女性活躍

ダイバーシティ推進の要となる女性活躍。女性が自身の強みを発揮し組織を牽引することは、イノベーション創出だけでなく、ガバナンス機能の強化、採用やリテンション、投資対象としての評価の向上など、企業にとって多くのメリットがあります。女性が活躍し、上記のような状態になるためにどのような成長支援が有効なのか。そのポイントを紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • 女性活躍推進法に基づいて行動計画を策定していきたい
  • 行動計画を見直し、現状に見合った対策と次のステージに向けて取り組みを強化したい
  • 本人の意思で管理職になりたいという女性を増やしたい
  • 女性が活躍できる職場づくりのために、男性も含めた社員の意識改革をおこないたい
  • 出産や育児、介護などのライフイベントと仕事を両立できる環境を整え、性別や役職を問わず誰もが活躍できる組織にしたい

取り巻く環境・変化 影響力が発揮できる環境と立場をどう創るか

内閣府の『男女共同参画白書』(※)によれば、女性の就業率は今や7割を超えています。就業者に占める女性の割合も諸外国と同水準の45%近くで、女性が働くことが特別なことではなくなりました。また男女ともに「子どもができても働き続けるほうがよい」と考える人の割合が増えていて、女性の働く価値観についても大きな変化がみられます。

ところが社会的に責任あるポジションにおいては、女性の割合が極端に下がります。従業員数が100人以上の民間企業では、課長相当職の管理職における女性の割合はおよそ10%強。部長相当職以上となると、7%程度に過ぎません。世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数でも、日本は2019年の時点で153カ国中121位と低迷し続けています。
この状況を看過できないと、2016年には女性活躍推進法が施行されました。一定数以上の従業員を擁する企業では、女性の活躍に関して自社の課題と目標数値の設定、解決にむけた行動計画の策定に加え、情報の公開が義務づけられたのです。2020年には目標設定の仕方や公表する情報も定められ、今後は対象企業の拡大が予定されています。

国がこれだけ力を入れるのは、女性活躍が労働力確保と競争力強化の切り札だと認識しているからです。日本は近い将来、少子高齢化による労働力不足が深刻化するのは明らかであり、女性の働き手をいかに確保するかが急務です。同時に生産性向上を図らなければ、経済損失をカバーすることはできません。
ここでいう生産性とは、単に労働集約型の業務効率化に限った話ではありません。クリエイティブで独自性のある、競争優位性の高いビジネスを生み出すといった知的生産性の向上も含めてのことです。そうした革新は、多様性の高い組織から生まれるとされています。つまり独創的なアイデアや重要な経営判断が問われる場面においては、男性のみならず女性の意見も取り入れながら検討することが重要になるのです。
このような観点からも女性活躍、特に影響力のあるポジションへの登用を後押しすることは、組織のダイバーシティ推進と成長の大きな原動力となるといえるでしょう。

※内閣府『男女共同参画白書』(令和2年7月刊行)

ポイント解説 中長期的なキャリア開発と風土醸成がカギ

女性活躍推進は、「検討」→「認知」→「実践」→「継続」の4ステップで考えます。現状把握や課題整理をおこない、経営層や管理職層が女性活躍を重要な課題と受け止め、トップメッセージの積極的な発信や研修や制度の整備など、具体的な取り組みにつなげていきます。そして肝心なのが継続的な活動です。計画や仕組みづくりはあくまでもスタートに過ぎません。すべての女性が存分に能力を発揮できる環境になるには、以下のようなフォローが不可欠です。

(1)ライフイベント期を想定したキャリア開発を
女性の管理職や幹部候補が育たない理由の1つに、ロールモデルの不足が挙げられます。身近な存在がいないことから、管理職になることの意識や関心を“自然と”高めるのは難しい環境にあるのです。
しかしながら昨今はテレワークの普及など、ワークススタイルに急速な変化が生じています。このため働く場所や時間の制約のある人でも管理職に就けるようになる可能性は高く、本人にとって望ましいワークライフバランスをとりながら能力を発揮できるようになると考えると、女性の活躍機会は一層高まるといえます。
これらを踏まえると、キャリア初期の段階から責任あるポジションに対する動機づけをおこなうことが重要になってきます。また多くの女性は、ストレッチする時期に妊娠や育児といったライフイベントが重なります。そのことを念頭に置いて、スキルやキャリアの開発を進めていく必要があります。

(2)“女性だけ”に目をむけても課題は解決しない
女性活躍では女性むけの施策や制度ばかりに目がいきがちですが、それだけでは不十分で、むしろ女性“以外”の人々の考え方や意識が大きく影響しています。
例えば「重要な業務やプロジェクトは男性に割り振る」といった慣習は、機会の格差を生み出します。「女性に大事なことは任せられない」という考えは、前例がないことや偏ったジェンダー観が関係しています。また家庭との両立に励む女性の部下をみて、「この仕事は彼女の負担になってしまう」と本人の意思を確かめずに判断してしまうマネジャーも。そうしたことの積み重ねが、結果として女性のリーダー人材の不足を招いているのです。
もちろん意識の問題は、女性側にも存在します。自身の能力を過小評価し「こんな大きな仕事、私には無理」「家族に迷惑をかけてしまう」と、せっかくの機会を目の前に躊躇してしまう人がいるのも事実です。
こうした課題は組織風土や社内の慣例との結びつきが強いため、適切なマネジメントやコミュニケーションの習得に加え、継続的な啓発や教育が重要になってきます。幸い若い世代を中心に、「家事や育児も夫婦や家族で上手く分担しながら、それぞれの仕事ややりたいことも大切にする」といった考えが定着しつつあります。男女の枠組みを超えた働き方観を、いかに醸成するかがカギといえるでしょう。

成長支援の方向性 女性が輝く組織をつくる3つのアプローチ

(1)管理職に対する不安の払拭とチャレンジの後押し
企業が管理職に女性を起用する背景には、旧来の管理職象にとらわれない柔軟さを期待している側面もあるはずです。求められるのは、その人自身の特性を生かしたリーダーシップの発揮。
管理職の役割や業務を理解し漠然とした不安を取り除くこと、そして成長を促す経験とフォローアップの積み重ねが、自信につながります。

(2)管理者(マネジャー)のマネジメントスキル向上
女性のキャリア志向を高めるには、上司の働きかけが重要に。女性に対するさまざまな“思い込み”を外し、多様なキャリア観、働き方観を受容しながら個々に合わせた支援やフォローの仕方を習得しましょう。

(3)ネットワーキングの形成とコミュニケーション力の向上
管理職となった女性が孤立せず、活躍の領域を広げるにはネットワーキングの形成が欠かせません。と同時にコミュニケーションスキルを高めて立場や考えの異なる相手との意思疎通の円滑化を図ることが、周囲の理解につながります。また全社を通じて、育児や介護、地域活動など“仕事以外の顔”を持つ多様な人材が集まることが、中長期的に見て組織の利益になるという共通認識を育むことが重要といえます。

まとめ 視座を高められる経験とアンコンシャスバイアスの解消がカギ

女性の管理職登用では、役員や管理職における一定の比率をあらかじめ女性に割り当てる、クォータ制が議論されることがあります。発祥の地とされるノルウェーをはじめ、北欧を中心に多くの国や地域が採用しています。
一方で、国内においては、今のところ積極的に取り入れる動きは見られません。数字だけ合わせたところで実力の伴わない女性リーダーが増えるだけだ、“女性”というだけで昇進や採用に優位に働くのは逆差別だといった意見が根強いからです。また女性側からも、そのような選ばれ方をするのは本意ではないという声が上がることも少なくありません。
一連のやり取りからは、責任あるポジションに登用できる女性の数が圧倒的に足りない状況が透けて見えてきます。打開には前述とも関連しますが、女性が管理職に就けるだけの経験と成長機会を提供すること、また男女を問わず女性に対するアンコンシャスバイアス(無意識下におけるものの捉え方や偏見、思いこみ)の解消がカギとなります。これらは一朝一夕で解決するものではなく、多面的なアプローチで長い時間をかけて取り組むことで徐々に変わっていくものです。