人材開発専門誌『Learning Design』の人気連載「中原淳教授のGood Teamのつくり方」より、第14回「混沌から生まれた成長 ~コロナに向きあう看護師たちの経験と学び」のダイジェスト版をお届けします。
不確実で先行きが見えない状況で、チームはどのようにして危機を乗り越え、前に進んでいけばいいのでしょうか。看護師チームの危機対応をとおして考えます。インタビュアーは、立教大学経営学部教授の中原淳氏です。
[取材・文]=井上 佐保子
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コロナに向きあう看護師たちのチームづくり
2020年3月25日。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の急増により、東京都は都下の病院に入院医療体制の整備を要請しました。東京医科歯科大学医学部附属病院でも受け入れが決まり、対応が迫られていました。同院は病床数753床、15の診療科をもつ特定機能病院。約990名の看護職員が在籍する看護部で、陣頭指揮を執ったのは今年4月に着任したばかりの看護部長、浅香えみ子氏です。先の見えない状況で危機に対応するチームをどうつくっていったのでしょうか。
プロフィール
●浅香 えみ子(あさか えみこ)氏
1987年、東京医科大学医学部附属看護学校卒業後、獨協医科大学越谷病院に入職。
法政大学卒業、東京女子医科大学博士課程修了、富山大学博士課程修了。
獨協医科大学越谷病院副看護部長を経て2020年4月より東京医科歯科大学医学部附属病院看護部長。
●中原 淳(なかはら じゅん)氏
立教大学経営学部教授。立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。
東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院人間科学研究科、メディア教育開発センター、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授などを経て、2018年より現職。
看護部長着任初日から緊急体制へ
中原:新しい職場に移られ、早々にコロナ対応とは、大変でしたね。
浅香:着任初日から、院内全体のコロナ対策会議への参加が初仕事となりました。
中原:メンバーの顔も名前もよくわからないまま、指揮をとらなければならなかったわけですよね。最初にしたことは?
浅香:まず行ったのは病床の確保です。空いている一般病床を見つけ、ハイケアユニット(高度治療室)の患者さんを安全に移動させるよう促しました。
その後も受け入れ病床を増やしつつ、他の病床を閉じていくプログラムを進めていきました。といっても、着任直後で何もわかっていなかったので、3人の副看護部長から話を聞くことから始めました。また、初動での細かい動きや指示は副部長に任せるようにしていました。
中原:コロナ対応の病棟をつくるうえでどんなところが難しかったですか?
浅香:課題は大きく2つありました。1つは看護師たちをどこに配置し、どのような体制で看護に当たってもらうのか、ということ。もう1つは4月から入ってきていた100名ほどの新入職者への対応です。
中原:コロナの患者さんへの対応は通常の対応と異なるのでしょうか?
浅香:陽性患者さんは重症者として看護する必要があるうえ、未知の病気なので手探りで対応しなければなりませんでした。特に一般病床から新しい病棟に来た看護師は、一からの学び直しになったかと思います。
初顔合わせのメンバーたち
中原:看護師さんたちの間には動揺が走ったのではないですか?
浅香:戸惑いは大きかったと思います。「私たちのことわかってるんですか?」と問い詰められたことも。
中原:それはやはり恐怖から?
浅香:自分が感染を広げてしまう不安、重症者に対応できるだろうかという不安も強かったでしょう。新しい人間関係の中で働くことへの不安もあったように思います。
中原:新しい人間関係というと?
浅香:看護師は病棟ごとに結束が固く、病棟をまたぐ異動は大きな苦労を伴います。科によって文化がまったく異なりますし、同じ内科でも病棟ごとのローカルルールのようなものがあったりしますから。
今回はいきなり異動となってしまった。ストレスは大きかったと思います。
あえて新人たちを現場に配置
中原:新入職者についてはどう対応されたのですか?
浅香:一般病棟はもちろん、コロナ対応の病棟にも配置しました。今後もコロナ対応が続くのであれば、途中から新人を合流させることが難しくなるかもしれないと。現場の空気感だけでも共有してもらおう、ということになったのです。賛否両論あったと思いますが。
中原:あえて現場に負荷のかかる選択をされたわけですね。非常時に意思決定を行う際、リーダーにとって重要なのは「危機の見積もり」だと思うのですが、危機的状況はどれくらい続くと予測していましたか?
浅香:年は越すだろうと考えていました。4月1日から危機管理的な対応をスタートしたのですが、10日後くらいに「持続可能な体制にシフトしていきます」と話しました。
中原:初動の危機対応後、すぐ長期戦に備え体制を整えたのですね。具体的にどんな言葉をかけましたか?
浅香:「看護師だけではなく、大学全体、すべての医療職が取り組んでいくことだから心配しないで」というメッセージを繰り返し伝えました。
コロナ対応で誕生した「考える組織」
中原:看護師さんたちの心理的なサポートもされていたのですか?
浅香:メンタルケアは病棟を閉じていた精神科の医師や看護師、臨床心理士がやってくれていました。4月初めから看護師の面接を実施。スクリーニングしてケアにつなげたり、勤務ローテーションを見直したりしました。少し休養を取ってもらうケースもありました。
ただ今回、一番ストレスが大きかったのは、現場を束ねる師長たちだったと思います。下からは不平不満が上がるし、上からの方針はころころ変わるし。ですので、大きく方針が変わるときは、私が直接病棟に行って説明するなど、しばらくは師長の支援に注力していました。
中原:不確実で見通しがきかない状況でマネジメントをする際、大事になさっていたことは。
浅香:本来、マネジメントとは大きな目標を立て、それに向けて目標をブレークダウンして、といったことを行うものですが、いま(取材当時)はそれができません。そこで師長たちに意見を出してもらって集約、微調整し、都度ごとの最適解をみんなでつくりました。「まずは当面の目標に向けて頑張ろう」と少しずつ進んできたのです。
まとめ
本記事の完全版では他にも、「目標や方針の共有」「病院としての今後の方向性」「コロナによる体制変更によって起きた組織の変化」についても語っていただきました。また「中原淳教授によるまとめ」など、2000字以上の内容が掲載されています。
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