導入事例

事例紹介 キヤノンシステムアンドサポート株式会社

事例詳細

テーマ 強い管理者の育成 / 中堅社員の育成 / 学習する風土づくり
対象 管理者 / 中堅社員

キヤノンシステムアンドサポート株式会社

キヤノンシステムアンドサポートは、自ら学ぶ能動的な企業風土のもと、管理職と若年層に対する研修に力点を置いている。
そこに通信教育を効果的に活用することで、教育効果を高めてきた。
同社の人材育成の支柱である『三自の精神』と『プロ十則』のもとでの“強い課長”を中心とした人材育成が、強固な経営基盤をつくり上げた。
植草 一良氏 総務人事本部 人材育成部 担当本部長
倉持 嘉秀氏 総務人事本部 人材育成部 部長
取材・文・写真/千葉雅夫
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

『三自の精神』と『プロ十則』を土台にした人材育成

キヤノンシステムアンドサポートはキヤノンの販売部門として1980年に創業。以来、同社のビジネスは、複写機や各種情報機器の販売とメンテナンスを主業としてきた。同社は企業理念に『共生』を掲げ、“共に生き、共に働いて、幸せに暮らしていける社会”の実現をめざしている。
人材育成の支柱になっているのは、キヤノングループの行動指針の原点である『三自の精神』。三自の精神とは、自発、自治、自覚をさす。教育に臨む姿勢として、何事にも自ら進んで積極的に行い(自発)、自分自身を管理し(自治)、自分がおかれている立場・役割・状況をよく認識する(自覚)ことを求めている。

総務人事本部人材育成部担当本部長の植草一良氏は、同社の教育風土についてこう語る。
『三自の精神』にも示されているように、当社の人材育成は、能動的に学ぶ姿勢を重視しています。ただやらされているのではなく、自発的に手を挙げ、目標を立てて行動する。そうすることで、仕事にも前向きに、果敢にチャレンジしていけるのだと思います。また、当社は常にプロフェッショナルであることを求めています。『三自の精神』とともに、プロとしての心構えを示した『プロ十則』(図表1)が教育指針として根づいています」
『プロ十則』は、20年ほど前に当時の社長が、プロの心得10箇条を綴ったもの。現場を鼓舞する思いが込められ、同社の風土の根幹をなすものといえる。
『プロ十則』では“学び”に関してこうある。
「学び続けよう。自己啓発のポイントは、どがめつく・・・・・吸収し、謙虚に学ぶ姿勢である」
人材育成部では、『三自の精神』と『プロ十則』を土台にして、実践的な教育の展開をめざし、2012年度重点実施項目を策定。「強い課長の育成」と「若年層の実践的育成」を重点項目に据えた。
それでは、“強い課長”と“若年層の育成”に通信教育をどのようにして活用したのか。それぞれに見ていきたい。 図表1 『プロ十則』(キヤノンシステムアンドサポート) 『プロ十則』 もっと見る

マネジメントの指針として課長職に通信教育を導入

そもそも、なぜ“強い課長”の育成に注力することになったのか。そこには、同社が置かれた業界特有の背景がある。
同社のビジネスは、顧客を訪問し、製品・サービスを直接提供することに基軸を置いている。ソリューションビジネスは、企業間競争が激しく、当然のことながら、“現場力”の優劣で業績が大きく左右する。その第一線の集団を束ねるのが課長職だ。
同社にとって課長職は組織の要。“強い課長”の育成が、業績を左右するカギとなるのだ。
「課長は椅子に座って、指揮を執っているだけでは務まりません。部下を指導しつつ、自らも率先垂範で成果を出さなければならないポジションです。業績の最小単位は課であり、課長は現場をまとめるリーダーといえます。部長職が全体の指揮を執り、課長職が課員のモチベーションを高め、牽引しなければ、業績には結びつかないのです」(植草氏)
同社では、業績に直結する管理職教育を重視し、会社全体でのサポート体制を構築。全課長職を対象に、コンプライアンス、労務管理・人事評価といった実務教育を実施してきた。
これに加えて2010年3月からは、全管理職を対象とした教育に通信教育を導入し、部長職159名、課長職545名が修了した。
植草氏は、新たに通信教育を導入した経緯をこう話す。
「“守り”から“攻め”へのシフトチェンジ。それが全管理職に階層別通信教育を採り入れた大きな理由です。これまでは、業務に必要不可欠となる実務的な知識を習得することに、管理職教育の主軸を置いてきました。その効果により強固な土台が築かれ、“攻め”に向かう体制が整いました。攻めの教育には、一人ひとりが日々の業務の中で能動的に学習できる通信教育という方法が最適だと考えたのです」
同社にとって “攻め”の最前線を担うのが課長職である。“攻め”の体制を築くためには、課長がマネジメント力を発揮し、同社が重視するO-PDCAサイクルを回すことで結果につなげなければならない。(Oは目標=0bjectivesの頭文字)
だが、課長職はプレイヤーとしての営業スキルは高いものの、管理職としてのO-PDCAの回し方にバラツキがあった。そこで、課長の役割意識と求められるスキルを、体系的かつ実践的に習得できる通信教育をマネジメントの指針にしたのだ。共通の指針のもとで課長職がマネジメントを学習することで、組織のリーダーとなる“強い課長”が育成できるのだという。

通信教育の疑問点を研修の題材に活用

通信教育は、体系化された管理職研修と連動することで、効果的に運用されている(図表2)。同社では、“攻めの研修”を実現させるために、「ライン管理職変革プログラム」を2010年11月から実施。
同研修は、「課長研修(2泊3日)」「コーチング研修(1日)」「フォローアップ研修(1日)」の3本柱で構成され、職場での実践を間にはさみながら、約6カ月の期間をかけて学んでいく。
一連の研修を通して、一貫して学習するのは、利益体質構築のためのロジカルな思考だ。
このプログラムに参加する条件として、管理職向け通信教育の修了を必須とした。修了時には、通信教育を受講して「参考になった点」「疑問に思った点」を3点ずつ提出。
人材育成部では、それらの中から代表的な疑問点をピックアップし、2泊3日の課長研修の中にディスカッションの題材として組み込んでいる。
同部部長の倉持嘉秀氏は、通信教育と研修を連動させる意図をこう語る。「研修に参加する前に通信教育を受講することには、個人によってバラツキがあったマネジメントなどの知識を均一化する効果があります。けれども、通信教育で体系的に学び、底上げされた知識を、現場で活用できなければ意味がありません。自分の現場と照らし合わせながら学ぶことで、実践的な学習能力が養われるのです。通信教育の修了時に疑問点などを提出してもらい、ディスカッションの議題として用いるのも、学習した内容を実践レベルに落とし込みやすくするためです」
人材育成部では、通信教育の修了を促すために、全受講者に対して励ましの電話やメールを送っている。こうした地道な活動の効果もあり、100%の修了率を実現している。
また、2012年2月からは、課長代理職436名に対しても管理職向け通信教育を導入。管理職教育の範囲を管理職候補にまで拡大している。 図表2 キヤノンシステムアンドサポートの人材育成体系 キヤノンシステムアンドサポートの人材育成体系 もっと見る

優秀な先輩社員がトレーナーとして指導

では、同社がもう1つの重点実施項目として掲げた「若年層の実践的育成」では、通信教育がどのように活用されているのだろうか。
若年層教育の中心に据えられているのが、新入社員研修だ。2012年度は80名の新入社員に対し、3カ月間(4~6月)にわたって研修が行われた。
この研修の特色をなすのは、25年以上続いている“トレーナー制度”だ。トレーナー制度とは、前年度に全国各ブロックでトップクラスの成績を上げ、人格の優れた社員がトレーナーとして新入社員の指導に当たる研修制度のこと。本年度は7名の先輩社員が、トレーナーを務めた。
トレーナーは新入社員への指導方法を学ぶために3月に招集される。そして1カ月にわたるトレーナートレーニングが実施される。各トレーナーは、トレーナートレーニング中に、指導者向けの通信教育も受講する。「 新入社員研修では、現場の第一線で活躍している先輩社員がトレーナーを務めるため、新入社員の心に響くリアルな体験に基づいた指導ができます。けれども、トレーナー役の社員は、教えることに関しては十分な経験を積んでいないので、指導者としての基本スキルを学ぶ必要があります。通信教育を通して指導方法や指導に当たっての考え方を体系的に学習することで、教えることについての基礎が固まります」(植草氏)
3カ月に及ぶ新入社員研修では、前述した『プロ十則』を新入社員全員で暗唱。同社の社員として欠かせない“情熱、熱意、誠意”を徹底して浸透させる。新入社員の段階で、精神的支柱となるキヤノンのDNAが培われることで、能動的な教育が連綿と続く環境が生まれるのだという。
新入社員は研修を終えると、それぞれの職場に配属される。そして、現場で2~3年の経験を積むと、次は新入社員を指導する役割が与えられる。同社では、これをブラザー制度と呼んでいる。ブラザーになるためには、トレーナーの場合と同様に、新人指導者向けの通信教育を受講し、指導の基本を習得しなければならない。
新入社員に教えることで、自らもより深く仕事の目的や業務そのものを理解できるため、学びの伝承、育成の連鎖が生まれるのだという。
トレーナー制度、ブラザー制度により、教える側も教えられる側もともに育つ“共育”の場が構築されているのだ。

通信教育の効果は“気づき”と“共通言語”

管理職教育に通信教育を組み込んだことで、実際にどのような効果が生まれたのか。
植草氏はキーワードとして、“気づき”と“共通言語”の2点を挙げる。
同社がめざすコンサルティングセールスは、科学的で合理的な思考が必要となる。そのためには、課や自分の業務を見つめ直す“気づき”が重要になる。通信教育は、テキストで考え方を知り、レポートで自分の仕事に照らして課題と対策を考え、添削結果をもとに実践するという、“気づき”の機会を多く持つことができる。これがO-PDCAを着実に回すきっかけとなるのだ。
そして、立てた戦略を実行に移す時に必要になるのが“ 共通言語”だ。戦略がどんなに優れていても、的確な言葉で部下を指揮できなければ効果は期待できない。「なぜ、今、これが必要で、どのように実行するのか」と説得力をもって伝えることで、部下は納得して行動に移せるのだ。通信教育での学習を通し、論理的な“共通言語”を身につけることで、部下への指導力が格段に高まったのだという。
また、管理職向けの通信教育を実際に受講した倉持氏は、感想をこう述べる。
「通信教育を受講して、考えさせられたのは、“部長とは何か”という根本的なところです。部長とは課長の役割を大きくした“大課長”ではなく、“構造改革を推進し、組織に恒久財産を残す、ワンポスト・ひと仕事”が問われることを再認識できました。それにより、自分の職責や仕事の進め方を見つめ直すきっかけになったのです。通信教育で学ぶことは、管理職の役割や仕事の本質をつかむためにも、有用だと考えています」
同社は、管理職と若年層の研修制度に通信教育を組み込むことで効果を上げてきた。組織全体を管理職が牽引し、若年層をボトムアップさせることで、企業体質のさらなる強化が図られることだろう。

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2012年度

プロフィール

会社名 キヤノンシステムアンドサポート株式会社
主要事業 キヤノンシステムアンドサポート株式会社1980年設立。複写機や各種情報機器の販売とメンテナンスを主業とし、コンサルティングセールスを展開。業種・業務に応じた最適なソリューションを提供することで、業務改善・生産性向上のサポートを行っている。全国約200ヵ所ある営業所が一体となり、ワンストップでサービスを提供。
資本金:45億6,100万円、売上高:987億円、従業員数:5,400名(ともに2011年12月現在)。
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