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  • 対象: 全社向け
  • テーマ: キャリア
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プロティアン・キャリアとは?企業を成長させる新しいキャリア意識

プロティアン・キャリアとは?企業を成長させる新しいキャリア意識

プロティアン・キャリアとは、労働者自身の自己実現や幸福追求のために、社会や環境の変化に応じて、自分自身を主体的に変化させていく柔軟なキャリア形成です。働き方改革の加速やニューノーマル時代の到来によって、ビジネスパーソンはキャリア意識の変革を迫られています。いま注目されている「プロティアン・キャリア」とはどのような考え方なのか、プロティアン研究の第一人者である法政大学・田中研之輔氏に話を聞きました。

プロフィール
●田中 研之輔(たなか けんのすけ)氏 法政大学 キャリアデザイン学部 教授
法政大学キャリアデザイン学部教授。UC.Berkeley元客員研究員、一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事、GLOSA 代表取締役/博士:社会学。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(PD: 一橋大学 SPD:東京大学)、メルボルン大学元客員研究員。
専門はキャリア論、組織論。近著は『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP)、『ビジトレ-今日から始めるミドルシニアのキャリア開発』(金子書房)。

※本記事は、人材開発専門誌『Learning Design』の特集記事を元に、加筆・編集を加えお届けしています。

[取材・文]=菊池壯太 [写真]=田中 研之輔氏提供

プロティアン・キャリアとは

まずは、プロティアン・キャリアの意味と成り立ちを押さえておきましょう。

プロティアン・キャリアの意味

「プロティアン・キャリア」とは、社会や環境の変化に応じて、自分自身を主体的に変化させていく柔軟なキャリア形成を意味します。「プロティアン(Protean)」は、「変化し続ける」「変幻自在な」といった意味です。

語源はギリシア神話に登場する「プロテウス」にあります。プロテウスは、海神ポセイドンの従者で、変幻自在に姿を変えられる神のことです。あるときは水や火、大木となり、またあるときはライオン、大蛇、ヒョウ、イノシシなどの獣に変身します。

プロティアン・キャリアを形成する人材は、変化の激しい時代へ柔軟に適応するべく、プロテウスのように自分自身を変化させます。給与や昇進、地位、権力などにとらわれず、自由や成長、仕事への満足度などに重きを置くのが特徴です。

プロティアン・キャリアの源流

「プロティアン・キャリア」のルーツは、アメリカのキャリア研究において1970年代に始まったNew Career Studiesにあるといいます。また、これは主に企業や組織内におけるキャリアをテーマとした「伝統的」キャリア研究に対して、もっと領域を広げた自律型キャリアについての「新しい」研究の流れだと述べます。

このNew Career Studiesには、2つの大きな柱があり、いずれも「キャリア・アンカー」で知られるマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインの研究の流れを汲んだものです。

2つの柱のうちひとつは、マイケル・アーサーらが提唱した「バウンダリーレス・キャリア」、そしてもうひとつが、ボストン大学のダグラス・ホールが提唱した「プロティアン・キャリア」です。

「日本でも比較的広く知られている『バウンダリーレス・キャリア』は、1つの企業や職務といった境界を超えて、組織を移動しながらキャリア形成を行う考え方です。それに対して、必ずしも『移動する必要はない』と考え、個人の仕事における『心理的成功』を目指すのがプロティアン・キャリアです」

心理的成功とは、外的な評価基準よりも、個人の幸福感や達成感を成功指標にする考え方です。

プロティアン・キャリアは、デジタル活用やグローバル化、多様性とインクルージョンの推進などの方面で、今後も進化する可能性を秘めていると述べます。

プロティアン・キャリアの形成に重要な「アイデンティティ」と「アダプタビリティー」

プロティアン・キャリアの形成で重要とされるのが、アイデンティティとアダプタビリティーという2つの行動特性です。

アイデンティティ

プロティアン・キャリアにおけるアイデンティティとは、欲求や価値観、関心、能力といった「自分らしさ」に基づく自己認識を指します。過去や現在の積み重ねが未来のキャリアにつながるという一貫した自己認識も含まれる概念です。

従来型のキャリアでは、「組織で尊敬されているか」「組織で私がすべきことは何か」などに重きが置かれ、個人のアイデンティティは組織に大きく依存していました。

プロティアン・キャリアでは、アイデンティティの軸が個人にあります。「何をすべきか」よりも「何をしたいか」を重視し、大切にしている価値観に沿ったキャリア形成を行うのです。

「自分はどのような人間か」が曖昧なままでは、激しい社会の変化に振り回されるばかりで、変幻自在なキャリアを実現することは難しいでしょう。プロティアン・キャリアの形成において、アイデンティティが重視されているのはそのためです。

アダプタビリティー

キャリア形成におけるアダプタビリティーとは、時代や環境の変化に適応する能力を意味します。組織への適応力が問われた従来型のキャリアとは異なり、プロティアン・キャリアで重視されるのは、社会への適応や市場価値です。

プロティアン・キャリアのアダプタビリティーは、「適応コンピテンス」と「適応モチベーション」のかけ合わせで成立しているといわれています。適応コンピテンスは次の3つからなります。

  • アイデンティティの探索
    アイデンティティを維持するために、自己を正確に理解しようと努めること
  • 反応学習
    社会や環境の変化に適応すべく、新しい事柄を学び、役割を発展させること
  • 統合力
    アイデンティティと実際のアクションの間に矛盾がないかを確認し、環境に適応させる能力

適応モチベーションは、変化に対応しながら適応コンピテンスを常に成長させようとする意思を表す言葉です。

アダプタビリティーを向上させるには、自分自身のキャリアを主体的に考え、新しい挑戦に一定期間継続して取り組むことが効果的だそうです。

プロティアン・キャリアと一般的なキャリアとの違い

次に、プロティアン・キャリアと日本で普及している従来型の一般的な「キャリア」の違いを紹介します。

キャリアを形成する主体は「個人」

プロティアン・キャリアと従来型の一般的なキャリアでは、キャリアの主体が異なります。

プロティアン・キャリアの主体は、あくまで個人です。つまりキャリアの方向性や実現方法などを考え、主体的に管理するのは自分自身なのです。企業は、個人にとってキャリア形成の場と捉えられます。

一方、従来型では、企業が主体となって昇格や昇給を決めるなど個人のキャリアを管理します。従業員の配置や業務内容を決定するのは企業であるため、多くの場合、個人のキャリアでは、ピラミッド型の組織内での昇進、昇格が目指すべき目標になっていました。

時代が変わり、年功序列や終身雇用といった日本型雇用システムが見直されるなか、ひとつの企業にこだわったキャリアビジョンは、むしろ現実的ではないとの声もあります。

すべてを組織任せにせず、個人が主体的にキャリアを管理すべきというプロティアン・キャリアの考え方が注目されたのは、こうした背景が大きく影響しています。

仕事の成果は「心理的成功」

従来型のキャリアでは、「他者から尊敬されているか」「評価を上げるために組織で何をすべきか」といった組織視点の価値観が重視されます。設定される目標の多くは、組織内での地位や報酬などの定量的な指標です。

いわば、自分の価値を他者や組織の評価に依存している受け身の状態といえます。

プロティアン・キャリアが評価するのは「心理的成功」です。心理的成功とは、個人の内的な目標の達成によって感じられる充実感や幸福感などの感覚を意味します。

たとえ報酬は少なかったとしても、自分のスキルを生かして社会貢献できたことに喜びや達成感を得られているとすれば、心理的に成功したといえるでしょう。報酬や名誉は後から付いてくるという考え方です。

このようにプロティアン・キャリアでは、自分の価値観に合った成功の尺度を主体的に決められるため、より能動的なキャリア形成が可能です。

プロティアン・キャリアの形成が企業にもたらす効果・メリット

企業は、従業員のプロティアン・キャリアの形成をサポートすることで、どのような効果やメリットが得られるのでしょうか。

キャリア自律の意識醸成

プロティアン・キャリアの形成過程で醸成されるのが、従業員のキャリア自律の意識です。キャリア自律とは、環境の変化に対応するため、自らのキャリア形成や学びに向けて主体的、継続的に取り組む在り方を指します。

キャリア自律の醸成は、長期間、ひとつの組織内にとどまるなかで陥りやすいキャリアの停滞状態からの突破口になり得るといいます。

日本企業で働くビジネスパーソンは、海外のビジネスパーソンに比べてキャリア意識が低いとよく言われます。終身雇用を代表する同一企業での長期雇用をベースとした雇用形態や、そうした環境下でのメンバーシップ型の働き方では、個々人が自身のキャリアを意識する機会が少ないからです。

しかし、官民挙げての働き方改革の推進や、今般のコロナ禍によって、キャリア意識も「変わらざるを得ない」状況を迎えていると、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中研之輔氏は話します。

「転職マーケットに間に合う35歳以下の人材は、高い確率で自らのキャリアを主体的・能動的に考え行動できる“自律型”に移行しています。つまり、自分が成長できると考えれば、社内外を問わず新しいフィールドに飛び込んで果敢に挑戦できるのです。

一方、組織内での昇進・昇格こそがキャリア形成だと信じて疑わずに何十年と働いてきた人たちは、自律型になかなか転換できない“現状維持型”といえるでしょう。

現状維持型の人たちは、『変わらなければいけない』とわかってはいるけれども、行動にも移せない。そうして、“キャリア・プラトー”に陥るのです」

キャリア・プラトーとは、組織で働く人に訪れる停滞状態のことをいいます。「プラトー」は高原や台地の意味で、組織内での出世という山を登ってきた人が、それ以上のステップアップを期待できずに悩んだりモチベーションが低下したりする状態です。

企業としても、キャリア・プラトーに陥って、モチベーションも生産性も低い人材を大勢抱えていては、成長はおぼつかないでしょう。その課題を解決に導く鍵となるのが「プロティアン・キャリア」なのです。

エンゲージメントの向上

キャリア自律の支援には、従業員のエンゲージメントを向上させる側面もあるといいます。なぜなら、自律的なキャリア形成をサポートしてくれる企業に対して、従業員からの信頼や愛着が深まるからです。

「自律型キャリア」と聞くと、企業としては優秀な人材が組織を出ていってしまうのではないかと考えがちです。しかしそれは大きな誤解で、主体的・自律的に個人が成長していけば、組織への貢献度も高まるはずだと田中氏は話します。

「異動や転職は1つの選択肢にしかすぎません。私の研究では、プロティアンを『トランスファー型』、『ハイブリッド型』、『プロフェッショナル型』、『イントレプレナー型』、『セルフエンプロイ型』、『コネクター型』という6つのモデルとして整理していますが、このなかから自分に合うモデルを選べばいいのです。

プロティアンは、アイデンティティ(自分らしくあること)とアダプタビリティー(適合すること)の掛け算です。組織のなかにいても、自分のアイデンティティを大切にしながら変化していけばいいのです」

6つの「プロティアン」モデルの詳細は、完全版でご確認ください。

従業員のプロティアン・キャリア診断

田中氏が考案したプロティアン・キャリア診断を活用すれば、従業員のプロティアン・キャリアがどの程度形成されているかチェックできます。

まずは、下記の質問で当てはまる項目にチェックをつけ、チェック数の合計を出してみましょう。

質問項目 チェック
1 毎日、新聞を読む
2 月に2冊以上、本を読む
3 英語の学習を続けている
4 テクノロジーの変化に関心がある
5 国内の社会変化に関心がある
6 海外の社会変化に関心がある
7 仕事に限らず、新しいことに挑戦している
8 現状の問題から目を背けない
9 問題に直面すると、解決するために行動する
10 決めたことを計画的に実行する
11 何事も途中で投げ出さず、やり抜く
12 日頃、複数のプロジェクトに関わっている
13 定期的に参加する(社外)コミュニティが複数ある
14 健康意識が高く、定期的に運動している
15 生活の質を高め、心の幸福を感じる友人がいる
合計

チェック数の合計が出たら、下記の「ビジネスパーソンの3類型」の表に当てはめて、診断結果を出してみましょう。例えば8個チェックがついた場合は、セミプロティアン人財に分類されます。

ビジネスパーソンの3類型 チェック数 プロティアン・キャリア形成の行動状態
プロティアン人財 12個以上 変幻自在に自分でキャリアを形成し、変化にも対応できる
セミプロティアン人財 4~11個 キャリアは形成できているものの、変化への対応力が弱い
ノンプロティアン人財 3個以下 現状のキャリア維持にとどまり、変化にも対応できない

引用:田中研之輔『キャリアワークアウト』日経BP

この診断でプロティアン人財度を測定できるだけでなく、プロティアン・キャリア形成の現状における課題も明らかにできます。

プロティアン・キャリアの形成を浸透させるには?

田中氏は、プロティアン・キャリアを社会に浸透させる方法として、3つの資本とキャリプラトーからの脱却をあげています。

田中氏が提唱するプロティアン・キャリアの「3つの資本」

ホールの研究をベースにしながらも、田中氏が提唱するプロティアン・キャリアの特徴的なところは、キャリアを「3つの資本」でとらえていることです。

「私の研究は、リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT』でいう無形資産と、マルクスの多元的資本論を“キャリア資本”という形でプロティアンに組み込んでいるのが特徴です。ただし、理解しやすいように、キャリア資本の内容は3つに絞りました(図2)」

社会関係資本の構築によって、キャリア・プラトーを脱する

田中氏によると日本型雇用は社会関係資本の不足を招きやすいといいます。

日本型雇用下においては、パフォーマンスの良しあしにかかわらず、会社が雇用を保証する半面、同業他社との交流を禁じたり、SNSでの発信を制限したり、結果として社会関係資本の構築を阻害するケースが多くあります。

一方、従業員側も組織内でのキャリア形成しか考える必要がないので、無形資産を増やしたり社会関係資本を構築したりするといった発想をもちにくいのです。それらを理解した上で、社会関係資本は特に意識して増やしていく必要があります。

田中氏が語る、キャリアプラトーを脱するまでの実体験とは……?詳細は完全版でご確認ください。

まとめ

心理的成功を目指し、働きながら幸福を感じる人が増えれば、組織の力は上がっていきます。また、個人の社会関係資本構築を阻害するのではなく、うながしていけば、一人ひとりの生産性が上がり企業の成長につながるのです。そのことを経営者はもっと意識するべきだと田中氏は指摘します。

「やらされて業績を上げるのではなく、それぞれの人が働きがいを感じながら強みを発揮すれば、組織として強くなるし、変化にも柔軟に対応できるようになります。キャリア自律とは、本来、個人ではなく、企業や組織が主導して行うべきもの。そのことを伝えていくためのひとつのキャッチコピーがプロティアンなのです」

先が読めない状況に柔軟に対応して変化し続ける―ニューノーマル時代は、プロティアン時代の幕開けともいえるかもしれません。

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