導入事例

事例紹介 株式会社村上開明堂

事例詳細

テーマ グローバル人材育成 / ものづくり人材育成 / 学習する風土づくり
対象 管理者 / リーダー・監督者 / 中堅社員 / 新人・若手社員 / 技術・技能職

株式会社村上開明堂

自動車用バックミラーの製造で国内トップシェアを誇る村上開明堂。明治15年の創業以来、カンテラ、建築用ガラス、鏡、バックミラー、そして光学産業分野と、常に時代のニーズを敏感に捉えてものづくりを進化させてきた。2012年に創業130年を迎えた同社は、経営理念を刷新。グローバル化への対応や新分野への進出を加速すべく、教育体系を見直し、社員の育成に力を入れている。その基盤となっているのが、20年前から導入している通信教育だ。
八木 大輔 氏 管理本部 総務人事部 人事課 課長
勝又 文也 氏 管理本部 総務人事部 人事課 主事
取材・文/増田 忠英
写真/村上開明堂提供ほか
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

経営課題は海外展開と新規事業の創出

130年の歴史をもつ村上開明堂。創業当初は家具に付ける飾り金具やブリキ細工を製造していたが、1886(明治19)年、当時敷設中だった東海道線の工事に用いるブリキ製のカンテラを大量受注し、同時に建築用板ガラスの販売も開始。やがて鏡の製造も始める。戦後は復興需要でガラス建材を中心に事業を伸ばした。1958年には、モータリゼーションの到来を前にトヨタ自動車と取引を開始し、ガラスの曲げ加工技術を開発、自動車用バックミラーの製造を始めた。その後、国内の各自動車メーカーへと取引が広がり、バックミラー製造では国内トップへと成長した。近年はその技術を活かし、光学機器用部品の製造も行っている。
常に時代の要請に応える形でものづくりを行ってきた同社だが、近年は経営トップが危機感を強めているという。管理本部総務人事部人事課課長の八木大輔氏は次のように語る。
「現在の社長が生まれたのはトヨタ様との取引を開始した頃で、売り上げの大部分をガラス建材事業が占めていました。その後、バックミラー事業を徐々に拡大させ、現在はメインの事業として業界でも高いシェアを占めるに至っています。この間、業績は順調に推移してきましたが、その反面、ゆでガエルにならないように、新たな事業の柱を生み出し、会社を変えなければならないと考えています。『今までと同じことをやっていてはだめだ。自ら変化する必要がある』という社長の思いが、2012年の創業130周年を機に刷新した経営理念と経営ビジョンに反映されています」(図1) 図1 経営理念・経営ビジョン 経営理念・経営ビジョン もっと見る

国内では少子高齢化が進み、自動車需要は今後縮小していくことが予想される。そこで求められるのが、海外展開の強化だ。海外の売上比率を、現在の3割からこの数年で5割にまで高めることを目標に掲げている。
「日本の自動車メーカー様にとって、国内市場がメインだった時は、日本本社からOKをいただければ、海外の工場でも当社のミラーを採用していただくことができました。しかし昨今では部品調達の決裁権が海外の拠点に移り、現地調達が主流になりつつあります。今までのように日本で作った製品を輸出するのではなく、現地での生産・販売を強化していかなければなりません」(八木氏)
こうしたグローバル対応の推進が、同社の大きな課題となっている。

グローバルに活躍できる人財を育成する

人財育成のキーワードも“グローバル人財”だ。
「従来は、顧客である国内メーカー様のご要望をきちんと守っていれば問題はありませんでした。極論すれば、自分で考えなくてもいいということ。それが結果として、品質のバラツキをなくすことにつながってきたかもしれません。しかし、これからは海外市場を求め、自ら考え、行動していかなければなりません。体に染みついてきたこれまでの仕事のやり方を変えることが求められているのです」(八木氏)
同社が求めるのは、自分で問題を見つけ、解決策を考え、行動できる人財だ。しかも、それを海外の関係者と議論し、合意形成をしながら進めていくことが必要となる。そこで、創業130周年を機に人財育成体系の見直しを実施。従来からあった階層別研修や自己啓発支援に加えて、グローバル人財育成に必要なプログラムを充実させたのである(図2)。 図2 グローバル人財育成プログラム グローバル人財育成プログラム もっと見る 注)*マークは検討中。

具体的には、「ものづくりキャリアパス」を導入し、グローバル人財として優先的に育成する社員32人と次期候補者50人を、本人の立候補と上司の推薦により選抜した。製造、技術、品質、営業の各部門を数年ずつひと通り経験させることで、グローバルに活躍できる人財を育成することがねらいである。
「海外で活躍するには、1つの分野を極めたプロに加え、製造、技術、品質、営業といった、ものづくりに携わる者に必要な見識をひと通り身につけた人財が求められます。そこで、各部門で経験を積んでもらい、海外市場でビジネスができる人財を育てたいのです」(八木氏)
さらに、選抜したメンバーには、コミュニケーションスキルやマネジメントスキルを習得させるため、社外のセミナーに参加させる。これは、社外人脈づくりや情報感度の向上を重視したためだ。現在はグローバルにビジネスを行うための基礎となる「グローバルマインドセット」「経済知力研修」「グローバル基礎力向上」「女性リーダー育成」や、スキル別の「コミュニケーション」「ビジネスコーチング」「異文化対応マネジメント」「ロジカルシンキング」「戦略策定」といった教育の実施が検討されており、以後は必要に応じて変化させていくという。
また、語学については、2015年に等級制度における上位等級への昇格要件にTOEIC®のスコアを取り入れる方向性を社員に示している。

受講料は全て会社が負担し自ら学ぶ意欲を支援

さらに、同社では、自ら考え行動できる人財になるには“自ら学ぶ姿勢”が必要だと考え、自己啓発支援にも力を入れている。その中心に位置づけられているのが通信教育だ。受講者を募集するガイドブックの冒頭には、「あなたの成長に期待しています。」とのタイトルのもとに、総務人事部からの次のようなメッセージが掲載されている。
村上開明堂の発展は、従業員一人ひとりの成長と共にありました。そして、この厳しい時代に、新しい経営理念やビジョンを実現させるには、これまで以上にスピード感を持って従業員が成長することが必要不可欠です。 現状に満足することなく、チャレンジを続け、積極的に能力開発に取り組んでください。あなたの絶え間ない成長に期待しています。
同社では約20年前から通信教育を導入しているが、その理由について、同じく人事課主事の勝又文也氏は、次のように語る。
「従来、社内では、階層別研修をはじめ専門知識やスキル系の研修を十分提供できていませんでした。それを補うために、多様なテーマのコースラインナップが充実していた通信教育を導入しました。また、当社ではラインについている社員が多数を占めています。そのため、まとまった人数が研修に参加するのは難しい部分があります。その面でも、自らの都合に合わせて学習計画が立てられる通信教育というスタイルが適しているのです」
自己啓発支援制度のねらいには、次の3つを挙げている。

  1. 組織としての目標達成力の強化をめざすために、職層・等級ごとに「保有してもらいたい知識」を体系化し、個々の能力開発の目標とすることで人財の底上げを図る。
  2. 学習テーマの選択の幅を広げ、時間的、地理的な制約なしに学習機会を均等に享受でき、「自らの能力を向上」させようとする社員を支援する。
  3. 上司が部下の能力状況を的確に判断し、指導・助言のうえ、能力開発を促すための制度として利用する。
また、コースは次の3つに分類し、特に「自主的な提案力強化」を謳う全社方針を受け、推奨コースには「考える力」「伝える力」の強化につながるものを選定している。
  1. 推奨コース……職種に関係なく、身につけていることを期待する能力(共通知識)に関するコースが対象。「社員一人ひとりの問題解決力の強化、組織全体の人財育成、企業風土の活性化」をめざすため、各職層・等級に要求される「考える力(問題解決力・企画力・業務改善力)」「伝える力(表現力・コミュニケーション力)」を段階的かつ継続的に向上していくことのできるコースを設定。
  2. 選択推奨コース……職種、所属等により身につけることを期待する能力(ビジネススキルや専門知識)に関するコースが対象。
  3. 語学・資格コース……語学能力向上、公的資格取得のための学習に関するコースが対象。
同社では通信教育を修了することを昇格審査の教育履修要件の1つに定めている。
  • S2(主事)からS3(主査)への昇格では、管理職に必要な知識を学ぶコースの修了。
  • J3から職場のリーダーとなるJ4への昇格では、推奨コース・選択推奨コースの修了(各1単位)、公的資格取得(各1単位)、技能講習修了(各0.5単位)を組み合わせて3単位取得することが要件。
コースの選定にあたっては、「今、自分に必要な能力」にプラスとなるものを選択することを勧めている。目標管理制度において、面談時の上司のアドバイスなどを参考に、能力開発についても自己申告を行うが、そこで通信教育の受講を挙げるケースも多い。
本制度の対象は役員、正社員、契約社員、パート社員と幅広く、修了した場合の受講料は全額会社が負担する。従業員に積極的に学習してほしいという会社側の姿勢の表れといえよう。

年間3~4割の受講率を5割にまで高めたい

通信教育は半期ごとに年2回募集しており、年間延べ350~400人が受講している。社員は約1,000人のため、3~4割が受講していることになるが、実際は年2回受講する者も多く、毎回受講する者とほとんど受講しない者に二極化しているという。
「受講料を会社が全額負担するというのは恵まれた環境だと思うのですが、社内では当たり前になってしまっているため、制度の良さを感じていない者も多くいます。今後は、社内への発信をより強化して、受講率が少なくとも5割は超えてほしいと考えています」(八木氏)
もう1つの課題として挙げるのが、管理職の受講率の向上だ。2012年に人財育成体系を見直したことで、管理職を対象とした階層別研修を実施している。この研修の場を通じて自ら学ぶことの重要性を伝え、職場に帰っては率先垂範して部下にも指導を強化してほしいと考えている。
「上から言われて学ぶのと自ら学ぶのとでは、吸収力が違います。まず管理職の姿勢を変えていき、全社に広げていきたいと考えています」(八木氏)
今まではお客様の要求に応え、トップの方針に従っていけば、それなりに会社の業績も伸びてきました。しかし、市場は激しく変化しています。そうした状況では、一人ひとりが課題を認識して、リーダーシップを発揮して行動できる人財に育ってほしいと考えています」(勝又氏)
日本のトップブランドから世界の自動車メーカーに採用されるブランドへ─その実現を担う人財を育成する基盤として、村上開明堂では今後も通信教育を中心とした自己啓発支援に力を入れていく考えだ。

受講者の声

ミラーシステム事業部 設計部 設計グループ 2004年入社

以前は仕事が忙しく、残業が続いたので、仕事の効率を高めて残業時間を減らそうと思い、通信教育で勉強するようになりました。特に、立場が上になるほど人とのかかわりが増えるので、コミュニケーション関係のコースを多く学びました。おかげで、考え方の幅が広がりました。また、修了後もテキストを読み返すことができるので、後輩とのコミュニケーション等の向上に役立つツールとして大いに活用しています。

管理本部 業務部 情報システム課 2009年入社

入社当初は右も左もわからなかったので、知識を身につけようと通信教育を受講するようになりました。自分のペースで学べる点がメリットです。特に印象に残っているのは「見える化」を学ぶコース。情報をシステム化することでかえって情報が見えにくくなる場合もあることを知り、システムを提供する側として、ユーザーにとっての使いやすさをより意識するようになりました。

表彰企業一覧 (年度別五十音順) インタビュー一覧へ

2013年度

プロフィール

会社名 株式会社村上開明堂
主要事業 882年、静岡市内に「開明堂」を創業。ブリキ製のカンテラ(手提げ角灯)やガラス、鏡の製造を手がける。1948年に法人改組し株式会社村上開明堂設立。58年、現在の主力事業である自動車用バックミラーの製造を開始。89年、自動車業界で培ってきた光学薄膜技術を幅広い分野で活かすオプトロニクス事業を開始。2012年、創業130年を機に経営理念を刷新した。
資本金:31億6,544万5,000円、売上高:404億円(2013年3月期)、社員数:924名(2013年3月31日現在)
ページ上部へ戻る