- 対象: 全社向け
- テーマ: DX/HRTech
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生成AIにおける著作権の考え方とは?企業が押さえておくべき3つのポイント

急速に発達を遂げる生成AIは、業務の自動化や効率化などを通じてDXを加速させる可能性がある一方で、著作権侵害をはじめとするリスクへの対応も重要な課題です。従業員にDXに関する体系的な教育を行い、リスクマネジメントを徹底できる組織へと成長させましょう。
今回は、著作権の基本的な考え方を踏まえて、生成AIの著作権問題で企業が押さえるべきポイントや著作権侵害のリスクがある具体的なケース、企業が取るべき対策などを解説します。
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「著作権」の基本的な考え方
著作権とは、他者の著作物を無断でコピーする行為や、インターネット上で無断利用する行為を禁止する権利のことで、著作物を創作した著作者に付与されます。著作権の保護対象や侵害が成立する要件については、下記のように整理できます。
出典:e-GOV「著作権法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
著作権の保護対象
著作物を保護する著作権法において、著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています。著作権法で保護を受ける著作物の適用範囲は下記の通りです。
- 1.日本国民、日本の法令に基づいて設立された法人、国内に主たる事務所を有する法人の著作物
- 2.最初に日本で発行された著作物、外国で発行後30日以内に日本で発行された著作物
- 3.条約で日本が保護の義務を負う著作物
著作物には、下記のような種類があります。
- 言語の著作物:論文、小説、脚本、講演、詩歌など
- 音楽の著作物:楽曲、歌詞など
- 舞踊、無言劇の著作物:ダンス、バレエ、日本舞踊など
- 美術の著作物:絵画、彫刻、漫画など
- 建築の著作物:芸術的な建築物
- 地図、図面の著作物:地図、設計図、図表、立体模型など
- 映画の著作物:劇場用映画、ドラマ、アニメ、ゲームソフトなど
- 写真の著作物:写真、グラビアなど
- プログラムの著作物:コンピュータープログラム
- 二次的著作物:原作の翻訳、編曲など
- 編集著作物:百科事典、辞書、新聞など
- データベースの著作物:コンピューターによる検索が可能な編集著作物
このほか、著作権をもたない著作物として、憲法や法令、告示、通達、裁判所の判決などがあります。
JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)では、著作権を含む知的財産権について学べる知財入門コースを提供しております。身近な権利侵害についての従業員教育を強化したい企業様におすすめです。
著作権侵害が成立する要件
著作物侵害は、次の4つの要件をすべて満たす場合に成立します。
要件 | 概要 |
---|---|
著作物である | 著作権法で保護の対象となるもの |
同一性・類似性がある | アイデアや単なる事実ではなく、表現の部分、創作性のある部分に共通点、類似点が認められる |
依拠性がある | 制作の経緯から、偶然の一致ではなく、既存の著作物に接触した上で制作したと認められる |
著作物利用の権限を有していない | 著作者から著作物の利用許諾を受けていない |
生成AIの著作権問題で企業が押さえておくべき3つのポイント
学習データから新たなコンテンツを作成する生成AIは、業務効率を飛躍的に高める可能性がある反面、著作権侵害のリスクも議論されています。次に、生成AIの主な3つの論点を解説します。
出典:文化庁「AIと著作権」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf
生成AIの開発・学習段階における著作権について
一般企業における生成AIの開発・学習段階の利用とは、AI開発のために、著作物を学習用データとして収集・複製し、データセットを作成するケースが該当します。
開発・学習段階での著作権問題の争点は、利用の目的が著作物の「享受」に該当するか否かに集約されます。この場合の「享受」とは、著作物から知的または精神的な満足を得ることを意味します。
つまり、生成AIの開発・学習に著作物を含むデータを利用する際、情報解析を目的とする場合は著作権侵害にはあたりません。
ただし、次の2つのケースは例外とされます。
- 非享受・享受目的が併存する
- 著作権者の利益を不当に害する
上記のケースに該当するかどうかは、著作物の市場と衝突するか、将来的な販路を阻害するかという観点から判断される点に注意しましょう。
生成AIでの生成・利用段階における著作権について
生成AIによる生成または利用段階では、通常の創作物と同様に「類似性」と「依拠性」が争点となります。既存の著作物と類似性のあるAI生成物に依拠性も認められれば、著作権侵害と判断されます。依拠性の考え方は次の通りです。
依拠性あり | 推認 | 依拠性なし | |
---|---|---|---|
著作物を認識していた | ● | - | - |
著作物が学習データに使用されていた | - | ● | - |
依拠性が認められるのは、類似性のある著作物を利用者が認識していたケースです。利用者が認識していなかったとしても、著作物が学習データに使用されていた場合は、客観的に著作物へのアクセスが可能と判断され、依拠性が推認されます。
どれほど類似していても、著作物が学習データに使用されていなければ依拠性はないと判断され、著作権侵害にはあたりません。
ただし、依拠性の有無は最終的に裁判所によって判断されます。
AI生成物は著作物として認められるか
人の手で生み出した創作物と同様に、AI生成物にも著作権が認められるケースは、人間がAIを道具として使用して、思想や感情を創作的に表現した場合のみです。
このとき、AI利用者が著作権者となります。一方で、人間の指示がないケースや簡単な指示のみのケースは著作物とみなされません。
人間がAIを道具として使用したか否かについては「創作意図」と「創作的寄与」の2点が主な争点です。創作意図は、創作物を通じて思想や感情を表出したいという気持ちや感情を意味します。創作的寄与は、思想や感情の表出を目的に指示や処理を行うことです。
次のような要素から創作意図や創作的寄与が認められれば、著作物と判断されます。
- プロンプト(※)の指示内容や分量
- 生成した回数
- 複数の生成物から選択
※プロンプト…AIとの対話でユーザーが入力する指示や質問のこと
生成AIによる生成物が著作権侵害になるケース
生成AIの利用では、次のようなケースで著作権侵害とみなされ、訴訟に発展するリスクもあります。生成AIを業務に利用する際は、すべての利用者が必ず把握しておく必要があります。
著作物と類似している
AI生成物の構成要素が既存の著作物と類似していた場合、著作権侵害と判断されるおそれがあります。既存の著作物を生成AIで加工・修正したケースも同様です。
なぜならどちらも著作物との類似性、依拠性が認定されれば、著作権侵害と判断されるからです。考え得る対策として、次のような方法が考えられます。
- 他者の著作権物と類似する可能性のあるプロンプトを入力しない
- ネガティブプロンプトで排除したい要素を指定する
- 人間がAI生成物を加工・編集する
- インターネット検索で類似する著作物を確認する
なお、作風やアイデアなどは著作物性のない部分と判断されるので、類似していたとしても著作権侵害にはなりません。
著作者に承諾を得ていない
原則として著作物の利用は、著作者の許諾が必要です。例えば既存の著作物との類似性、依拠性が認められるAI生成物を著作者の許諾がないまま販売すれば、著作権侵害とみなされます。
既存の著作物に類似したAI生成物を商用利用する場合は、必ず著作者の許諾を得ましょう。利用の承諾は口頭でも成立しますが、トラブル防止のため、契約書を作成して明文化することをおすすめします。
AIツールの利用規約に違反している
一部のAIツールでは、AI生成物の商用利用や著作物の加工・編集が禁止されています。
利用規約違反に該当するAI生成物に、既存の著作物との類似性や依拠性も認められた場合、著作権者と提供会社の両方から損害賠償を請求される可能性も否めません。
既存のAIツールを利用する際は、利用規約に必ず目を通しておきましょう。
生成AIによる生成物が著作権侵害となった事例
生成AIの普及に伴って、国内・海外を問わず、著作権侵害の問題が取り沙汰されています。続いて生成AIの著作権を巡る問題で訴訟に至った事例を紹介します。
事例1|画像の無断利用
画像生成AIの機械学習に作品が無断で利用されたとして、アーティストが画像生成AI提供企業を相手に集団訴訟を起こした事例です。オリジナル作品のコピーから派生作品が作成されたことで、自分たちの著作権が侵害されたと主張し、補償金を求めました。
この訴訟は、原告にあたるアーティスト側の訴えが棄却されています。膨大なデータからアーティストたちの作品と酷似する画像を見つけ出し、複製の技術を証明して著作権侵害を主張することが難しく、現状では作風の類似にとどまると判断されたためです。
社会実装されて間もない画像生成AIのような技術においても、従来の著作権侵害と同様の法解釈がなされた判決となりました。
事例2|記事の無断利用
複数の作家が、自身の著作物が無断で生成AIの機械学習に利用されたとして、AI開発企業を相手に提訴しました。著作物の利用に際して何の許可もなく、対価も発生しないのは不当だとする主張です。
被告側のAI開発企業は、著作物の利用に際して作家に対価を支払うことも検討する意向を示しました。作品や記事などの著作物を巡る訴訟は相次いでおり、その行方が注目されています。
事例3|同一・類似する画像を発見
人気キャラクターの複製権や情報ネットワーク送信権などを有した企業が、AIサービスの提供会社を相手取り、無断でキャラクターに類似する画像を生成させたと提訴した事例です。生成停止や損害賠償などを求めた原告に対し、被告は請求をすべて否定しました。
判決は、完全もしくは部分的な創造的表現の複製があったとして、著作権侵害が認められました。提供会社には、著作権侵害に該当する画像生成の防止や損害賠償などが命じられています。
生成AIによる著作権侵害で企業が被るリスク
万が一、故意による著作権侵害を認定されて刑事責任が問われれば、企業には3億円以下の罰金を科せられる可能性があります。そのほか、民事責任をはじめとする下記のようなリスクも生じます。
差し止め
著作権侵害とみなされると、故意、過失を問わず、民事責任として差止請求をされるおそれがあります。具体的には侵害行為の停止に加え、さらなる侵害も疑われる場合に予防措置を求められます。
差止請求で受け得る具体的な措置は下記のような内容です。
- 著作権を侵害する生成物の利用差し止め
- 著作権の侵害行為による生成物の廃棄
- 新たに著作権を侵害する生成物の作成
損害賠償
故意または過失による著作権侵害とみなされた場合、著作権者から著作権侵害で被った損害を賠償請求されるおそれもあります。
故意や過失が認められないケースでも、賠償責任は問われないにしろ、差止措置や著作物の使用料相当額を返還する不当利得返還請求が命じられる可能性は否めません。さらには、名誉回復等の措置の請求として、謝罪広告の掲載などを求められる場合もあります。
炎上・冷評
AI生成物を対外的に発信した際、法的には著作権侵害に該当しないにもかかわらず、著作権問題で世間の非難を浴びている企業のニュースを目にすることもあります。
訴訟には発展しないまでも、SNSでの炎上や同業者の冷評でネガティブな評判が立てば、顧客離れやブランド力の低下などを招きかねません。たとえ著作権侵害にあたらないとしても、リスクのあるAI生成物の利用は避けたほうが無難です。
このような予期せぬ著作権問題に巻き込まれないためにも、日頃から著作権侵害の対策を講じておくことは、生成AIを活用する企業にとって必須といえます。
生成AIの著作権侵害を防ぐために企業が取るべき対策
生成AIの開発や利用におけるリスクについて、企業が取るべき対策は次の2つです。
利用者(従業員)に対する教育を行う
生成AIの適正な開発・利用を促すために重要な役割を果たすのが、現場で生成AIを扱う従業員の教育です。生成AIの仕組みから、法規制、適切な利用方法などを理解させる必要があります。
生成AIに関する研修では、主に下記の内容を盛り込みましょう。
- 生成AIの概要
- 生成AIの利用上の注意点
- 業務における生成AIの活用方法
また、生成AIの利用とあわせて全社的なDXリテラシーの教育を行うことで、DX推進が飛躍的に加速します。企業の成長をサポートするためにも、DX人材の育成を視野に入れた体系的な社員教育が重要です。
なお、自社のリソースだけでは難しいという場合は、JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)の研修サービスをご検討ください。
「DX推進支援サービス」では、DX推進を目指す企業に向けて、生成AIをはじめとするデジタル技術の活用をサポートしております。下記のサービスでは、AI生成物の著作権問題についても学べる内容を提供しています。
社内のルール・ガイドラインを作成する
社内ルールやガイドラインなど、生成AIのリスクに備える体制整備も効果的な施策です。生成AIの適切な開発・利用を促すだけでなく、従業員のリスクに対する不安を低減できることから、社内利用の促進にもつながります。
ルールやガイドラインの作成にあたって、まずは著作権侵害のリスクがある業務を洗い出しましょう。業務の目的や内容、リスクの程度に応じて必要な記載事項を決めます。
一般に、ルールやガイドラインには次のような内容を記載します。
- ルールやガイドラインの目的
- 対象とする生成AI
- 生成AIを活用する分野や領域
- 利用方法や対応策
- 利用が禁止される用途
- 生成時の注意事項
著作権に関する事項のほか、個人情報や機密情報、商標権・意匠権などの規定も盛り込まれるのが通常です。企業や公的機関が公表するガイドラインの雛形を参考にすると、作成をスムーズに進められます。
なお、生成AIに対する国の動向やAIツールの利用規約などは変更されるため、定期的なルールやガイドラインの見直しが欠かせません。
下記の文書は、現状での注意点を整理・解説しています。参考にしてみてください。
経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」(2024年6月)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/contents/ai_guidebook_set.pdf
文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AI と著作権に関する考え方について」(2024年3月)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/bunkakai/69/pdf/94022801_01.pdf
まとめ
生成AIの導入にあたって、企業は著作権問題だけでなく、誤情報の利用、情報漏えいなどのリスクにも備える必要があります。生成AIを適切に活用するためにも、従業員のリテラシー向上と社内体制の整備に努めましょう。国内外の動向を注視することも大切です。
生成AIの情報漏えいを踏まえた適切な利用については、下記のコラムでも解説しています。生成AIの利用におけるリスク対策を検討中の場合は、ぜひ一度ご覧ください。
生成AIを含むDXリテラシー教育なら「DX推進支援サービス」
JMAMが提供する「DX推進支援サービス」は、開発側と実務の現場を繋ぐDX推進人材を育てるための研修です。DXリテラシー教育による意識変革や土台作りを促します。
AIを巡る著作権問題の社内教育を強化し、リスク回避を図りたい人材育成担当者の方は、ぜひご検討ください。
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