導入事例

事例紹介 九州産業交通ホールディングス株式会社

事例詳細

テーマ 学習する風土づくり
対象 管理者 / リーダー・監督者 / 中堅社員 / 新人・若手社員

九州産業交通ホールディングス株式会社

2005年にH.I.S.グループの一員となり、新たなスタートを切った九州産業交通グループ。社員の自己啓発を促進するため、1990年より通信教育を活用しているが、近年は参加者が低迷。そこで2010年に運用方法を見直し、社内への周知活動の強化などを実施。1年で受講者が大幅に増加した。そこには現場の社員をやる気にさせる細やかな改善の積み重ねがあった。
蓑田 幸男 氏 取締役兼人事グループ長
梶原 竜 氏 人事グループ 課長代理
芳川 智 氏 人事グループ 主任
取材・文・写真/中村博昭
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

トップの率先による社員教育の再スタート

九州産業交通は昭和17年来、「熊本の産業振興会社になる」という創業の理念のもと、熊本県域を中心にバスや観光、不動産などの事業を展開してきた企業だ。しかし、事業不振に陥り、2003年に産業再生機構に支援を申請。その後、H.I.S.グループの支援が決定し、2005年にH.I.S.出身の矢田素史社長が就任する。そこから会社の立て直しが始まった。
矢田社長は社員の意識改革を図るために、企業理念、企業ビジョン、社員行動指針を新たに策定する。当時の様子を取締役兼人事グループ長の蓑田幸男氏はこう語る。
「会社を立て直すうえで矢田が強調したのは、“顧客本位”に立ち返ること。私たちグループはさまざまな事業を行っていますが、全事業がお客様と接するサービス業であり、矢田は『まずはお客様第一』と常々語っています。
この、会社として大切にする価値観を具体的な行動に落としたものが社員行動指針であり、この行動を実現するために社員教育があるという図式ができました」(図表1)
矢田社長は県内のグループ拠点を回り、自ら企業理念の研修を50回以上行った。また、管理職向けに「さんこう塾」を開き、自ら経営や会計といった業務に関する知識をレクチャーした。さらに、社長就任以来毎週、読了後の書籍2冊の紹介文を、管理職あてにメールすることも行っている。
顧客本位を実現するには、現場の社員が受け身ではいけない。バスの運転職も空港の地上職員も、お客様に接する全社員自らに変わってほしい。しかし、このような社長の思いが社員に伝わるまでには時間がかかった。
その様子を人事グループ課長代理の梶原竜氏はこう語る。
「当社は1990年から自己啓発の手段として通信教育を取り入れました。受講費用は推奨コースの場合、修了を条件に100%会社負担です。しかし、受講者は毎年下降を続け、2009年には130名まで落ち込み、全社員における参加率はわずか12%という状況でした。しかも、その受講のほとんどが管理職でした。会社の再スタートという大切な時期だったこともあり、全社員に自らを変えてほしいと思いました。そこで、まずはこの自己啓発からてこ入れを始めました」 図表1 企業理念、ビジョン、行動指針を軸とした教育要素 企業理念、ビジョン、行動指針を軸とした教育要素 もっと見る

細やかな改善の積み重ねで自己啓発制度を活性化

九州産業交通が取り組んだ改善は実に細やかな内容だ(図表2)。
現場第一線の社員に学んでもらうために、2010年度はまず、コースの見直しを行い、126コース中30コースを入れ替えた。特に、これまで少なかったバスの運転職や店舗の販売職社員向けにCSのコースなどを追加した。
また、他にも職級ごとに会社として推奨するコースを体系図化して自己啓発促進の案内冊子(コースガイド)に掲載。一目で自身に当てはまるコースがわかるようにした。
コースガイドについてもただ営業所にまとめて送るのではなく、できる範囲で人事が直接持って行き、各職場でお願いして啓蒙ポスターも貼ってもらうなど、現場の社員とのコミュニケーションを大切にした。さらに、社員の自己啓発意識や要望を収集し、制度に反映させるように、申込書にアンケートをつけるなどの工夫をした。
結果、これらの取り組みが成果を生む。申込みは社員の30%、前年の3.7倍となる486件にも上った。
受講者数のアップについて、人事グループ主任の芳川智氏はこう語る。
「1年目でこの数は予想外です。人事のほんの少しの工夫がこれほどの効果を生むことに驚きました。自己啓発制度を通じて、会社が社員に対してどういった能力や資質を求めているかを伝えることができたと思います。体系図についても、『自分が何を学べばいいか、よくわかった』という声を多くもらいました。所属長も人事からの働きかけに協力してくれ、好結果が生まれたと思います」
もう1つ、今回の取り組みで受講者に見られた大きな変化がある。それは現業職からの申込みが増えたこと。運転職は2009年度3名から2010年度104名と大幅に増えている。「私たちグループには運転職が約800名います。企業理念にもありますが、運転職もサービス職として顧客満足(CS)を考えないといけない。実際、CS関連コースの受講が多くなっています」(梶原氏)
ここで九州産業交通が行う通信教育のコース設計を見てみよう。
2012年度は全133コース。そのうち修了を条件に費用が100%会社補助となる推奨コースを85コース設定。推奨コースは会社が社員に高めてほしいCSやマーケティングなどのビジネススキルと、社員に人気のある語学や資格関連をラインナップしている。
「申込み内訳は、2011年度は推奨コースの受講者数が全体の70%、資格関連が17%、語学関連が7%、それ以外は6%となっています」(芳川氏)
1年でのこの変化は、学ぶ意欲をもつ社員が潜在的に多くいたことを示す結果となった。 図表2 九州産業交通が取り組んだ改善策 九州産業交通が取り組んだ改善策 もっと見る

複数の効果が見込める“修了証授与式”

実は九州産業交通では、以前から通信教育の修了者を祝うイベントを行っていた。修了証と受講料を報奨金として現金で用意。朝礼の時に拍手とともに所属長から渡すのだ。受講者が増えたことで、授与式の効果もより高くなっている。
「修了時期は人によって異なりますが、修了者が出るたびに修了証授与式を行います。修了者は必ず、職場で修了証をもらえますから、もちろん本人はうれしい。受講者が増えたことで、まだ修了していない人がこれを見て『自分も頑張らないと』と思ってくれるようになったようです。受講していない人には通信教育の宣伝になりますし、いくつもの効果があります」(芳川氏)
修了は受講者にとって最もうれしい出来事だが、人前での表彰があることでより喜びが増す。入社以来3年間、続けて1コースずつ修了した総務・法務グループの中村明大氏はこう語る。
「私がこれまで受けたのは『ビジネス文書』、『宅地建物取引主任者』、『ダンドリ術』です。修了証をもらった時は本当にうれしくて、達成感がありました。また何か勉強したいという気持ちも湧きます」
また、自己啓発制度以外にも、会社理念である顧客本位をグループ社員に意識してもらう機会をつくっている。顧客に最も喜ばれた社員の表彰だ。グループ全社に届くお礼の手紙・電話・メールをもとに、月間MVPを選出。社長自らが職場に出向き、表彰と会食を行っている。
「自分が変われば、お客様の見る目も変わる。そのことを実感してほしいと始めた制度です。おかげさまで、お客様からの喜びの声は着実に増えてきています」(梶原氏) 朝礼で修了証を授与される中村明大氏。 もっと見る 朝礼で修了証を授与される中村明大氏。「個人の努力が皆に注目される場です。自分でも誇らしく思います」

受講率を上げてCSを根づかせたい

図表3 コースガイドに掲載された矢田社長の言 コースガイドに掲載された矢田社長の言 もっと見る
九州産業交通が自己啓発でひとまず目標にしているのは、受講率50%。その理由を蓑田氏はこう語る。
「人事が広報しなくても自然に申込みが集まるようにしたい。その風土があるといえるのは、やはり半数超えからだと思います。自己啓発は当たり前という風土が定着すれば、社員個々の成長につながり、結果として企業の成長にもつながります」
そのためには、社員比率の高い現業職の受講を促進する必要がある。現業職が学ぶことはCSを根づかせることにもつながる。しかし、勤務時間外に自分の時間を利用し勉強するのはハードルが高いと感じる人が多いことも、アンケートの結果からわかった。
そこをいかに意識させずに取り組んでもらう形にできるか。もっと業務と関連したコースや、仕事に直接関係なくても自身のキャリア向上に役立つコースを用意して、受講へのハードルを下げる努力が必要だ。
「人事にとって自己啓発制度の改善は、現場におけるCS活動と同様です。社員の動向や受講結果を見ながら新たなコースと入れ替えたり、ニーズに合った受講形式に作り直したり。ゴールはありません」(芳川氏)
また、上司による声かけも学習意欲の喚起に欠かせない。現状でも教育に熱心な部課長は、部下に「やってみないか」と積極的に声をかけ、自らアンケートを回収し、申込み状況を確認している。そのような部署は明らかに受講率が高い。
「部署ごとの受講申込み状況を出して、部課長に見せています。すると『うちの部も頑張らなければ』とよい動機づけになる。他にも人事からリーダーあてに受講を勧めるお願いメールを出すなど、常に働きかけをしています」(梶原氏)
こうした人事の活動は会社の経営方針とも合致する。コースガイドの冒頭に矢田社長のメッセージを掲げることで方向性を明確に打ち出し、社員の意識をひとつにしている(図表3)。
自己啓発支援制度の取り組みを通じて現場の社員に顧客本位のサービスを浸透させる九州産交グループの風土改革の取り組みが、花を咲かせる日も近そうだ。

表彰企業一覧 (年度別五十音順) インタビュー一覧へ

2012年度

プロフィール

会社名 九州産業交通ホールディングス株式会社
主要事業 1942年「熊本の産業振興会社」を理念として営業開始。その後、産業再生機構の支援を経て、H.I.S.グループの傘下となり、2006年4月持株会社に移行。バス、観光、不動産事業の3事業会社と、路線バス、貸切バス、車両整備、フェリーの子会社のグループ7社で再スタートを切る。「顧客本位のサービス提供」が経営理念。
資本金:10億6500万円、売上高:242億2,700万円(連結)、従業員数:63名(単体)、1830名(グループ)(いずれも2012年3月期現在)
ページ上部へ戻る