導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

サンケン電気株式会社

イノベーションを起こせる組織を目指し、ダイバーシティ&インクルージョンを推進

パワーエレクトロニクスを中心に多様なソリューションを提供するサンケン電気。ダイバーシティを推進する同社は、2013年、上司を巻き込み女性社員を育成する研修をスタート。また、同年の高年齢者雇用安定法の改正に伴い、再雇用制度を見直すとともに、50歳を対象としたキャリアデザイン研修を導入しました。いずれの研修も現在まで継続して取り組まれています。一連の取り組みのねらいや経過などについて、人材開発センター長の斉木政美氏に伺いました。

サンケン電気株式会社
会社名
サンケン電気株式会社
プロフィール
1946年、(財)東邦産業研究所の半導体研究室を母体に設立。デジタル機器や自動車等の内部で行われる電力変換・制御の中核となるパワーエレクトロニクス技術をコアに、半導体製品や電源装置などを提供。高い技術力や品質の信頼性が認められ、幅広い製品で世界トップクラスのシェアを誇る。
目次

人材開発センター長インタビュー 斉木 政美 氏

人材育成ポリシーに
ダイバーシティ推進を明記

管理本部 総務人事統括部
人材開発センター長
斉木 政美 氏

当社は2015年4月に人事部を再編し、人材育成により注力していくために人材開発センターを創設しました。その際に、「目指す社員像」と「人材育成ポリシー」を以下のように整備しました。
●目指す社員像(一部抜粋)
・変革力でこれまでの文化、行動、スピードを変えて、新たな価値を創造していく人材
・経営理念と行動指針を具現化して、ダイバーシティに富んだチームをリードできる人

●人材育成ポリシー(一部抜粋)
・国籍、人種、年齢、性別、障害、価値観に関わらず、さまざまなキャリア機会を提供し、ダイバーシティの推進に取り組み、イノベーションを促します

このように我々は、ダイバーシティを人材開発における重要な戦略テーマとして捉えています。当社はこれまで、ダイバーシティが進んでいる状況ではありませんでした。しかし、ビジネスにイノベーションが求められるようになる中で、女性や外国人をはじめ、多様な社員がビジネスの前線に出ることによって、社内に変化を起こすことを期待するようになりました。考えや価値観の異なる社員が積極的に交わり、良い意味での摩擦が起こることによって、変革につながる土壌ができると考えており、そのための環境づくりに取り組んできました。

トップ自ら率先して 女性活躍推進に取り組む

社内で早くから取り組み始めたのが、女性社員の活躍推進です。09年、当時、グループ会社の生産部門を統括する生産本部長を務めていた現社長が、各工場で働く女性に対する女性活躍推進の取り組みをスタートしました。それまでは、職場での女性の役割は限定される傾向がありました。そのため、より責任ある業務を任せることで、女性たちに活躍してほしいという考えがあったのです。各工場から選抜した女性社員を集め、女性の課題を解決するための取り組みを定期的に行ってきました。
2012年からは本社が中心となり、女性社員を管理職に引き上げていくための取り組みを本格的にスタートさせました。当時はまだ、女性管理職はわずかしか存在していませんでした。そこで、選抜した女性社員とその上司を対象に、意識改革のための研修を行うことから始めました。

制度と研修の両面から シニアの活躍を支援

シニア社員の活躍支援もダイバーシティ推進のための取り組みの一つです。当社の再雇用率は大変高く、再雇用後もモチベーションを維持してもらうことが課題でした。
そこで、2013年の高年齢者雇用安定法の改正を機に、JMAMさんの協力を得て再雇用制度の見直しを行いました。従来は一般業務職と高度専門職の2つしかなかった職務を、定年前の資格、評価を反映し、再雇用後に期待される4つの役割・職務に区分する形に改めました。また、従来は一律だった報酬額も、評価や業績で差をつけ、それまではなかった昇給も、社員と同様に目標管理制度による1年間の評価を踏まえて実施するようにしました。
このように、社員の頃と同じように頑張れば報われる制度に改めたことで、再雇用後のモチベーション向上につながっています。
もう一つの取り組みが、50歳を迎える社員を対象とした「50歳キャリアデザイン研修」です。2013年からの約10年間は、当社の年齢構成のボリュームゾーンが50代になり、この世代を安定した戦力として活用していくことが重要になります。そこで、65歳までの15年間、どのようなキャリアを築いていくか、自身のライフプランも含めて考える機会として、この研修を毎年開催しています。
こうした取り組みを通じて、社内のダイバーシティは徐々に進みつつあります。異なる持ち味をもつ社員の組み合わせによる相乗効果で、1+1が3にも4にもなるような状態にしていくことが今後の課題です。

女性活躍推進の取り組み

各職場から管理職候補を選抜、3年かけて上司と二人三脚で成長

■まず上司が研修を受け女性支援の意識・方法を学ぶ
当社では、将来管理職の見込みのある若手女性社員を、グループ会社も含めた各職場から毎年20名弱選抜して研修を実施しています。3年間をかけて、本人のキャリアマインドを醸成するとともに、管理職になるために必要なスキルや経験を身につけていくことを目的としています。2013年に第1期が開催され、現在第4期まで開催されています。
選抜した女性社員への研修を実施する前に、まず上司を対象とした研修を行います。ここで上司は、女性活躍推進の意義や、女性社員のやる気と意欲を引き出すコミュニケーション、育成・支援のあり方、関わり方などを学び、最後に女性社員育成・支援に向けた行動宣言を行います。そして、研修で学んだことを活かして、女性社員の成長を日常的に支援していきます。

■ストレッチした業務を与え上司が支援しながら育成
女性選抜メンバーへの研修は、2日間の「女性社員向けキャリアマインドとコミュニケーション研修」から始まります。ここで、自分のありたい姿を明確にし、今後のキャリアの方向性を整理し、3年後の自分をイメージしながらキャリアアクションプランシートを作成します。その後は作成したプランに基づき、OJT中心にスキルアップと経験を積んでいきます。上司は、本人の資格等級よりも一段上のストレッチした業務を与え、遂行を支援します。半年ごとに開かれる報告会にはグループ会社も含む社長が出席し、その場で上司と本人からの進捗報告に対してフィードバックを行います。社長の前での報告は、本人・上司ともに大きな刺激となるようです。この取り組みを3年間行い、その後さらに7年間をかけてフォローしていきます。
研修参加者からは、「自信をもって仕事に取り組めるようになった」という声が多く挙がっています。また、参加者の中から課長職も数名生まれており、研修効果は徐々に表れているようです。第4期では初めて立候補での参加者も募集し、数名の応募がありました。回を重ねるごとに、この取り組みが浸透し、職場の雰囲気を少しずつ変えることにもつながっているようです。

受講者の声

川上 奈由波 氏
生産本部 ものづくり技術統括部
生産改革部 チップ原価低減課長

■一人で仕事に没頭するスタイルから 組織で力を発揮することに意識が変わった
1期生に選抜されて3年の研修期間を終え、今年、3人の部下を持つ課長に昇進しました。
選抜された当初は、「将来どうなるかわからないので期待されても困る」と感じていました。研修に参加して良かったと思えるようになったのは、2年目を終えた頃です。研修の一環として、山形の工場に1年間出向し、初めて部下をもち、部署を立ち上げる経験をしました。それまでの私は、一人で仕事に没頭するタイプでした。しかし、出向を転機に視野が広がり、チームで成果をあげることや人の育成などに意識が向き、マネジメントに関心を持つようになりました。
今から振り返ると、以前の私は無意識のうちに男性社会に合わせようと、男性のように働いていたように思います。しかし、研修を通じて、男女問わず、一人ひとりが持てる力を発揮できるようになればいいと思えるようになりました。今後は、自部署のメンバー一人ひとりの特性に合った力が引き出せるようになりたいと思います。

朴 孝靜 氏
技術本部 AMBD
海外車載部

■研修を通じてリーダーシップ力を高め海外支店のセンター長を目指す
海外向け車載製品のマーケティングや製品企画を担当しています。私は、研修の第4期生に立候補しました。もともと、一般社員として与えられた仕事をやるだけではつまらないという思いがありました。また、1期生の先輩から、活動内容も聞いており、ぜひ参加したいと思ったのです。
研修参加を通じて、最も成長を実感しているのはプレゼンテーション力です。人前で発表するのは苦手でしたが、年に2回ある報告会で社長の前で発表したり、業務においても展示会で発表する機会を頂いたりしたことで、徐々に慣れてきました。
製品企画では、社内外のさまざまな人たちを説得して動かしていく必要があります。そのためのリーダーシップ力を身につけることが現在の目標です。将来は、身につけた力を発揮して、海外でも周囲を動かして受注を獲得できるような存在になりたいと思います。韓国支店のセンター長になることを目指して頑張ります!

コンサルタントの視点 株式会社クオリア 代表取締役 荒金雅子

荒金雅子
株式会社クオリア 代表取締役

■継続的な 本気の取組だけが 変化を引き起こす
サンケン電気様の女性活躍推進は、成果にフォーカスした本気の施策だといえます。すでに、このプログラムにより女性課長が数名誕生し、若手女性達のロールモデルやメンターとなる社員も育ってきています。その特徴をあげると3つあります。1つめは、単発の取組ではなく、3年間の研修後に7年間フォローを継続するという長期的なプログラムとなっている点。2つめは、女性活躍推進の成功の鍵を握る上司と部下双方に対し研修を行った後、上司が仕事を通して実践で鍛える点、そして3つめは、経営陣の強いコミットメントのもと定期的に報告会を行い、成果を確認している点です。これらの施策を組み合わせることで、上司は女性部下への信頼と期待を深め、経験や機会を与える場面が増えていきます。女性も自信と積極性を身につけ、組織影響力を発揮し会社へ貢献する人材へと育っていきます。
今後は、ダイバーシティ推進の意義を改めて認識しながら、働き方の変革やイノベーションを生み出す風土づくりと女性活躍推進施策を連動させることで、さらなる相乗効果を発揮することが期待されます。

シニア活躍推進の取り組み

これまでの自分を振り返り、これからのキャリアを考える機会に

原 哲郎 氏
管理本部 総務人事総括部 人材開発センター マネジャー

■50歳以降の15年間を いかに意欲的に過ごすか
50歳キャリアデザイン研修は、50歳を迎える社員を対象とした2日間のプログラムです。JMAMさんに講師を依頼し2013年度より毎年実施しています。また、2016年からは、同様の研修を1日プログラムにして、グループ会社の50歳を迎える社員にも実施しています。こちらは内製化し、私が講師を担当しています。そのために、私自身も50歳キャリアデザイン研修を受講しました。
当社では、2013年に高年齢者雇用安定法が改正される以前から、定年退職する社員の9割以上が再雇用を選択していました。会社としては、60歳を過ぎても戦力として活躍してほしいですし、ベテランの暗黙知を次世代に継承してほしいという思いがあります。そこで、社員が50歳を迎える時点で、65歳までの15年間のキャリアプランについて考える機会を設けることにしました。
再雇用を選択する人が多ければ、必ずしも皆が再雇用後もそれまでと同じ仕事を継続できるとは限りません。したがって、自分の周りに起こりうるこれからの変化を想定し、どのように対処していけばいいかを考察してもらうというねらいもあります。

■公正(フェア)な制度運用をしつつ、 一人ひとりがやるべき仕事を
研修では、キャリアを考える観点として、MUST(役割)・CAN(能力)・WILL(動機)について紹介します。これら3つの輪が、中心できれいに重なり合うようにするのが理想です。その理想の姿に向けて、自分の強みを理解し、将来に活かすとともに、今後どのようなスキルを蓄えていくか。それを、自己分析や参加者との討議を通じて考えていきます。
また、自分の能力・スキルを「専門性」と「汎用性」に分けて考えます。専門性は、その仕事をするために必要な能力であり、汎用性はあらゆる仕事に必要なスキルです。同じ職場が長い専門職ほど、汎用性スキルの重要性についての意識が低い人が多い傾向があります。どんな職場でも求められる、汎用性スキルの必要性に気づくきっかけが得られます。
私自身、30年以上海外営業を担当してきましたが、60歳がそれほど遠くない時期に管理本部に異動になり、法務や教育など、それまでと全く異なる業務に就き、そこでの業務遂行を支えてくれた汎用性スキルの重要性を、身をもって知りました。それだけに、50歳になるタイミングで、スキルの棚卸しと、今後のキャリアに必要なスキルを考えることは、とても大切だと思います。
この研修は、残りのキャリアについて、ライフプランも含めて、腰を据えて考える良い機会です。同年代の他のメンバーと意見を交わす中で、今まで知り得なかった他者の価値観や考え方に触れることは、参加者に新たな気づきをもたらすきっかけになります。

受講者の声

大森 保一 氏
技術本部 技術管理課 Lプロジェクト推進チーム チームリーダー

■これまでの経験から得たことを 次の世代に教えていきたい
この研修で一番良かったのは、他の参加者とざっくばらんにいろいろなことを話せたことです。同年代としての共通点が多い反面、職場が異なるため知らないことも多く、話題に事欠かなかった感じがします。他の参加者からさまざまな助言をもらいましたが、同年代のためか、(そういう見方もあるのか)と、すんなり受け容れることができました。また、これまで自分と接点のなかった部署の話は、仕事の視野を広げる意味で勉強になりました。
研修に参加するまでは、目の前のことしか考えていませんでしたが、これからのキャリアについて初めて考えるきっかけを得ました。そして、自分がこれまでしてきた経験を、次の世代に教えていかなければいけないという思いを強くしました。それが、研修で得られた最大の成果です。私は営業部門と技術部門の両方を経験させてもらっているので、広いものの見方について、後輩たちに教えていきたいと考えています。

佐藤 ゆかり 氏
生産本部 LED統括部 市場戦略課

■キャリアの棚卸しで 自分の強みを再確認できた
研修では、異なる職種の人たちとグループを組んで課題に取り組みました。同じ社内でもさまざまなタイプの人がおり、1つのテーマでも取り組み方がこんなに違うものかと新鮮でした。普段接することのないメンバーとディスカッションでき、得るものは大きかったです。
これまで、自分のキャリアを棚卸しした経験がなかったので、良い機会になりました。私の場合、管理本部、品質管理、営業、生産管理など多様な職場を経験させてもらいましたが、それだけ幅広い人間関係ができ、「誰が何を知っているか」を知っていることが私の強みであることを、改めて確認できました。
これまでの仕事の中で自分が培ってきたことは、どんどん若い世代に伝えて、会社を支えていきたいと考えています。そして、これからの10〜15年、自分の強みをさらに活かして会社に貢献していきたいと思います。

コンサルタントの視点

左から
シニアHRMコンサルタント 加藤 宏未
パートナー・コンサルタント 金子 誠二

■全体の視点を踏まえた シニア活躍の しくみづくり
当初、シニアの活躍・処遇といった局所的な話だったのが、そこを起点とした現役世代のキャリア開発や活躍のフィールドづくり、といった大きな視点で捉えなおされていったのが印象的でした。それにより、施策同士の位置づけが明確になり、個々の施策に推進力が生まれました。ご支援を通じて、会社全体としての人材活用の視点を持ちながら、人材開発や処遇の施策を配していく重要性を再認識しました。

シニアHRMコンサルタント
小林 智明

■50歳からの キャリアに 真剣に向き合う場
以前のシニアキャリア研修は、ネガティブにとらえられたり、福利厚生的な観点で行われたりすることが多かったのですが、昨今では状況が全く異なります。シニア自身も前向きですし、会社もシニアに高い期待を寄せています。サンケン電気様では、このトレンドをいち早く取り入れられました。研修では、参加者の皆さんと、新しい仕事へのチャレンジや活躍への心構えを真剣に考えます。
皆さん、気づきという名のおみやげを持ち帰っています。

取り組み概要

※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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