導入事例

事例紹介 アズワン株式会社

事例詳細

テーマ 人事・人材開発部門の強化 / 学習する風土づくり
対象 管理者 / リーダー・監督者 / 中堅社員 / 新人・若手社員

アズワン株式会社

理化学機器の総合商社として成長を続けるアズワン。その成長の原動力は、経営理念である「革新と創造」を掲げ、学びを実践する社員たちだ。9年前に本格導入した通信教育制度は、受講率87%、修了率90%という高水準を誇るまでに浸透。社員の昇格要件にも通信教育の受講を導入している。どのようにして学ぶ社風をつくり上げたのか、これまでの取り組みと今後の展望について伺った。
小野 元孝 氏 取締役管理本部長
山本 克平 氏 総務部次長
真田 幸昌 氏 総務部主事
取材・文・写真/中村博昭
カタログ写真/アズワン提供
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

「何事もやってみる」経営理念を学びに反映

理化学機器の総合商社であるアズワンは、専門カタログという媒体を通じて豊富な品揃えを実現。「ビーカー1つでもすぐにお届けする」というビジネスモデルを確立し、大きく成長した。取締役管理本部長の小野元孝氏は語る。
「5万点超の商品情報が掲載されたカタログを、全国1万に上る代理店ネットワークを通じてユーザー様に100万部配布し、ご注文いただいた商品のほとんどは即日発送しています。このビジネスモデルをつくり上げたのは井内英夫前会長です」
本年は設立50周年、2013年には創業80周年を迎える同社だが、1962年(昭和37年)の設立当時は社員10名程度で年商数千万円程度だった。それが現在は社員327名、年商460億円強へと大きく成長した。2001年には東証一部上場も果たしている。この成長を実現できた背景には、井内前会長が語ってきた経営理念「革新と創造」と、それを実践した社員の存在があった。
「『革新と創造』は、弱冠28歳でこの会社を引き継ぎ、大きく成長させた井内前会長が常々社員へ語っていた言葉です。『何事もチャレンジしてみなさい、やってみなさい』と。この言葉の実践と繰り返しが、今の販売体制や物流体制をつくってきました。常に変化を求め、現状維持を好まず、歩みを止めない。これはアズワンのDNAであり、会社の人材教育の基本となっています」(小野氏)この姿勢は、アズワンの「社員教育基本体系」にある3つの社員教育の柱(図表1)にも反映されている。階層別研修、職能別・課題別研修、そして自己啓発だ。
「1つめの階層別研修は、職務として行う必須の研修。2つめの職能別・課題別研修は、社員が任意で参加する研修です。その中には、社員同士で教え合う研修もあります。内容は営業や技術などの専門講座、商品知識講座、海外研修、自主勉強会などさまざま。3つめの自己啓発では、通信教育をフルに活用しています」(小野氏)
アズワンが最初に整備した社員教育は、通信教育を利用した自己啓発だった。そして、階層別研修や職能別・課題別研修の整備へと展開していった。その点では、自己啓発がこの会社の教育のベースになっているといえる。
また、職能別・課題別研修の中では、社員同士が教え合うことで“学びの連鎖”を生む効果が見られる。「当社は商社であり、扱い点数が非常に多いので、商品知識を身につけるには社員同士が教え合う必要性がありました。たとえば、自主勉強会では、各本部長自ら社員にレクチャーします。また、横の連携を強めるため、他部門の社員を対象に勉強会を開くこともあります」(山本氏)
アズワンでは学びの気風が自発的に生まれ、それが周辺へと広がっている。その効果として現在の学習風土がつくられたのだ。 図表1 社員教育基本体系 社員教育基本体系 もっと見る

“通信教育で学ぶべき行動能力”を会社が明示

では、アズワンが自己啓発の中で、通信教育を活用し学んでほしいと考えた内容は、どのようなものだったのだろうか。
アズワンでは社員が上位の役職をめざす際に、身につけるべき能力を明確化している。その柱となるのは3つ。基本行動能力、共通行動能力、専門行動能力だ(図表2)。
1つめの基本行動能力とは、顧客との接点で価値や利益を生む仕事に自らを駆り立てる行動能力のこと。経営理念の実践・伝承や仕事への使命感や執念といった精神面までが含まれる。
2つめの共通行動能力は、仕事のプロセスを効率よく管理・推進するために必要となる行動能力。財務、法務、リーダーシップ、管理能力・交渉力・営業力といった具体的に仕事を進めるスキルといえる。
3つめの専門行動能力は、現在の専門職種・分野で必要となる行動能力。最終的には専門性を究めて、ジャンルを超えた知見も持つT型人材をめざすものだ。
この中で「通信教育で学んでほしい範囲は、共通行動能力と専門行動能力」と、総務部次長の山本克平氏は語る。
「この図は社員に求める必要最低限の能力のマップと考えてください。これに基づいて通信教育の講座も選定しますし、社員教育で行う階層別・職能別・課題別研修の内容もこのマップに基づいています。上の階層に行くほど難易度も上がる。階層のグレードを守って講座を選定することで『あなたには次のグレードとして、こういう能力を期待しています』と明示することにもつながっています」
たとえば、図表2を見ると、共通行動能力において主事以上で財務知識、主任以上で法務知識が求められている。これらはまさに業務上の必要性から設定されたものだが、社員にとっては自らを成長させる1つの目安となっている。 図表2 人事部のフォローの取り組み 教育体系と通信教育制度 もっと見る

“上司を見て部下も学ぶ”学びの連鎖

アズワンに自己啓発として、本格的に通信教育が導入されたのは9年前、2003年のことだ。同時に全6階層(次長・課長・課長代理・主事・主任・一般上級)の昇格要件に通信教育の受講を課すことを決定。昇格をめざす社員は自主的に受講を申し込んでいる。自己啓発分も含め、費用は優秀修了を条件に全額会社負担。その補助を受けるためには、在籍期間内に全ての添削課題を提出し、80点以上を取らなければならない。
現在の受講率は87%。修了率も90%と非常に高い。このような状態になるまでに、どのような道のりがあったのか。
「当社が1995年に株式を店頭公開したころから、定期的に新卒採用を行うようになり、体系的な教育の必要性から教育制度をつくりました。その中で最初に手をつけたのは自己啓発です。社員に対し“自らの成長に期待する”というメッセージを出すことにしたのですが、当時は社内にマンパワーがなく、人手をかけずに教育する方法について議論しました。そこで決まったのが通信教育の導入でした」(山本氏)
また、会社の業績が伸び、社員が大きく増えていたこともあって、階層ごとの人材のレベルアップも求められていた。通信教育が昇格要件となったのは、そのような理由からだ。
ただし、当初から通信教育の受講がこれほど多かったわけではない。総務部主事の真田幸昌氏はこう語る。
「導入当初、社内通達をしてもあまり受講生が集まらない時期がありました。その時は、改めて社内に向け、受講するようにとメッセージを送ったこともあります。どのような講座を受けたいのか、社内アンケートも行いました」
このような会社側の努力もあって、徐々に学びの風土が育っていく。上司の学ぶ姿を部下が見たり、学んだ上司が部下に受講を勧めたり。そうしていくうちに、通信教育で学び育った社員がトップ層に入るようになり、ますます通信教育が広まっていった。
「仕事をしながら学ぶのは大変ですし、その中で修了要件をクリアすることもまた大変。それでもここまで受講率が上がったのは、学んだ上司が活躍する姿を部下が見てきたからだと思います。学ぶことで仕事の視野が広がり、仕事の深みも増す。学ぶことの大切さが伝わっていったのではないでしょうか」(小野氏)
社員自ら学ぶことが、自然とアズワン社員の証となっていったようだ。

制度の充実により学習意欲の高い社員が集う

総合商社であるアズワンには、さまざまなスキルを活かす仕事がある。社員たちは、どのような観点で講座を選んでいるのだろうか。
「昇格して部下ができたら、マネジメント系の講座を受けるなど、業務に直結する講座を選ぶ社員がやはり多いですね。経理の配属ではなくても、業務上の必要性を感じて財務の講座を受けるなど、通信教育を活用して仕事の幅を広げる社員もいます。中には1年で3つ、4つといくつも受講するつわものもいますね」(真田氏)
毎年人気が高いのはマネジメント系や語学系講座。仕事柄、理化学系関連の商品を扱うことも多いので、危険物取扱や配管工事といった資格系講座を選ぶ社員も多い。
また、通信教育の充実は人材採用でも高い効果を示しているようだ。
「 新卒採用の説明会で、“当社は通信教育制度が充実しており、費用も全額会社負担です”と紹介すると、大きな反響があります。自己啓発を会社が応援しますと伝えることで、学ぶ姿勢を持って入社してくれるように感じますね」(真田氏)
最近では、入社前の内定者研修にも通信教育を導入。社会人の心構えを学ばせたり、書く力を磨かせたりしている。
自らを成長させたい人にとって、会社が教育熱心な点は、非常に高いインセンティブとなるようだ。

継続の中で見つける“進化の方向性”

社内に通信教育を導入し、それが社員に受け入れられ、会社の文化となったアズワン。今後はどのような社員教育を展開するのだろうか。
「3年前、社長が交代。本年6月には前会長が退任し、新たな体制の下、さらなる飛躍に向けて、人事制度全般の見直しを行っているところです。社員数も増えてきたので、さまざまな学習ニーズに柔軟に対応できるよう、教育制度を順次見直したいと考えています。軌道に乗った通信教育は、もちろんこれからも継続していきます。自己啓発の柱であることに変わりありません」(小野氏)
ただし、山本氏は今後の会社の目的にリンクさせる形で、通信教育のポジションが変わることもありうると語る。
「今は昇進昇格の要件にもなっている通信教育ですが、今後そうではなくなることもあり得ます。状況によっては、もっと一般的な教育メニューを盛り込み、広く勉強できるよう変えることもあるかもしれません。会社の目的を考えながら、通信教育がこのままでいいのか、常に問うていきたいと思います」
通信教育の利点は、臨機応変に学ぶ内容や制度が変えられることにある。継続する中で、いかに的確な進化が示せるか。今後のアズワンと社員の動向に注目したい。

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2012年度

プロフィール

会社名 アズワン株式会社
主要事業 1933年、理化学機器を販売する井内盛栄堂商舗として創業し、1962年に株式会社井内盛栄堂を設立。1963年、理化学分野におけるプラスチック素材の将来性と、営業におけるカタログの重要性に着目し、研究用カタログを発刊。以降、カタログによる販売を軸とした総合商社として、研究用機器機材、看護・介護用品、その他理化学機器を取り扱う。
資本金:50億7,500万円、売上高:460億8,064万円、従業員数:327名(いずれも2012年3月末現在)
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