学ぶ風土づくり

人生100年時代を生き抜くために、「社員のキャリア自律(キャリアオーナーシップ)」や「学ぶ風土・文化づくり」は重要な取り組みとなります。一方で、導入率6割以上の自己啓発支援制度は形骸化している企業も少なくありません。ニューノーマル時代に一人ひとりの学ぶ意欲と行動を高めるために企業が取り組むべき対策は何か。戦略的視点も交え紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • OJTに頼った教育では限界があるため個々の学ぶ意欲と行動を高め、環境変化に対応できる人材を増やしたい
  • 「社員の学習習慣」や「組織の学習風土・文化」を醸成することを通じて、OJTやOff-JTの学習効果も高めたい
  • 継続的改善で自己啓発制度を発展させ、個人が成長することで、職場の活性化・会社の成長へとつなげたい
  • 自己啓発支援制度を実施しているが、社員の参加率が悪く改善していきたい
  • 個々の成長課題にあったテーマに対応する教育手段を検討したい

取り巻く環境・変化 大きく変化してきた学びのトレンド

●大人の学びトレンドの変遷
1970年代から現在に至るまでに世の中の状況変化に伴い、学びのトレンドは大きく変化していきました。ここでは特に企業内の教育支援策を軸とした変遷をご紹介します。

・1970~1990年頃:計画的段階的な教育
企業が幅広く教育を手がけていた時代。企業内教育による役割認識・技能形成、仕事を通じた能力開発(ジョブローテーション、QCサークルなど)、職能を習得するための自己啓発支援など幅広く機会を設けて社員の成長支援をおこなっていました。

・1990年~2000年頃:選抜・即戦力型の教育へのシフト
バブル崩壊とともに、企業における教育投資の取捨選択が進んだ時代。企業内教育が抑制されて、成果主義運用スキル教育と基幹人材の選抜教育へ投資が集中し始めました。一方で、仕事を通じた能力開発の機会は減少し、自己啓発支援制度も経営管理知識(MBA)やITスキルなど、市場価値を高めるためのテーマへシフトしていきました。

・2000年~2010年頃:内製化やWeb学習の普及
教育効果測定が重視され、実践型プログラムのニーズが高まった時代。複数の教育ツールの特長を組み合わせるブレンディング手法が定着し、教育施策もアウトソースするものと内製化するものの切り分けをする企業が増えました。また、この時代はインターネット環境などが充実してきたこともり、Webを使ったeラーニングが新たなツールとして登場し、社員一人ひとりの学習支援策として定着していきました。

・2010年以降:学びの多様化/個別最適化
個別が欲しい情報の入手と取捨選択が容易になってきた時代。デジタルテクノロジーの進化によって、多様なテーマが手軽に学べるようになりました。また、スマートフォンの普及やSNSなどのソーシャルメディアの浸透により、自分にあった学びを探すための情報にアクセスしやすくなり多様な学習手段が生まれました。

●個人と組織の関係性の未来予測
「組織」と「個人」の関係は時代の流れとともに大きく変化しています。「就社」という言葉もありますが、これまでは個人の意欲・能力と、雇用や賃金を守るということを含めた企業の人材戦略は合致していました。つまり個人が会社で学び成長していくことによって会社も組織も大きくなっていくという構図です。
それが今日に至るまでに、ITの進化とともに、仕事が高度化・複雑化し、さらに低成長の時代を迎えリストラも一般化しました。2000年前半頃、いわゆる就職氷河期の頃は「エンプロイアビリティ」が声高に叫ばれ、いかに自分の人生を自分で切り開くかということを一人ひとりが意識し始めました。そうしたなかで、個人の意欲・能力と会社の人材戦略がアンマッチな状態が生み出されていくのです。

ポイント解説 学ぶ風土づくりの着眼点と成熟度

●企業内教育の土台となる自己啓発

人材開発部門が開催する研修内容を行動の変革に結びつけるためには職場における上司の日常指導が重要となってきます。しかし、日常指導が効果を上げるには、部下個々人の自己開発意欲が影響します。つまり、社員一人ひとりが自己啓発意欲をもち、自ら学ぶ力を養うことが、仕事を通じた学び(OJT)や職場外教育(Off-JT)による学びの土台となります。企業は自己啓発風土の醸成を全社教育の土台となる重要なテーマと位置づけ、自己啓発制度の活性化に向けて、より積極的に取り組むことが求められているといえます。

企業内教育の土台となる自己啓発

●学ぶ風土の着眼点

学ぶ風土を築くためには、「しくみ」「組織全体への展開」「定着のしかけ」の3要素が重要です。
それぞれがうまくかけ合わさり、そしてそれを継続させることが学びあう風土づくりの原動力となります。

学ぶ風土の着眼点

●学ぶ風土の成熟度

社員一人ひとりの主体的な学びは、階層別教育や職能別教育とならび、能力開発施策の柱であるのが理想的です。そのためには、その取り組みを検証し、改善し、業績に直結する効果的な施策へと進化させていくことが大切です。JMAMでは学ぶ風土の成熟度を把握するために、3段階で取り組みを検証しています。このモデルは、経営理念や人材理念といった組織価値観と育成制度・しくみとの整合(合目的性)、組織内での活用状態(展開度)、改善の定着状態(改善度)の3つの指標で構成されます。

学ぶ風土の成熟度

成長支援の方向性 学びをデザインできる個人・組織になるためのポイント

学ぶ風土・文化を築くためには、「しくみ」「組織全体への展開」「定着のしかけ」を通じて、一人ひとりの学ぶ意欲と行動を高めていくことが前提となります。では、社会人にとっての「学び」とは何か、個人や企業が適切に学びをデザインするためにどのような考え方や、環境づくりが必要なのか、そのポイント部分をご紹介します。

(1)人は「成長したい」が前提

2020年に10~50代のビジネスパーソン1,500名に対しておこなった調査結果でも、調査対象者の82.6%が「新型コロナウイルス感染拡大の中、自分の能力を高めようという意識が上がった」と回答する結果となりました。実際に学びの行動に移せているか、成果が出ているかについては差があるものの、少なくとも「成長をしたい」という思いは大半の方が持っている状態といえます。
つまり、「人は“成長したい”が前提である」と捉え、その思いに寄り添いながら、1人ひとりが「どう活躍したいか、ありたいか」「その実現にむけて、何を、どのように学ぶか」を主体的に考え、行動できる学びの環境づくりを整えていくことが重要となります。

(2)「あるべき姿」の伝達に加え、「ありたい姿」の発想ができる支援を

本人が成長を考えていくうえで、企業側の期待や目標を知り、応えていくことは重要です。
しかし、その活動は組織期待からみた現実とのギャップ(=あるべき姿)を埋めていく問題解決型のアプローチになりがちです。それ自体は有効な活動となりますが、自己成長を持続的におこなうためには、あるべき姿の追求に加え、将来自分自身がどうありたいかを思い描き、その未来にむけて行動をしていく課題解決型のアプローチがおこなえる状態になっていくことが大切となります。

(3)重要なのは「育てる」のではなく、「育つ」環境づくり

本人の「あるべき姿」や「ありたい姿」を実現するためには、段階的に能力開発の支援をおこなうことが有効です。
自社のおかれている現状については、前述の「能力開発の5段階」によって捉えることがポイントになります。
重要なのは、教育施策や日常指導を通じて「育てる」以前に成長したいという気持ちを高め、持続させる「育つ」環境づくりをおこなうことです。この開発は知識・スキル教育の提供に留まらず、越境学習も含めた他者や経験からの学ぶ機会を増やしていくことも、これからの個人学習力を高めるにあたっては重要な要素となります。

・『組織環境づくり』段階のポイント
1) 仕事環境で関わる「人(上司、後輩、社外メンバーなど)」の変化や組織制度の変更によって新しい刺激を受け、適応する過程で自己啓発の必要性を大きく感じるようになる
2)人は未経験の仕事や環境に直面し、それを克服して自信をつけることによって能力が拡大する
3)これらを継続的におこなうことにより、自己啓発や日常指導の必要性を痛感する状態ができ、組織風土ができる

・『自己啓発意欲の向上』段階のポイント
1)目的を定め、能力よりも少し高いレベルの目標をめざす。
2)診断や振り返りを定期的におこなうことで自分自身の課題とむき合い、改善点やありたい姿にむけて行動する
3)効果的な内省や経験を積むために、他者からの学びや支援・フィードバックを受ける

(4)一律ではなく異なる価値観に寄り添った支援を

能力開発の支援を行う上で、段階とともに重要なものは本人の価値観です。学びを継続し成長につなげるためには、内面の「認識」「目的(ゴール)」「動機」と外面の「リソース」「行動」「結果」いずれも世代によって異なることがわかりました。その意味では、一律の支援ではなく、異なる価値観に寄り添った支援が求められます。

世代別価値観の違い

まとめ 未来予測にもとづく変革キーワード

教育という視点からすると、個人の成長や人事による支援の仕方はより科学的になっていくと考えられます。これまでは、集団・一律的な役割変更時の階層別教育や教える・教わる現場のOJTでもある程度の成長は見込めました。しかし今後は、一人ひとりにもっと目を向けなければならなくなっていきます。つまり各人の成長に寄り添い、マイクロラーニングのように必要なテーマを必要なときに必要なだけ提供する、あるいは学び合い、成長を可視化していくような科学的アプローチも求められるでしょう。

未来予測にもとづく変革キーワード