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  • 対象: 全社向け
  • テーマ: キャリア
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【プロティアン・キャリア】キャリア自律と組織の成長を両立する新しいキャリア意識

【プロティアン・キャリア】キャリア自律と組織の成長を両立する新しいキャリア意識

働き方改革の加速やニューノーマル時代の到来によって、ビジネスパーソンはキャリア意識の変革を迫られている。こうしたなかで注目されているのが「プロティアン・キャリア」だ。それはいったいどのような考え方なのか。プロティアン研究の第一人者である法政大学・田中研之輔氏に聞いた。

※本記事は、人材開発専門誌『Learning Design』の特集記事より、ダイジェスト版としてお届けします。

[取材・文]=菊池壯太 [写真]=田中 研之輔氏提供

求められる、キャリア意識の変革

 日本企業で働くビジネスパーソンは、海外のビジネスパーソンに比べてキャリア意識が低いとよく言われる。終身雇用を代表する同一企業での長期雇用をベースとした雇用形態や、そうした環境下でのメンバーシップ型の働き方では、個々人が自身のキャリアを意識する機会が少ないからだ。
しかし、官民挙げての働き方改革の推進や、今般のコロナ禍によって、キャリア意識も「変わらざるを得ない」状況を迎えていると、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏は話す。

「2016年ごろから本格化した働き方改革と、2019年の経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長のステートメントに代表される日本型雇用制度の転換。政府と経済界が主導するこの2つの流れが並走していた2020年、コロナ禍がぶつかりました。いま、私たちは、キャリア意識を変革させる歴史的な転換期にあるといえるでしょう」(田中氏、以下同)

プロフィール

●田中 研之輔(たなか けんのすけ)氏 法政大学 キャリアデザイン学部 教授

法政大学キャリアデザイン学部教授。UC.Berkeley元客員研究員、一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事、GLOSA 代表取締役/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(PD: 一橋大学 SPD:東京大学)、メルボルン大学元客員研究員。
専門はキャリア論、組織論。近著は『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)、『ビジトレ-今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』(金子書房)。

「現状維持型」と「自律型」に二極化するキャリア意識

 キャリア意識が転換期を迎えているとはいえ、そのことに気づいて行動を起こすことができる人とできない人の二極化が進んでいるという。

「転職マーケットに間に合う35歳以下の人材は、高い確率で自らのキャリアを主体的・能動的に考え行動できる“自律型”に移行しています。つまり、自分が成長できると考えれば、社内外を問わず新しいフィールドに飛び込んで果敢に挑戦できるのです。
一方、組織内での昇進・昇格こそがキャリア形成だと信じて疑わずに何十年と働いてきた人たちは、自律型になかなか転換できない“現状維持型”といえるでしょう。
現状維持型の人たちは、『変わらなければいけない』とわかってはいるけれども、行動にも移せない。そうして、“キャリア・プラトー”に陥るのです」

キャリア・プラトーとは、組織で働く人に訪れる停滞状態のことをいう。「プラトー」は高原や台地の意味で、組織内での出世という山を登ってきた人が、それ以上のステップアップを期待できずに悩んだりモチベーションが低下したりする状態だ。
企業としても、キャリア・プラトーに陥って、モチベーションも生産性も低い人材を大勢抱えていては、成長はおぼつかないだろう。
その課題を解決に導く鍵となるのが「プロティアン・キャリア」である。

キャリア研究の潮流とプロティアン・キャリア

 「プロティアン・キャリア」のルーツは、アメリカのキャリア研究において1970年代に始まったNew Career Studiesにあるという。これは、主に企業や組織内におけるキャリアをテーマとした「伝統的」キャリア研究に対して、もっと領域を広げた自律型キャリアについての「新しい」研究の流れだという。

このNew Career Studiesには、2つの大きな柱があり、いずれも「キャリア・アンカー」で知られるマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインの研究の流れを汲む。

1つは、マイケル・アーサーらが提唱した「バウンダリーレス・キャリア」、そしてもう1つの柱が、ボストン大学のダグラス・ホールが提唱した「プロティアン・キャリア」である。

 「日本でも比較的広く知られている『バウンダリーレス・キャリア』は、1つの企業や職務といった境界を超えて、組織を移動しながらキャリア形成を行う考え方です。それに対して、必ずしも『移動する必要はない』と考え、個人の仕事における『心理的成功』を目指すのがプロティアン・キャリアです」

キャリアを「3つの資本」でとらえる

 ホールの研究をベースにしながらも、田中氏が提唱するプロティアン・キャリアの特徴的なところは、キャリアを「3つの資本」でとらえていることだ。
「私の研究は、リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』でいう無形資産と、マルクスの多元的資本論を“キャリア資本”という形でプロティアンに組み込んでいるのが特徴です。ただし、理解しやすいように、キャリア資本の内容は3つに絞りました(図2)。

3つのキャリア資本

社会関係資本の構築を通じて、キャリア・プラトーを脱する

 田中氏によると日本型雇用は社会関係資本の不足を招きやすいという。
日本型雇用下においては、パフォーマンスの良しあしにかかわらず、会社が雇用を保証する半面、同業他社との交流を禁じたり、SNS での発信を制限したり、結果として社会関係資本の構築を阻害するケースが多い。
一方、従業員側も組織内でのキャリア形成しか考える必要がないので、無形資産を増やしたり社会関係資本を構築したりするといった発想をもちにくい。それらを理解したうえで、社会関係資本は特に意識して増やしていく必要がある。

田中氏が語る、キャリアプラトーを脱するまでの実体験とは……? 詳細は完全版でご確認ください。

自律型キャリアと組織の成長を両立するプロティアン

 「自律型キャリア」と聞くと、企業としては優秀な人材が組織を出ていってしまうのではないかと考えがちだ。しかしそれは大きな誤解で、主体的・自律的に個人が成長していけば、組織への貢献度も高まるはすだと田中氏は話す。
「異動や転職は1つの選択肢にしかすぎません。私の研究では、プロティアンを『トランスファー型』、『ハイブリッド型』、『プロフェッショナル型』、『イントレプレナー型』、『セルフエンプロイ型』、『コネクター型』という6つのモデルとして整理していますが、このなかから自分に合うモデルを選べばいいのです。
プロティアンは、アイデンティティ(自分らしくあること)とアダプタビリティ(適合すること)の掛け算です。組織のなかにいても、自分のアイデンティティを大切にしながら変化していけばいいのです」

6つの「プロティアン」モデルの詳細は、完全版でご確認ください。

キャリア自律は組織が主導すべき

 心理的成功を目指し、働きながら幸福を感じる人が増えれば、組織の力は上がっていく。また、個人の社会関係資本構築を阻害するのではなく、うながしていけば、一人ひとりの生産性が上がり企業の成長につながる。そのことを経営者はもっと意識するべきだと田中氏は指摘する。

「やらされて業績を上げるのではなく、それぞれの人が働きがいを感じながら強みを発揮すれば、組織として強くなるし、変化にも柔軟に対応できるようになります。キャリア自律とは、本来、個人ではなく、企業や組織が主導して行うべきもの。そのことを伝えていくための1つのキャッチコピーがプロティアンなのです」
先が読めない状況に柔軟に対応して変化し続ける――ニューノーマル時代は、プロティアン時代の幕開けともいえるかもしれない。

まとめ

 本記事の完全版では他にも、図版や具体事例、詳細の解説など1500字以上の内容が掲載されています。
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