シニア活躍

日本は世界でも類を見ない長寿大国です。少子高齢化に伴い、今やミドル・シニアは労働力として欠かせない存在に。大手でも継続雇用制度に加えて役職定年の撤廃など、シニアの活躍を踏まえた人事制度を導入する企業も出始めています。いくつになっても健康でいきいきと働ける組織をつくるためのポイントをご紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • 人生100年時代にむけてシニア社員が定年をゴールとせず、これからのありたい姿を描き、意欲的にチャレンジできる風土を築きたい
  • セカンドキャリアに対する主体性を喚起し、昇進や処遇によらない働きがいを開拓させたい
  • “働かないミドル・シニア”の問題を解消し、職場の活性化を図りたい

取り巻く環境・変化 シニアの豊富な経験をどう活かすか

厚生労働省は「高年齢者雇用機会安定法」を改正し、令和3年(2021年)4月より事業主に対して70歳までの定年延長や継続雇用制度の導入などの努力義務を設けることにしました。65歳までの定年延長や定年制の廃止を求めた2013年の改正から10年も経たないうちに、さらなる引き上げを図ったのです。
定年延長をはじめとするシニア層に対する議論は、少し前まで役職定年や賃金カーブの抑制といった待遇面をどうするかといった話題が中心でした。それに加えて、一定数以上のシニアが働くようになったことで、現場の問題も徐々に浮かび上がって来ています。

まず挙げられるのが、実際に働くシニア層のモチベーションの低下です。役職から外れた際や再雇用での契約では、処遇の低下は免れられません。現場の第一線から退くことにプライドが許さなかったり、上司の指示を仰ぐなど年下の部員たちとのコミュニケーションをうまく図れなかったりといったことから、かつてのように仕事に情熱を注げなくなる人もいます。加えて技術やビジネスの変化にうまく適応できなかったり、体力や気力が低下したりと追い打ちをかけるような現実に直面します。そもそも今のシニア層は「60歳までがむしゃらに働いたら、後はのんびり」といった未来像を、信じて疑わずに働いていた世代とも言われています。その意味でも働く本人たちも苦しんでいる部分があるといえます。

モチベーションの課題は、ひとつ下の世代にあたる40代、50代のミドル層においても深刻です。30代まではほとんど横並びだった出世競争は、40代にもなると展開が見えてきて今後を悟り始めます。特に今の時代はバブル期以降の経済の低迷から管理職ポストも削減されていて、部長や役員など、より高い役職に就ける人材はひと握りです。すると上昇志向は失われ、リストラされない程度に仕事をこなせばよいと考えるように。そうして「働かないミドル」が出来上がってしまいます。ベテラン層の言動は、組織の士気に大きく作用します。社内政治の行方を気にする割には自分から動くこともなく、それなのに給料だけは周りよりも高い。そうしたやる気のないミドル・シニアの元で働くことは、若手社員の意欲を削いでしまいかねません。

けれどもシニアには、若手にはない豊富な経験があります。それを活かすことができれば、組織にとって大きな力になるはずです。例えば技術職であれば指導する役割を任せることで、マニュアルや技術書では表すことのできない重要なコツやノウハウの伝承も含めて、後進の成長を促すことができます。また営業職などであれば、幅広い人脈を活かして逆境を救うきっかけをもたらしてくれるかもしれません。またシニアといってもまだまだ身体機能も充実している場合も多く、特に60代であれば引退が逆に不自然に感じられる人もいます。年齢で一律に区切るのではなく、一人ひとりの状況と照らし合わせながら活躍のステージを考えていく必要があるでしょう。

ポイント解説 仕事や組織とのいい関係を考える機会を

シニア層に対し、働きがいと成長意欲をいかに喚起できるかが活躍のカギです。そのポイントは、次の3点にまとめることができます。

(1)シニアになっても活躍できる環境づくり
JMAMが2015年から2016年にかけておこなった調査では、調査の5年後にあたる2021年には、大手企業の約3分の1で60歳以上の社員が10%を超えることが判明しました。人員構成比が変化し、シニアの割合が高くなるということは、重要な戦力としての活躍を期待することになるでしょう。
それと同時にシニアは、健康リスクが高まる世代でもあります。個人差がありますが、体力の低下に加えて記憶力や集中力、判断力など処理能力の低下も認められます。このため職場の安全性を担保しながら、生産性の両立を図っていくための工夫が求められます。今後も定年の更なる延長や廃止が予想されることも想定しつつ、シニア層がどのような領域であれば能力を発揮し、活躍につながるかを考えながら環境を整えていく必要があるでしょう。その実現には当人だけではなく、周囲の理解も欠かせません。ダイバーシティ&インクルージョンも、同時に推進していくべきです。

(2)個人のキャリアや価値観とリンクした働き方の模索
日本は長らく、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった独自の雇用慣行が存在していました。そのため40代以降の世代を中心に、まだまだ“就社”意識が強いといわれます。どのような仕事に就くか以上にどの会社で働くかを重視し、会社が一生を面倒見てくれる代わりに忠誠を尽くすという関係性で、労働が成立していたのです。
さらに年功序列のシステムもあり、目的意識をもって仕事にあたらなくても、何となく働けていたところがあります。そのため昇進や待遇の向上に、モチベーションを求める傾向が強いのがこの世代です。
けれども前述のとおり、旧来の雇用慣行はもう通用しません。昇格や待遇とは別のところにモチベーションを見出さなければ、働く意義を見失い路頭に迷ってしまいます。これまで以上に内発的動機への働きかけが重要であり、自身のキャリアプランや価値観、望ましいライフスタイルを踏まえ、仕事や組織とのいい関係性を模索する機会の提供が大事になってきます。

(3)若手、中堅からのキャリア教育
社会の仕組みや産業構造が変化し、価値観が多様化している以上、昔のような会社と従業員の関係は成り立たなくなるのは明らかです。現在のミドル・シニアのように、40代半ばで燃え尽きたり働きがいを失ったりしないよう、若手、中堅のうちに新しい時代に見合う働き方観や就労意識を身につけておきたいものです。

成長支援の方向性 キャリアマネジメント発想の重要性

社員を単なる労働力として捉えるのではなく、パートナーとしての関係性を構築することが重要になるといえるでしょう。そこで問われるのが、キャリアマネジメントの発想です。会社は組織の価値観を踏まえて、組織・人材戦略の一環として社員のキャリア開発を支援する、また社員は一人ひとりが自立的にキャリア開発に取り組み、自身の価値を高め成長し続ける。会社と社員の双方が“キャリア”に着目することで、組織の力を高めていく考え方です。

●企業側は自立を支援し促す

核となるのは、「キャリアの自立」です。処遇やポストを年功で区切るのではなくパフォーマンスを評価する仕組み、あるいはメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行など、今後のさらなる定年引き上げを想定した人事制度全般の見直しは必須といえるでしょう。またジョブポスティング(社内公募)や社内FA、ジョブチャレンジのような、主体的なキャリアアップを支援する制度も有効です。

●社員の意識変革

いくら会社がキャリアの自立を促したところで、当の本人たちに“やらされ感”がある限りはうまくいきません。特にミドル以降の世代は、キャリアを主体的に捉える経験に乏しい傾向にあります。キャリアマネジメント研修などのOff-JTを通じた、“働きがい”の再定義が望まれます。
そしてもうひとつ、周囲とフラットな関係を保ち、時に常に学び続けるといった謙虚な姿勢や、自身の役割を認識して周囲をサポートする側に回ることを厭わないといった柔軟性も、活躍に大きく影響します。年下の社員に囲まれる中でも孤立しないよう、コミュニケーションスキルのフォローも忘れずにおこないたいものです。

●セカンドキャリアの支援と施策

今後シニアの割合が増えるとなると、再雇用後であっても異動や配置転換の必要性が出てくると予想されます。またこれだけ時代の変化が激しくなると、過去のスキルもアップデートし続けなければすぐに陳腐化してしまいます。役職を外れた後、または定年後のキャリアをこれまでの延長線と捉えるのではなく、セカンドキャリアの構築を促すことが求められます。それには職域開発やスキル開発支援を、継続的に進めるべきです。
そして管理職は年上の部下の適切なマネジメントに加え、キャリアマネジメントの観点で部下を支援していく必要があります。ダイバーシティマネジメントとキャリアマネジメント両方の、スキルアップが問われます。

まとめ 世界に類を見ない状況を好機と捉えられるか

日本人の平均寿命は、2019年の時点で女性87.45歳、男性81.41歳となりました。今後も寿命は延びるとされ、「人生100年時代」の到来とも言われています。労働力不足による経済の失速と社会保険制度の破綻を防ぐには、ミドル・シニアの活躍は国全体を挙げたミッションともいえる課題です。
けれども見方を変えればシニアマーケットむけの事業開発にこれ以上最適な国は、今のところ他に見あたりません。ミドル・シニアの活躍により、世間を驚かすイノベーションや競争優位性が生まれる可能性を秘めているのです。
何より社会とつながりをもつことは、健康的で豊かな人生を送るうえでは外せない要素です。誰もがいつかは高齢者になることを踏まえると、シニア活躍は決して他人事ではないテーマといえるでしょう。