コラム
  • 対象: 人事・教育担当者
  • テーマ: マネジメント
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人的資本の情報開示が求められる19項目とは?今後の方向性、必要となる情報整備まで解説

人的資本の情報開示が求められる19項目とは?今後の方向性、必要となる情報整備まで解説

企業の価値といえば、どのような要素を思い浮かべるでしょうか? 近年は人的資本の価値が高まっており、投資家が投資判断する際も、人的資本に着目するようになってきました。
そのような潮流のなか、企業に対して人的資本の情報開示が求められるようになっています。

この記事では、情報開示が求められる19項目の人的資本を中心に、経営者・マネジメント層・人事部の方が押さえておくべき情報を解説します。

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人的資本とは?

人的資本とは、人が持つ能力を、「モノ」や「カネ」と同様の資本として捉える経済学用語です。具体的には個人が持つ能力・才能・技能資格・資質など、価値を生み出すことができる資本を指します。

近年は、企業の市場価値を構成する要素として、モノやカネのような有形資産よりも、知的財産のような無形資産が占める割合が増えてきています。人が持つ能力や才能が企業の知的資産となり、企業の価値や競争力に直結しているとの考え方がグローバル企業を中心に広がっています。

企業価値に占める無形資産の割合が年々増加している

米国オーシャン・トモ社の調査によると、米国では1975年に17%であった企業価値に占める無形資産の割合が、2015年には84%、2020年には90%にまで増加していることがわかっています。

※出典)「内閣府 知的財産戦略推進事務局 構想委員会 資料」
(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/2021/dai3/siryou2.pdf)

企業の市場価値に直結する無形資産の中でも、価値を生み出す能力や才能のような人的資本が、特に重要性が高まっているのです。

人的資本の情報開示が求められている理由とは?

人的資本の開示を求められる背景として、主に2つの理由があります。

ESG投資の観点

1つめの理由として、ESG投資への関心の高まりが挙げられます。ESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の頭文字を取って作られた造語です。企業が長期的に継続して成長していくためには、ESGに取り組んでいく必要があるといわれています。ESG投資とは、企業の財務面だけではなく、環境問題・社会問題に対する取り組みに着目した投資の判断基準のことです。

そのため、「Social(社会)」に該当する人的資本について、情報開示を求められているのです。

欧米の流れ

欧米では、日本よりも数年進んで人的資本の情報開示が進められています。欧州は環境問題やサスティナビリティへの関心が高く、米国よりも先にESG投資が注目され、その流れで人的資本の情報開示も進められていきました。米国でも2008年のリーマンショックを機に、同様の流れが進んでいます。

欧州では2014年から、欧州委員会(EC)が非財務情報開示指令で「社会・従業員」を含む情報開示を義務づけています。米国では2017年、25の機関投資家のHCM(Human Capital Management)連合が、米国証券取引委員会(SEC)に人的資本に関する開示基準の策定を申し立て、2020年11月からは、上場企業に対して、S-K Disclosureと呼ばれる人的資本の情報開示が義務づけられています。

人的資本の可視化と育成ハンドブック

情報開示が求められる19項目の人的資本とは?

日本でも人的資本を情報開示する方向に進んでいます。金融庁は23年度にも、人的資本に関する一部の情報を有価証券報告書に記載することを義務付ける方針を示しております。
但し、情報開示が必須となる項目は、定められている19項目のうちの一部です。

19項目の中から、自社の戦略に沿った項目の選択、および具体的な数値目標や事例の開示を促す方向で議論が進められています。2022年6月28日時点ではまだ確定していませんが、下記の4つの基準で整理して公表することを企業に促しています。

投資目的の視点

  • 価値向上(スキル向上研修など)
  • リスク管理(コンプラ研修など)

数値化できるかの視点

  • 独自性(研修内容など)
  • 比較可能性(研修時間など)

具体的内容は、2022年中に発表される予定ですが、現状予定されている主な開示例は以下の通りです。

人材育成、リーダーシップ分野

  • 後継者の育成プロセス
  • 自発的、非自発的離職率
  • 研究者の確保、定着への状況

労働慣行分野

  • 基本給と報酬総額の男女比
  • 団体交渉協定対象の割合
  • 福利厚生の種類や対象

健康安全分野

  • 従業員の欠勤率
  • 労働災害発生割合

多様性分野

  • 性別、人種、民族の割合
  • 産休・育休の取得率
  • 期間中の差別事例の総件数

「人的資本可視化指針」の策定

※2022年9月1日追記
令和4年8月30日、内閣官房より「人的資本可視化指針」が発表されました。
本指針によると、人的資本の可視化は以下の方法によって進められることが望ましいとのことです。

1.可視化において企業・経営者に期待されることを理解する
…人材育成や人的資本に関する社内環境整備の方針、目標や指標を検討し、取締役・経営層レベルで密な議論を行った上で自ら明瞭かつロジカルに説明する

2.人的資本への投資と競争力のつながりの明確化
…価値協創ガイダンス、IIRCフレームワーク等を 活用して明確化する

3.4つの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示

4.開示事項の類型(2類型/独自性・比較可能性)に応じた個別事項の具体的内容の検討

参照)内閣官房「人的資本可視化指針」https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20220830jintekisihon.html

「人的資本可視化指針」における4つの要素とは

サステナビリティ関連情報の分野では、気候関連財務情報の開示フレームワークであるTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)提言において推奨されて以来、投資家にとって馴染みやすい開示構造となっている以下の4つの要素に沿って開示することが効果的かつ効率的だとされています。

  • ガバナンス
  • 戦略
  • リスク管理
  • 指標と目標

有価証券報告書の開示義務

※2023年3月2日追記
令和5年1月31日、内閣府令の施行により有価証券報告書における開示義務が決定しました。

これにより、上場企業は以下のとおり、人的資本、多様性に関する開示が必須になります。

人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項として、サステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」と「指標及び目標」において記載を求めることとします。
 また、提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法等に基づき、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」及び「男女間賃金格差」を公表する場合には、公表するこれらの指標について、有価証券報告書等においても記載を求めることとします。

参照)「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について
(https://www.fsa.go.jp/news/r4/sonota/20230131/20230131.html)

義務が発生する適用時期は、「令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用」とのことで、来期から開示義務が発生します。

望ましい開示とは

内閣府令では、「サステナビリティに関する企業の取組みの開示」について、開示義務と望ましい開示に向けた取組みの記載があります。なかでも、「人的資本、多様性に関する開示」についての望ましい取組みは以下の通りです。

  • 「戦略」と「指標及び目標」について、各企業が重要性を判断した上で記載しないこととした場合でも、当該判断やその根拠の開示が期待されること
  • 「女性管理職比率」等の多様性に関する指標について、連結グループにおける会社ごとの指標の記載に加えて、連結ベースの開示に努めるべきであること

つまり、ただ定性的な記載や定量的な結果だけを提示するのではなく、戦略に基づいた根拠のある指標と目標やその進捗について、具体的な情報を記載することが求められます。

情報開示が求められる項目の方向性

情報開示が求められる人的資本の項目の方向性は、以下の2つの観点で定められています。

1 「独自性」と「比較可能性」のバランス
他社の事例や特定の開示基準に沿った横並び・定型的な開示に陥ることなく、自社の人的資本への投資、人材戦略の実践・モニタリングにおいて重要な独自性のある開示事項と、投資家が企業間比較をするために用いる開示事項の適切な組合せ、バランスの確保をすること

2 「価値向上」の観点と「リスクマネジメント」の観点
開示事項には、「企業価値向上に向けた戦略的な取組」に関する開示と、投資家のリスクアセスメントニーズに応える「企業価値を毀損するリスク」に関する開示の大きく2つの観点があることを意識し、説明方法を整理すること

※出典)内閣官房「人的資本可視化指針」
(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/sustainable_sx/pdf/007_05_00.pdf)

情報開示に向けて必要な人的資本の情報整備

2022年中に発表される予定の人的資本の情報開示義務の具体的な内容に向けて、今のうちから情報を整備していく必要があります。

まずは、人的資本について開示する指標を定めます。自社にとって意味のある指標を定義し、意味のある開示をすることが大切です。その際に、必要な人事情報が揃っていないことも考えられます。現状でどのようなデータがあり、どのようなデータが不足しているのかを整理しましょう。場合によっては、新たに必要になるデータがあることに気付かされるかもしれません。

また、情報の質についても注意を払う必要があります。たとえば研修のデータを引用する場合は、その研修にかけた時間や内容と合わせて、その研修を行った背景まで記されていることが望ましいです。

このような前準備を進めていくなかで、手段と目的が入れ替わってしまうことも考えられます。あくまでも企業価値の向上が目的であり、情報を開示することはそのための手段だということを忘れないようにしましょう。

ISO30414とは?

ISO30414とは、人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインです。2018年12月、スイスのジュネーブを拠点とする国際標準化機構(ISO)によって発表されました。
国際標準化機構(ISO)では、「人的資本の情報開示」を、企業の人材戦略を定性的かつ定量的に社内外に向けて明らかにすることと定義しています。

ISO30414には、人材マネジメントの11領域について、データを用いてレポーティングするための58のメトリック(測定基準)が示されています。しかし、すべての項目を開示する義務はなく、どの項目について開示するかは基本的に企業や組織に委ねられています。

ISO30414の目的とは?

ISO30414が定められた目的として、1つは「組織や投資家が人的資本の状況を定性的かつ定量的に把握すること」が挙げられます。人的資本が組織の成長にどれくらい貢献しているのかを明らかにするのです。

もう1つの目的は「企業経営の持続可能性をサポートすること」です。人的資本に関する情報を定量化することで、どのような人材戦略が、組織にどのように影響を及ぼしたのかを数値化することで、企業の長期的な発展に繋げます。

ISO30414が指標とする「11領域」について

ISO30414が指標として定める11領域は以下の表のとおりです。

人的資本エリア 概要
1.コンプライアンスと倫理 ビジネス規範に対するコンプライアンスの測定指標
2.コスト 採用・雇用・離職等労働力のコストに関する測定指標
3.ダイバーシティ 労働力とリーダーシップチームの特徴を示す指標
4.リーダーシップ 従業員の管理職への信頼等の指標
5.組織文化 エンゲージメント等従業員意識と従業員定着率の測定指標
6.健康,安全 労災等に関連する指標
7.生産性 人的資本の生産性と組織パフォーマンスに対する貢献をとらえる指標
8.採用・異動・離職 人事プロセスを通じ適切な人的資本を提供する企業の能力を示す指標
9.スキルと能力 個々の人的資本の質と内容を示す指標
10.後継者計画 対象ポジションに対しどの程度承継候補者が育成されているかを示す指標
11.労働力 従業員数等の指標

※出典)「ISO30414『Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting』」
(https://www.iso.org/standard/69338.html)

まとめ

企業の価値として、人的資本が占める割合は年々増えていま2023年3月決算期以降、有価証券報告書を発行する企業を中心に、人的資本に関する項目の開示が求められていきます。

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