導入事例

事例紹介 東和薬品株式会社

事例詳細

テーマ 強い管理者の育成 / 人事制度の設計・運用 / 学習する風土づくり
対象 管理者 / リーダー・監督者 / 中堅社員 / 新人・若手社員 / 営業職

東和薬品株式会社

"人々の健康に貢献する""こころの笑顔を大切にする”を企業理念に掲げている東和薬品。同社は2007年、管理職教育と自己啓発制度の手段として通信教育を導入。受講者数は年々増加し、2010年度には年間受講者数が社員数を超える“全員学習”に発展した。同社の学習の仕組みを紹介する。
川俣綾子氏 企画本部 人事部 人材開発課
田中俊幸氏 企画本部 人事部 人材開発課長
相澤直樹氏 企画本部 人事部長
文/井戸沼尚也
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

能力開発の基軸として通信教育を位置づける

高齢化が進展している我が国において、急速に進むジェネリック医薬品の普及。患者の医療費抑制、国の財政負担の軽減が期待され、政府が後押しをする形で市場が拡大している。
東和薬品は、こうしたジェネリック医薬品普及の波に乗り、成長を続けている。しかし、同時に“組織の成長に人材の成長が追いつかない”という問題が生じた。
たとえば「各部署に高い専門性を持つ『プロ』は多いが、部下を育成する風土が弱い」「組織の急速な拡大によりOJTの機能が低下していった」などの課題が明確になる中で、トップから「企業として社会的責任を果たし、持続的な成長を実現するために、一人ひとりが自己革新能力の向上に取り組んでほしい」と号令がかかった。
そうした流れを受けて2007年、役職区分別に、階層別研修、職務別研修と自己啓発を柱にした教育体系を創設。管理職教育(必修講座)と、自己啓発制度の手段として、通信教育を新たに導入した(図表1)。
通信教育が評価されたのは、MR(医薬情報担当者)を中心に、多くの社員が全国の拠点でそれぞれ勤務しており、仕事が忙しくまとまった時間がとれない、集合教育中心では業務に支障が出る恐れがあるといった状況に対応できる学習方法であったからだ。費用が比較的安価で予算のメドを立てやすく毎年継続して実施できること、また学習の進捗状況をネット上で随時把握できるシステムがあり、それもメリットと理解され、導入された。
当時の状況を、企画本部人事部長の相澤直樹氏は次のように述べる。「社員が自ら学習する“意欲”を醸成したいと考えました。そのためには“きちんと実のあるプログラム”と“継続的に実施できる仕組み”を持った学習方法でなければなりません。また、忙しいから集合研修には参加できないと言い訳されるような形にはしたくありませんでした。当社の組織改革を通信教育から始めようと決めたのは、こうしたことが理由です」 図表1 第5回通信教育体系図 2011年度通信教育体系 ※推奨講座=修了時100%補助対象 第5回通信教育体系図 もっと見る

階層別の必修講座で共通言語をつくる

組織改革を推進するため創設された東和薬品の教育体系。その柱の一つである管理職教育のねらいは、“社内の共通言語づくり”である。
急速に成長している同社では、新卒の大量採用だけでなく、キャリア採用も積極的に行ってきた(2010年度は90名を採用)。キャリア採用組は当然、前職で培った自分の仕事のスタイルを持っている。こうしたスタイルを新天地で活かしてもらう一方、多様化する社員を束ねるために、東和薬品の社員としての共通の言語が必要になってきたのだ。
そこで同社では、昇格者指定講座として、係長、課長クラスに管理職向け通信講座を導入し、同講座の内容をベースとした共通言語づくりに取り組んでいった。
「この管理職向けコースは私自身、前職の時代に受講し、今でも悩んだ際は時々テキストを読み返しています。当時、気難しい技術職上がりのマネジャーが“あれには良いことが書いてあった”といっていたこともよく覚えています。論理的説明がなされていて押しつけがましさがなく、現場で働く者の腹にしみじみと落ちる語り口なんです。このコースを導入したのは、そうした良いものを活かし、継続していきたいという思いもありました。自分が実際に学習し、良さを感じてきたものですから、自信を持って社員に薦められました」(相澤氏)
管理職教育に通信教育を活用するねらいは他にもある。それは、生え抜きの若手社員がしっかりと成長していってくれるよう、階層に沿った育成のレールを敷いていきたいというもの。特に2007年以前は体系的な教育プログラムがない状態で、大量のキャリア組が入社してくる。その中で生え抜きの若手社員をしっかりと育てていくことは、大きな課題の一つだった。
教育体系創設の1年目に監督職のみを対象としていた必修講座だが、現在は全階層に展開している。若手社員から中堅社員、リーダー・班長、係長、課長、さらにその上のクラスへと階層が上がるごとに、昇格者指定講座として通信教育の受講が義務づけられた。これによって若手から監督職までしっかりとレールが敷かれ、教育体系図を見れば「階層ごとに、会社が身につけてほしいと考えている力」が見えるようになった。
さらに同社では階層ごとに集合研修も行っているが、そこでも通信教育のテキストが活用されている。研修でも通信教育テキストを使うことによって、教育内容がぶれず、より深い理解が得られるなど、メリットは大きいようだ。

自己啓発制度で学ぶ姿勢を身につける

教育体系のもう一つの柱である自己啓発制度についても充実している。修了時に会社が全額補助をする推奨講座(全部門共通テーマ、スキル向上テーマ、職能別テーマ)と、修了時に半額を会社が補助する自己啓発講座に区分され、合計で85テーマを設定している(2011年10月現在)。
これら自己啓発制度の講座は、社内アンケートの結果を踏まえながら毎年見直しが進められており、2010年度から2011年度にかけては、それまで半額補助だったPC関係のコースが全額補助に切り換えられた。推奨講座数も大きく増やし、特に若手向けの推奨講座として、従来型の知識習得型の通信教育ではなく、行動変容を促すスタイルの通信教育も新たに導入。初年度の受講が54名と、全体の受講者数増に貢献している。
自己啓発制度のねらいは、“学ぶ姿勢を身につけさせること”だ。「もともと当社には、“これをやれ”といわれればきちんとやりきる、非常に真面目で勤勉な風土があります。しかし、だからこそやらされ感ではなく、社員の自発的な態度を醸成することが重要だという考えに至りました。必要な時に自分のペースで学習できる通信教育という手段を使った自己啓発制度を構築し、風土改革の一助としたいと考えたのです」

従業員数を上回る驚異の受講者数

同社の風土改革が着実に浸透していることは、極めて高い受講率と、修了率に現れている。
2010年度の受講率は81.3%、修了率は97%と、ほぼ全員が修了。受講者数も年々増加している。通信教育を制度化した2007年度は、必修講座の受講者が105名、自己啓発が400名で計505名。そして4年目の2010年には、必修講座と自己啓発を合わせて1299名に。これは、当時の従業員数1249名を上回っており、“個人学習”から“全員学習”へ発展したといえる。
もちろん、こうした状況は教育体系を作っただけでは実現できない。そこには、通信教育を活用して風土改革を推進しようとする人事部のサポート体制があった。

サポートの要諦は“押しつけにならない配慮”

自ら学ぶ仕組みをつくっても、つくりっぱなしでは社員は動かない。企画本部人事部 人材開発課長の田中俊幸氏はこう述べる。 「強制はしないけれど、人事がちゃんと“見ている”ことが伝わるようにすることが大切。“押しつけにならない配慮”が必要です(図表2)」
人事部からのこまめなアラームの発信はその一つだ。たとえば、レポート提出が複数回必要なコースなのに、提出期限の1カ月前になっても1回もレポートが提出されていないという場合、人事から、「まずは1回分提出してください」というメッセージが送られる。1回分提出すればずいぶん楽になるということを人事が理解したうえでアラームを送っているので、受講者からは多くの場合返信がある。そして、返信した社員の多くは最後まで修了することができるという。また、同時に上司に対してもアラームを送ることで、受講中の部下に対するサポートを促している。
社内アンケートを取り、その結果を翌年の講座にしっかり反映していることも、社員に“見ている”と思わせる効果があるようだ。
2010年は社内から無作為に抽出した100名に、通信教育に関するアンケートを実施。そこで上がった「ペン字に関する講座がほしい」「全額補助の推奨講座を増やしてほしい」という声にはすばやく応え、2011年度からペン字の講座を追加した。また、営業に配属されて1年目の社員から「12月にMR試験があり、その勉強で忙しいため、この時期に他分野の学習などできない」という声が寄せられたのを受けて2011年度から開講時期を年2回設定(6月スタートと12月スタート)とした。
アンケートは、前述の100名アンケートのように臨時に行うものの他、受講申し込み時には全員からアンケートを回収し、定期的に要望を吸い上げ、統計を取り、改善する仕組みをつくっている。
アンケート結果はデータとしてトップに示し、改めて理解と後押しを依頼する。さらに、データは社員にも公開。会社が教育にどれくらい力を入れているか、自分たちの声が教育の仕組みにどう反映されているかを知ることで、従業員満足の向上にも役立っているという。
現場の巻き込みも重要だ。本部長会議に相澤氏が出席し、通信教育の仕組みやねらいを説明することで、理解と支援を求めている。
こうした地道なサポートは、かなりの労力を必要とする。しかし、企画本部人事部人材開発課の川俣綾子氏は、それが全く苦にならないという。「確かに大変ですけれど、それよりも自分自身が学ぶ立場としてこうした環境にいることができるという喜びのほうが大きいです。一人でも多くの人に“学んだ”“やりきった”と実感してもらいたいですし、自分がその一助になれるよう、これからも携わっていきたいです」 図表2 人事部のフォローの取り組み 人事部のフォローの取り組み もっと見る ※こうしたことを“押し付けにならない” よう行うのがポイント!

個人の学ぶ力の向上が組織の成長につながる

こうした仕組みやサポートに支えられることで、高い受講率と修了率が単年度ではなく毎年継続されている東和薬品。一般的には次のステップとして、教育の内容を業績につなげていくことが掲げられるが、同社の考えは少し異なっている。「教育プログラムを直接的に業績に結びつけるという考えは、将来的には必要かもしれません。しかし、今は個人の学ぶ力を向上させることそのものが組織の業績につながると考えています。そしてそのために必要なことは、“継続”だと考えています」(相澤氏)
自ら学ぶ風土を根づかせること、そのことが結果的に業績につながるのであって、業績につながりそうなプログラムを取り入れるような、短期的な発想では人材育成はできないということなのだ。
では、継続・定着のため、人事として求められる要件とは?
「まずは、率先垂範ですね。社員に“あの人に勉強しろといわれても…”といわれないよう、私達自身が勉強していかなければ」(相澤氏)―こうした姿勢を守り続ける人事・人材開発課が、今後も同社の組織改革を力強く進めていく。

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2011年度

プロフィール

会社名 東和薬品株式会社
主要事業 1951年、大阪市東区淡路町にて「東和薬品商会」として創業。現在は、ジェネリック(後発)医薬品専業メーカーとして知られ、卸を通さず全国の代理店・営業所を通した独自の販売ネットワークを持つ。
資本金:47億1770万円、売上高:461億4500万円、従業員数:1368名(いずれも2011年3月末現在)
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