ビジネスにおいて「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が与える影響が年々高まっていますが、その一方でDX化を支える「DX人材」の不足が経営課題になっています。人材不足を解消とする手段として、アウトソーシングや採用ではなく、社内の人材をDX人材へ育成する取り組みが注目されています。
この記事ではDX人材の育成方法から、実際の企業の育成事例まで紹介します。企業の人材育成に関わる方、経営者、マネジメント層の方はぜひ一読ください。
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DX人材の不足が深刻化している
はじめに、実際にどれだけのDX人材が不足すると予測されているのか見ていきましょう。みずほ情報総研株式会社が発行する「IT人材需給に関する調査」では、2030年には最大で79万人のDX人材不足に陥る可能性があると報告しています。経済産業省はこのDX人材の不足を、DXを推進する上での大きな課題の一つとして懸念しています。
参考|みずほ情報総研株式会社2019年3月発行「IT人材需給に関する調査」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf
企業目線で考えた場合、人材不足の解消手段としてまず思いつくのは採用でしょう。しかし、転職市場においてDX人材は慢性的な不足状態にあり、採用は困難な状況です。そんななか、外部からの採用ではなく、社内内部の人材に対してリスキリングを行い、DX人材を育成する取り組みが注目を浴びています。
DX人材を育成することのメリットとは?
DX人材を外部から採用するのではなく、自社内で育成することの具体的なメリットを解説します。
システムの一貫性を保つことができる
社内のDX人材で対応する場合と比較して、外部ベンダーなどに委託する場合には、認識齟齬や、エンジニアの技術力の差が発生する可能性があります。その場合、既存システムとの互換性に問題があるなど、不十分で一貫性のないシステムになる可能性があります。
一方、社内のDX人材で対応することができれば、プロジェクトの企画立案から開発、テスト確認まで一気通貫で行うことが可能であり、システムの一貫性を保ちやすくなります。
DX化に適した社内体制を構築できる
DX化はひとつの部署内だけで完結することは少なく、多部署が関わります。そのため、社内調整をスムーズに行うことができるか否かは成果に大きく影響します。外部ベンダーと比較して、社内のDX人材はその点が有利といえるでしょう。さらには、自社の事業・業務内容を深く理解していることで、組織変換や事業転換などの大きな変化にも迅速に対応することが可能です。
自社に最適なDX化を実現できる
前述のメリットも合わさって生まれるメリットです。DX化の多くは既存業務の改善や、新規事業の開発時に行われます。既存業務やシステムを熟知している社内の人材が対応することで、問題点を正確に把握して、正しい企画を立案、開発をすることができます。自社に最適なDX化の実現に繋がります。
DX人材の育成を成功に導く4ステップ
DX人材の育成はどう進めるのかについて、4つのステップに沿って解説します。学習と実践の両輪で進めることがポイントです。
1.DX人材に向いている人材を選ぶ
まずは、DX人材にも適性があることを理解しましょう。たとえば、会社・業務の問題点に対する意識の高さ、深い探究心などを備えていることが理想とされています。他にも、DX化を推進する立場の「DXリーダー」を育成したいと考えている場合には、自部門の業務に精通している上で、コミュニケーション能力や、リーダーシップを備えた人材を候補としましょう。人材候補は特定の部門、役職、年次などに制限することなく、幅広い層から選ぶことが重要です。
3.OJTで実行力を身に付けさせる
座学を終えた後はOJTに入ります。OJTとは、実際に実務経験を通して人材育成を行う手法です。座学で学んだことを、実務で活かせるように訓練します。ポイントは、最初から大きなプロジェクトに携わるのではなく、まずは社内限定の小規模なプロジェクトから始め、少しずつ活用する方法、実行する術を身につけることです。
4.社内だけでなく、社外とのネットワークを繋げる
最後のステップとして、社内だけではなく、社外ともネットワークを繋げて、最新の情報を得ることができる環境を構築しましょう。ITは変化が非常に速いため、常に最新の知識、技術を学びキャッチアップすることが重要です。
DX人材を育成する際の注意点
DX人材の育成について、以下の点に注意しましょう。
アジャイル開発の手法を取り入れる
DX人材を育成しスキルを高めてもらうには、最初から大規模なプロジェクトに携わるのではなく、アジャイル開発の手法を用いた小規模なプロジェクトから入ることが効果的とされています。
アジャイル開発とは、プロジェクトを複数のプロジェクトに細かく区切り、小単位で実装とテストを繰り返しながら開発を進める開発手法です。大規模なプロジェクトと比較して、完了までの期間が短く、難易度を抑えた小規模なプロジェクトになります。そのため、育成段階にいるスキルの高くない、経験の少ないDX人材でも携わりやすく、成功体験を積み重ねやすいメリットがあります。
育成過程の可視化と共有を行う
DX人材の育成の目的、ビジョンをしっかりと全社へ伝えた上で、育成過程を共有・可視化しましょう。社内に共有されていることで、他部署からもサポートを得やすい環境、失敗にも寛容な環境ができあがります。加えて、成功体験を共有することも重要です。全社的なモチベーションの向上、次なるイノベーションにも繋がります。育成部門内だけの閉じられた環境で行わないように注意しましょう。
DX人材の育成事例5選
最後に、実際の育成事例を見ていきましょう。自社に合った育成方法の開発の参考にしてください。
ダイキン工業株式会社
ダイキン工業株式会社は2017年、大阪大学の協力を得て、社内講座『ダイキン情報技術大学(DICT)』を創設しました。2021年9月の発表では、2023年までに約1,500人のAI人材(DX人材)の育成を目指しているとのことです。
講座内容は選抜社員を対象とするハイレベルな講座から、新入社員向け、全社員向けに最低限のAIリテラシー向上を図る「AI活用講座」まで幅広く用意されています。新入社員に対しては特に手厚い環境を提供しています。技術職として入社する大卒新入社員約300名のうち、受講を希望した約100名は2年間に及び、通常業務は行わずにDICTでの研修に専念することができます。会社をあげて本格的、中長期的な計画の元、DX人材の育成を進めています。
日清食品ホールディングス
日清食品ホールディングスは「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」をスローガンに掲げながら、全従業員のデジタルスキル向上に取り組んでいます。その一環として、業務改善システムの開発を外部ベンダーに依存することなく、内製化できる組織体制の構築を目指しています。
そして、その構築において重要な役割を果たしているのが「ローコード開発ツール」です。「ローコード開発ツール」とは、コードをほとんど書かずにアプリケーション開発が可能なツールのことで、これを導入したことで、事業部門内だけで開発を完結できる環境を構築できました。事業部門内でのアプリケーション開発、その実用化が成功体験として蓄積されることで、DXの推進力に繋がっているようです。
キリンホールディングス
キリンホールディングスは2021年7月、キリングループの従業員を対象にした独自のDX人材育成プログラム「キリンDX道場」を開校しました。グループ全体の従業員のDXリテラシーの底上を目的に、人材育成を専門とするパートナー企業と共同開発したプログラムです。白帯(初級)、黒帯(中級)、師範(上級)の3種類のコースが用意されていて、段階的に高いスキルを得られる仕組みです。
他社の取り組みと異なるユニークな点は、優先的に育成したいと考えているDX人材の職種が定まっていることです。それは「ビジネスアーキテクト」です。キリンホールディングスでは「事業の課題を見つけ出し、ICTを活用した課題解決策を企画・設計し推進」できる人材と定義しています。2024年までに1,500人のDX人材の育成を目指しています。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンク株式会社は2017年、DX本部を設立しました。営業部門や企画部門で活躍していた人材を中心に120名をDX人材の候補者として選出した後、DXに必要な研修を提供しました。DX人材と一口に言っても、担う職種、求められるスキルは多岐に渡りますので、研修には正しい舵取りが重要です。そこで『事業プロデューサー制度』を設け、求められる人材を明確化しました。そのうえでOJTとOFF-JTを実施し、各々のスキルをアセスメント指標で診断します。育成成果が可視化されることで、DX人材の育成に役立っています。
NECマネジメントパートナー株式会社
NECマネジメントパートナー株式会社は2016年春、AI活用によるサービス開発のプロジェクトを立ち上げました。その際、社内の人材から選抜してチームを発足した後、DX人材としての育成を行いました。
育成方法として、まずはDX人材を3つのタイプに分けました。「ビジネスアナリスト」「データアナリスト」「サービスプランナー」の3つです。さらに、タイプ内に3段階のレベルを設けて、段階的にステップアップできる仕組みや認定制度を設けました。座学も行いましたが、実際に現場で提案を行うといった経験やOJTによって、成長が促進されたとのことです。
まとめ
DX人材の育成には大きく4つのステップがあり、正しく進めることが大切です。実際の実施方法については各企業ごとに特徴があります。先例を参考にして、自社に最適な育成体制の構築を目指しましょう。
日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)では、全社員、DXリーダー、経営層それぞれの役割に合わせた知識・スキルを身に着けるための研修プログラムを提供しています。
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