導入事例

社員の能力開発や学ぶ風土づくりに
積極的に取り組む企業を取材しました

株式会社博報堂DYアイ・オー

障害がある社員のリーダー育成に公開セミナーを活用

博報堂DYホールディングスの特例子会社、博報堂DYアイ・オーは、「日本一働きがいのある特例子会社」を目指し、障害がある社員の能力開発・キャリア開発に注力しています。その一環として、2016年に公開セミナー「JMAMビジネスカレッジ」を導入し、次世代リーダーの育成に役立てています。公開セミナーを導入した目的やその効果などについて、人材開発部 部長の山口純恵氏に伺いました。

株式会社博報堂DYアイ・オー
会社名
株式会社博報堂DYアイ・オー
URL
http://www.hio.co.jp/
プロフィール
株式会社博報堂の特例子会社として1989年に設立。2006年に株式会社博報堂DYホールディングスの特例子会社となる。主に、博報堂DYグループ各社の間接部門、スタッフ部門業務を受託・受注し、グループ内のシェアドサービス領域で貢献。社名の「アイ・オー」は、業務のベースとなっているInput/Output(入力・出力)の頭文字から取られている。従業員:156名、うち障害者83名(2017年7月現在)
目次

人材開発部 部長インタビュー 山口 純恵 氏

異業種交流を通じて社員の視野を広げたい

山口 純恵 氏
人材開発部 部長 兼
ダイバシティ推進課 課長

■障害がある社員の能力・キャリア開発に注力
当社は、「日本一働きがいのある特例子会社」を目指すことを経営理念に掲げています。障害者の法定雇用率が段階的に引き上げられる傾向にある中で、企業間の人材獲得競争は激しさを増しており、障害者に働きがいを感じてもらうための環境整備や支援は、ますます重要になっています。
そうした中で、当社は2014年に人材開発部を新設し、社員の能力開発・キャリア開発のためにさまざまな施策を検討・実施し、一人ひとりの自律的な成長の支援に力を入れています。具体的には「ES*1最大化」をテーマに、次のような施策を展開しています。
・階層別教育プログラム…新入社員研修、管理職者向けの評価者研修など
・職種別教育プログラム…業務能力向上のための資格取得費用を補助する能力開発支援制度など
・キャリア開発プログラム…キャリアカウンセラーによるキャリア相談、個人の成長を目的としたキャリア異動、ホームステイ研修(一定期間、異なる部署・グループに配属する実務体験研修)など
また、ダイバシティ推進施策として、障害者社員の合理的配慮*2相談窓口の設置や、多様な人材が働きやすく持っている能力を存分に発揮できる環境の実現を目指す「ダイバシティ・インクルージョン推進委員会」の運営、特例子会社の異業種交流会や定例会への参加など、多様な取り組みを行っています。

■管理職や次期管理職候補者の育成プログラムとして導入
その中で、管理職に加え、グループリーダー、チーフなどの次期管理職候補を対象とした階層別プログラムとして導入したのが、異業種交流型の公開セミナー「JMAMビジネスカレッジ」です。
当社の社員の業務の中では、社外の人と接する機会があまり多くありません。従来は、実務経験を積めば能力や業務効率は高まると考えられてきました。しかし、効率やマネジメント能力をさらに高めるには、会社という“箱の中”だけで物事を考えるのではなく、異業種交流を通じて外部から刺激を受け、視野を広げることが必要だと感じていました。そんな中、公開セミナーのことをお聞きし、ぜひ社員を受講させたいと思ったのです。
そこで、人材開発部にて、管理職や次期管理職候補者の中から15名を選び、それぞれに適切と思われるコースを決めて、参加してもらいました。

■社内研修よりも思い切って取り組める
私自身も、公開セミナーで「【MBI】改革を実現するマネジメントシミュレーションコース」を受講しました。社内で研修を行うと、一緒に受講するのは顔見知りのメンバーのため、真面目に取り組もうと思っても、どうしても馴れ合いになってしまうところがあります。
その点、公開セミナーの受講者は、その日初めて会う人ばかりなので、気構えが違いますし、思い切って取り組むことができます。
私の場合、人前で発言することがあまり得意ではないのですが、この機会を利用して、グループワークでは積極的な発言を心がけました。そのせいか、最後に同じグループの人から「場の雰囲気を盛り上げてくれてありがとう」という言葉を頂きました。そのおかげで、苦手意識が弱まり、人前で話をすることに少し自信がついたように思います

■課長やグループリーダーに昇格した受講者も
社内の他の受講者からも、社外の人と交流することによって、社内では得ることのできない気づきやアドバイスが得られたといった感想を聞くことができました。公開セミナー受講者の中には、今年度、課長やグループリーダーに昇格した者もおり、セミナーで学んだことを職場で役立てているようです。
今回は人材開発部が社員を指名し、指定したコースを受講させる形でしたが、同じような形で毎年繰り返すと、社員にとってセミナー受講が義務になってしまいかねません。会社からの指示で受講するよりも、自発的に受講する方が、プラスになる部分は大きいと思います。そのため、今後は社員が希望のコースを自発的に受講できる仕組みに見直し、社員の自律的な学習をさらに働きかけていきたいと考えています。
1:ES=Employee Satisfaction(従業員満足)の略。
2:合理的配慮とは、障害のある方々の人権が障害のない方々と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせて行われる配慮のこと。

受講者インタビュー

公開セミナーで学んだことを活かし、働きやすい職場をつくっていきたい

井波 由希 氏
業務4部 博報堂プロダクツ経理受託課 課長 聴覚障害 2000年入社

業務4部
博報堂プロダクツ経理受託課 課長
井波 由希 氏
[受講コース]
・【N-LDC】仕事と人をリードする職場リーダー能力開発コース
・【CKM】コミュニケーションとキーパーソン・マネジメント

■一緒に受講した人からのアドバイスが新鮮だった
公開セミナーの内容はとても興味がありましたが、人見知りで、初対面の人と話すのが苦手なため、参加に不安がありました。私は自分の考えを説明するのが少し苦手です。その課題を克服する為に前向きな気持ちで参加しました。
グループワークを一緒に行う人数も3人と小規模で、手話通訳が見にくいようなこともなく、学びやすかったです。また、一緒に受講した皆さんも配慮してくださいました。昼休みには、同じグループの人たちと筆談でいろいろな話をして盛り上がり、貴重な経験でした。
私は自分が言いたいことを言わずに溜めてしまうタイプなのですが、そんな様子を見た同じグループの人から「言いたいことがあれば、自分の中に溜めないで、言った方がいい」とアドバイスを頂きました。参加者から言われると、また違った視点があることで、新鮮な気持ちで受け止めることができました。

■壁にぶつかった時はセミナーの資料を読み返す
今年(2017年)4月に課長に昇格しましたが、セミナーで学んだことが役立っています。例えば、部下に指示をした時、相手が不満を抱く場合があります。そんな時は、自分の考えを伝えるだけでなく、相手の意見も聞くことが必要だと学び、普段から心がけています。
また、セミナーで頂いた資料は、仕事で壁にぶつかった時などに読み返しています。聴覚障害者は、セミナー中はずっと手話通訳を見ていますので、得られる情報には限りがあります。ですから、終わった後に振り返ることができる資料があることはとても有難いです。
課長としての今後の課題は、職場のメンバーが何でも言い合えて、気持ちよく仕事ができる環境づくりです。部下の喜怒哀楽を受け止めることができ、自分の喜怒哀楽もきちんと出せるのが私の理想の課長像です。セミナーで学んだことを活かしながら、職場のメンバーが働きやすい職場をつくっていきたいと思います。

他の受講者からのアドバイスでコミュケーションが改善できた

安倍 ちひろ 氏
経営計画管理室 経営計画管理課 人事採用グループ 聴覚障害 2004年 入社

経営計画管理室 経営計画管理課 人事採用グループ
安倍 ちひろ 氏
[受講コース]
・【CKM】コミュニケーションとキーパーソン・マネジメント

■公開セミナーでは初対面でも遠慮なく話ができる
入社以来、ずっと経理関係の業務に就いてきましたが、昨年(2016年)1月から人事採用担当となり、採用面接なども行っています。
上司から公開セミナーの話を聞いた時は、コミュニケーションがテーマということで、将来のキャリアを考えた上でも、外部の研修に参加することに興味があり、前向きな気持ちで参加しました。公開セミナーの良いところは、初対面の人とも遠慮なく話ができることです。また、普段あまり接点のない業種の仕事や職場環境などについて聞くことは勉強になります。
今回のセミナーは、講師の方がとても明るく、私の性格を捉えて的確なコメントをくださったことが印象的でした。

■コミュニケーションに関する課題解決のヒントが得られた
私には、コミュニケーション上の課題があります。職場では、手話や筆談でコミュニケーションを取るのですが、手話の読み取り間違いなどで、伝えたいことが思うように伝わらないこともあります。そこで、セミナーで他社の方に、コミュニケーションのズレについて話してみたところ、話の最後に「どう思う?」と相手に意見を求めてはどうかというアドバイスを受けました。それ以降、職場で話をする時は、一方的に伝えて終わりではなく、「どう思いますか?」と意識的に相手に聞くことで、互いの認識のズレがないか、伝えたい意図がきちんと伝わっているか認識できるようになり、とてもよいアドバイスをいただいたと感謝しています。
もう一つの課題は、仕事が忙しい時に、短く簡潔に伝えられるスキルを身につけることです。そのために、事前の準備とともに、講師の方が仰っていた、論理的に話す習慣を身につけたいと思います。

初対面の人たちとグループワークで自分の課題に取り組むことができた

土肥 真人 氏
業務2部 ITサポート課
課長 上肢障害 2008年 入社

業務2部
ITサポート課 課長
土肥 真人 氏
[受講コース]
【N-LDC】自分の考えを人を動かして実現するリーダー養成コース

■自分の知らない世界に触れることができる機会
本格的な公開セミナーに参加するのは初めてのことで、他の会社からは、一体どんな人が参加するのだろうと少し不安でした。いざ参加してみると、その不安は払拭されました。営業や製造など、普段接することのないような職種の人たちとグループワークをしましたが、自分と異なる物の見方や考え方を聞くことができて、「そういう発想もあるのか」と勉強になりました。
現代はインターネットの影響もあり、自分が見たいものしか見ない傾向があるように思います。それに対して、さまざまな会社の人たちが集まる公開セミナーは、自分から見にいくことのない世界を見せてもらうことができ、それが新たな気づきにつながったりもする。こういう機会はとても貴重だと思います。

■初対面の人たちだからこそチャレンジできる
事前に受けたアセスメントの結果にも出ていましたが、私にはマイナス思考なところがあり、人の良い面よりも悪い面を見てしまう傾向があります。また、人の話を聞いても「ああ、そうなんですね」と言って話を終えてしまい、相手に「拒否されている」と感じさせてしまうところもあります。今まではそれでやってこれたとしても、管理職になれば、そのままではやっていけません。そのため、このセミナーでは、そういう自分の癖をなんとかしたい、という気持ちがありました。
そこで、グループワークでは、いつものように「そうなんですね」で話を終わらせず、「なぜ、そういうことなんでしょうかね」と確認の意味で聞くように心がけました。同じセミナーを、社内で顔見知りのメンバーと受講していたら、いつもと同じように行動していたでしょう。普段の自分を知らない人たちだったからこそ、試してみることができたのだと思います。また、他の参加者も言っていましたが、初対面だからこそ話せることもあります。こうした面も公開セミナーの良さだと思いました。
今年(2017年)4月に課長になりましたが、セミナーで試したように、職場では自分から声をかけて話を聞き、相手を理解するように心がけています。

公開セミナーで得た気づきを参考に自分なりのリーダー像を築いていきたい

坪井 裕 氏
業務2部 データ情報課
データ・名刺グループ
グループリーダー
上下肢障害 2010年 入社

業務2部
データ情報課 データ・名刺グループ グループリーダー
坪井 裕 氏
[受講コース]
【N-LDC】自分の考えを人を動かして実現するリーダー養成コース

■社外の人たちの考えに触れ自分の視野を広げる機会に
今年4月からグループリーダーを務めています。受講したのは「リーダー養成コース」ですが、自分はリーダーには向いていないと思っていましたので、「場違いなところに行かされるな」という気持ちで、おっかなびっくりで参加しました。
それに私は初対面の人と関わるのが苦手なため、公開セミナーのような場は得意ではありません。しかし、社内に留まっているばかりでは、自分の世界が狭まり、他者との感覚のズレに鈍感になっていくように思います。それだけに、社外の人の話を聞いたり、考えに触れたりする機会は、視野を広げるために大切だと思います。
また、毎日仕事をしていると、同じことの繰り返しになってしまいがちです。時には職場を離れて、こうしたセミナーに参加することで、普段の仕事のやり方について、立ち止まって考えることも必要だと感じます。

■リーダーのタイプは1つではないと気づいた
さまざまな業種や職種の人たちと一緒に受講して感じたのは、キャラクターは人それぞれ全く違うということです。無理に他の人と同じように振る舞わなくてもいい、自分に合ったやり方でやればいいと思うことができ、リーダーという役割に対して、少し肩の力を抜いて考えられるようになりました。
セミナーで見た動画には、自ら先頭に立って引っ張っていくリーダーと、部下に仕事を任せて育てていくリーダーの二つのタイプが描かれていました。グループリーダーとしての自分のスタイルについては、まだ手探りの状態ですが、セミナーで学んだことや、一緒に受講した異業種の人たちの考え方、やり方なども参考にしながら、自分なりのスタイルを見つけていきたいと考えています。
まずは、業務を円滑に進めるために、職場のメンバーから信用を得られるように意識しながら、日々の業務に臨んでいます。※掲載内容やご登場いただいた方の役職は取材当時のものです

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