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  • 対象: 全社向け
  • テーマ: ビジネススキル
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カスタマーハラスメントとは?企業ができる有効な対策と事例を紹介

カスタマーハラスメントとは?企業ができる有効な対策と事例を紹介

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、企業にとって重大なリスクです。顧客からの過剰な要求や無理なクレームに応えることによって、従業員のメンタルヘルスや企業の業績に悪影響が及ぶおそれがあります。カスハラに対処するには、企業としての態度を対外的に示すとともに、すべての従業員が適切な対応方法を学び、メンタルコントロールのスキルを身に付けることが重要です。

今回は、カスハラの定義や具体的な事例を紹介するとともに、企業が取るべき有効な対策について詳しく解説します。

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カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が従業員に対して過度な要求をしたり、無理なクレームを言い募ったりするような行為のことです。

厚生労働省は、カスハラを下記のように定義づけています。

「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

出典:「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000894063.pdf

カスハラは単なるクレームとは異なり、顧客がその権利を超えて従業員に対して無理難題を押し付け、精神的・身体的な負担を強いる行為です。

カスハラの対応については、国や地方自治体もルール整備を進めています。2022年4月に義務化されたパワーハラスメント防止措置では、下記のように顧客からの迷惑行為についても言及されています。

相談者から事実関係を確認し、他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為が認められた場合には、速やかに被害者に対する配慮のための取組を行うこと。

出典:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf

また、2025年春頃には東京都が「カスタマーハラスメント防止条例」を施行する方針を固めており、客と事業者の責務のほか、企業側が取るべき措置についても明示される見込みです。

カスタマーハラスメントの定義

カスハラの判断基準には、下記の2点があげられます。

  • 要求内容が妥当性を欠く
  • クレームや言動を実現する手段・態様が社会通念上相当性を欠く

「要求内容が妥当性を欠く」とは、企業が提供する商品やサービスに瑕疵や過失が認められないにもかかわらず、顧客が過剰な補償や対応を求める場合を指します。例えば、商品が問題なく機能しているにもかかわらず、無料での交換や返金を要求するケースです。

「クレームや言動を実現する手段・態様が社会通念上相当性を欠く」については、顧客が企業の対応を引き出すために、常識的な範囲を超えた圧力や脅迫を行うケースが該当します。例えば、しつこく電話をかけ続けたり、SNSで企業を誹謗中傷したりする行為があります。

カスタマーハラスメントの具体例

「クレームや言動を実現する手段・態様が社会通念上相当性を欠く」について、具体例を紹介します。

①時間拘束型

顧客が従業員を長時間拘束する行為です。例えば、店内に居座り続ける、あるいは長時間にわたって電話をかけ続け、業務に支障をきたす場合があげられます。

②リピート型

頻繁に店舗を訪れ、毎回クレームを入れる行為や、理不尽な要求を何度も繰り返し電話で問い合わせる行為です。

③暴言型

顧客が大声で怒鳴り声をあげたり、侮辱的な言葉を使って従業員の人格を否定する発言をしたりする行為です。例えば、侮辱的な発言や、名誉を傷つける発言が該当します。

④暴力型

物理的な暴力を振るうケースです。殴る、蹴る、叩くといった行為や、物を投げつける、わざと体にぶつかってくるなどの行為が該当します。

⑤揚げ足取り型

電話対応などで言葉尻を捉えて揚げ足を取る行為や、同じ質問を繰り返して話をすり替える行為です。揚げ足取りによって、従業員が適切な対応を取ることが難しくなります。

⑥威嚇・脅迫型

脅迫的な発言や、反社会的勢力とのつながりをほのめかす行為、異常に接近して怖がらせる行為です。また、「対応しなければ株主総会で糾弾する」や「SNSに晒す」などと脅すケースもあります。

⑦権威型

正当な理由なく権威を振りかざし、特別扱いを要求する行為です。執拗に要求を続けたり、謝罪や土下座を強要したりするケースが該当します。

⑧店舗外拘束型

クレームの詳細がわからないまま、顧客が従業員を職場外の自宅や特定の場所に呼びつける行為です。

⑨SNS/インターネット上での誹謗中傷型

インターネット上に名誉を毀損する内容や、プライバシーを侵害する情報を掲載する行為です。これには、悪意のあるレビューやSNSでの中傷が含まれます。

⑩セクシャルハラスメント型

従業員に対する性的な嫌がらせです。具体的には、身体に触れる、待ち伏せする、食事やデートに執拗に誘うといった行為が該当します。

⑪不当な要求型

金銭を目的とした言いがかりや、キャンセル料の未払い、制度上対応できない要求を無理に通そうとする行為です。

カスタマーハラスメントが増えている背景

カスタマーハラスメント(カスハラ)が近年増加している背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。それぞれ詳しくみていきましょう。

顧客の心理変化

かつて「お客様は神様」という言葉が、日本のサービス業において強調されてきました。しかし、このフレーズが曲解され、一部の顧客が自分の要求を絶対的なものと勘違いし、無理なクレームや不当な要求を行うケースが増加しました

さらに、消費者保護に関する教育や情報の普及が進んだことで、消費者の権利を主張する意識が高まり、それがカスハラの発生に拍車をかけています。

新型コロナウイルスに伴う閉塞感

新型コロナウイルスの影響による閉塞感も、カスハラの増加に大きく影響しています。パンデミックによる社会的な不安やストレスが増大し、一部の消費者がその不満を企業やサービス提供者に向けるようになりました。

些細な問題でも過剰に反応し、企業の従業員や店舗スタッフに対して不当な要求や攻撃的な態度を取るケースが増えています。

SNS利用の普及・拡大

SNSの普及とその利用拡大も、カスハラの増加に関与しています。顧客が企業や従業員に対して不満をもった際に、写真や動画をSNSに投稿し、過剰に被害を訴えたり、従業員の名誉を傷つけたりするケースも発生しています。

このような行為は企業のイメージが短時間で著しく悪くなるリスクがあります。

カスタマーハラスメントが企業に及ぼす悪影響

カスハラを放置することは、企業に深刻な問題を引き起こします。カスハラによる影響について、具体的にみていきましょう。

悪評からの客離れ

カスハラがもたらす最も直接的な影響のひとつが「悪評からの客離れ」です。SNSは瞬時に情報が拡散されるため、企業のイメージが一瞬にして損なわれます。

特に、企業側のカスハラへの対応が不適切だと判断された場合はリピーターが離れてしまう可能性もあり、業績が悪化することになりかねません。

生産性の低下

カスハラが企業内部に与える影響として「生産性の低下」があげられます。本来、従業員が行うべき業務に充てる時間が、カスハラへの対応に費やされることで、業務効率が大きく削がれます。さらに、カスハラを受けた従業員は、精神的なダメージにより生産性が著しく低下しかねません。

離職者の増加

さらに深刻な問題として、「離職者の増加」があります。カスハラが原因で従業員が精神疾患を発症し、最終的には離職や休職に追い込まれるケースも少なくありません。これは企業にとって人材の喪失という大きな損失です。

また、カスハラを目にした他の従業員も、自身が同じ状況に置かれる可能性を感じ、不安を抱えるようになります。

従業員への安全配慮義務違反の可能性

企業が直面する可能性のある法的リスクとして、従業員への安全配慮義務違反があります。労働契約法第5条では、企業は従業員の安全に配慮する義務を負っています。

しかし、カスハラを放置し、適切な対応を怠った場合、精神的・身体的なダメージを受けたとして、企業が損害賠償を請求されるリスクがあります。

カスタマーハラスメントに対する有効な対策

カスハラは、従業員のメンタルヘルスや業務環境に大きな影響を及ぼします。企業には、カスハラによる損害を最小限に抑えるための対策の実施が求められます。

カスハラの対策について、詳しくみていきましょう。

カスハラを許さないことを明確にする

企業のトップが「カスハラを許さない」という明確なメッセージを発信することが重要です。全従業員に対して企業としての姿勢を示し、カスハラに対して毅然とした態度を取るように促すことで、従業員が業務に集中しやすくなります。

カスハラ対策マニュアルを作成する

カスハラに対応するための「カスハラ対策マニュアル」を作成し、全社的に周知することも対策のひとつです。具体的な事例と判断基準、望ましい対応例、記録の方法、社内での連絡先や相談先、さらには警察や弁護士などとの連携体制を明記します。

マニュアルを定期的に更新し、常に最新の情報を把握できるようにしましょう。

カスハラの対応策を学ぶための研修を実施する

カスハラの被害に直面した際は、従業員が冷静かつ適切に対処できるスキルを習得することが重要です。マニュアルで作成した内容をもとに、従業員に対して具体的な対処法をトレーニングで学ばせましょう。

また、近年は従業員がカスハラの加害者にならないためのアンガーマネジメント研修を実施する企業も増えています。アンガーマネジメント研修では「怒り」という感情が生まれる仕組みやコントロールするための対処法を学べます。これは、「怒っている人とどのように向き合うべきか」と学ぶ意味でも重要です。

従業員のストレスケアを行う

カスハラに対応する従業員には、定期的なストレスチェックを行い、現状のストレスレベルを把握することが大切です。また、必要に応じて産業医との面談を実施し、適切なケアを受けられるようサポートしましょう。

ストレスと向き合うための従業員教育を行う

ストレスと向き合うための従業員教育を定期的に実施することも効果的です。カスハラに対するレジリエンス(回復力)を高めるための研修や、ストレスに対処するスキルを学ぶプログラムを提供することで、従業員が困難な状況でも柔軟に対応できる力を養うことができます。

なお、ハラスメントについては定期的に新しい事例や法律改定などの情報を収集し、教育する必要があります。そのため、一度きりの研修で終わらせず、継続的な従業員教育を提供することが重要です。

自社のリソースだけで研修の実施が難しい場合は、をご検討ください。カスタマーハラスメントとは何か、どのような対策が必要か、またレジリエンスの鍛え方など、従業員が自分ごととして対策に取り組む方法を学習できるeラーニング研修を提供しています。

eラーニングライブラリ®はハラスメント教育を含め、階層別教育や語学学習など、およそ230コースを1年間定額でご利用可能です。情報は定期的に更新しておりますので、常に最新のハラスメント教育が可能です。ご興味のある企業様は下記の資料をご覧ください。

カスタマーハラスメントへの対策事例

カスハラに対する取り組み事例について詳しくみていきましょう。

【事例1】ヤマト運輸株式会社

ヤマト運輸社では、カスハラ対応の指針を決めるためにアンケートを実施したところ、約8割のコールセンターのオペレーターが被害を経験していることが明らかになりました。

被害の実態を基に「カスタマーハラスメント対応マニュアル」を作成し、研修プログラムを通じて社員に周知しました。また、専用相談窓口を設置し、カスハラに関する問題が発生した際に迅速に対応できる体制を整えています。

【事例2】日本交通株式会社

日本交通社では、カスハラ対策の一環として、防犯カメラの作動を示す電光掲示板を取り付けています。また、運送約款にカスハラ行為に対する企業としての見解を明記し、対外的に対策の方針を示しました。

具体的な追記内容は次の通りです。(一部抜粋)

「カスタマーハラスメントがあった場合、運転者はカスタマーハラスメントの中止を求め、旅客がこの求めに応じない場合には、運送の引受け又は継続を拒絶する他、運転者又は当社の判断において警察等へ通報します。また、カスタマーハラスメントにより生じた損害の賠償および、慰謝料を請求します。」

出典:日本交通株式会社「『運送約款』を変更いたしました。」
https://www.nihon-kotsu-taxi.jp/news/231213/

また、新型ドライブレコーダーによるSOS通報を導入し、万が一の事態に乗務員が運行管理者および無線配車センターへすぐに連絡できるような体制も整えています。

【事例3】タリーズコーヒージャパン株式会社

タリーズコーヒージャパン社では、店舗スタッフがSNSで検索され、つきまとい被害を受けるというトラブルが発生したことをきっかけに、社員の個人情報を保護するための対策を実施しました。まず、スタッフのネームプレートをフルネームからイニシャル表記に変更し、個人が特定されにくくなるようにしました。

また、レシートに記載されるレジ担当者の名前も社員番号に変更することで、外部に個人情報が漏れることを防止し、同様のトラブルの再発を防いでいます。

さらに、悪質なクレーム対応に関しては、お客様相談室が店舗とエリア営業担当者と連携して迅速に対応するフローを整備し、必要に応じて書面での通知を行うなど、ケースに応じた対応を徹底しています。

まとめ

カスタマーハラスメント(カスハラ)は、社会情勢の変化やSNSの普及により頻発化、深刻化しています。カスハラの事例は多岐に渡り、企業がその防止に取り組むためには、広範囲な従業員教育により理解のレベルを揃えていくことが大切です。企業全体で取り組むという姿勢を示しつつ、体系的な従業員教育に取り組みましょう。

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JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)では、カスタマーハラスメント(カスハラ)に対する理解を深め、効果的な対策を学ぶためのeラーニング研修を提供しています。カスハラとは何か、具体的にどのような対応が求められるのかを実践的に学ぶことができます。

実際の業務で直面する可能性のあるシナリオに基づいた演習を通じて、適切な対応方法を身につけることができます。カスハラ対策の一環として社内研修を検討する際は気軽にご相談ください。

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