NECソリューションイノベータ株式会社
50代社員のキャリア自律へ向けた3つの施策を実践
NECソリューションイノベータは、NECの関係会社としてソフトウェア開発等の事業を展開。今回は、約2,700名を擁する同社のプラットフォーム事業における50代の社員へのキャリア施策について、人財企画部HRプラットフォームグループシニアマネージャーの湯本淳氏にうかがった。
※本記事は、JMAMが2022年12月2日に主催しましたセミナー「50代のキャリア自律施策を考える」において、取り組み事例企業として登壇いただいた際のご発表内容を一部編集して掲載しております。
- 人財企画部 HRプラットフォームグループ シニアマネージャー
- 湯本 淳氏
- 会社名
- NECソリューションイノベータ株式会社
- URL
- https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/
- プロフィール
設立 1975年9月9日
※ 2014年4月1日 NECソリューションイノベータ発足本社所在地 東京都江東区新木場一丁目18番7号 代表者 石井 力 資本金 866,800万円 主要事業 システムインテグレーション事業、サービス事業、基盤ソフトウェア開発事業、機器販売
『2030ありたい姿』をめざし人事制度を改定
NECソリューションイノベータでは、2020年度に全社的な変革をめざした『2030ありたい姿』を打ち出し、これを実現するための経営課題として「事業ポートフォリオの変革」を定義した。具体的には、SI(システムインテグレーション)事業の高度化、価値提供サービス事業の創出、事業基盤の強化を中心に変革の必要性等をうたっている。
このような事業の変革に合わせて、ジョブ型、9BLOCK、そしてCode Of Values(※)による評価・育成によって報酬を決定するという、全社の人事制度を改定する動きも進んでいる(図表1)。
※「Code Of Values」とは、「視線は外向き、未来を見通すように」「思考はシンプル、戦略を示せるように」「心は情熱的、自らやり遂げるように」「行動はスピード、チャンスを逃さぬように」「組織はオープン全員が成長できるように」という5つの行動を定義したもので、NECグループの世界共通のバリュー。
50代以上の社員の約半分は社内でのキャリア形成に「ネガティブ」傾向
このような人事制度改定が進められるなか、プラットフォーム事業の人事構成について2020年度と2024年度(予想)を比較してみると、2024年度は高齢社員の比率上昇が見込まれ、なおかつ他の事業ラインよりも高齢化の比率が高く人数も多くなることがわかった。そこで、全社の施策を待つよりも早く手を打つ必要があると考え検討を始める。
施策の検討にあたり、まずプラットフォーム事業ラインの50代前半社員の雇用に関する意識を調査。エンゲージメントサーベイによると、75%が勤務継続を希望しているものの、50%は会社でのキャリアに対してネガティブであるという結果に。また、本人が上司と年1回行うキャリアレビューにおいては、50歳時になんとなく決めたことをそれ以降もそのまま引きずっている可能性が高いこと、同時に、制度への理解が進んでいないこともわかった。NECソリューションイノベータの50歳以降を中心とした人事諸制度の一覧が図表2。
高度専門職制度は高い技術を持つ社員を年齢に関係なく優遇する報酬制度であり、50歳を超えても人材公募制度も利用できる。そして、56歳の役職定年は廃止している。また、早めに別のキャリアを選択したい人のためには、セカンドキャリア支援制度を用意している。
社内でのキャリアにネガティブな人は、50歳のときになんとなく決めたことを、それ以降もそのまま引きずっているということも考えられるが、2030に向けて事業ポートフォリオの変革や人事制度改定はすでに決まっていることから、このままだと本人希望と組織ニーズのアンマッチが増加し、エンゲージメントと事業遂行力の低下につながってしまうことが懸念されていた。そんな中で、今どんな施策を打つべきかを検討した。(湯本氏)
【取り組み施策】50代社員のキャリア自律へ向けた3つの施策
勤務継続を希望するものの、定年後を意識できない社員の増加、そして事業計画や各種人事制度の浸透不全を改善するため、①51歳キャリア研修の改変と所属組織による支援強化、②社外キャリアコンサルタントという客観視点の導入、③人事制度説明の強化、という3つの施策を提案。
①51歳キャリア研修の改変と所属組織による支援強化
まず、『2030ありたい姿』の実現に向けた50代および定年後のキャリアプランの再構築を検討。会社の制度として51歳の社員にはリフレッシュ休暇が付与されるが(NECソリューションイノベータでは、10年ごとの節目にリフレッシュ休暇を付与)、そのコンセプトを、「日常業務から離れ、自らのキャリアの現状とこれからの在り方を考え、自分の可能性を追求」することとしていることから、研修実施時間を休暇付与制度と合わせることにした。
また、「個人のキャリアと事業の連動」と「組織としての支援の強化」を同時に推進。1から4までのステップがあり(図表4)、1日の座学でキャリア論を学ぶだけという従来のスタイルから、上司・部長級を巻き込んだ組織活動に転換した。通常、主任以下の上司は課長級になるが、その上の部長級をあえて巻き込み、事業視点や中長期的なキャリア視点を意識してもらうようにした。
具体的には、集合研修とその前後に行う上司面談によってキャリアを検討してもらうことで、事業とその変革を意識させ、あわせて研修受講者の上司全員を集めた説明会を実施し、部下のキャリアの課題は組織の課題にもなりうる点を説明して、部下との共有事項を自らの上司(事業部長級)と共有してもらうようにした。
②社外キャリアコンサルタントという客観視点の導入
加えて、51歳の社員についてはJMAMによる社外キャリアコンサルティングを必須とした(1人60分のオンライン面談、利用は年に1回可能。51歳を除く50歳から57歳は任意)。
なお、NECソリューションイノベータには、部長級以上あるいは人事労務を経験している「働き方アドバイザー」という社員がいるが、社外キャリアコンサルティングについては働き方アドバイザーによる支援とは別に、人材市場や外部でのキャリア機会等も含めトータルに相談できる枠として用意。
③人事制度説明の強化
「『社員は、人事が期待しているよりも会社の人事制度を理解しているわけではない』という点、我々が大いに反省すべきポイントだった」(湯本氏)という現状を踏まえ、人事制度の説明も強化。制度変更について通知を出しても自分に関心のないことだとなかなか見てくれないため、あらためて資料を整備し、プッシュ型で研修を展開した。
【効果】上司面談と社外キャリアコンサルタント面談の確実な実施をめざす
まず、51歳キャリア研修は、2022年11月に初回枠を実施。比較的意識の高い社員が多い初回枠でも、事前に上司面談をしなかったという人もいた。研修開始前までの時点で、自らのキャリア検討に前向きなコメントをした社員は、ちょうど半数となった。
キャリアレビューで、まだキャリアについて判断がつかない人が約半数いたことを考えると、上司に何を相談していいのかわからない人もいたのだと考えられるが、研修でポジティブな変化が見られたので、今後も上司面談と社外キャリアコンサルタント面談の確実な実施に向けてフォローしていく予定。
社外キャリアコンサルタント面談については、2022年度の第1四半期は、50歳と52~57歳で募集したところ人数は28名、全体の4.6%(図表6)。2022年度から31歳と41歳に行われるキャリア研修にも任意で社外キャリアコンサルタント面談を追加した結果、41歳の希望者は11名(23%)、31歳の希望者は10名(30%)という状況で、50代についてはこれを下回る結果になったので、面談申し込みにどう持ちこむかは、さらなる検討が必要だと、湯本氏は考えている。
面談を利用した50歳代の社員からは、26名のうち23名に実施後のアンケート回答によると「漠然とした考えでしかなかったが、より具体的に考えるようになった」「今後のキャリアの選択肢について、色々と調べてみました」など、概ね前向きなコメントが得られた。(湯本氏)
【課題】人事がビジネスパートナーとして個々人の行動変容を促進
今後に向けた課題としては、次年度に向けていくつかの施策をバージョンアップさせる必要があると湯本氏は考えている。
1つめは、2023年度の評価制度変更を念頭においた意識・行動変容(図表7)。組織マネジメントと部下マネジメントの両面から、一人ひとりへの落とし込みを徹底していく。50代で諦めてもらうことのないよう、技術ばかりではなくキャリアについても考えていく必要があることを伝えていく。行動については、Code Of Valuesの5つの行動基準を評価のレベルに落とし込んでいく。
2つめはリスキル。これは個人任せにせずに必要に応じて事業部との協同歩調を更に強化したいと考えている。
そして、3つめが高齢者雇用安定法の改正。2021年4月に法改正が行われ、努力義務とはいえ70歳という数値が具体的に出てきた。社員の状況や社会の情勢も見極めつつ、60歳以上の方に向けた研修なども必要だと考えている。
一人ひとりがCode Of Valuesを意識し、それをお客様へ価値として届けていく過程としての業務遂行において具体的な行動へ落とし込む。そうしたなかで、人事は社員にとって真のビジネスパートナーとして一緒に頑張れるかどうかが問われている。(湯本氏)
※本事例の社名や内容等は、すべて取材当時のものです。