導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

カルビー株式会社

トップ自ら”学びの大切さ”を伝え、自立人財の育成に通信教育を活用

「学ぶ風土」を醸成している組織に贈られる「JMAM通信教育優秀企業賞」。今回紹介するのは、継続的成長と高収益体質を実現し、グローバル食品企業をめざすカルビー。 長い歴史を持つ同社は2009年に経営体制を刷新。 社員の自主的な学びこそ組織の成長の源だとして、通信教育を中心とする自己啓発の重要性を社内で改めて周知徹底。 社員の学びを支えるさまざまな施策に取り組んでいる。

執行役員 人事総務本部 本部
江木 忍氏
人事総務本部 人財開発部 部長
田村 正弘 氏
人事総務本部 人財開発課
ウスケムバエワ バヤン 氏
カルビー株式会社
会社名
カルビー株式会社
プロフィール
1949年、松尾糧食工業所を松尾糧食工業株式会社として法人に改組し、広島で設立。1955年、社名をカルビー製菓株式会社に変更。社名はカルシウムの「カル」、ビタミンB1の「ビー」を組み合わせた造語で、健康維持、促進に役立つ商品づくりをめざす思いが込められている。1973年に本社を東京に移転、社名をカルビー株式会社に変更。2009年、経営体制を一新し、ペプシコ社と業務・資本提携。
資本金:119億4600万円(2014年3月31日現在)、連結売上高:1999億4100万円(2014年3月期)、連結従業員数:3341名(2014年3月31日現在)

新生カルビーが求める自立

かっぱえびせん、ポテトチップス、じゃがりこ等、数多くのヒット商品を持つスナック菓子業界の最大手、カルビー。長い歴史を持つ同社は、2009年に大きな転機を迎えた。当時のカルビーは、魅力的な商品や素直で愛社精神を持つ社員に恵まれながら、一方では利益率が低く売り上げも伸び悩んでいた。そこで、かつてジョンソン・エンド・ジョンソンでトップを務めた松本晃氏を代表取締役会長兼CEOとして迎え入れ、経営体制を一新。継続的成長と高収益体質の実現をめざして「コスト・リダクション(原価低減)」と「イノベーション(成長戦略)」を経営の両輪に据え、新生カルビーとしてのスタートを切った。
受け身だった社員が自立を求められたのは、まさにこの時だったと語るのは、執行役員 人事総務本部 本部長の江木忍氏だ。
「かつてオーナー企業だったカルビーでは、トップの言うことを実行できれば組織として成長できたのです。そうした状況で、社員も自然に受け身になっていったのだと思います。しかし経営が新体制となった時、トップはコスト・リダクションとイノベーションを掲げ、“実行していくのは社員一人ひとりだ、一人ひとりが自立的に成長し、それによって組織も成長しない限り将来はない”という強いメッセージを発したのです」
松本会長は言葉で自立を促すだけでなく、自ら「松塾」を開き、月に一度全国を飛び回って社員と交流。“自立的に学ぶこと、そして結果を出すこと、それが全てだ”というメッセージを自らの経験を交えて発信し続けた。ちなみに「松塾」は教育熱心な創業者一族の松尾家と、松本会長の頭文字から名付けたもの。社内の人間であればアルバイトでも派遣社員でも参加できる。
こうした取り組みにより、トップ自ら率先垂範して学ぶ風土づくりに取り組んでいる、我々も変わらなければいけない─社内にそんなムードが醸成されていった。そして変わる必要があるのは、人事部も同様だった。

5つの新・人事戦略

図 カルビーグループ人事のめざす姿

もともとマーケティングを担当していた江木氏が人事総務本部に異動したのは2012年。江木氏はすぐに全国各地域の人事担当者と本社の人事担当者を集めて「新人事プロジェクト」を立ち上げ、カルビーグループの人財がめざすべき姿を棚卸し、それを支援する人事のあり方を再定義した。
それが「自立的に成長し成果を出し続ける人・組織」というカルビーグループのあるべき姿であり、それを実現する人事の戦略を、以下の5つのコンポーネント(構成要素)にまとめた。
①ライフキャリアプラン
②採用・育成
③評価・報酬
④福利厚生
⑤カルチャー
①のライフキャリアプランは、オープンで適正な任免・配置のため、社員は自らのキャリアを自分自身で考え、それを上司と共有し、教育支援や異動に役立てようというもの。
②の採用・育成については、自ら手を挙げる意志を尊重したさまざまな施策が行われている。例えば「新卒ドラフト」がある。新入社員は精一杯自分をアピールし、「この人はウチの部署にほしい」と感じた上司が新入社員をドラフトで獲得していく。最後まで決まらない場合、公平にクジで決めるところも、プロ野球等でお馴染みのドラフト会議そのものである。
その他、管理職をめざす人のための「部課長チャレンジ」、グローバルリーダーをめざす人のための「海外武者修行チャレンジ」、契約社員が正社員をめざす「社員チャレンジ」など、年に1度やる気のある人財が、望む仕事やポジションに挑戦できるさまざまなチャレンジ制度がある。
③の評価・報酬については、「Pay for Performance」が基本的な考えだ。社員は自らのコミットメント&アカウンタビリティ(約束と結果責任)を上司と交わし、それが達成できたか・できないかで評価される。管理職は、社長を含めた全員が“1年間でこれをやる”というコミットメントを社内ネットワーク上で公開し、その結果まで公開される。社員は上司の目標や成果を見ることで“経営のメッセージ”を感じるのだという。
④の福利厚生は“健康と感謝は公平に”をテーマに、雇用区分にかかわらず行うのが基本的な考え方である。例えば、ライフイベント支援の御祝い金や見舞金は社員も準社員も変わらない。また 安心して働ける環境を実現するため「カルビー健保」を設立した。
⑤のカルチャーについては、“厳しく暖かい”カルチャーづくりに取り組んでいる。例えば、「ライフワークバランス」の見直し。ライフが先になっているのは松本会長の「ライフのほうが大事に決まっている」という考えによるものだ。長時間労働は当たり前という考え方を改め、もっとライフを大切にバランスよく働けないか、効率的な働き方はできないか見直す。一方で、ライフを大切にすることは重要だが、ワークの成果については前述のように厳しく問われる。“厳しく暖かい”カルチャーづくりの一例だ。
これら5つのコンポーネントに共通するキーワードはやはり“自立”だ。社員に自立した人財になってほしい、そうした人財を会社は本気で支援する─新制度を通してこのメッセージを浸透させるため、「新人事プロジェクト」のメンバーは全国を飛び回り、タウンホールミーティングに参加し、新制度を説明して歩いた。その結果、1年後の2013年に実施したアンケートでは“やる気のある人が評価されるのは嬉しい”“役職登用がオープンになった”等のポジティブな評価が8割を占め、新制度が概ね歓迎されていることがわかった。

教育面でも自立を重視

新人事制度の導入とあわせて、教育制度の整備にも取り組んだ。
カルビーの教育は、「階層別研修+OJT」が基本スタイルである。例えば、入社時の研修、フォロー研修、新任役職者研修等を実施して期待役割をインプットし、OJTで必要なスキルを身につけてもらう。
こうした教育制度面でも社員に“自立”を求めている。人事総務本部 人財開発部部長の田村正弘氏は次のように説明する。
「今、カルビーは社員一人ひとりの経理・財務の力を伸ばすことを支援しています。これらはビジネスの共通言語であり、業種や国を問わず、全てのビジネスパーソンに必須の知識だからです。支援の方法には3つのパターンがあります。1つは、経理・財務に詳しい社員が講師となり、希望者が参加する財務教室を実施する形。もう1つは経理・財務にかかわる者が参加する研修を会社主導で実施する形。そして最後が自己啓発支援制度により、学びの場を提供することです」
パターン1と3は、まさに自立的な学びといえるだろう。特に3つめの自己啓発に非常に力を入れている点が特徴だ。

通信教育が学びのきっかけ

カルビーでは通信教育を活用した自己啓発制度を導入しており、これを“社員に自ら学ぶきっかけを与える重要な制度”と位置づけてさまざまな支援を行っている。
その1つが、年2回の募集ガイドブックの作成だ。コース情報を紹介するだけではなく、「巻頭インタビュー」として松本会長、伊藤秀二代表取締役社長兼COOなど経営トップの記事を掲載し、自らの学習経験や学習のコツ、社員が学習を継続するためのポイントなどを伝えている。また、自己啓発に積極的に取り組む若手社員や、チャレンジ制度に応募して自らチャンスをつかみ取った社員の座談会などの記事も載せ、自ら学ぶことの大切さを伝えている。
また、アカウンティング・コース、ファイナンス・コースなど、経理・財務系の5コースを“特別推奨コース”とし、修了時には受講料を全額補助している。
さらに、サマータイムと連動して上期に推奨コースを修了すると、受講料を全額補助するという試みも行っている。これは、前述した「ライフワークバランス」を推進する具体的な施策だ。サマータイム期間は早く帰宅し、その時間を学びにあててほしいという思いが込められている。
こうした制度を利用してもらうには、アナウンスも重要だ。人事総務本部 人財開発課のウスケムバエワバヤン氏は語る。
「事前にメールで案内をするのはもちろん、自己啓発を勧めるフライヤーやポスターを作成し、地域の人事担当者と協力しながら全国の工場に貼り出しています」
バヤン氏はカザフスタン出身。母国には通信教育のような仕組みはそれほど普及しておらず、入社後に通信教育で英語を学んだという。その時の感想を教えてくれた。
「テキストを読み、レポートに解答を書くことで、自分の学力についての現状を確認できました。私はそのうえで、さらにスカイプを通した学習を続けて英語を身につけました。通信教育だけで英語ができるようになるのはなかなか難しいですが、自分のペースで進めることができます。自ら学ぶきっかけとしては、とてもいい方法だと思います」
ちなみに、バヤン氏が上司と交わしたコミットメントは、「社員の通信教育の受講率を上げること」だという。

巻頭記事で経営トップが自ら“学びのコツ”を伝えている通信教育の募集ガイドブック

ダイバーシティが飛躍の鍵

左から、田村正弘氏、ウスケムバエワ バヤン氏、江木 忍氏。人事総務本部においてもダイバーシティが浸透していることがよくわかる。

同社が、さらなる飛躍に向けて注力しているのが、ダイバーシティの推進、中でも女性の活躍である。社員の男女比は1対1だが、松本会長が就任した2009年当時、女性管理職比率はわずかに5.9%だった。これを受けて松本会長は「この会社は一世紀遅れている」と発言、社内外に向けて3年後に女性管理職比率を15%に高めると宣言した。
その後、社内にダイバーシティ委員会が設置され、江木本部長は2代目委員長を務めた。ダイバーシティを進める3つのステップ―「理解」「納得」「行動」の、まずは「理解」を進めるべく草の根運動を展開。女性限定キャリア支援セミナーやダイバーシティ・フォーラムの実施、ダイバーシティ宣言の作成、さらにシールやグッズを作成し、カルビーが本気でダイバーシティに取り組むことを伝えていった。
これにより、女性の自立意識や管理者をめざす行動もさらに高まり、現在、女性管理職比率は14.3%に上昇。着実に目標に近づいている。
「ダイバーシティは会社の成長のエンジンであり、女性の活躍なくして、企業の成長はあり得ません」(江木氏)
ダイバーシティを推し進め、日本のスナック菓子大手から世界の食品企業へと飛躍をめざすカルビー。同社のさらなる成長は、社員一人ひとりが自ら学び、成長できるか否かにかかっている。通信教育を中心とした、学ぶきっかけを与える取り組みはその土台として、重要な役割を担っている。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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