導入事例

事例紹介 北陸電力株式会社

事例詳細

テーマ 学習する風土づくり
対象 管理者 / リーダー・監督者 / 中堅社員 / 新人・若手社員

北陸電力株式会社

富山・石川・福井の3県を中心に電気事業を展開する北陸電力では、社員の自己啓発支援の手段として、長年にわたり通信教育を活用している。自己啓発による受講者は年間3,000人を超え、全体の約6割に上る。中には8割を超える職場もあり、通信教育による自己啓発が習慣化され、知識・スキルの向上のみならず、目標を立てチャレンジする人格形成にもつながっている。
木下雅人氏 研修センター 所長
和田 悟氏 研修センター 事務長
新庄 聡氏 研修センター
堀 広美氏 研修センター
取材・文/増田忠英
写真/北陸電力提供、増田忠英
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

自ら挑戦する「特別教育」として自己啓発支援を導入

北陸電力は1989年にCI(コーポレート・アイデンティティ)の観点から、「Power & Intelligenceでゆたかな活力ある北陸を」を新たな企業理念に掲げた。「総合エネルギー知識産業」をめざし、社員個々のPower(活力・勇気・たくましさ)とIntelligence(知識・技術・英知)を高めて総合力を発揮し、北陸地域の活性化への原動力となることを示したものだ。同時に「『お客さまの心』を大切に、感謝をこめてエネルギーを送り続けます」など4つの行動宣言を掲げており、これらは現在も同社社員が行動するうえでのベースとなっている。
そして、これらCIを実現するための教育体系は「職場内教育(OJT)」「職場外教育(Off -JT)」「特別教育(自己啓発支援)」の3つの柱からなっている(図表1)。 図表1 教育体系 教育体系 もっと見る

職場外教育には「基本教育」と「職能教育」がある。基本教育は社員として基本的に必要な知識・技能および態度の育成を目的とし、階層別に一律に実施するもので、同社の研修センターが担当している。同社では各職能等級に必要なスキルを明示しており、階層別研修もこの内容に即して提供されている。また、目標管理制度で社員が毎年能力開発目標を立てる際のガイドラインにもなっている。
一方、職能教育は業務遂行に当たって部門別に必要な知識・技能・態度の育成を目的としたもので、部門別に行われている。各部門の業務内容と求められる知識・技能、職能教育体系・内容を明確化した「北陸電力キャリアマップ」が整備されており、全従業員が閲覧できるようになっている。これは、技術力や現場力の継承を目的に2001年に始まったもので、社員にとっては今後習得すべき知識や技術の道しるべとなり、また、今後チャレンジしたい業務に求められる知識・技能をあらかじめ把握することができる。
特別教育は、従業員の自己啓発意欲を喚起し、援助するための教育で、通信教育はその一手段として位置づけられている。通信教育の他には、自主参加型の研修や職場での勉強会、外部への研修派遣などがある。

北陸という地理的条件に通信教育がマッチした

自己啓発の必要性について、北陸電力研修センター所長の木下雅人氏は次のように語る。
「当社は、個々の社員が成長・進化することによって会社としても成長・進化し、北陸の成長・進化につなげていくことをめざしています。そのために、自己啓発は不可欠なものと考え、支援を行っています」
自己啓発については同社の教育規程にも「従業員は常に自ら電気事業の推進にふさわしい人格の形成、識見の高揚、実践力の強化に努めるとともに、業務遂行に必要な知識、技能および態度の啓発向上を図らなければならない」と明記され、会社として重視していることがうかがえる。
同社が通信教育を活用し始めた時期は、1960年代に遡る。以来、通信教育は自己啓発支援の中心的なツールとして活用されてきた。通信教育が早い時期から積極的に活用されてきた理由について、木下氏は次のように推測する。「当社は、北陸という地の利を活かして、100カ所以上の水力発電所を保有しています。昭和の終わりには100%無人になりましたが、それ以前は山間にある各発電所に社員が住み込み、3交替で運営していました。また、かつては営業や配電の担当者も、各地の分所に点在していました。そのような職場環境の中でスキルアップを図るには、通信教育が最適であり、その伝統が今日まで受け継がれていると思われます」
現在でも、本社のある富山市で開かれる外部セミナーがあれば特別教育の一環として社内に案内をしているが、その機会は大都市圏に比べると非常に少ない。こうした地域的な事情も、通信教育の積極的な活用につながっているようだ。

各職能等級に必要なスキルに適合したコースを提供

現在は、通信教育として約300コースを提供。前述の各職能等級に必要なスキルやキャリアマップに適合するコースを明示することにより、社員が受講すべきコースを選択できるようにしている(図表2)。 図表2 職能等級・スキル別コース分類 業務関連コース 業務関連コース もっと見る 業務基礎コース 業務基礎コース もっと見る

募集はイントラネットで行われており、毎年4月に通信教育のコースガイドを掲示。月内に募集を締め切り、6月に開講する。「募集時期は社内に定着しているため、大々的に告知しなくてもアクセスされます」と話すのは、研修センター事務長の和田悟氏。なお、同社では7月に異動があるため、異動先で必要となるコースを学べるよう、4月の募集以外にも申し込みを随時受けつけている。
受講期間内に修了すると、会社から修了助成金が支給される。助成率は業務への密接度によって異なり、次のように分類されている。
●資格取得コース…70%
国家資格等を対象とし、資格検定試験に合格するために必要な専門知識の習得を図るコース。3年以内に国家資格に合格した場合は、残り30%を追加助成する。
●業務関連コース…50%
キャリアマップに掲載されているコースを対象とし、業務との関連度が高く、主に職務に直接必要な能力の育成を図るコース。
●業務基礎コース…30%
広く一般的な基礎能力の育成および知識の習得を図るコース。
こうしてみると、北陸電力の場合、資格取得が特に奨励されていることがわかる。
また、受講者の多いコースとして、環境問題に取り組むために必要となる知識の習得を目的としたeco検定、コンプライアンス、個人情報保護などがある。eco検定は環境部が社員に取得の働きかけを行っているためだが、後の2つは会社がコンプライアンスに力を入れていることから、社員が一度は受ける定番のコースとして選ばれているという。

「目標管理制度」と「上司による申込み」がカギ

ここ数年の通信教育の受講率は全社員の約6割で、毎年3,000名以上が受講している。中には1人で一度に3コース申し込むつわものもいる。社員の自主性に任されているにもかかわらず、これほど多くの社員が受講する理由として、大きく2つの仕掛けが寄与している。
まず1点目には、人事考課と能力開発の仕組みに目標管理制度が導入されていることが挙げられる。社員は年度の初めに、前述の各職能等級に必要な能力水準に照らして、業務と能力開発のそれぞれについて年度目標を立て、上司に自己申告する。そして、定期的な面談で上司のフォローを受けながら、目標に掲げた業務と能力開発に取り組み、年度末に評価を受ける。
この目標管理制度において、能力開発の目標として具体的に設定しやすいのが、通信教育のコースを受講し、修了することだという。「指導する上司自身も、能力開発の方法として自分の上司から通信教育の受講を勧められ、受講してきた経験があります。そのため、部下にアドバイスする際にも通信教育の受講を勧めやすいのです」(木下氏)
2点目として仕組み上のポイントとなっているのが、通信教育の申請方法だ。同社の場合、申請は本人が直接行うことはできず、上司を通じて職場単位で行うようになっている。そのため、上司は誰が何を受講するか、また、誰が受講を申し込んでいないかを全て把握することができる。「昔から所属長が一括して申請する仕組みでやってきましたので、今ではすっかり定着しています」(木下氏)―社員は自然と『受講するのが当たり前』という意識を持つようになっている。
こうした取り組みが連綿と続いてきたことにより、一般職の受講率は70%に上っており、上司に当たる一般役職者の受講率も59%と非常に高い。中でも現場系の部門では上司が率先して受講するケースが多く、火力や配電といった部門の受講率は80%を超えている。こうした職場では、毎年1つは通信教育を受講することが習慣となっている。
目標管理制度の運用における自己啓発との連動、そして上司を通じた受講申請。この2つが、習慣的に受講する風土の形成に大きく寄与してきたといえそうだ。

受講率向上に向けた工夫で社員の人格形成をめざす

通信教育の受講率は、ここ数年は60%前後で推移しているが、2002年~ 06年は70%を超えており、2004年には86%を記録した。当時は各部門の目標管理の一項目に通信教育の修了率が明示され、各部門とも修了率を高めるために、通信教育を大いに奨励したためだ。「しかし、それでは通信教育の趣旨が、自己啓発よりも部門の目標達成になってしまうため、この項目は2005年に廃止されました」(木下氏)
その後、受講率は2010 年度に57%となる。そこで、同年度からイントラネットの掲示板に、コースガイドに加えて次のような情報を掲示し、社員の関心を高める工夫を施した。
①店社別、部門別受講率ベスト5
店社、部門間の競争意欲を高める。
②部門別、年齢別人気ベスト5
さまざまな切り口で人気コースを掲示することで、コース選びの参考にしてもらう。
③受講者体験談
資格コースを受講し資格を取得した従業員の体験談として、「通信教育を受講しようと思ったきっかけ」「通信教育を利用して良かった点」を掲載し、参考にしてもらう。内容は毎年更新している。
④人事労務部長のメッセージ
人事トップのメッセージを載せることにより、自己啓発に取り組むことの意義や重要性を理解してもらう。

これらの工夫が実を結び、2011年度の受講率は62%に上昇した。通信教育を担当する研修センターの堀広美氏は「これまでに築かれた学ぶ風土を継続していくことが我々の役目だと考えています。今後は4月の受講申請だけでなく、いつでも受講できるということをもっと広めていきたい」と語る。
なお、同社が唯一、通信教育を集合教育の事前教育に活用しているケースとして内定者教育がある。「任意受講ですが、2010年度から、社会人基礎力の向上をテーマに実施しています。近年、即戦力が求められている中で、内定期間に学習しておけば、入社後の研修での吸収力が高まるのではないかと考えています」と話すのは、研修センターの新庄聡氏。内定期間中に通信教育に親しんでもらうことで、入社後のより積極的な自己啓発への参加にもつながる。
最後に、北陸電力における通信教育の効果について、木下氏は語った。「社員の資格取得に役立っていることは間違いありません。また資格取得以外のコースについても、通信教育を通して具体的な目標を立て、高みをめざしてチャレンジする姿勢は、人格形成においても大いに意味のあることだと考えています」
同社が伝統的に採用してきた通信教育の仕組みは、常に目標を持って自ら学ぶ企業風土の醸成につながっているのである。 堀氏、木下氏、和田氏、新庄氏 もっと見る 通信教育を運営する研修センターの皆さん。左から堀氏、木下氏、和田氏、新庄氏。

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2012年度

プロフィール

会社名 北陸電力株式会社
主要事業 1951年、電気事業再編成により発足。「低廉・良質で環境にやさしい電気を安定的にお届けする」ことを使命とし、北陸地域の発展に貢献すべく、電力の安定供給を基本に、低炭素化に向けた取り組みや、地域の環境保全などにも注力している。
資本金:1,176億41百万円売上高:4,951億18百万円(連結、2012年3月期)従業員数:5,009名(2012年3月末現在)
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