、結果としてマネジメント能力のばらつきを解消することにつながります。

昇格試験の具体的な実施方法

昇格試験は、実施する企業の目的・重視する点などによりさまざまな手法が採用されていますが、ここでは代表的な実施方法を4つ具体的にご紹介します。

適性検査

適性検査は、受検者が組織や職務に適した資質・能力を備えているかを客観的に測定するための手法で、能力検査と性格検査の大きく2つに分けられます。

「能力検査」は、従業員の知的能力・論理的思考力・一般常識を幅広く問うことで、昇格後の等級に必要な基礎能力を備えているかを測定する検査です。

「性格検査」は、従業員の性格や行動の傾向を測定し、仕事に対する意欲や責任感、仕事の進め方、対人関係、ストレス耐性などを診断する検査です。

適性検査の実施形式には、企業が社内に会場を用意して実施する「筆記試験(紙筆式)」のほかに、近年では「Web受検」や「テストセンター受検」を採用する企業も増加しています。

小論文

小論文では、会社が指定したテーマに対し従業員が小論文を作成し、論理的思考力や課題解決力、問題発見力などを診断することが可能です。特に管理職への昇格の場合には、今後、部下を抱えマネジメントにも携わることから、文章内容に説得力も求められるでしょう。

小論文で採用するテーマとしては、「自社・自部門の課題と自身の役割」など実務に直結した身近なものから、「コンプライアンス」「チームワーク」「マネジメント」など、経営側の視点に立って企業運営全般について考えてもらうテーマも従業員の成長を促すため有効といえます。

面接

面接では、直接コミュニケーションを取ることで、従業員の考え方・業務に対する意欲・人柄などを幅広く見極め、上位の等級に必要な資質・能力を有しているかを診断します。客観的な判断が行えるように、直属の上司だけでなく、役員などの経営層も含めた複数人を面接官として実施するのが一般的です。

なお、実施する面接の質を一定水準以上に保てるように、誰が面接官であるかにかかわらず、必ず質問する事項をあらかじめ準備しておくことが重要です。また、面接官となる管理職・役員向けに、管理職研修を実施するのも客観的な面接の実施につながり有効といえるでしょう。

アセスメントセンター

「アセスメント」は、日本語で「査定する」「評価する」の意味を有し、「アセスメントセンター」は、主にシミュレーションを用いて管理者・リーダーとしての実践的な能力を評価する技法です。

昇格試験においては、従業員のこれまでの業務実績や貢献度を人事考課や上長推薦をもとに社内評価することも重要です。

しかし、幹部職への昇格の場合、保有するマネジメント能力や将来のマネジメント行動を社内で評価するのは困難な場合も多いでしょう。アセスメントセンターを活用すれば、管理者・リーダーとしての実践的な能力を客観的に評価可能です。

昇格試験を効果的に実施するポイント

ここでは、昇格試験を効果的に実施するためのポイントを3つご紹介します。

複合的に評価する

従業員の持つ潜在的な能力は、人事考課や日頃の仕事ぶりだけでは正確に把握できません。昇格試験において実施した複数の試験結果、社内評価に加え、アセスメントセンターなど外部サービスを利用し、客観的・複合的に評価することが重要です。

昇格基準・審査プロセスの透明性を確保する

昇格基準・審査プロセスに透明性が確保できれば、昇格を目指す従業員のモチベーションを高められます。また、昇格試験に向けて学習範囲が明確になり、必要な知識を身につけることで従業員の成長機会にもつながるでしょう。

合否にかかわらず十分なフィードバックを行う

昇格試験を実施した後は、合否にかかわらず結果を十分にフィードバックするのが重要です。評価された点・評価されなかった点を従業員に丁寧にフィードバックすることで、昇格者のやる気をさらに高め、不合格者のモチベーション低下を防げます。

実態調査により明らかになった昇格試験の課題

株式会社日本能率協会マネジメントセンターが実施した昇格試験に関する実態調査で、半数以上の会社が挙げた課題を2つご紹介します。

女性の管理職登用が進まない

当社の調査では、56.6%の企業が女性の管理職登用が進まないことを課題として挙げています。

内閣府の公表している「男女共同参画白書」でも、管理職に占める女性の割合は係長級(20.7%)、課長級(12.4%)、部長級(7.7%)と役職が上がるごとに低下しており、いずれも低い水準であることが明らかになりました。

【参考】内閣府 男女共同参画局「男女共同参画白書 令和4年版 民間企業の雇用者の各役職段階に占める女性の割合の推移」
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-17.html

審査プロセスに客観性を確保するのが難しい

当社の調査では、51.9%の企業が昇格試験における審査プロセスの客観性確保を課題として認識しています。

昇格試験の審査プロセスにおいては、社内評価、特に経営者や直属の上司の主観が優先されやすく、従業員の適性を正しく把握するためには、社内評価に加えて外部の専門サービスを利用した客観的な評価を取り入れるのも有効です。

まとめ

本記事では、昇格試験の意義、具体的な実施方法、効果的に実施するポイントなどについて解説しました。

労働人口が減少する中で、従業員の適性を見極めマネジメント人材を継続して育成していくために、今後ますます昇格試験の重要性は高まっていくと考えられます。

本記事を参考に、若手の早期登用や成長を促す重要な育成機会として、ぜひ客観的で透明性の高い昇格試験の導入を進めてください。

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