導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

株式会社サニクリーン九州

学びを支える風土が生んだ通信教育の新しい活用法

「学ぶ風土」を醸成している組織に贈られる「通信教育優秀企業賞」。 ここで紹介するのは九州全域で事業を展開し、法人約16万件、一般家庭約11万軒の顧客を、60の営業拠点でサポートするサニクリーン九州。1986年から通信教育を導入し、自己啓発に活用し続けてきた同社は、2010年に「KIREI革命」をテーマに一大改革を断行した。そんな同社の取り組みを、常務取締役の榛葉守氏と人財開発室マネージャーの織田育也氏に伺った。

常務取締役 人事本部長
榛葉 守 氏
人財開発室マネージャー
織田育也 氏
株式会社サニクリーン九州
会社名
株式会社サニクリーン九州
プロフィール
1967 年、株式会社サニクリーン福岡を設立し、ダストコントロール事業を開始。1986 年、株式会社サニクリーン九州に商号を改称、環境衛生商品のレンタル・販売をはじめとして幅広い事業を展開する。
資本金:1 億円、売上高:199 億円、従業員数:1610 名(2015 年6 月末現在)

方針を一大転換

サニクリーン九州は、1967年にサニクリーンの5番目のフランチャイジーとして事業をスタートした。マットやモップなどのレンタルに始まり、今では浄水器・空気清浄機、ユニフォームのレンタル、オフィスや家庭のクリーンサービスまでを幅広く手掛けている。
「当社は、『お客様の満足と信頼を得るサービス』を基本とする3つの信条を定めています。これを毎朝、各営業所で唱和し気持ちを新たにして仕事に取り組んできました」
そう社風について語るのは、常務取締役人事本部長の榛葉守氏だ。
同社は2011年、第45期を迎える際に「KIREI革命」をグランドビジョンとして打ち出した。これにより顧客、社員、社会との3つの接点を大切にし、それぞれに対する接点価値の向上に重点を置く改革に取り組んだ。中でも重視したのはES(従業員満足度)向上である。その背景には、業界内での競争激化があった。
「他社との差別化を図るために、人、つまり社員教育に力を入れることにしました。お掃除のプロとしてお客様に質の高いアドバイスや提案をするためには、教育を徹底し、社員のやる気を引き出すことが重要だと判断したのです」(榛葉氏)
その結果、生まれた制度が「おそうじマイスター」だ。

「掃除のプロ」を認定

おそうじマイスター」とは、掃除に関する悩みに幅広く対応できる知識と技能を持つスタッフのこと。正しい知識とノウハウを身につけるためのさまざまなオリジナル研修を受講し、試験に合格した人がマイスターと認定される。現時点で「おそうじマイスター基礎コース」認定者は1377人、「上級コース」認定者は360人に上る(2015年10月時点)。
「『上級コース』認定は、まずはマネージャークラスから取得しています。上級はもちろん難易度が高まるので、マネージャーが率先して取得し、技術を現場で教えていくようにしたのです」(榛葉氏)
おそうじマイスター制度はCS(顧客満足度)に加えてESも狙って設計された。というのも、掃除に関する的確なノウハウを持った社員が対応すれば、顧客満足度は高まっていくからだ。例えば、客先の床の汚れ具合を見て、適切な掃除の方法や改善提案をすれば売り上げにもつながる、ということである。
「この場合の“売り上げ”とは、提案の価値をお客様に認めていただいたことを意味します。これが従業員にとってはやりがいとなる。自分が学んだ内容を、お客様のところで実践し、それが評価される。こうした“学び実践”の繰り返しが、自然に社員の成長を促してくれるのです」(榛葉氏)
一連の流れは業績にもつながり、第45期からのちは右肩上がりの成長モードへ。第48期(2015年)は過去最高の売り上げを達成した。

29年前(1986年)より通信教育を導入

学ぶ組織としての、同社の歴史は古い。同社が通信教育を導入したのは、29年も前の1986年のことである。通信教育そのものの黎明期からいち早く学びの手段として取り入れ、当時の受講率は58%、その修了率は80%に上ったという。
「教育に力を入れるのは創業者の考え方によるものです。サービス業は人が全て。だから無駄な経費を極力削って教育費に回す。自己啓発により社員の能力を引き出すことが、何より大切だといつも力説していました」(榛葉氏)
実際、教育制度は充実している。階層・職能教育はもとより、チャレンジ研修、選抜研修、キャリア開発研修、改善業務教育、職場内教育、海外研修に加えて自己啓発がある。
自己啓発には通信教育の他に、ビデオライブラリーが167講座あり、学びたいものを好きな時間に見ることができる。
第45期以降は、教育にさらに力が注がれている。
「通信教育を推進するために、第26期(1992年)に創刊された、学ぶ人のための社内情報誌『PLUS』は、2015年7月には131号が発刊されました。トップが強いリーダーシップを発揮して社員教育を推進するのが、当社の企業文化です」
人財開発室マネージャーの織田育也氏はそう語る。

図 教育体系図

修了者の声で学習意欲向上

■受講率や補助・支援
通信教育は先述の第45期以来、毎年約半数の社員が受講し、その内の8割が修了している。受講者からの評価は高く「こういう制度があるおかげで自発的に学ぶことができ、さらに学んだ成果を現場で実践できる環境が用意されていることをありがたく思う」といった感謝の声が多く寄せられているという。
「会社として自己啓発を支援する仕組みができていて、全社員が理解しています。具体的には、会社が推奨する特奨コースや職務関連コースを受講して、優秀な成績で修了した人には受講料を100%補助しています。また、両コースの修了者には昇格要件となる『チャレンジポイント』を付与したり、一般コースでも修了すれば受講料の30%を補助したりもしています」(織田氏)

■意欲維持に役立つアンケート
同社では、通信教育受講修了者からアンケートを取っている。これは次回以降の開講科目を検討する際の貴重な参考資料になるが、同時に受講者の意欲を維持向上させることにもつながっている。
アンケートの回収率はほぼ100%で、その全てに目を通す織田氏が注目するのはコメント欄だ。書き込まれた内容を見て、他の受講者の参考になりそうなものをピックアップし、9月の開講時に配布する冊子で取り上げているのである。
「コメントを書いてくれた人について、所属営業所の所長に話を聞くと、一様に返ってくるのが、『熱心に取り組んでいた』との回答です。そうした人の声を紹介することが、他の社員の学習意欲を盛り立ててくれています」(織田氏)

アンケート結果を掲載した通信教育の募集ガイドブック

“営業所ビジョン”と学ぶ風土

第45期から導入された「営業所ビジョン制度」も、学ぶ風土づくりを加速する。
会社のグランドビジョンであるES、ひいてはCSを高めるためには、所長のマネジメントスタイルを従来の「指示命令型」から「自立支援型」に変える必要があった。
「そのためには、まずマネージャー自身に営業所のビジョンを考えてもらうことが有効だろうと、この制度を導入したんです。
60カ所ある全営業所がマネージャーを中心として個別に3年後のビジョンを立てます。それに基づき『うちの営業所の3年後のゴールは通信教育の募集ガイドブックにアンケート結果を掲載している。P086-○○だから、皆さんにはそれをめざしてこんな勉強をしてほしい』と所長がメッセージを出すというものです」(榛葉氏)
営業所ビジョン制度設立を受け、第45期の通信教育では「働きがいのある職場づくり」のコースが最も人気を集め、受講者は171人となった。その後の3年間はESに特化したコースが一番人気となり、新たな中期経営計画でCSが重点課題となった2014年からは、CS関連のコースに人気がシフトしている。
また、上司が部下に仕事を教える際のノウハウや心構えを学べるコースも人気だという。
「3年前から直属の上司がメンターとなり、1年間つきっきりで新入社員の面倒をみる『メンター制度』を導入しています。当社の場合、新入社員がメンターより年上の女性のケースが多いので、メンターは、接し方などをきちんと学ぶ必要があるからです」(榛葉氏)

「勉強会」などへ進化

左から、榛葉守氏、織田育也氏

営業所ビジョンやメンター制度の導入により、営業所を挙げての通信教育受講が活発になった。さらに近年は、営業所が一体となった取り組みも増えている。
「通信教育といえば、個人が取り組むものというのが、これまでの相場でした。ところが営業所の中には、全員で同じコースを受講するところが出てきました。また、ある営業所では、所員を2グループに分けて、2つのテーマに関するコースを受講し、お互いに情報交換しながら学びを深めた事例もありました」(織田氏)
全所員がそろって同じコースを受講した営業所では、定期的に勉強会を開いたり、1つのテーマについて全員でディスカッションを行い、学びを深めている。これは通信教育の新しい活用法であり、営業所全体の意思統一を進めるうえでも有益な方法といえそうだ。

多忙な社員も学びやすく

今後の課題について榛葉氏は「女性が活躍・学びやすい風土・環境づくり」を挙げる。具体的な対象となるのは700人近くいる準社員。ほとんどが主婦で、就業時間は9時から16時までだ。そうした家事や子育てに忙しい主婦社員も進んで学びたくなるような環境を会社として提供する予定だ。
通信教育を中心とする自己啓発支援や、営業所ビジョン、メンター制度など、学習を支援・喚起する制度が整備されている同社。そこで積極的に学んだ社員は、勉強した成果を顧客の目の前で実践する。そのことで顧客から評価・感謝されることが励みとなり、さらに次の学びに意欲的に取り組む――。こうした学びと実践の繰り返しが、同社成長の原動力となっている。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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