エコール流通グループ株式会社
社員一人一人の力量を磨くため、集合研修やOJTで得られる知識では十分ではないと考えJMAMの「通信教育」を導入
エコール流通グループ株式会社は、1999年設立ですが、元は1868年創業の平谷藤吉商店から続く老舗の卸会社です。
グループ社員の一人ひとりのレベルアップため日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の「通信教育」を導入されました。導入の経緯や効果、期待することなどエコール流通グループ株式会社 代表取締役社長 一ノ瀬 巌様、専務取締役 渡部 秀嘉様、総合管理部 渋谷 侑司様にお話をお伺いいたしました。
※写真は右から
- 代表取締役社長
- 一ノ瀬 巌 様
- 専務取締役
- 渡部 秀嘉 様
- 総合管理部
- 渋谷 侑司 様
- 会社名
- エコール流通グループ株式会社
- URL
- http://www.ecole-rg.co.jp/
- プロフィール
設立 1999年11月1日 本社所在地 東京都中央区日本橋横山町9番15号 主要事業 グループ事業と各社事業のサポート/支払業務の統括/見本市の企画・運営/営業統括/カタログ・チラシの発行/販売支援/教育・研修/グループ広報
“人”の部分でしか競合との差別化を図れない
──貴社を中核とする「エコール流通グループ」は、OA機器や文具事務用品の卸売企業など全16社で構成される広域流通グループです。グループ内における貴社の役割をまずご紹介ください。
一ノ瀬氏:
私たちは、“文具の専門商社”であるエコール流通グループの本部会社です。グループ全体と各社事業のサポートを担う本部機構として、大きく6つの業務を手がけています。「見本市の企画・運営」「カタログ・チラシの発行」「販売支援」「支払い業務の統括」「グループ広報」、そして「教育・研修」の6つです。
とくに社名(エコール=Ecoleはフランス語で「学校」の意)が示すとおり、社員教育には力を入れており、当社グループの経営の基本方針となる社是にも「人材育成」を掲げています。
──グループ社員への教育を、本部会社である貴社が一括して行っているのですね。
一ノ瀬氏:
もちろん日常業務に必要な知識・スキルの習得については、各社それぞれの現場でのOJTを抜きにしては考えられません。その上で当社では、グループ全社員に向けた集合研修や通信教育などを幅広く実施。能力開発と自己啓発の観点から、社員一人一人の更なるレベルアップを促しています。
渡部氏:
取り組みの体制としては、当社を構成する3つの部である総合管理部、販売支援部、営業推進部のうち、総合管理部が「研修室」を兼務し、教育・研修全般の企画運営にあたっています。その中で渋谷が専ら担当しているのが通信教育の領域です。
渋谷氏:
JMAMに一番お世話になっているところですね。
──そもそも社是に「人材育成」と掲げるほど、“人”に力を入れる理由は何ですか。
一ノ瀬氏:
私は15年ほど前に銀行からの出向という形で当社の経営に加わったのですが、当時から「人材育成は大事」ということでグループ各社社長の認識は一致していました。
というのも、卸売業という商売は、扱うカテゴリーが同じであればどこもやっていることはほぼ同じなんですよ。品揃えや売り方では競合他社との差別化を図りにくい。じゃあ、何で勝負するか。“人”しかないでしょう。
つまり、社員一人一人の力量こそが卸売業の武器であり、それを磨く以外に会社の、そしてグループ全体のレベルアップに資する道はない。われわれが教育を重んじるゆえんです。
とはいえ、私が入社した当時は、そうした人材育成にかける強い思いに必ずしも実際の施策が追い付いているとは言えない状態でした。
ガイドブックと受講料の補助で通信教育を刷新
──どういうことでしょう?
一ノ瀬氏:
よく覚えていますよ。集合研修の様子を視察していたら、受講者に渡される紙の資料がやたらと分厚いんですね。テーマを絞らず、研修会社に言われるまま何でもかんでもメニューに盛り込んでいるから、講師の話もあちらこちらへ飛んでわかりにくいものでした。
そこで、もっと体系的な研修にできないかとプログラムを作り直したんです。階層別・職種別とも、それぞれの対象者にどういった狙いでそのメニューを実施するのか、研修の目的も明確にしました。
──通信教育という手段を選ばれている理由はどうしてでしょうか。
一ノ瀬氏:
先ほどもお話ししましたが、グループ各社が個々に行うと非効率な部分を本部がまとめて行うことが我々の役割です。
社員教育では、集合研修・OJTが一番役に立つと考えていますが、知識面ではそれだけでは十分ではないため通信教育をもう一つの重要な柱として位置付けています。
──通信教育に関する制度や活用のしくみも大きく変わりました。
一ノ瀬氏:
それまでは、JMAMや他の教育団体が提供する講座の中から20項目程度を選び、「事務局のおすすめ」としてペラ1枚で社員に案内するだけでしたからね。しかも、それをどうやって決めているのかと尋ねたら、担当者いわく「私の独断です」と。そんな適当なやり方だったんです。当時の受講者数がグループ全体で毎回20~30人程度だったのも無理はありません。
これはまずいと思い、以前から取引があったJMAMにご相談したところ、「講座のガイドブック(手引き)を作ってみましょう」と提案していただいて。一人でも多くの社員の関心を惹き、学ぶ意欲を引き出すために、まず講座の選定自体をきちんと役員会に諮った上で、ガイドを使って通信教育の意義や効果、講座の中身をわかりやすく紹介することにしたのです。
それだけではありません。受講料の補助のしくみも変えました。従来の制度では、優秀修了者だけが全額免除、通常の修了者は半額補助で、期限までに修了できなかったら全額自己負担と決まっていたのですが、本当に会社として学ぶ意欲を大切に思うのであれば、優秀か否かではなく、最後まで修了したことを以て一律全額免除にすべきではないかと。そう提言して認められたのです。
──修了しただけで受講料全額補助という例はあまり聞きません。
渡部氏:
私も5年ほど前に転職してきたので昔のことはよく知らないのですが、最初は正直驚きましたよ。この規模でここまで教育熱心な会社はないんじゃないかと。
一ノ瀬氏:
ガイドを配ったり、全額免除の枠を広げたり、やり方を変えたことでどれくらい受講者が増えるかと会長から聞かれたので、私は「グループ全体で300人程度は行けるんじゃないですか」と答えたのですが、その予想はいい意味で裏切られました。
新制度での一回目は何と500名以上が受講したのです。それほど学ぶことに飢えていたのに、うまく引き出せていなかったんでしょうね。以前はせいぜい30人ぐらいだったわけですから。その後はややペースが落ちたものの、現在も毎回350人程度、2023年度下期でいえば約61%の受講率を維持しています。
社員の学ぶ意欲を引き出すのはリーダーの使命
──そもそも貴社ではどのような人材像を目指して教育・研修を進めているのですか。
渡部氏:
最も大きなテーマは「自分で考えて動ける人材」を育てるということです。だから集合研修も、あれこれ知識を詰め込むより、テーマを絞り込んでワークにじっくりと取り組んだり、成功も失敗も含めて多くのケーススタディを経験したり、できるだけ受講者が自分で考えて、気づきを得られるようなプログラムにしています。
一ノ瀬氏:
自分で学び、自分で考える――通信教育のメリットも正しくそこにあるといっていいでしょう。個々の講座を見ると、日頃上司に教えてもらえないような内容がたくさん盛り込まれていますし、いつでもどこでも、各自のペースで勉強できるわけですからね。専門的な深度もかなり深い。オフィスでそういう勉強はなかなかできませんよ。卸売業の唯一最大の武器である“人”を磨くには、学ぶ意欲そのものを育む通信教育がやはり最適だろうと思いますね。
──渋谷さんは通信教育の実務を担当しています。具体的な受講状況や社員のみなさんの反応について教えてください。
渋谷氏:
当社の通信教育講座は毎年春(5月)と秋(11月)の年2回開講で、じつは先日、2024年春のガイドをグループ全社員に向けて配布したところなんです(※取材時は3月下旬)。
やはり新しいガイドが手元に届くと、「自分を見つめ直す時期が来たな」という感じで、みなさんの気持ちも新しくなるんでしょうね。どこが変わったのか、追加された講座はどれか、期間内に修了できない場合の延長や再受講はできるのかなど、各社からの問い合わせもこのところにわかに増えてきました。
また、各講座には受講期間(標準的な学習に要する期間)と在籍期間(在籍を認められる期間)が定められていて、期限が近いのにまだ修了していないと、その受講者には「ゴールはすぐそこ!」「あともう少し!」といった激励のメッセージが送られてくるんです。そんなしくみも多忙な社員にとってはプラスになっていると思いますね。
──学ぶ組織風土づくりには、現場のリーダーや上司が果たす役割も少なくありません。
一ノ瀬氏:
そのとおりです。各社・各営業所の責任者や管理職のフォローの強弱が、受講率(社員数に占める受講者数の割合)に大きく影響していることは間違いありません。会社として受講料の全額補助を保障しているわけですから、その分、上司から部下にも「こういう勉強をしてはどうか」というような個別の受講勧奨や、朝礼などの場での呼びかけがあって然るべきでしょう。
学ぶのは社員自らの意思ですが、それを引き出し、高めるのはリーダーの使命です。私はそうした考えを、最新版のガイドを各社・各営業所へ送る際、責任者へ宛てたメッセージに必ず書き添えているんですよ。先日の送付時にも「積極的なフォローで受講率50%以上を達成してほしい」と強くお願いしました。
その結果、直近3年くらいの修了率は約76%程度をキープしています。
「易きに流れやすい」のがコース設定の課題に
──通信教育のコース設定やメニューづくりで工夫した点を教えてください。
渡部氏:
当社の通信教育では、社会人として必須であり全員が必ず修了しなければならない「必修」コースや、各職位に必要な基礎力を学ぶ「特薦」コース、各種資格検定のための「検定対策」コース、日々の実務やキャリアに役立つ「補助コース」など、計5コースを設けています。
各コースの講座メニューを選定する際、われわれがいつも心を砕くのは、できるだけ内容が偏らないように、ということですね。例えば、講座のテーマがリーダーシップ開発なら、リーダーシップに欠かせない要素を幅広く、かつ満遍なく取り上げて、メニューを構成するようにしています。
「これをやりなさい」と限定してしまうと学ぶ側に拒否感が出やすいので、ある程度選択肢に幅が持たせておかないといけません。
一ノ瀬氏:
要は、選びやすいように、学びやすいように作っているんですよ。
渡部氏:
また、トレンドを押さえた“時事ネタ”にも注目しています、例えばDXやSDGs。言葉としては誰もが知っていながら、じつはフワッと曖昧に理解しているだけという人も多いのではないでしょうか。
どうやって学べばいいかもわからない。そういったテーマをピックアップして、基礎からわかる講座を用意しました。最近は年金の問題など、ライフプランをめぐるテーマにも関心が高まっています。このあたりの選定には、JMAMというプロの目利きのご協力がますます欠かせませんね。
──社員が学びたいものと、会社として学んでほしいものとが必ずしも一致するとは限らないのでは。
渡部氏:
そうですね。まったく自由に選べるコースについては、やはり易きに流れやすい。比較的簡単に修了できるものに偏ってしまって、難しいテーマや期間の長いコースはどうしても敬遠されやすい傾向が見て取れます。
例えば、法務の知識が学べる講座や決算書が読める講座といったものもあるのですが、選択する人は多くありません。本来、専門職の人だけが学べばいいのではなく、会社や事業の全体を理解するためには、つまりキャリアアップしていくためには欠かせない素養なのですが……。そこをどう伝えて、学びのモチベーションを高めていくか。今後の大きな課題だと認識しています。
受講者の数だけでなく、修了状況にも目を向けて
──他にも、社員に受講を促す動機付けなどがあれば、ぜひご紹介ください。
渡部氏:
ポイント制度というものがあり、これは必修・特薦コースの修了状況と指定された資格検定の合格状況をポイント付与の対象とするしくみです。ポイントの取得についてはグループ各社の総務・人事部門とも共有し、昇格選考の参考にしています。
一ノ瀬氏:
各社の人事制度自体が違うため、ポイントの扱いも厳密には各社しだいであり、またそれだけで昇格を云々するものでもありません。社員個々の地道な努力をポイントで“見える化”し、各社のリーダーに還元するのが一番の目的ですね。
渡部氏:
各社の競争意識を高めるという意味では、受講率をランキングにして、全社社長が集まる会議の席で発表しています。もう一目瞭然ですよ。
一ノ瀬氏:
今後は受講者の数や割合だけではなく、その中でどれくらい修了できたか・できなかったか、修了率にも目を向けていかなければいけません。学ぶ意欲をいかに維持し、ちゃんとゴールまで導くかというところも課題の一つです。
渋谷氏:
先ほど「易きに流れやすい」という話がありましたが、修了できない人の中には、逆に“背伸び”をして、難しすぎるものを選んでしまうケースも見受けられます。ただ、そのチャレンジ精神自体は認められるべきでしょう。修了率を評価したり比較したりする場合は、受けた講座の難易度を加味するなどの工夫が必要かもしれません。
──まだまだ改善・進化の余地がありそうですね。
一ノ瀬氏:
おっしゃるとおりです。このガイドに込めたわれわれの思いがぶれることはありませんが、メニューの中身や運用方法については、時代のニーズに即してたえず見直していかなければなりません。これまで以上にJMAMのお力を借りながら、教育・研修システムを拡充し、社員と会社のレベルアップを図っていく所存です。
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エコール流通グループ株式会社様、
本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
※ 取材 2024年3月
本事例でご紹介している通信教育について
https://www.jmam.co.jp/hrm/tsukyo/
※本事例の社名や内容等は、すべて取材当時のものです。