導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

武州製薬株式会社

”気づきの姿勢”教育で変革をめざす

「学ぶ風土」を醸成している組織に贈られる「JMAM通信教育優秀企業賞」。今回紹介するのは、医薬品・治験薬の受託製造専門会社(CMO)として、日本の医薬品業界をリードする武州製薬。「最も良い薬を製造し、人々の健康に貢献する」との企業理念を掲げ、新薬メーカーから委託される、多彩な医薬品と治験薬の製造を担う同社は、通信教育制度を人材育成のベースに据えて、社員一人ひとりの成長を企業の成長へとつなげている。

人事総務部長
初鹿重陽 氏
人事総務部人事課
渡辺宏紀 氏
武州製薬株式会社
会社名
武州製薬株式会社
プロフィール
1981年、サンド薬品株式会社の埼玉工場として稼動開始。1998年、武州製薬株式会社を設立。2014年、美里工場が加わり2工場体制となる。医薬品・バイオ薬品及び治験薬の受託製造の国内リーディングカンパニーとして成長を続ける。
資本金:10億円、従業員数:945名(2016年9月現在)

自己啓発の基盤-通信教育制度

■全社員の半数が通信教育を受講
社員の自己啓発に対する支援は、全国の8割近い事業所で実施されているが、十分には活用されず、いかに参加人数を増やし、制度を活性化させるのか頭を悩ませている企業は少なくない(厚生労働省『能力開発基本調査』平成27年度)。
これに対して武州製薬では、毎年およそ半数の社員が、通信教育制度を活用した自己啓発に励んでいるというから驚きだ。
「年間の個人目標を記す『目標管理・業績評価シート』に、身につけたい能力を記入する欄を設けています。ここで掲げた目標を達成する手段として、多くの社員が通信教育制度を活用しています。目標設定にあたってはマネジャーと面談を行い、個々人の能力や目標と照らし合わせて話し合いながら、資格の取得や特定のスキル習得・向上につながる通信教育の受講といった目標を立てていきます。このように、通信教育制度は弊社の人材育成に密接に関わっているのです」
そう話すのは同社人事総務部人事課の渡辺宏紀氏だ。さらに、約7割の社員が製造ラインでの勤務に就く同社ならではの事情について、人事総務部長・初鹿重陽氏は次のように説明する。
「一部の部署で交替制勤務を実施しており、全員が一堂に会する集合研修の実施は難しいのが現状です。その点、通信教育は個々人のスケジュールに合わせて学習ができ、利便性が高い。しかも、通信教育には多彩なコースが揃っていて、身につけたい知識やスキルに合ったコースを見つけやすいのが特長です。製造業ならではの環境も相まって、通信教育制度を活用して、社会人として、組織人として、あるいはスペシャリストとしてのベースを築いていく風土が育ったのだと思います」

■“まじめにコツコツ”習慣が受講を促進
もう1つ、高い修了率を保持しているのが同社の大きな特長だ
医薬品業界では、国ごとに独自の基準(GMP:「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準」)が設けられ、作業手順などを詳細に定めた標準作業手順書(SOP)に基づいて製造が行われる。医薬品製造においてはこれらの厳格な基準を遵守することが求められる。
同社の社員について初鹿氏は、「決められたことをまじめにきちんと取り組むタイプが多い」と評する。そうした姿勢は、日常の業務を通して培われている。
「国ごと、お客様である新薬メーカーごとに基準となる手順や品質、製造プロセスなどが異なりますが、弊社ではあえて一番厳しいお客様の基準をスタンダードに据え、それぞれの要所・特徴を押さえつつ、さまざまな要請に対応しています。長期にわたって技術を追求しながら、変化や要請にも柔軟に応えることは、我々の使命ともいえる重要な責任なのです。社員はこのことを深く理解しており、日常の業務を通して、まじめにコツコツ取り組む習慣を身につけているのです」(初鹿氏)
こうした習慣は、日々の業務はもちろん、通信教育を最後までやり遂げ修了する姿勢にも反映され、高い修了率につながっている。
※手挙げ方式の修了率は全国平均より20%高い(JMAM実績)。

個々人の成長が組織の成長へ

図 人材育成のための能力開発サポート体制

■新入社員時代から“学ぶクセ”を醸成
多くの社員が自己啓発に通信教育制度を選択する同社だが、なかでも若手社員の受講が目立っている。
「決して若手社員に限定して受講を促しているわけではありませんが、新入社員に対しては、入社半年後と1年後に、人事が行うフォローアップ面接で、通信教育のどういったコースをどういう目的で受講しているのか確認します。これは、若いうちに“学ぶクセ”をしっかりと身につけ、経験を重ねても学び続ける姿勢を保ってほしいと期待しているためです。若手社員にこうした啓発活動をコツコツと続けてきたことも、学ぶ風土が培われてきた要因の1つでしょう」(渡辺氏)
入社時の研修では、「どのような目的を持って入社し、何を成し遂げ、どうなりたいのか」を考えさせているのだという。社会人としてのスタート時に目標設定を行い、その目標に対してフォローアップすることで、日々の学習の目的を明確にすることができているのだ。

人事総務部長 初鹿重陽氏

■社長自ら自己啓発意識を喚起
2016年4月、新代表取締役社長兼CEOに横濱潤氏が就任した。横濱氏は「変革」をテーマに掲げ、「社員が変われば、会社が変わる」と、強いメッセージを発信。就任直後から社員に直接語りかける場を設け、社内の意識改革を促している。
「企業力の基盤は人材力と組織力、すなわち、一人ひとりの『個』の集まりである『組織=企業』の力である」という考えを、同社は人材育成の根幹に据えてきた。横濱氏もまた、「一人ひとりの成長が組織の成長になる」という考えのもと、人材育成をより一層推し進めるべく取り組んでいる。
近年、新薬の開発が困難を極める中でグローバルレベルでの厳しい競争が巻き起こり、市場環境は激変している。
「ジェネリック医薬品市場の急激な拡大や技術変化による市場ルールの変化に加え、お客様のニーズが多様化・複雑化しています。それらに応えるためにも、弊社はさらなる変化を遂げなければなりません。今後も弊社が成長していくためには、社員が“気づきの姿勢”を身につける教育を新たに展開することが不可欠です」(初鹿氏)

地道な取り組みこそ定着の秘訣

(左)表紙
(右)巻頭ページのトップメッセージ

■日々の声掛け、意識づけの川越工場
川越工場の1工場体制で経営していた2007年、同社は通信教育制度を導入。教育担当者が最初に取り組んだのは、社内における通信教育制度の認知度向上だった。
教育担当事務局から各部署のマネジャー宛に、通信教育講座の案内冊子を課員に直接手渡しするよう呼びかけ、上司と部下との間で、知識・スキルの習得について自然と話題が生まれるように工夫した。
また、手作りの日めくりカレンダーを作成。全社員が利用する食堂に、告知ポスターと共に掲示し、申し込み期限までの残り日数をカウントダウンした。
さらに、社内で同僚やマネジャーに会うたびに「通信教育はどんなコースを申込みましたか」と声を掛け、日常的に通信教育制度を意識するよう促した。何より、事務局が目標を持ち、楽しく取り組むことを心掛けたという。
川越工場では受講率の向上だけでなく、修了率にも気を配っている。その施策の1つが、グループ受講制度だ。数人の社員でグループをつくり、それぞれが希望する通信教育コースを受講する。グループ全員が修了すると、500円の図書カードが贈られるという仕組みだ。さらに翌年もグループ受講で修了すると、1000円の図書カードが贈呈される。
最近ではグループをあらかじめつくらず、個人で申し込んだ後、事務局が任意のグループをつくる「任意グループ受講申込み制度」を新設するなど、定着後も工夫に余念がない。

■年間目標ポイント制度の美里工場
他方、2014年に同社に加わった美里工場(埼玉県児玉郡美里町)では、自己啓発にポイント制度を導入している。これは、一人ひとりの自己啓発活動をポイント化するもので、あらかじめ各部署に設定された年間の目標ポイント数をめざして、課員が自己啓発に励むという仕組みだ。
自己啓発活動の手段として多くの社員が通信教育を選択しているが、目標達成に向けた具体的な計画を立てていない社員に対しては、マネジャーから通信教育の受講を勧めるケースも少なくない。
事務局からは、受講者の少ない部署のマネジャーに声を掛け、課員の受講を促したり、受講期間の終盤には未修了者に対して声掛けを行ったりしている。
このように、川越、美里の2つの工場で共通して取り組まれてきたのが、担当者による地道な取り組みだ。通信教育制度とはどのようなもので、いかなる意図を持って導入したのかを示し、認知度の向上に取り組んだ。受講期間中も折に触れて一人ひとりに声を掛け、進捗を確認する。こうした、担当者による温かくも粘り強い活動を10年間続けてきたことこそが、高い受講率と修了率を達成してきた最大の要因だろう。近年は、毎日のように声掛けをしなくとも受講率を維持できており、通信教育の受講が“当たり前の学習”として根づいている。

人材育成の幹をつくる

■事業環境の変化を重ねてきた歴史
同社は1981年にサンド薬品株式会社埼玉工場(現・川越工場)として稼動後、何度かのM&Aを経て、2014年4月にエーザイ株式会社の美里工場を買収し、現在の2工場体制となった。
人材育成も時代ごとにさまざまな施策を行ってきたが、2つの工場共に教育への意欲は高く、通信教育制度は継続的に実施されてきた。
同社の人材育成の歴史について初鹿氏は、「その時々の担当者の出身企業のカルチャーが反映され、全体としての一貫性に欠けている」と、問題点を指摘しながらも、今後に自信をにじませる。
「弊社の人材育成は、土台はしっかりしているものの、全体を俯瞰すると、1枚の布に形づいてはいるが、パーツの色や形がバラバラなパッチワークの状態です。昨年、人事総務部が設置され、計画的な人材育成に取り組む基盤が整いましたので、我々が明確なメッセージを打ち出すことができれば、パーツを支える幹をつくり出すことは難しくないと感じています」(初鹿氏)

人事総務部人事課 渡辺宏紀氏

■「変革」の新時代を築く
「変革」をキーワードに成長をめざす同社。その実現には、一人ひとりのコアとなる考え方やポリシーを鍛え上げることが欠かせない。
「“まじめにコツコツ作り続ける”という従来の意識から、1つ上のステージを、お客様である製薬メーカーから求められています。さらに上を追求するためには、一人ひとりが企業理念から働く姿を明確にイメージできるように、“何がどうあるべきなのか”というビジョンと社員をつなぐメッセージを打ち出していかなければなりません」(初鹿氏)
さらに初鹿氏は、「企業で働くことは、歯車の1つとなることだ」としながら、単なるパーツにとどまらないことの重要性を説く。
「“さらに強く回ろう”と歯車が意思を持って動いた時、計り知れないほどの大きなパワーを生み出すでしょう。だからこそ、“もっと力を込めてこっちに回るんだ”と、一人ひとりがあるべき姿を考え、役割を明確に理解し、力強く進むことができるような仕組みづくりが大切なのです」(初鹿氏)
今後は、さらなる成長をめざして、“考えて動くことのできる人材”への変革を図る。
「たとえ厳格な法規制やルールの壁があっても、“ではどうしたらいいのだろうか”と、もう一歩踏み込んで考え、パラダイムシフトができる人材の育成に注力していきます」(渡辺氏)
従来と同等以上の品質レベルを保持しつつ、コストを含めたあらゆるサービス面で圧倒的な優位性を持つプリファードベンダー(優先的な委託先)をめざす同社。今後どのような教育を展開していくのか、その「変革」に注目したい。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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