導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

メタウォーター株式会社

「変革」「挑戦」「多様性」がかなえた「自ら動く」手上げ式研修

「学ぶ風土」を醸成している組織に贈られる「JMAM通信教育優秀企業賞」。今回紹介するのは、上下水道事業は官民連携(PPP)の加速など、大転換期を迎えている中で成長を続けている水・環境のトータルソリューションを提供するメタウォーター。同社には社員が自ら積極的に参加する「手上げ式」研修が根づいており、中でも通信教育は安定した受講率と高い修了率を実現している。

執行役員 経営企画本部 人事総務企画室長
藤井 泉智夫 氏
メタウォーター株式会社
会社名
メタウォーター株式会社
プロフィール
2008年4月、日本ガイシ、富士電機の各水環境子会社の合併により発足。国内外の上下水道施設、環境関連施設の設計・建設、運転・維持管理までを担う。水と環境分野のトータルソリューションカンパニーを標榜。2014年12月、東証一部上場。
資本金:119億4670万円、連結売上高:1030億9800万円(2016年3月期)、連結従業員数:2839名(2016年3月現在)

「水ビジネス」転換期の共通価値観

メタウォーターは2008年4月、日本で初の水環境分野における総合エンジニアリング会社として、富士電機と日本ガイシの水環境事業分野が合併し発足した。
「今、事業環境としては非常に大きな転換期を迎えています。発足以来、機械と電気の両方を備えた企業として、さまざまな自治体の上下水道設備を納めてきましたが、これからは施設の設計・建設に加え、管理・運営を包括的に請け負っていく、いわゆる『官民連携(PPP)』が主流の時代です。当然、社員の教育にも変革が必要になっています」と、人事総務企画室長の藤井泉智夫氏は、教育改革が急務な現状について説明する。
「例えば以前は仕様発注といって、お客様から『こういう仕様で作ってほしい』と言われた内容のものを、そのまま作ればよかった。それが今は性能発注、つまり『こういう性能のものを作ってほしい』と言われるので、お客様がその性能で求めている具体的な設備とはどんなものなのか、こちらで意思決定しなければなりません。これにはリサーチも必要ですし、スタッフにはより広範で多様な能力が求められるようになってきています」(藤井氏、以下同)
さらに、同社の社員の多様化も進んでいる。もともと2つの会社が1つになった合併会社であることに加え、さらなる事業拡大のために、現在多くの中途入社採用を行っているのだ。新卒入社を含めると、既に3割強の社員が発足後の「メタウォーター」による採用となっており、「多様な人がたくさん働いているのは確かに強みですが、逆にいえばベクトルが合っていないというのも事実なのです」

■共通の価値観、メタイズム
共通の価値観をもち、ベクトル合わせをするために設定されたのが、「変革(かわる)」「挑戦(いどむ)」「多様性(みとめあう)」という3つの価値観で、これらは同社を形づくる根幹として「メタイズム」と名づけられた。
「プラントビジネスを手掛けている限り、一人ひとりがまずプロフェッショナルになる必要があるのは、当然のことです。その一方で、これだけ市場環境が変わっている中で、変革や挑戦、多様性ということにきちんと対応していかないと、市場に取り残されてしまうのは間違いありません」

■変えてよいもの、いけないもの
「不易流行という言葉があります。メタイズムで変革や挑戦を進めるうえで、変えてよいものと変えてはいけないもの、これらを明確にしておくことが肝要です。まず変えてはいけないものは、『基本』です。当社ではこれを『は(わ)・に・の・感動』活動と呼んで、定着を図っています」
この活動は、「お客様“は(わ)”誰ですか?」「お客様“に”どんな商品・サービスを提供しますか?」「お客様“の”満足は何ですか?」「そして、お客様が“感動”してくれるにはどんな事をすればいいのですか?」という4項目を常に意識しようというもの。
「基本に立ち返るということを、ただ厳しく言うのではなく、少し楽しみながら、遊びも入れながら浸透させていこうと進めています」
一方、変えてよいものは何かというと、それは「自分で決めている限界」だという。同社では、「自信をもって、限界と思っているモノを超える~ Beyond Borders! Break Box!」というスローガンを掲げ、名札に記載するなどして浸透を図っている。
「一人ひとりが『自分ができるのはここまでだ』という箱を作ってしまっていては、これからいろいろなことを変えていくのは不可能です。乗り越える力、打破する力、自信をもって過去の慣習を壊していこうとする力が、これからの我々に求められる力なのだと思います」

(上)「は(わ)・に・の・感動」パンフレット
(下)スローガンが記載された名札デザイン

教育の変革、「人材の見える化」

藤井 泉智夫氏

「変革」「挑戦」「多様性」というメタイズムの価値観は、同社の教育の具体的な施策にも見てとれる。その例を、順に紹介しよう。
まず、同社が今、取り組んでいる一番の教育変革である、「人材の見える化」。
「これまでの教育は、例えば『この人にはそろそろこういう経験をさせたほうがいいかな、あの研修に出てもらおうかな』などという、上司や人事の経験と勘で、実にアナログ的に行われていました。しかし、今は中途採用者が多くなっているので、それでは回らなくなってきています。ある職種、ある事業本部の中に、どういう能力をもった人材が、どれだけ存在して、その人材がどのように配置されているかということを、明確にする必要が出てきています」
個人のスキルをヒューマン、コンセプチュアル、テクニカルの3つの領域でデータ化し、さらにその人が持っている行動特性(メンタルの強弱、瞬発力、けん引力など)を加味し、データベースとしてエリア別に配置する。これにより、地域のプロジェクトに効率的な人員配置ができるだけでなく、計画的な人材の育成にもつながる。
「どれだけの戦力を会社として保有しているか、今後、どの辺りの戦力が弱くなっていくかということも分かりますので、教育施策を考えていくうえで、大変役立つデータとなります。個人個人の改善点とそのための教育も見えますし、上司と部下の組み合わせについても検討すべきところが見えてきます」

教育の挑戦、退職自衛官の採用

「もうひとつ、これからの教育で留意しなければならないのは、人材の確保の仕方の変化です。これまでは新入社員で入社して、定年退職するまでのスパンでどう人材を育成するかという考えでしたが、地方自治体から包括的な浄水場の運営を任されるようになると、現地で雇用する必要が出てきます。しかし地方は人がどんどん減っています。そこで、自衛隊を退職された方を積極的に採用することにしました」
自衛官の退職年齢は、幹部・准尉・曹では54~ 56歳である。その多くが故郷へ帰るが、民間企業への再就職口はあまりないのが実情。しかし元自衛官の人々は任務達成意識が高く、また「地域の水を守る」という使命感も強く持つ、同社にとって最適な人材だ。
「三方良しなんです。我々は水のオペレーションでは、やはりまじめで堅実な方を求めていますし、退職自衛官の方々も再就職先が得られます。さらに、地域は人が戻ってくるので活性化につながります。これからは地域で完結するビジネスをしていく中で、そういう方々が早期に専門性を獲得するような教育の仕組みづくりをしていくのが急務です」

教育の多様性、「協調性」重視

同社のプラントビジネスは、実に多種多様な人々が大勢関わり、1つのものが出来上がっていく。
「一人ひとりにプロフェッショナルな専門性が求められるのは確かなのですが、例えば野球で言うと、四番でエースピッチャーのすごい人が1人いれば勝てるかというと、決してそうではないんです。プラントの建設だけでなく、その運営というこれからの新しい視点まで考えると、さらにずっと長く人と人とがつながっていく仕事になりますから、今後当社は、さらに多様な組織力が必要になります」
そこで同社は、人事制度の評価項目に組み込まれている「多様性」の中で、「協調性」「巻き込み力」に特に高いウエートを置いている。
「どんなに仕事ができても、やはり組織で協力して仕事ができなければ、プラントの運営はうまくいきません。組織としての多様性、この『認め合う』ということができなければ、今後の仕事で成長していくことは厳しいでしょう」

「自ら動く」手上げ式研修

同社では、人事理念に「自己成長意欲のある人材を支援し、能力開発の機会を積極的に提供する」と掲げており、「自ら考えて動く」、自主性を重んじることを最大の特徴としている。
「選択型研修」と名づけられた社内外研修と通信教育受講者を募集する手上げ式教育は、同社の教育制度の柱になっている(図)。2011年の開始以来、安定した受講率と全国平均を10ポイント以上上回る高い修了率が維持されている。
※ JMAM通信教育受講者のうち手上げ方式の修了率

図 能力開発体系図(2016年4月現在) 手上げ式の選択型研修は、社員の能力開発体系の中心に位置づけられている。

(左)「選択型研修」募集冊子
(右)「能力開発News」冊子

■成功要因は「幕の内弁当方式」
「『選択型研修』の案内では、必ず紙の冊子を配ります。イントラネットに案内をアップするというやり方もありますが、当社の場合、あえて一人ひとりに紙の冊子を配布しています。そして、一番重要なことですが、教育メニューは放っておくと飽きられてしまいます。どんなにおいしいお弁当でも、同じおかずばかりだとそのうち飽きられてしまうのと同じです。そこで、まさに幕の内弁当方式で、手を変え品を変え、やる気をかき立てる工夫をしています。巻頭インタビューを工夫したり、受講者にフェーストゥフェースでヒアリングをしてニーズを探ったり、データで人気度を調べたりと、常に改良させています。また、『能力開発News』という、研修に絡めた読み物の冊子も、年に2回、発行しています。まさに『は(わ)・に・の・感動』の活動です。地道な働きかけで、毎年きちんと検証していかないと、必ず形骸化してしまいます。これは逆をいえば、メニューをうまく変えていくと、より社員の声が反映されるものになり、手上げ式でも盛況になるということです」
今後に向けて、教育を受けた証としての「ライセンス制度」の創設なども検討しているとのこと。同社の「変革」と「挑戦」は、「多様性」を深めながら、まだまだ発展していくようだ。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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