導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

グローリー株式会社

「気づき」と「自律」でイノベーティブ人材を育成

「学ぶ風土」を醸成している組織に贈られる「通信教育優秀企業賞」。 今回紹介するのは、日本初となる硬貨計数機の開発に続き、数々の画期的な新製品を相次いで開発してきたグローリーである。同社は通貨処理機に関して国内シェアの約7割、金融機関向け紙幣入出金機でも世界シェアの6割を占めるトップメーカーだ。高い技術力で常に市場を開拓し続ける同社は、研修や通信教育を工夫し、イノベーティブな人材を育んでいる。

総務本部 人事部 部長
八津谷 吉博 氏
総務本部 人事部 人材開発グループ グループマネージャー
大河原 勲 氏
総務本部 人事部 人材開発グループ アシスタントマネージャー
山本正昭 氏
グローリー株式会社
会社名
グローリー株式会社
プロフィール
1918年、電球製造機の修理会社として国栄機械製作所(現グローリー)を創業。1950年、大蔵省造幣局から依頼を受けて日本で最初に硬貨計数機を開発。以降、いずれも日本初となる通貨処理機、たばこ自動販売機、つり銭機などを相次いで開発してきた。
資本金:128億9294万7600円、連結売上高:2269億円(2015年3月期)、従業員数:3262名(2015年3月末現在)

常にイノベーションを追求

「当社の歴史は、革新的な技術開発に対する挑戦の連続と言えます。例えば単能機からシステム機へ進化した窓口用入出金機やオープン出納システムなどを開発、さらに流通業界では新人でもレジ担当を可能としたつり銭機を提供してきました」と、人事部長の八津谷吉博氏はこれまでの歩みを振り返る。
常に新たな技術を開発することで、他社の追随を許さず、業界内でも際立ったポジションをグローリーは確立している。とはいえ、現状に決して安住することなく、次のイノベーションを追い求める。そのカギとなるのは人材だ。だから人を育てるための投資は惜しまない。
「イノベーションを起こせる人材に不可欠なものは“チャレンジスピリッツ”でしょう。これほどまでに変化が速く激しい状況では、潮目が変わるのを待ってから対応するのではなく、自ら変化を引き起こす気概が必要です」と説明する大河原勲氏に、山本正昭氏は「社長の口ぐせも『どんな環境でも信念を持って、ひたむきに取り組み挑戦できる人材がほしい』ですから」と付け加える。
昨今、同社の主要顧客である金融機関と流通業界では、店舗統廃合の動きが加速している。国内では市場は飽和状態に近づいている。売り上げを伸ばすには、国内に向けては高付加価値製品の開発と海外でのさらなるシェアアップが求められる。いずれにおいても、イノベーティブな人材が必要なことは明らかである。

“多様性”で気づきを与える

イノベーションを引き起こすには何が必要か。要件はいくつもあるが、グローリーでは「気づき」と「自律」を重視し、そのための仕組みを整えている。
「当社では研究開発、生産技術、営業、フィールドエンジニア、インストラクターなどの職種に高卒から大学院卒まで幅広く受け入れています。この多様性が、気づきをもたらすきっかけのひとつとなります」(八津谷氏)

■多様な人を混ぜた“4年目研修”
例えばフィールドエンジニアとして採用された高卒と、研究職に就く大学院卒が同じ年に入社し、4年後に研修で顔を合わせるとどうなるか。入社時点では6歳も年上だった院卒組が、高卒組の成長ぶりに激しくショックを受けることになる。入社直後から毎日顧客と直接接してきたフィールドエンジニアは、伸び盛りの年代であることも相まって一気に成長する。これに対して、社内で研究、開発に没頭していることが多い院卒組は、お客様と直接接する機会が少なく、外からの刺激を受けることが乏しいからだ。
しかし、刺激を受けると意識が変わる。4年目研修が終わると、今度は院卒組が大きく変わるという。

■異職種混合研修
気づきを促す工夫は他にもある。「異職種混合による研修」だ。
「集合研修を行う際には、1グループに可能な限り多様な職種メンバーを入れるようにしています。幸い、当社にはさまざまな職種があり、近年はグループ各社も交えて研修を行っているので、職種のバラエティはさらに広がっています。勤務地も全国に散らばっていますから、1つのチームを、例えば東北地区の営業、姫路の開発、沖縄のメンテナンス担当というように構成します。経験も、ものの見方も考え方も違うメンバーと接することで、お互いに刺激を受けて気づきが生まれるようです」(山本氏)

■異職種体験
加えて、開発部の若手を対象に、社内の別のセクションに一定期間派遣する運用も行っている。
「1年程度、営業の現場に行って異職種を体験するという機会です。現場に行ってみないと、当社製品が実際にどのように使われているかを知ることもできないでしょう」と大河原氏はその狙いを説明する。
実際、設計時には想定もしないような狭いスペースに機器が設置されていて、扉が開かないような現場もある。こうした状況を目の当たりにすることで、開発者に欠かせない“お客様の目線で物事を考える”習慣を身につけるのだ。

意欲と挑戦心を育む体系

図1 全社教育体系概要図

教育制度の全体像としては、「階層別教育」「選抜研修」「職種別教育」「自己啓発」が4本柱となっている(図1)。

「階層別教育」は新入社員研修に始まり、職位が上がるにつれ「リーダーシップチャレンジプログラム」「新任管理者研修」「管理職ブラッシュアップ研修」「統括部長向け管理職ブラッシュアップ研修」と続き、「新任役員研修」で締めくくられる。
「職種別教育」は、研究開発設計、フィールドエンジニア、営業、インストラクターなどの職種ごとに必要な専門的知識を身につけるためのものだ。中でもフィールドエンジニアに関しては、社内技術認定制度が設定されており、階級ごとに求められるスキルが定義されている。これをマスターするため技術認定研修では、体系的な集合研修の他に、eラーニングや通信教育を活用した教育が行われている。
グローバル人材の早期育成も重要課題だ。そのため、「選抜研修」を設けている。海外現地子会社でOJTを通じた実践的な研修に派遣する「海外トレーニー制度」はその1つだ。
さまざまな研修メニューがある中、近年、特に同社が注力するのは、若手対象の「キャリア研修」である(図2)。

図2 若手教育

「入社時と入社4年目、そして30歳の3つの区切りとなる年にキャリア研修を受け、自分の価値観や仕事観に基づいたキャリアプランを組み立てる『ファーストキャリアプログラム』を受けてもらっています。自らキャリアプランを描いて達成できる自律型人材の育成が目的です」(山本氏)
背景には、今の若手人材の自律意識の薄さへの問題意識がある。学生の間は、「言われたことを素直にやるのが良い」と教え込まれてきた若者に対し、社会人になったからといって、いきなり自律せよと求めるのは無理がある。だから同社では、入社後、30歳を迎えるまで、段階を踏んで自律を促しているという。

通信教育で自ら学ぶ習慣を

1985 年、「通信教育元年」のガイド表紙

そして、教育制度の4本柱の1つ、「自己啓発」の手段として同社では、通信教育に早くから取り組んできた。
「通信教育の導入は30年以上も前で、受講者の修了履歴は1985年まで遡ります(右写真)。中堅層以上のほとんどの社員が、若い頃に通信教育を経験しています。彼らが率先して受講することで、通信教育を通じて自己啓発に努める社風が根づきました」(山本氏)
ちなみに部門別の教育においても、通信教育は積極的に活用されている。職位を上げるために指定科目の受講が条件となっている部門もあるという。そうした部門では、毎年春になると「今期は何を受講しよう」と社員が自発的に考える習慣が定着している。
導入当初、通信教育の受講費用を会社が全額補助していた時期もあった。その後は、受講者本人の負担が必要になったが、それでも受講者数は毎年1000名を超える。受講の申し込み時期は、6月、10月、2月と年間3回設定されている。
「イレギュラーですが、集合研修受講後にも、受講者を対象に臨時の申し込みを受け付けています。“鉄は熱いうちに打て”というように、研修を受けて自分に足りないところに気づいた人は、学ぶモチベーションが高まっていますから」(大河原氏)
また、開講科目については、各部門からリクエストが寄せられるが、要望を随時反映させてきた結果、開講科目数は500を超える。

受講促進のための仕掛け

■ガイドブックに「特集」を企画
受講促進のためのさまざまな工夫も行っている。その1つが、通信教育の受講を案内する冊子に「特集」を設けていることだ。
「2013年度はグローバル特集、2014年はコミュニケーション特集と、年度ごとに会社の教育基本方針に基づいて特集テーマを設定し、関連科目を含めて冊子の巻頭で紹介しています。
2013年度は全社方針がグローバル化に大きく踏み出したものになったため、グローバル特集を組みました。社員は会社の方向性に敏感ですから、特集した科目の受講者が増えるのです」(山本氏)
巻頭特集の次には、階層別に必要な受講科目が続き、スキル別の受講科目も並べられている。その際、重複する科目もあるが、受講者の利便性を少しでも高めるため、あえて再掲している。
階層別科目の中には経営層向けのMBA関連コースもある。階層別の研修が新任役員研修まで続くのと同様、通信教育に関しても、管理職以降も学び続けることが当然の文化であり、その環境も整備されているのである。

そしてイノベーション人材へ

左から大河原勲氏、八津谷吉博氏、山本正昭氏

各種研修や通信教育など、人材育成にさまざまな工夫をしている同社。その狙いはただ1つ。社員の意欲と挑戦心を引き出し、イノベーションを起こせる人材を育成することだ。
「チャレンジングで新たな価値創造に貢献できる人間をどれだけ輩出できるか。当社の将来はそこにかかっていますから」(八津谷氏)
イノベーションは気づきの中から生まれるが、気づきは“異なるもの”との触れ合いや、幅広い“学び”から生まれる。そのために研修も多様性と自律性を高める内容へと進化させ、通信研修で自発的な学びの機会を用意してきた。
こうした同社の教育制度は、イノベーティブな人材が何より必要とされるこれからの日本企業にとって、良き手本となるはずだ。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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