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  • 対象: 全社向け
  • テーマ: 研修/教育
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リカレント教育とは?リスキリングとの違いや日本の課題について解説!

リカレント教育とは?リスキリングとの違いや日本の課題について解説!

リカレント教育とは、学びと仕事を往復しながら、仕事に役立つスキルを身に着けていくことで、市場の変化が激しい時代に求められている学習です。

従来の知識にこだわらず、ビジネス構造の変化に対応しながら新しいスキルや知識を学習していくことは、これからのビジネスパーソンにとって非常に重要となります。

この記事では、リカレント教育の定義や注目されている背景、「生涯学習」「リスキリング」との違い、国の支援制度、企業が推進するメリットと実際の事例を解説します。リカレント教育を自社に導入したいと考えている企業の人材育成に関わる方、経営者、マネジメント層の方は、ぜひ参考にしてください。

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リカレント教育とは?

「リカレント教育」とは、学校での学びを終え社会に出たあとも、それぞれの必要なタイミングで学び続けることです。リカレント(recurrent)は、「再発する」「循環する」「繰り返す」といった意味をもちます。学びと仕事を往復し繰り返しながら、仕事に役立つスキルを身に着けていくことが、リカレント教育の要諦だと言えるでしょう。

一度仕事から離れて大学や専門学校、資格習得講座などの教育機関で学び直すことが一般的な学習方法ですが、後述の事例のように、必ずしも退職や休職をする必要のない導入事例も生まれています。

発祥はスウェーデン

スウェーデンでは、1968年に生涯教育機関『コンヴックス(Komvux)』が導入されました。

1969年には、文部大臣で後に首相となったオロフ・パルメが、リカレント教育を世界に向け提唱しています。

スウェーデンは人口が少ないため、各人が能力を高め長く社会で活躍してもらうことを目指し、リカレント教育のためのさまざまな支援制度を導入してきました。

ある有名アパレル企業では、有給休暇取得率が100%。ライフステージに合わせた休暇制度も充実しており、大学で学び直しを行いながら勤務を続ける人も少なくありません。

「生涯学習」との違い

リカレント教育と近い言葉に、「生涯学習」があります。どちらも、繰り返し学び続けていくという点では同じです。

リカレント教育が、学びを仕事に活かすことが前提であることに対し、生涯学習は、趣味やボランティアといった「個人の人生を豊かにすることを目的とした学び」を指します。生涯学習のなかに、リカレント教育が含まれていると考えて良いでしょう。

「リスキリング」との違い

リカレント教育と並び、リスキリング(Re-skilling)も注目されています。

リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。

一度仕事の場を離れ学習をする意味合いが強いリカレント教育とは異なり、業務と並行しながら仕事に役立つスキルを学ぶ意味合いが強い言葉だといえるでしょう。昨今ではDX化における変化が激しいことから、DX人材育成の文脈で用いられることが多い学習方法です。

リカレント教育が注目されている背景

2020年7月3日開催の首相官邸「未来投資会議」において、新たな「成長戦略実行計画案」が示されました。

その案の3本柱のなかのひとつに、「社会人の創造性育成(リカレント教育)」が挙げられています。国からも重視されているリカレント教育の背景について解説します。

急激な技術革新や社会の変化

第四次産業革命では「IoT」や「AI」など、さまざまな技術革新が起こっています。企業でも、デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速が止まりません。

技術革新や、それに伴う社会・ビジネス構造の変化に対応するためには、新たなスキルや知識が求められます。そのため、リカレント教育を通じて、日々学び続ける必要があるのです。

終身雇用のゆらぎ

日本ではこれまで「終身雇用」が前提とされ、一度入社してしまえば雇用が守られる環境が続いていました。しかし、ジョブ型を導入する企業が増えたり転職市場が活性化したりするなど、人材の流動性は高まっています。

ひとつの企業のなかだけで通用する知識やスキルを、社内で教えてもらうだけでは、キャリアチェンジが迫られる可能性がある時代において不利になります。

ビジネスパーソンはリカレント教育を実践し、自ら学び続け、キャリアを切り拓く力をつけることが求められているのです

人生100年時代の到来

厚生労働省によると、2022年(令和4年)の日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳であることがわかりました。最高値を記録した2020年(令和2年)の平均寿命、男性81.56歳、女性87.71歳と比べるとやや縮小してはいますが、人生100年時代といわれるように平均寿命が高い値にあることに変わりはありません。

約20年前にあたる1990年(平成2年)の平均寿命、男性75.92歳、女性81.90歳と比較すると、男女ともに5歳以上平均寿命が延びていることがわかります。日本は人生100年時代といわれて久しく、それにともない労働人口の幅も広がることが予想されるでしょう。

人生100年時代の中、従業員が生涯現役で活躍していくためにも、リカレント教育の重要性は高まっています

企業は従業員を単に雇用するだけでなく、「定年退職後の再雇用や再就職」「ライフイベントからの仕事復帰」「キャリアアップ」などを見据えた教育体制を整えることが重要です。

出典:「令和4年簡易生命表の概況」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html

企業がリカレント教育を推進するメリット

リカレント教育を推進することで企業側はどのようなメリットを得られるのか、5つご紹介します。

DXの推進につながる

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術により、企業が従来の企業風土の変革を行ったり、新たなビジネスモデルを創出したりすることです。変化の激しい現代において、企業のDX推進は重大な課題のひとつと位置付けられています。

DXを推進するには、デジタル技術を活用できる人材が必要です。DX化が遅れる要因のひとつに、デジタル人材がいないことが挙げられます。

リカレント教育に力を入れ、社員のデジタル技術にかかわる知識やスキルを養成することで、企業のDX化をスムーズに進めていくことができるでしょう

従業員の成長を促進できる

企業が従業員にリカレント教育を推進することで、従業員のスキルアップにつながります。新規事業を始めたりイノベーションを起こしたりするためには、新しいスキルや知識が必要不可欠です。従業員の学びを支援し、スキルが身につくことは、結果的にビジネスの幅を広げ、業績向上にもつながる可能性があります。

自律型人材を育成できる

日本企業における従来の人材育成は会社主導型でした。しかし今後は、社員が自らの進みたいキャリアに応じて、必要な能力を身につける自律性が求められます。企業がリカレント教育の機会などを積極的に導入することで、社員一人ひとりが自らのキャリア形成を図り、どのように行動していくかを決める手助けができます。

リカレント教育を通して主体性の高い人材を育成することは、結果的に組織の底力を上げることにもつながります。

人手不足が解消する

リカレント教育は、企業の人手不足の対応にも役立ちます。マルチスキルを備えた人材を育成することで、他部署で急な欠員が出た場合でも、社内の配置転換などにより人手を補いやすくなるためです。

さらに、社内の学習環境を整備することで、学習意欲の高い人材の流入も期待できるようになり、職場環境の改善や従業員定着率の向上などにもつながる可能性があります。

将来的に労働人口の減少が予想される現代において、リカレント教育の実施などで早期に人手不足を補える対策を講じておくことは企業側のメリットも大きいです。

従業員のモチベーションが上がる

企業が従業員の学びを支援するという姿勢は、従業員にとってモチベーションの向上につながります。この企業にいれば成長できるという実感は、従業員から企業へのエンゲージメントにもなるでしょう。

キャリアアップをすると転職してしまうのではないかと心配する企業の方もいますが、成長できる企業だという評判が高まれば、たとえ転職する社員がいたとしても、良い人材も集まり、結果的に企業の成長につながります。

リカレント教育で学ぶべき内容

実際に何を学ぶかは、目指す職務や目標によって変わります。以下に例を挙げます。

プログラミングなどのデジタル技術

AIやIoTの普及により、デジタル人材の需要は高まっています。DX化を推進する企業も少なくありません。

プログラミングなどのデジタル技術を学ぶことで、多様な働き先を見つけ、自らのキャリアを形成しやすくなるでしょう。

英語などの外国語

これからの時代は、国籍や年代、性別にとらわれず、働く人々が多様化する企業が増えていくことが予想されます。

グローバル化が進む中、英語はキャリアの選択肢を広げてくれます。英語を学び、使いこなせるようになることで、さまざまな人とコミュニケーションを取り、多様な人々との仕事にコミットできるようになるでしょう。

MBA(経営学修士)

MBAとは経営管理の専門家を養成する教育機関であるビジネススクール(経営大学院)において、修了生に授与される学位(経営学修士)のことです。 事業戦略やマーケティング、チームビルディングなど、学ぶ内容は多岐にわたります。

近年では、日本企業内のリーダー教育の必須科目として、その内容が積極的に取り入れられています。

専門資格の取得に向けた学習

目指す職種によっては、特定の資格を取得した方が良い場合もあります。資格取得のための勉強も人によっては必要な学習範囲になるでしょう。専門資格のうち、国家試験の合格が必要なものには、たとえば以下のような資格があります。

  • 行政書士
    行政書士は、許認可や免許申請など、行政の手続きで必要な書類の作成を代行する専門家です。
  • 司法書士
    司法書士は、裁判所や法務局に提出する書類を代行して作成したり、登記や供託の手続きを代行したりする専門家です。司法書士の資格を取得するには、筆記試験に加え、口述試験に合格する必要があります。
  • 基本情報技術者
    基本技術の基礎知識や技能を持つ技術者であることを証明する国家資格です。テクノロジー系のほか、マネジメントなど幅広い分野が試験範囲になります。
  • ITストラテジスト
    ITを高度に活用できる人材で、経営戦略をもとにITを利用して事業改革や事業革新を推進する知識やスキルを証明する国家資格です。CTOやITコンサルタントを目指す人に向いています。
  • 不動産鑑定士
    不動産登記に必要な土地や家屋の測定・調査などを担う専門家です。土地の売買や所有権移転などの不動産取引で重要なポジションになります。筆記試験のほか、口述試験の合格が必要です。
  • 公認会計士
    財務にかかわる専門家で、相談業務のほか、企業の財務の立案や調査などを担います。公認会計士になるには、国家試験に合格するだけでなく、実務経験や実務補修ののち、修了考査の合格が必要です。

日本におけるリカレント教育の現状

リカレント教育は組織力アップに有用ではあるものの、日本企業では導入が進んでいません。

ここでは、内閣府や文部科学省の資料をもとに、日本におけるリカレント教育の現状を解説します。

OECD諸外国よりもリカレント教育を受ける社会人は少ない

OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development/経済協力開発機構)には現在、欧州を中心に、日本やアメリカ合衆国、韓国などの先進38ヵ国が加盟しています。

内閣府が公表した資料によると、日本における大学・大学院への25歳・30歳以上の入学者の割合は、OECD諸外国に比べて低い値を示しています。

  • 25歳以上の学士課程への入学者:平均16.0%に対して日本は2.5%
  • 30歳以上の修士課程への入学者:平均26.0%に対して日本は13.2%

なお、30歳以上の「博士」課程への入学者の割合は、平均43.4%に対して日本は43.8%であり、ほぼ平均値となっています。

出典:「リカレント教育の現状」(内閣府ホームページ)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/chuukan_devided/saishu-sankou_part4.pdf

働きながら学べる環境がある企業の割合は約1割

労働者が働きながらスキルを習得するための制度に、「教育訓練休暇制度」や「教育訓練短時間勤務制度」があります。

教育訓練休暇制度…労働者が教育訓練を受けるために与えられる休暇制度
教育訓練短時間勤務制度…労働者が教育訓練を受けるために短時間で働く制度

内閣府が公表した資料によると、教育訓練休暇制度を導入している企業の割合は8.5%、教育訓練短時間勤務制度を導入している企業の割合は6.4%となっています。

日本では、労働者の学習をサポートする公的な制度が整備されていないことがわかります。

出典:「リカレント教育の現状」(内閣府ホームページ)
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/future2/chuukan_devided/saishu-sankou_part4.pdf

リカレント教育を受ける目的は「資格取得」が最多

文部科学省が公表した『社会人の学び直しの実態把握に関する調査研究』によると、実際に学び直しを行っている社会人のうち、その目的として最も多く挙げられたのが「資格を取得できること」です。

転職や昇格などをきっかけに、学び直しを検討するケースが多いことが考えられます。

そのほか、「現在とは違う職場・仕事に就くための準備をすること」や「現在の職務を支える広い知見・視野を得ること」も学び直しの目的として多く挙げられています。

出典:「社会人の学び直しの実態把握に関する調査研究」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200701-mxt_chousa01_100000172_05.pdf

学び直し後に処遇やキャリアが改善したのは全体の6割

文部科学省が公表した『社会人の学び直しの実態把握に関する調査研究』によると、学び直しを行った後に処遇やキャリアが「ポジティブに変化した」と答えたのは60%、「大きな変化なし」と答えたのは38%、「ネガティブに変化した」と答えたのは2%です。

また「具体的にどのような変化があったか」という質問に対しては、「新たな人脈が築けた」「希望の仕事に転職できた」「年収が増加した」などの回答が多くなっています。

リカレント教育は、労働者をポジティブに変化させる有効な手段であることがわかります。

出典:「社会人の学び直しの実態把握に関する調査研究」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20200701-mxt_chousa01_100000172_05.pdf

日本企業におけるリカレント教育の課題

リカレント教育が日本企業に浸透していない理由として、下記の課題が挙げられます。

スキルアップは個人の問題だと捉えている企業が多い

日本の多くの企業は、新卒採用を中心とした人事制度が根付いています。ゆえに従業員のスキルアップに対してはOJTを設けるだけで、ほかの取り組みはしていない企業が多い傾向にあります。

スキルアップは個人の課題であるとしても、自主的に自己研鑽に励む従業員はそれほど多くはないでしょう。仕事が忙しい従業員にとって、休みの時間を割いて学習するのは容易ではありません。

やはり、リカレント教育を普及させるには企業側のサポートが重要であるといえます。従業員にとって学習しやすい環境を、企業側で構築することが大切です。

業務外の学習に対して前向きでない社会人が多い

パーソル総合研究所が、日本や中国、韓国、アメリカ、イギリスなどの18ヶ国で就業者の意識や職業生活の実態について調査した結果があります。

調査結果によると、日本の就業者で「自己学習を何も行なっていない」と答えた人の割合は52.6%となっており、18ヵ国の中で最も多い数値となりました。

2位はオーストラリアで28.6%となっており、1位の日本と大きな差があります。このことから、日本は世界的に見ても自己学習への意欲が低いことが明らかです。

自己学習に対する意欲が低いのは、日本では古くから年功序列の考え方が一般的であり、「自動的にキャリアアップするだろう」と考えている人が多いことが理由のひとつといえます。

出典:「グローバル就業実態・成長意識調査-はたらくWell-beingの国際比較」(パーソル総合研究所)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/global-well-being.pdf

リカレント教育を受講するリソースが足りない

「業務外で時間を確保するのが難しい」という社会人が多いのも、リカレント教育における課題のひとつです。「残業が多い」「通勤時間が長い」といった場合、仕事が終わってから学習の時間を確保できない場合があります。仕事と子育て・介護などを両立している人も多くいるでしょう。

また、リカレント教育に積極的な企業であっても、研修を実施するには企業側と従業員とのスケジュール調整が必要です。近年はオンラインでの研修を実施する企業も増えましたが、研修プログラムの内容によってはオフラインの対面研修が必要であり、忙しい従業員にとっては受講が困難なケースもあります。

企業や個人が費用負担を強いられることが多い

日本でのリカレント教育は、教育機関が自主的に開発しているプログラムを受講するケースがほとんどです。しかし社外の研修を受講する場合、企業や個人が費用負担を強いられることになります。

リソースが不足している企業や自己投資に意欲的でない社会人の場合、費用負担の観点からリカレント教育に消極的になりがちです

また社会人のスキルアップに対する法律や制度は存在するものの、十分に周知されていない点も問題です。学習支援制度や職業能力開発促進法などがあることを知っていれば、リカレント教育に対して前向きになる企業や個人も増えるでしょう。

企業がリカレント教育を進める上での注意点・ポイント

仕事をしながらスキルアップのための学習を進めることは容易ではありません。継続的な学習は、肉体的にも精神的にも負担がかかります。

従業員にリカレント教育への取り組みを促すためにも、労働環境の整備や学習にかかる費用の負担など、企業側がサポートを徹底すると良いでしょう。

ここでは、企業がリカレント教育に着手する際に何を意識するべきか、注意点やリカレント教育を成功させるためのポイントを紹介します。

労働環境を整備する

リカレント教育の際に、社員に休職制度を利用してもらう企業もあります。ただし、休職制度は長時間の学習時間を一時的に取得するのに有効ではありますが、キャリアの一時中断などのリスクも高いです。

従業員がキャリアの一時中断のリスクを負わずに学習時間を捻出できるようにするには、休職制度以外の支援体制の見直しも必要です。時短勤務やフレックスタイム制度の導入など、仕事と両立しながら学習できるような労働環境の整備が求められます。

学習にかかる費用をサポートする

従業員主体で学習してもらうには、リカレント教育の重要性を従業員に周知するだけでなく、企業側で学習にかかる費用の一部、または全額の補助を検討する必要があります。

リカレント教育の学習効果はすぐに得られる性質のものではありませんが、長期的にはメリットの方が大きく、新入社員を一から教育するよりも負担が少ないためです。

即効性がないことから費用対効果が得られないと考える企業もありますが、長期的な視点に立って、学習費用のサポートも検討しましょう。

アウトプットの場を提供する

リカレント教育で得た知識やスキルが社内に還元されるようにするには、実施後に従業員がアウトプットできるような機会を提供することが肝要です。

具体的には、リカレント教育で得た知識を活かせるようなポジションに配置する、裁量を与えるなど、リカレント教育を仕事に還元できるような仕組みを構築しましょう。

学びを処遇や評価に反映させる

新しいスキルを学ぶことは社員にとって負担にもなりえます。社員が大学院などで専門的な知識やスキルを学んだ場合、企業側は「処遇や評価」に反映させることが必要です。
正しく学びが評価されれば、従業員のリカレント教育も促進されるでしょう。

また、教育プログラムを提供する大学などの教育機関側も、企業が社員の評価に反映させやすいように、履修することで身につく能力やスキルを可視化する必要があると言えます。

リカレント教育の助成金や支援制度

実際にリカレント教育を受けたいと考えている人のための国の支援制度のなかから、企業が社員に対して活用できるものを紹介します。

就職・転職支援の大学リカレント教育推進事業

文部科学省が実施している支援制度で、全国の大学・経済団体・ハローワークなどと連携し、2ヶ月〜6ヶ月程度の期間で就職・転職に役立つプログラムを無料(テキスト代別)で提供する取組です。

全国で22都道府県、63プログラムが選ばれており、分野はAIやIoTなどの最新技術をはじめ、医療・介護、地方創生、女性活躍などがあります。一部のプログラムでは、厚生労働省が実施している求職者支援制度と連携して、『職業訓練受講給付金』を受給しながら学習を進められます。

各大学が実施しているプログラムの中から、キャリアビジョンに合った分野を選択でき、スキルアップが図れるでしょう。

出典:「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」(文部科学省) https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/manabinaoshi/mext_01127.html

人材開発支援助成金

企業が社員に対して職務に関連した育成を行ったり、教育訓練休暇制度を導入したりして、教育訓練休暇を与えた場合に、訓練経費や制度導入経費などの助成が受けられます。

生産性向上支援訓練

専門知識を有する民間企業に委託して、企業のニーズに合わせ、講義やグループワークといった研修を取り入れて実施できる訓練です。

また、企業の課題ごとに合わせたカリキュラムをカスタマイズするコースや、規模の小さな企業向けのコースも低コストで受けられます。

企業内のキャリアコンサルティング(セルフ・キャリアドック)

キャリアコンサルティングの導入を検討している企業に向けて、無料でキャリアコンサルタントによる試行的なコンサルティングや相談支援を受けることができます。

※参考:厚生労働省ホームページ「リカレント教育」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18817.html

リカレント教育を導入している企業事例

社員のリカレント教育を促す支援制度を導入している企業の事例を紹介します。

多層的な「DX人財」育成体系を整備|AGC

ガラス、電子、化学品などの事業を展開するAGCは、DX推進を含めた中期経営計画「AGC plus-2023」を実行に移しています。リカレント教育と関連性が高いのが、DX推進のための、デジタルスキルと担当業務の2つの知識をあわせもった二刀流人材の育成です。

AGCでは、デジタルスキルに詳しい人だけがDXに取り組むのではなく、全社員がDXに取り組めるよう、多層的な人材育成制度を整備することによりDX推進のための人材教育をスタートしました。

AGCがデジタル時代の人材教育制度として設定したのが、管理者向けのDX研修、データサイエンティストの育成、工場技能者向けのデータ利活用研修、グループ内の周知や啓発活動の4層に区分した教育です。

データサイエンティストの育成では、入門レベル、基礎・応用レベル、上級レベルの複数のレベルごとの教育プログラムを設け、2025年までに上級レベルのデータサイエンティスト100人の育成を目指しています。

出典:「トップダウンと二刀流人財による ボトムアップが生む新たな価値 創業115年のメーカーを DXで変革するAGC」(AGC)
https://www.agc.com/hub/pr/DX-kaihatsu.html

「キャリア自律」を促す制度設計|富士通

テクノロジーソリューションなどの事業を展開する富士通では、社員が自身の成長に資するポジションにチャレンジできるよう、ポジションに応じた必要な学びの提供と1on1ミーティング(キャリアにかかわる上司との対話)をセットにした仕組みを構築しています。

富士通の学びの部分を支えているのが、リカレント教育にも関連する「Fujitsu Innovation Circuit」、「Global FDE」、「リスキル研修」の3つの取り組みです。

Fujitsu Innovation Circuitは、誰もが挑戦の舞台に立てるイントラプレナー(社内起業家)の誕生を目的としたプログラムで、米大学准教授協力のもとで複数のプログラムを用意し、社員の育成に取り組んでいます。

Global FDEは、グローバル基準でグループ最高峰のエンジニアを認定する制度です。重要な技術領域7つを設定して、2022年までには33名を認定しました。貢献度の高いエンジニアの処遇とキャリアパスとも連動させることで、社員のキャリア実現にも役立てられています。

リスキル研修は、対象者の専門性を強化するためのプログラムです。Microsoftをはじめとする大手ITサービス企業の協力のもと、最先端のデジタル技術や高度なITサービスのスキルや知識、ノウハウを身につけた人材の育成を進めています。

出典:「Career & Growth Well-being」(富士通)
https://www.fujitsu.com/jp/about/csr/education/

「博士課程進学」を支援|メルカリ

フリマアプリを展開するメルカリでは、リカレント教育にも関連する「mercari R4D PhD Support Program」と呼ばれる社員の博士課程進学をサポートする取り組みを進めています。

同プログラムは、将来的に事業発展や社会的課題解決に資する専門領域において、個々のキャリア開拓や企業の長期的競争力の強化などを目的としたものです。通常、働きながら大学院で学び直すには高いハードルがあることから、このような枠組みが設置されました。

メルカリでは、社員が積極的に博士課程への進学を検討できるよう、学費支援、研究と両立するための業務時間選択の支援、研究開発機構による支援の3つを行っています。

例えば、業務時間の選択においては、時短(週3~4日間)の勤務が選択できるほか、休業や時短なしも選べるなど、柔軟な働き方の選択が可能です。

出典:「メルカリ、社員の博士課程進学を支援する制度「mercari R4D PhD Support Program」を開始」(メルカリ)
https://about.mercari.com/press/news/articles/20220128_phdsupport/

最長6年間の「育自分休暇制度」|サイボウズ

サイボウズでは、「育自分休暇制度」として、退職してから最長6年間はサイボウズへの復帰を可能とする制度を2012年から設けています。

退職中は、海外留学や転職など新しいことにチャレンジすることが可能です。期間内ならチームに戻ってくることができるという安心感から、自分を育てる時間に打ち込むことができます。

会社を離れて新たなスキルや経験を身に着けた人が復職すれば、組織としての力を高めることもできるでしょう。企業にとってもメリットのあるリカレント教育支援制度といえます。

企業に属しながら学び直し「キャリアマッチング制度」|キヤノン

キヤノンでは、「成長意欲を全面的に支援する」ことを人材育成の主眼としさまざまな施策を展開しています。

特にリカレント教育と関連が深いのは、「キャリアマッチング制度」(社内公募制度)です。社内イントラ上で各部門の募集職務が公表され、希望する社員は応募することができます。

他事業への異動も可能で、また、数ヶ月に及ぶ徹底した能力開発(研修)がセットとなっている研修型の社内公募もあり、社員は新たなスキルを学び直すことができます。

一度仕事から離れて教育機関で学ぶ、という意味合いの強いリカレント教育ですが、企業に属したまま学び直すことができる仕組みです。

まとめ

社内におけるリカレント教育の推進は、時代の潮流に対応していくために重要と言えるでしょう。特にデジタルで世の中が激変する昨今、デジタルを通したビジネス変革を考える視点はすべてのビジネスパーソンに必要になります。企業は、従業員がDX関連知識や事業創出スキルを習得できる環境を整備することが大切です。

JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)では、全社員、DXリーダー、経営層それぞれの役割に合わせた下層別の研修や、さまざまなテーマに沿って企業の課題解決を解決する人材育成プログラムを提供しています。

1979年から企業向けを実施している同社がその経験を活かし対面型の研修から、異業種交流ができるセミナー、個人学習を支援するeラーニングなど目的に合わせたさまざまな手法で企業の課題解決を支援いたします。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

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JMAM HRM事業 編集部

文責:JMAM HRM事業 編集部
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