導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

渡辺パイプ株式会社

ジョブグレード制に通信教育を組み込み自主的な学びを仕組み化

「学ぶ風土」を醸成している組織に贈られる「JMAM通信教育優秀企業賞」。今回紹介するのは、水と住まい、そして農業の領域で事業を展開し「元気で快適な生環境」づくりに取り組む渡辺パイプ。同社は人事制度を整備して「ジョブグレード制」を導入。そこに通信教育を組み込み、Webを使った受講促進の仕掛けも施して効果を上げている。

執行役員 総務人事ユニットリーダー
田辺 徹 氏
人材開発グループ グループリーダー
渡邊光祐 氏
人材開発グループ 課長
斉藤恭一 氏
渡辺パイプ株式会社
会社名
渡辺パイプ株式会社
プロフィール
1953年創業。当初は水道工事店向けのパイプを販売、工事現場に届けることから事業を開始。顧客第一主義に則った経営で事業を拡大。水の領域で培ったパイプの技術を応用して温室栽培用のハウスを開発。現在は、水と住まいの事業やグリーン事業を展開。
資本金:81億円、年商:2146億円(2015年3月期単体)、2430億円(2015年3月期グループ計)、 連結従業員数:3890名(2015年4月現在)

フロンティア精神がDNA

渡辺パイプは、1953年に鉄管・継手・バルブとその付属品販売業としてスタートした。創業者の渡辺次祐氏は「誰もやっていないことをやる」というフロンティア精神の持ち主で、幅広い商品を取り扱った。当時はパイプ専業、バルブ専業というように店ごとに専門取扱商品が決まっているのが業界の常識であった。さらに、客は自分の足で買いに来て現金で払うのが当たり前の時代に、注文を電話で受け付け、掛売りを行い、商品を客先まで配送した。現在でいうワンストップ・ソリューション、顧客第一主義を、当初から行っていたのだ。
豊富な品揃えとかつてない顧客サービスは評判を呼び、北関東、大阪、九州と瞬く間に出店エリアを広げていく。水の領域で培ったパイプの技術を応用して、温室栽培用のハウスを開発。現在の「水と住まいの事業」「グリーン事業」の礎が出来上がる。1972年には年中無休で商品の引き取りができる管材専門店を千葉と宇都宮に出店した。アメリカの雑誌に掲載されていたコンビニエンスストアの記事に触発されたもので、画期的な店の開業はマスコミでも大きく報じられた。セブン・イレブン1号店が開店する2年も前の話である。こうした創業者のフロンティア精神は、渡辺パイプのDNAとして根づいている。

「セディアシステム」の確立

管材事業のリーディング・カンパニーとして全国に支社・支店を設けていた同社が、大きな転機を迎えたのは1994年。顧客、メーカー各社をはじめ、関係者全てにメリットがある仕組みを築き上げなければ業界全体の未来はないと、抜本的な改革に取り組んだ。
その「革新への挑戦」を象徴するシンボルとして生まれたのが、同社の事業コンセプトSEDIA SYSTEM(セディアシステム)だ。Service & Engineering Dialogue System、「サービスと技術で対話するシステム」を意味し、渡辺パイプがめざす商品、サービス、ネットワーク、人、その全ての品質と信頼の証として、大切にしている。
セディアシステムのもと、全社員が1つになるように名刺大のフィロソフィー・カードを作成した。そこには企業理念、行動指針と共に「とことん、こだわれ!」の文字が刻まれている。同社の社員は全員が、常にこのカードを携行し、ことあるごとに見返しているという。

自らの価値を高める学び

セディアシステム確立と同じ頃に、人材育成の在り方についても見直しを図った。急速な拠点の拡大に伴って通信教育を導入したのだ。
導入の経緯について、執行役員総務人事ユニットリーダーの田辺徹氏は、次のように述べる。
「全国展開によって物理的に集合研修が難しくなったという事情もあるのですが、何よりも多様なメニューからコースを選択し、自己価値を自ら高める学習スタイルが、当社のチャレンジを大切にする価値観に合致したのです」
1995年からは「ホームステイ研修」もスタートした。これは“お客様のことを知る”という目的で、新入社員を4週間、客先である工事店に預け、現場業務に従事させるという研修だ。新入社員のうちに顧客の日々の業務内容を覚えさせることに加えて、工事現場のニーズや悩みを肌で感じさせる狙いがある。これまでに1000人を超す新入社員が、このプログラムを修了している。

ジョブグレード制と通信教育

さらなる改革に取り組んだのは2011年。人事制度の変更が行われた。その経緯を人材開発グループリーダーの渡邊光祐氏は説明する。
「当社の場合、顧客第一主義、目の前の仕事最優先で学ぶのは後という傾向があり、それを改め、学ぶ習慣を育てる必要がありました」
この時の人事制度改革のポイントは、「ジョブグレード制」の導入だった。
その当時、全国の拠点数は400に迫っていた。拠点を増やすことはできても、その拠点を牽引する所長を育成できなければ意味がない。
「これからは良い業績を上げられるだけの人ではなく、“学ぶ姿勢を併せ持つ人”に所長になってもらいたいと考えました。そこでジョブグレード制を導入し、上位グレードへの昇格条件に①評価の累積ポイントの達成と共に、②会社が指定する通信教育の履修を義務づけました」(田辺氏)
ジョブグレード制は、支店長や所長を育成するための仕組みである。同社のグレードは、G6からG1までの6グレードに分かれている。一般職層は、新入社員であるG6から管理職手前のG4まで、管理職層はG3(課長、新任所長、グループリーダーなど)、G2(所長、グループリーダー、部長、支店長[図1])、そしてG1(本部長、部長)だ。

図1 「持続的成長のための」教育体系と昇格要件

グレード制の導入前は役職ありきで、それに資格がひもづいていたが、この改革により、資格からグレードになり、それに基づいて役職や役割を担うことになった。というのも、もともと業績の安定した拠点と、新規開拓をしていかなければいけないなど難しい舵取りが求められる拠点では、所長に求められるスキルや資質は異なる。そこで、同じ「所長」という役職だけを見て評価するのではなく、グレードによる評価に制度を改めたのである。
上のグレードに上がるには4年間・計8回の評価で、累積ポイントが32ポイント以上になる必要がある。ここに通信教育の履修も組み込まれた。
具体的には、各グレードに対して必要とされる知識やスキルをもとに、人事が通信教育の選択必修コースを複数選定。受講者はこの中から1コースを選び、修了する必要がある。自分のグレード昇格に必要な通信教育を修了した人には、受講費用を全額補助する。自分のグレードの対象でないコースも申し込むことができるが、その場合は修了しても補助はない。
渡邊氏は、選択必修コース選定の重要性についてこう述べる。
「各グレードに対してどういったコースを選ぶかは、いわば会社からのメッセージです。現時点で身につけてほしいスキルや知識を明確にし、さらに上のグレードをめざす時に必要になるものをあらかじめ提示することで、キャリアの道筋を描きやすくなります」
ここには、ぜひとも自ら率先して学び、研鑽してほしいという、会社の強い思いが現れている。

運用面でのさまざまな工夫

■紙の冊子をWebに移行
教育制度を整えた同社は、次に運用面の強化に着手する。2012年には、通信教育の募集に紙の冊子を廃止し、Webによる募集に移行した。全国に拠点が拡大し続ける中で、紙よりもWebが合理的という判断だ。

■学習意欲を高めるデザインに
2015年度には、申し込みWebサイトのデザインを一新。より見やすく分かりやすいサイトを心掛けて変更した。メーン画面に「みんなが見ているコースランキング」「申し込み人気ランキング」「会社推奨コース」を配置。「営業力を高める」「数字に強くなる」など求めるスキルからコース検索ができるウインドウと、若手社員オススメコース、中堅社員オススメコースのバナーを配置し、学習意欲をかき立てる工夫をしている。実際、この階層別のオススメバナーは、特に高いクリック率を達成したという。

数字に表れたアナウンス効果

■タイミングの良い告知
見やすいサイトづくりは大切だが、それだけで受講者数が増えるわけではない。デザイン変更という良いきっかけをつくったうえで、効果的なタイミングでアナウンスをし、受講者数の増加をめざした。人材開発グループ課長の斉藤恭一氏が中心となり、Webサイトへのアクセス解析をしながら取り組んだ(図2)。

図2 Web募集サイトのアクセス数の推移

例えば、同社では通信教育の申し込みは毎年5月から開始し、6月に開講しているが、募集スタート日以降、サイトアクセス数が伸び悩んでいた。そこで、募集締め切り1週間前にイントラネットのトップページにリマインドを掲示した。トップページには次々と新しい情報がアップされるため、募集締め切りの情報が埋もれて社員の目にとどまらないことがないよう、後日、2回目のリマインドをかけた。そしてダメ押しとして、募集締め切り日には過去2回のリマインドへの反応を分析。より効果的と思われる時間帯に3回目のアナウンスを実施した。営業担当者が社に戻り、サイトにアクセスする時間の17時以降に合わせて配信を行ったのだ。
この一押しでこれまで最高のアクセス数を更新し、結果的に最後の2日間で申し込みを大幅に増加させた。募集期間の総申し込み数も過去最高となった。
実は2014年度は、コースの見直し、入れ替えはほとんど行っていない。サイトデザインの改善と、分析を踏まえた的確なアナウンス作戦で、受講者数を伸ばすことができた好例である。

進化する学ぶ風土づくり

左から斉藤恭一氏、田辺徹氏、渡邊光祐氏

渡辺パイプが通信教育を導入して21年。継続することで社内に学ぶ風土ができ、定着してきている。上司たち自身がかつて通信教育を受講し、その良さを実感しているため、部下にも自信を持って勧めているという。
例えば、九州支店では、上司が部下一人ひとりに、成長に必要なスキルや知識を設定し、それを計画的に補うことができるよう通信教育の受講を勧めている。これは将来の所長の計画的な育成にもつながっている。通信教育の申し込み率は全国平均より10ポイント高く、熱心な上司の勧めが部下のやる気を引き出している。こうした取り組みは、他の支店にも広がってきているという。
今後の課題は修了率を上げること。現在でも低くはないそうだが、さらに高めたいというのが同社の考えだ。
「せっかく始めた学習を修了できずに終わるのは、会社としても残念ですが、本人にとってももったいない話です。何とか継続して修了できるよう、いかに支援をするかが課題です」(斉藤氏)
全国の拠点、現場を重視し支援する同社。その土台には、人事制度を整備し、通信教育を活用しながら全国に点在する人材を育成する、合理的な仕組みがあった。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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