―ストレス耐性検査の専門家に聞くー

部下のメンタルヘルス

不調サインを見逃さないために

今回はー般的なメンタルヘルス不調のサインのほか、声のかけ方や傾聴のポイントをお伝えします。

厚生労働省の「令和3年 労働安全衛生調査」によると、「仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレス」を感じている労働者の割合は53.3%。その内訳で最も多いのが「仕事の量」43.2%、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が33.7%、「仕事の質」が33.6%、「対人関係(ハラスメント含む)」25.7%となっています(複数回答)。仕事の量や質、責任の重さなどにストレスを感じていることがわかります。

一方で、これらのストレスについて相談できる人がいると回答した方は92.1%、しかしそのうち実際に相談した労働者の割合は69.8%でした。また、実際に相談した相手は、「家族・友人」が71.5%と最も多く、次いで「上司・同僚」が70.2%でした(複数回答)。「家族・友人」と同じぐらい、「上司・同僚」への相談も多いことがわかり、改めて上司や職場環境の大切さがわかります。

職場改善というと身構えてしまいますが、お互いが相手を気遣う雰囲気づくりや、悩みを聴くときのちょっとしたコツを心がけるだけでも、職場は着実に変わっていきます。

V-CAT(ブイ・キャット)解説員 株式会社エスケイケイ ヒューマンリソースアドバイザー

メンタル不調サインを見逃さない

現在多くの企業で「ストレスチェック」を実施し、その全体傾向から職場環境の改善に取り組まれていると思います。ストレスチェックは、「うつ」などのメンタル不調を防止するための第一歩として大切ですが、現行の制度は「本人の気づき」に比重が置かれているのが特徴です。もちろん、検査を受けた方自身が自分のストレス要因は何か、心身のストレスはどのレベルなのか、などを主観的に把握できることは有意義です。しかし、「本人の気づき」だけでは不十分である点を、特に管理者は心得ておく必要があります。例えば、高ストレスの結果が出ても、あまり深刻にとらえない人がいるかもしれません。仕事の忙しさに追われて、必要を感じつつも医師による面接指導を見送る人がいるかもしれません。すなわち、「本人の気づき」だけでなく、職場内に部下や同僚のちょっとした不調のサインをとらえ、さりげなくサポートするような雰囲気であってこそ、ストレスチェックは活きてくるはずです。では不調のサインをどのようにキャッチし、どのようにサポートすべきなのでしょうか。

不調のサイン「ケチナノミヤ(けちな飲み屋)」

メンタルヘルス講座を受講されたり勉強をされて、「ケチナノミヤ」という話を聞いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは、部下や同僚のメンタル不調に気づくための、語呂合わせによる“不調のサイン早覚え” です。以下に簡単にご紹介いたします。

  • ・・・<欠勤、無断欠勤をする>
  • ・・・<遅刻、早退をする>
  • ・・・<泣き言を言う>
  • ・・・<能率が落ちる>
  • ・・・<ミスが増える>
  • ・・・<辞めたいと言う>

部下や同僚について、一般的にメンタルヘルスを崩された方によく見られる、これらのサインに気をつけましょうというわけです。なるほどという内容が並んでいますが、この中で実際に把握するのは難しい項目が2つあります。

普段から声をかける

把握の難しい項目、それは「ナ・・・泣き言を言う」や「ヤ・・・辞めたいと言う」といった本人の声を聞き取ることです。他の項目は冷静に観察していれば、把握は比較的容易でしょう。

しかし、この2つはたとえ本人が内心で強く思っていたとしても、一般の職場においては表に出てこないことが多いものです。そして、表に出てくるときには、事態は相当悪化していることが少なくありません。デリケートな問題だけに、こちらから踏み込んで聞き出すよりも、普段からなるべく話しやすい雰囲気を作っておきたいところです。そのためには、何でもない雑談力も大切です。挨拶+軽い話題でほぐしながら、「最近、どう?」といった自由に答えやすい投げかけをしてみてはいかがでしょうか。タイミングがよければ、抱えていた問題があっさり出てくることも少なくありません。

また、言葉をかけるタイミングによって、聞き取りがスムーズになるケースがあります。例えば、本人が残業をしていた翌朝に「昨日は疲れたでしょう。大丈夫ですか」から入ってみるのも自然です。休日明けに元気がないのは気になるところですから、「昨晩は、ゆっくり眠れましたか」と尋ねてみてはいかがでしょうか。この種の声かけは、なるべく周囲に人がいないときにするのがポイントです。

傾聴のポイント

気にかかる人と少し話をする流れになったとしましょう。どんなことに気をつけるとよいのでしょうか。まず、相手の話をさえぎらないで、聴き役に回ることが重要です。一般的な面談ではなく、ここではメンタル不調の把握が焦点になっています。

したがって、愚痴(泣き言も同じようなものです) や「辞めたい」というような話が出てきても、この場でアドバイスや指導を始めてしまっては本末転倒です。肯定する必要もありませんが、こちらの相槌や共感で、相手が十分に話すことができれば、“サインをつかむための傾聴” としては成功と言えるでしょう。

ここで一つ覚えておきたいことですが、傾聴は相手の感情に共感しながら聞き出していくことになりますから、ややもすると相手の感情に巻き込まれてしまう(例えば、一緒になって悩み込んでしまう)危険性があります。これを避けるためには、共感しつつもどこか冷静に相手を見る視点を確保しておくことが大切です。思考はクールに、表情は穏やかに、を心がけましょう。それ以外に、次のような点も心がけておくと、さらによいでしょう。

傾聴のこころがけ

  • 時間を区切る
    長くても30分をメドにして、相手の負担にならないように気を配りましょう。
  • ゆっくり、穏やかなペースで聴く
    急かさず、相手が沈黙しても促したりせずに、笑顔で待ちましょう。
  • 質問は控えめにする
    相手の話がわからないなど、確かめる必要を感じるときがありますが、質問をしすぎると尋問のようになり、よくありません。流れを切らない配慮も大切です。
  • 非言語に気を配る
    心情は言葉だけで表現しきれていない場合があります。表情や振る舞いといった非言語に注意して、相手の心中を察することも大切です。

持ち味によるサインの違い、フォローの違い

「ケチナノミヤ」はわかりやすいメンタル不調のサインです。

しかし、それが各々の性格個性を度外視したキメが粗いものである点には留意が必要です。身体の弱いところが人それぞれ異なっているように、ストレスが大きい時や調子を崩したときに出やすいサインも、細かな点では人によって違っています。一人ひとりの異なるサインを的確に把握するためには、適性検査を用いることも方法の一つです。

一人ひとりの持ち味に基づいた不調のサインに気づく
専門家が解析するストレス耐性検査「V-CAT」(ブイ・キャット)の詳細こちら

<ストレス耐性検査V-CAT(ブイ・キャット)>

V-CAT(ブイ・キャット)の結果報告書では、心の調子を崩したときに出やすい持ち味別のサインとして、職場のストレスマネジメントに利用していただける項目があります。
V-CAT(ブイ・キャット)には幾つか報告書の種類がありますが、<採用>の報告書では「面接時あるいは面接後のチェック項目」の欄に、<社員特性/管理能力>の報告書では「留意事項」の欄に、それぞれの持ち味に合わせて出やすい注意信号が記載されています(コメントのパターンは約800あります)。

これらの欄の使用法ですが、まずは持ち味により異なる詳細な注意信号(広い意味でのストレス反応と言ってよいでしょう)を知り、個々人のストレス点検として用いることができます。注意信号が幾つか出ていて、周囲としても仕事ぶり等が気になる場合、面談を行なうなどの対応も考えたいところです(ただし、これらの項目のみで医学的な診断ができるわけではありません)。留意事項が多少見られて仕事や日常生活で問題がない場合でも、本人用ないし指導用の個人報告書を参考に、ストレスが増えないような自己管理の取り組みや周囲からのフォローがされるに越したことはありません。

注意信号が同じだからといって、適切な対処やフォローが同じとは限りません。例えば、「ミスが増えた」というサイン一つを取り上げても、気持ちの焦りからくるもの、注意力の足りなさからくるもの、心的疲労やうつ状態に伴うものもあります。

結果報告書を参考に、本人を取り巻く諸状況をよく考えた上で、フォローの方針を決める必要があります。

注意すべきこと

最後に注意事項として、どのような適性検査でもそうですが、あまり古いデータは参考になりません。もし、心の健康診断的な意味合いで社員の方が受検されている場合は、1年を有効期限と考えたいところです。日常的には「ケチナノミヤ」のような簡易な見立てを使ってカバーをし、節目でしっかり個々人を見るときには、適性検査の結果を活用するというような使い分けも大変合理的なやり方です。

ページ上部へ戻る