導入事例

事例紹介 ホーユー株式会社

事例詳細

テーマ 学習する風土づくり
対象 管理者 / リーダー・監督者 / 中堅社員 / 新人・若手社員

ホーユー株式会社

ヘアカラーをファッションとして、またより手軽で便利なものとして大衆に根づかせたホーユー。同社の通信教育制度は20年の歴史を持ち、その間受講率・修了率ともに高い水準を維持してきた。自己啓発の一環としてスタートした通信教育は、常に現場の声や時流を見据えながら見直しが図られ、今ではトップや部門長を巻き込んだ会社ぐるみの学びのツールへ進化している。同社の取り組みについて聞いた。
総務部 人事課
取材・文・写真/石原 野恵
※掲載している内容は取材当時のものであり、一部変更が生じている場合がございます。

20年一貫して高い受講率と修了率

今やファッションとして当たり前になったヘアカラー。その歴史を牽引してきたのが、愛知県名古屋市に本社を構えるホーユーだ。同社の創業は1905年と古く、白髪染め、ブリーチなど数々の画期的なヘアカラーリング製品を開発・販売、現在では家庭向け市場で国内トップのシェアを誇る。
まさに業界のパイオニアである同社では、自己啓発の一環である通信教育の受講率・修了率が非常に高い。
同社が通信教育を教育体系に導入したのは1992年。人事制度の過渡期のことであった。「職能資格制度に基づく新人事制度の導入を開始し、1991年には人事課を新設しました。通信教育講座を開講したのはその翌年です。初めてのことでしたから、一体どれだけの社員が受講してくれるのかという不安もありました。ところが蓋を開けてみたら、なんと全社員の半数以上が受講してくれました」(担当者談)
以来、毎年全社員の半数~8割以上が何らかの通信教育講座を受講しており、修了率も70~90%という高い数値で推移してきた(図表1)。
それを可能にしたのは、毎年PDCAを回しながら制度を見直し、必要に応じて導入した一つひとつの仕掛けや取り組みである。具体的に見ていきたい。

継続改善により「実務に直結する学び」へ

初年度の自己啓発は、まずは1人でも多くの社員に受講してもらい、学ぶ風土をつくることを目的としていた。そのため趣味や一般教養のコースも豊富に設け、修了すれば受講料を全額補助とし、誰でも受講しやすいよう間口を広げた。
その後、徐々にビジネススキルやノウハウのコースを増やし、育成の側面をより強化させていくが、2000年頃には受講率が一時低下。そこで再び、社員が親しめるよう一般教養のコースを増加させている。
「当時需要の多かったライフプランやマネープラン他、韓国語のコースなども導入しました」(担当者談)
そして図表1を見ると、2005年に受講者数が増加していることがわかる。この時、経営基礎知識習得制度として「昇格要件講座」を導入したためだ。G3等級(課長代理級)と、G5等級(上位管理職級)への昇格にあたって、財務会計と法律・商法に関するテーマのコースを、その下位の職層に課すという新たな仕組みを運用し始めたのである。 図表1 通信教育受講・修了状況の推移 第5回通信教育体系図 もっと見る

その背景には、トップの強い危機感があった。「当時、社長を交えた会議の席でROAやROEといった財務・会計用語を用いてディスカッションしようとしたのですが、メンバーが用語を理解しておらず、議論ができなかったことがあったそうです。また同時期に、事業拡大により契約や取引において書面締結の機会が増えたこと、海外現地法人など子会社設立も増加したことからも、最低限の商法の知識が必須だと考えました。そこで、これらのコースを、昇格要件として設定しました」(担当者談)
その結果、通信教育が自己啓発にとどまらず、「実務に直結する学び」として組織に定着。自己啓発だけの時には受講率が低かった部門でも受講者が増加したという。
通常、昇格要件として受講を課すと「やらされ感」が強くなってしまう。
同社でもそれまで昇格試験がなかったため、人事としては反感を持たれるのではと懸念していた。ところが社員からは「この時代、当然だよね」という反応が返ってきたそうだ。
同社では、昇格要件講座導入に至るまでに通信教育を実務的な学びのツールとして浸透させてきた。それによって学ぶ風土の土台がつくられて、前向きな受講につながっているのだ。
「修了後、即時に学んだことを活かす機会に恵まれるとは限りませんが、通信教育であれば、手元に教材が残ります。一人ひとりが自ら事あるごとに復習できるような環境を整えています」(担当者談)

上司の率先垂範による部門別推奨教育

2009年に「部門別推奨教育」を開始したことも、受講件数を大幅に引き上げる結果となった。これは各部門長が自部門の人材に必要な知識やスキルに基づき階層別に推奨コースを選定する同社独自の仕組みだ。
「部門別推奨教育は、2008年度の人事制度の変更に伴い設置されました。従来『一般職』としていた職掌を『Aコース・Pコース』、『総合職』を『Gコース』とし、役割も再定義することとなりました。狙いはプロフェッショナル人材の育成を強化すること。たとえばAコースの経理担当者なら、毎月の定型業務だけでなく、今後は決算書類や申告書も作れるくらいの高度なレベルまで担当してほしい。そうして全体を底上げしたいという考えがありました」(担当者談)
全社員がプロフェッショナルとして今まで以上に力を発揮してもらうには、それ相応の育成体制も必要になる。そこで長期的な育成カリキュラムを制定。部門別推奨教育はその一環として位置づけられる。
コース選定にあたっては、教育団体各社のガイドブックを部門に配布し、部門長がコースを選定、人事がそれを集約する。 部門長にしてみれば、忙しい日常業務にコース選定という負荷が加わるわけだが、実際にはむしろ積極的に関与する姿が多く見られたという。 「特に初年度は、自分が設定したコースがどのようなコースなのか、自分が受講しないと部下にも伝えられないから、と積極的に受講した部門長もいました」(担当者談) 上司自らが部門の推奨コースを選定し、実際に学ぶ姿は、部下にももちろんよい刺激になる。人事主導から部門長の率先垂範による通信教育制度に進化させたことで、職場全体で学習する風土がさらに醸成されていったのだ。

「自律協働型人材」への強いトップの想い

上司の巻き込みという点でいえば、同社では経営者からのコミットメントも非常に強い。ここ3年、社内に配布する通信教育ガイドブックの表紙に水野社長直筆の署名入りメッセージが毎回掲載されていることもその表れだ(図表2)。 図表2 ガイドブックに掲載されている社長メッセージ ガイドブックに掲載されている社長メッセージ もっと見る ※2011年12月掲載の内容です。

「人事制度と教育カリキュラム変更という大きな節目で、社員にとって一番響くメッセージはどのようなものだろうと考えた時に、それは社長からの言葉ではないかという提案が課員からありました」(担当者談)
ガイドブックへのトップメッセージの掲載は、同社における通信教育の重要性を示すものとして社員に強い印象を与える。
「このメッセージは、当社の人材育成に関する考えを集約したものだといえます。当社では、求める人材像として『自律協働型人材』というキーワードを掲げています。『自律協働型人材』とは、自ら考え判断し、同時に周囲と協力して働くことができる人。この通信教育ガイドの表紙を含め、自律しつつも、かつ組織人として協働できる人材を多く育てたいというメッセージが、折に触れてトップから発信され続けていることも受講率の向上に影響しているのでしょう」(担当者談)
同社では「個人の学び」が単なる自己啓発の枠にとどまらず、「会社ぐるみの学び」として組織に根づいている。その大きな要因が「自律」と「協働」という一見相反する姿勢を同時に求める同社の人材育成方針なのであろう。

誠実な企業文化からさらなる発展に向けて

導入から20年を経て、現在同社ではトップ・人事・現場の連携によって通信教育での学びが支援されている。その原点として、安定した水準の受講率・修了率を可能にしてきたのは、同社ならではともいえる、社員一人ひとりの“まじめさ”だ。
「当社は技術職の社員が多く、研究主体の企業です。お客様の髪や肌に直接触れる製品を提供する企業として、やはり最も大切なのは製品の品質と信頼性であり、それを実現する社員のまじめさ。そのため歴史的に、学習に熱心な文化があるのだと思います」(担当者談)
今後、さらなる展開に向けてはどのような課題が考えられるのか。
「現在、世界10カ国に現地法人および拠点を展開している中で、企業理念の浸透が重要な課題の1つになっています。海外のローカルスタッフにも『ホーユーらしさ』を理解してもらわなくてはいけませんし、国内でも、より複雑な状況下で判断を求められる案件が増えてくるでしょう。その時に当社の社員として正しい判断をするために、企業理念の浸透が欠かせません」(担当者談)
現在、同社の通信教育ガイドブックの裏表紙には企業理念が印刷されている。理念がより深く社員一人ひとりに浸透することで、ホーユーらしさ――誠実さを重んじる企業文化、職場全体の育成に対する関心の高さといった要素がより強化されていくに違いない。
さらにこの先、通信教育での学びが、より戦略的に実務に活かされていくよう、さらなる仕掛けに着手しているところだ。
「2年前から、受講履歴を一覧化できるよう情報を整備しています。きっかけは、受講件数が増えるにつれて過去の受講コースを教えてほしいといった問い合わせが増えたことでした。今では通信教育の受講歴だけではなく、研修の受講歴など、社内の人材育成に関する情報をデータベース化しています」(担当者談)
将来的にはこのデータを「こういう勉強をしてきた人を部署で迎えたい」という要望があった際に活用できるようにしたいと考えている。
育成の履歴がデータベースとして整備されることで、より戦略的なタレント・マネジメントが可能になる。同社の風土と相まって、今後どのように人が育ち、事業が展開していくのか注目したい。

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2011年度

プロフィール

会社名 ホーユー株式会社
主要事業 1905年、製薬会社「水野甘苦堂」として創業。1923年に「朋友商会」として株式会社設立、1964年に現在の社名に変更。2005年に創業100周年を迎えた。白髪染め、ブリーチなどヘアカラー製品等を製造、販売する他、プロ向けの商品も展開し、国内トップのメーカーとして事業を展開している。
資本金:9800万円、売上高:420億円(2010年10月期)、従業員数:890名(2011年2月1日現在)
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