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  • 対象: 管理職
  • テーマ: 研修/教育
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パワハラ防止法とは?要件定義、対処法、事例まで詳しく解説

パワハラ防止法とは?要件定義、対処法、事例まで詳しく解説

世界中の企業や投資家から「人的資本経営」への注目が高まるなど、「人」を投資対象の資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことが求められている現在。「ハラスメント」のリスク管理は経営において不可欠なテーマとなっています。パワハラやセクハラなどの人権を侵害する企業は、資金や人材が集まらず、最終的には市場から淘汰されてしまう可能性があります。

日本では、2022年4月から、パワーハラスメントの防止がすべての企業に対して強く求められています。そのため、企業はハラスメント対策をどのように立案・実施するべきか、予防策はどうあるべきか、模索しています。

この記事では、パワハラ防止法についての理解を深め、現場でパワハラに直面した際の企業の対応や労働者へのケアについて考えます。ハラスメント問題は私たち全員が関わるテーマです。適切な対処法を理解し、実践することで、より健全で生産的な職場環境を作り出すことができます。パワハラ防止のための対処法を一緒に理解しましょう。

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パワハラ防止法とは?

 はじめに、パワハラ防止法について詳しく解説します。

パワハラ防止法の定義

パワハラ防止法は、従業員の雇用安定と職業生活の充実を実現するための法律です。正式名は「労働施策総合推進法」といいます。大きな目的の一つに、パワハラの防止があります。

2019年5月の法改正により、事業主はパワハラ防止措置への取り組みが法的に義務化されました。これは、職場での優越的な立場から生じる問題への対処を目的としています。

この改正により、パワハラが具体的に何を指すのか、その禁止が法律で明確にされました。厚生労働省が発表した指針により、その範囲と対処法が示されています。

パワハラ防止法が改正された目的

パワハラ防止法改正の目的は、職場で増大するパワハラに関する相談への対策です。全国の都道府県労働局に寄せられた「会社でのいじめやいやがらせ」に関する相談は、2011年度には45,000件超が、2017年度には72,000件超に跳ね上がったのです。

また、2021年に公表された「令和2年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によると、職場の相談窓口において、過去3年間で「パワーハラスメント」の相談を受けた企業の割合は48.2%にも上ります。2社に1社はパワーハラスメントの問題が起きている状況です。

パワハラ防止法の改正は、これ以上のパワハラの増加を防ぎ、職場のパワハラを根絶するため、行われました。これは、社会全体の問題解決に向けた一歩と言えるでしょう。

パワハラ防止法の適用範囲

パワハラ防止法の適用範囲は広く、様々な状況と雇用形態をカバーしています。職場とは、業務を行う場所を指しています。会社のオフィスだけではなく、たとえば出張先や社用車もその範囲に含まれます。また、時間的にも法の規定は広く、勤務時間外も適用されます。

重要な点として、雇用形態に関わらずすべての労働者が対象となります。これには正社員だけでなく、以下の雇用形態も含まれます。

  • パート
  • アルバイト
  • 派遣社員
  • 契約社員

このように、働く場所や時間帯に関わらずあらゆる職場とすべての労働者が、パワハラ防止法の適用を受けます。

中小企業もパワハラ防止法の対象に

パワハラ防止法の施行当初は、大企業のみが対象となっていました。しかし、2022年4月以降は中小企業にも適用され、すべての企業にパワハラ防止措置が義務付けられました。

パワハラ防止措置をとっていない企業は、法律違反になるため早急な対応が必要です。この法律は、職場の健全な環境を保証し、すべての労働者が働きやすい環境を維持するためのものです。企業は、義務化された防止措置の実施とともに、パワハラ発生を防ぐための社内の環境整備が求められます。

パワハラを放置した場合のリスクとは?

続いて、パワハラを放置した場合のリスクについて掘り下げます。

従業員の退職リスク

パワハラは従業員が退職を決意する一因です。パワハラはモチベーションの低下だけでなく、人手不足や売上減少のリスクに繋がります。パワハラがある職場では、生産性が低下し、結果的にビジネス自体が影響を受けるでしょう。

そのため、パワハラ対策を講じ、働きやすい職場環境を整備することは極めて重要です。これは従業員の定着につながり、企業の長期的な成長に寄与します。

損害賠償のリスク

企業は「職場環境配慮義務」を負っています。パワハラの存在を認知しているにも関わらず、適切な対策を講じなければ、企業は損害賠償を求められるリスクがあります。

さらに問題が公になれば、企業イメージの低下にも繋がるでしょう。これは顧客の信頼を失い、長期的にはビジネスの成果に影響を及ぼす可能性があります。

そのため、パワハラに対する明確な対策を講じることは、企業のリスクを抑え、安定した経営に近づくために不可欠です。パワハラを放置することの危険性は、財務面だけでなく、企業の評価や信頼性にも及びます。

パワハラと定義される3つの要件

パワハラの定義について、詳しく解説します。パワハラ防止法では、特定の3つの要件がすべて揃う場合をパワハラと定義しています。

1.優越的な関係を背景とした言動

1つめの要件は、優越的な関係を背景とした言動です。これは言動の受け手が抵抗できない状況に該当します。たとえば、上司から部下への行為だけでなく、同僚や部下から上司に対する場合も存在します。特定の知識や技能、経験を持つ者が優位に立つ場合も同様です。営業成績の優秀な従業員や経験豊富なリーダーからの言動もパワハラに該当する可能性があるため、すべての関係で気を付ける必要があります。

2.業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動

2つめの要件は、業務上必要な範囲を超えた言動です。必要な指導や叱責が過剰となり、人格否定となる行為が該当します。業務とは無関係、あるいは目的を大きく逸脱した行為もパワハラの対象です。社会的に認められる一定の範囲を超えると、教育の範疇を超えパワハラと判断されます。明確な区別をつけ、適切な職場環境を維持することが重要です。

3.労働者の就業環境が害されるもの

3つめの要件は、労働者の就業環境が害され、能力発揮に重大な妨げとなる言動です。例えば、罵声を浴びせる、厳しい叱責を繰り返すことや、暴力を振るう行為から、コミュニケーションを無視することや、不相応な仕事を与える行為まで含まれます。

この影響は以下のような例が挙げられ、従業員の生産性や業務成果に直接関わります。

  • 就業意欲の低下
  • 集中力の散漫
  • 業務への専念が困難になる状態

このような状態は従業員のパフォーマンス低下を招き、組織全体の生産性に影響を及ぼす可能性があります。パワハラ防止の対策は単なるモラルの問題だけでなく、企業成長のための重要な課題と言えます。

パワハラに該当する6つの内容

本章では、パワハラに該当する具体的な内容について、分かりやすく解説します。

身体的攻撃

殴る、蹴る、物を投げつけるなどの行為を指します。

精神的攻撃

人格を否定する暴言、公に罵倒する行為、連続的な非難などがこれに含まれます。

個の侵害

個の侵害は、他人の携帯電話を不正に閲覧したり、私的な情報を不適切に公開したり、家族の詳細を過度に探求したりする行為が含まれます。私的な空間と情報への尊重が重要です。

人間関係から引き離す

職場でほかの労働者から孤立させる行為を指します。たとえば、集団で無視する行動や、ほかの人との接触を禁じることなどが含まれます。これらは人間の社会性を侵害するパワハラの一種です。

過大な評価

役職や経験に見合わない大量の業務を押し付ける行為を意味します。新卒者が教育不足な状態で多量の業務を指示されるケースがその一例です。また、個人的な雑用の強要や、終業時間直前の仕事の押し付けもこのカテゴリーに含まれます。これらはすべて、適切な評価を超えた負担を強いる行為であり、パワハラと認識すべきです。

過小な評価

役職や経験に比べ、低いレベルの業務を無理にさせる行為がこれにあたります。また、業務を意図的に割り当てないことも該当します。これらは労働者の能力を適切に評価せず、低く見積もる行為であり、パワハラの一種です。

実際にあったパワハラ事例

本章では、パワハラの具体的な事例を紹介します。これらは実際に裁判でパワハラと認定された事例です。具体的な事例から、パワハラの実態や影響を深く理解しましょう。

時間外労働と上司からの叱責によるパワハラ事例

被害者は、時間外労働が増加し、1ヵ月間で約80時間もの長時間労働を強いられました。また、部長からの叱責が頻繁にあり、時間外労働の肉体的疲労に加え、心理的な負担も重ねられました。

不適切な労働条件と環境は、被害者に深刻な影響を及ぼしてしまいます。ストレスと長時間労働の結果、出血性脳梗塞を発症。職場の過酷な状況が原因となったことが明らかになりました。

この事例は、パワハラがどのような形で及ぼし、どれほど深刻な結果を招く可能性があるかを示しています。

人間関係を孤立させる嫌がらせによるパワハラ事例

被害者は、上司と不適切な男女関係にあるとの根拠のない噂のターゲットになりました。その噂は、会社全体に広まり、被害者の人間関係は孤立してしまいます。

会社での対策は一切取られず、状況は悪化しました。噂による孤立に加えて、被害者の業務は多忙なものでしたが、ほかの従業員からの支援は許されませんでした。さらには、補助的な業務以外が剥奪され、席も資料置き場に移動させられるなど、公に無視されました。

あとの裁判で明らかになったことですが、この一連の行為は、社長と専務の指示によるものでした。この結果、彼ら個人と会社に対し、被害者から慰謝料と休業損害の支払いが求められました。

この事例はパワハラが職場の人間関係にどれほどの影響を及ぼし、また、その結果がどれほど深刻な結果を招く可能性があるかを示しています。人間関係における問題は早期に解決し、適切な職場環境を維持することの重要性を再認識させられます。

逸脱した業務命令によるパワハラ事例

被害者は交通会社の現場労働者であり、国鉄労働組合の組合員でした。被害者は勤務中、組合マークのあるベルトを着用していました。しかし、上司はそれを就業規則に反すると主張し、ベルトの取り外しを命じました。ですが被害者はこれに従わなかったため、その結果として、区長から就業規則の書き写しなどの教育訓練を命じられました。

この命令は、就業規則違反ではなく、正当な業務命令の裁量を逸脱した行為とされました。この業務命令により、被害者は肉体的、精神的苦痛を経験しました。

裁判の結果としては、被害者は区長と交通会社に対し、合計で20万円の慰謝料と5万円の弁護士費用の支払いを求め、これが認められました。

この事例から、業務命令が適切な範囲を逸脱するとパワハラとみなされ、労働者に精神的、肉体的苦痛を与える可能性があることが理解できます。

パワハラ防止のための義務付けられる4つの対処法

パワハラ防止のための義務付けられる4つの対処法について詳しく解説します。

1.パワハラ禁止を周知&行った場合の処分の内容を知らせる

パワハラ防止は、会社として強く求められる使命です。パワハラを許さない方針を明確にすることが重要です。これを実現するため、就業規則にパワハラに関する規定を設けましょう。そして、この規定を全社員に周知することが不可欠です。

さらに、パワハラ行為が明らかになった場合、その行為を厳しく対処します。この対処方法を知らせることで、従業員はパワハラの重大性を理解し、防止につながります。パワハラは認められない行為であること、それを犯すと厳しい処分が下されることを理解しましょう。

2.パワハラの相談ができる窓口設置を必須にする

パワハラ対策としては、アクセスしやすい相談窓口の設置が不可欠です。社内は人事部やコンプライアンス部門を担当とし、社外にも専門家を委託した窓口を設けます。それは弁護士や社労士などが担当する場合もあります。

相談窓口の存在と利用方法は全従業員に周知します。そして、すべての従業員が安心して相談できるよう、秘密保持と報復防止を徹底します。利用しやすい環境を提供することで、パワハラ問題の早期解決につながります。これが職場の安全と健康を守る重要なステップです。

3.パワハラがおきたら迅速、適切に対応する

パワハラの問題に対応するためには、迅速さと適切さが必要不可欠です。相談があった場合、迅速な行動と適切な手順が求められます。それを可能にするため、事前に相談時の対応マニュアルを作成します。このマニュアルは社内の一貫した対応基準を確保し、混乱を防ぎます。

また、厚生労働省が提供するマニュアルや教育動画を利用することで、より正確な対応が可能となります。これらの資源は、パワハラ問題に対する適切な反応の基準を示しています。これにより、問題の早期解決と再発防止が期待できます。

4.プライバシー保護の徹底や、「パワハラ相談差別」は禁止する

プライバシー保護と公平な扱いはパワハラ防止の中心的な要素です。相談者の個人情報は適切に管理され、その情報が漏洩することはあってはなりません。信頼性の高い情報管理システムを利用し、安心して相談できる環境を提供しましょう。

また、「パワハラ相談差別」は厳重に禁止されています。相談したことによる不利益な扱いは許されません。このルールは従業員全体に周知し、相談者が安心して相談できる環境を整えます。これらの対策が、パワハラの根絶に大いに寄与します。

パワハラが発生した時の企業側の対策は?

十分な対処を行っても、パワハラが発生してしまう可能性は0ではありません。万が一発生した場合、その後に適切な対策を行えるかどうかが重要です。具体的な対策について解説します。

事実を明確にする

パワハラが発生した場合、最初のステップは事実の明確化です。加害者と被害者の双方から詳細を聞くことで、全体像を描き出します。それから公正な評価を行うための情報を収集し、事実に基づいて対応を進めます。公平な評価は、信頼性を維持するために不可欠です。

匿名アンケートを実施する

パワハラの現状を把握するためには、匿名アンケートが有効です。従業員が恐れずに情報を共有でき、企業は真実の姿を見ることが可能になります。しかし、単にアンケートを実施するだけでなく、得られた情報を基に具体的な改善策を立てることが必要です。適切な対策に取り組むことで、パワハラの予防と解消につながります。

加害者の処分を厳しくする

パワハラ問題の解決には、加害者への厳正な処分が欠かせません。これは再発防止のための重要な手段です。しかし、同時に誤解の可能性も考慮し、慎重な対応が必要となります。真実を確認し、公正な評価を下すことで、社内の信頼と秩序を保つことが可能になります。これらの措置は、健全な職場環境作りに寄与します。

再発防止のための「パワハラ防止研修」を行う

パワハラ再発防止の鍵は「パワハラ防止研修」の実施にあります。この研修は、全社員の理解を深め、パワハラの早期発見と解決につながります。管理職だけでなく、一般従業員も参加することで、対策の浸透が期待できます。研修は一度きりではなく、定期的に行うことで、その効果を持続させることができます。健全な職場環境のため、研修を積極的に実施しましょう。

まとめ

パワハラ防止法は、職場におけるパワーハラスメントを防ぐための法律です。企業にはパワハラ防止措置の義務が課せられており、相談窓口の設置やハラスメント研修の実施などが求められています。この法律の趣旨を理解して、働きやすい職場環境を整備していきましょう。

パワハラ防止に向けて取り組む企業には、1979年より企業向け研修を実施している歴史ある会社「株式会社日本能率協会マネジメントセンター」が提供しているeラーニングライブラリがお薦めです。この教育ツールはオンラインで1年間、いつでも手軽に学ぶことができ、全社一斉のコンプライアンス・ハラスメント防止教育や新人向け教育などに幅広く活用できます。現在では4,000社以上の企業・団体に導入され、累計345万人以上が受講している講座です。パワハラ防止対策の一環として、ぜひ活用してみてください。

JMAM HRM事業 編集部

文責:JMAM HRM事業 編集部
人事・人材教育に関する情報はもちろん、すべてのビジネスパーソンに向けたお役立ちコラムを発信しています。

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