教育・研修プログラム設計

従来のカリキュラムから考えるといった習慣から脱却し、設計思想を持って自社の課題やありたい姿の実現にむけた教育設計をするためには、どのような進め方が有効なのでしょうか。人材マネジメントの全体像を踏まえ、自社なりの教育設計を描くためのポイントを紹介します。

いま、こんな課題はありませんか?

  • 自社の課題や実施目的を踏まえた教育設計をするための基本ステップが知りたい
  • 効果的な教育設計・構築ができるようになりたい
  • 実施している研修の見直しをするにあたっての視点や留意点を知りたい
  • 自社なりの研修プログラムをつくりあげたい

ポイント解説 人材育成をトータルシステムとして捉える

さまざまな育成課題を解決し、経営目標を達成するためには、人材育成を単独で実施するのではなく、人事諸制度や経営諸施策との関連性を持たせてトータルに展開することにより、その期待に応えることが出来るようになります。
すなわち、経営理念やビジョン、戦略・方針を踏まえた人事理念やその実現にむけた人材育成方針および人材育成の目的、期待などを定め、それに基づいた「能力開発体系」「教育体系」「教育計画」を策定することが大切です。その上で、期待する人材の確保・採用から育成、活用、評価、処遇までの人材マネジメントを、さまざまな制度や施策との連動を図って実施することが重要です。

人材マネジメントシステムの全体構造

トータルシステムではない教育の特徴

人材マネジメントのトータルシステムになっていない教育とはどのような特徴が見られるのでしょうか。ここでは5つの特徴をあげて企業や個人に及ぼす影響について紹介します。

(1)思いつきの教育やその場対応の教育になっている
(2)中長期視点の欠落、教育方針との整合性が見られないなど、体系的・計画的・長期的視点になっていない
(3)育成の方向が定まらず、単発の教育になっている
(4)予算不足による限定された教育、あるいは予算消化の教育になっている
(5)経営や現場のニーズとの乖離、教育とOJTの連動不足、目標管理や人事評価との関係性が低い、将来必要となる能力習得が期待できない可能性がある

このような望ましくない教育が長期間続いた場合、教育効果が高まらず、慢性的な人材不足や期待する人材への成長が見込めないなどの影響が中長期的に発生すると言われています。このような状況を打開するためにも、人材育成上の課題を明確にし、教育による解決が適している課題については教育目的やゴールを定めて対応策を検討することが必要です。また、常に変化する経営環境にふさわしい戦略や方針に基づいて、諸制度との連動を図って効果的な育成施策を展開することが大切です。

トータルシステムではない教育がもたらす影響

成長支援の方向性 人事教育担当者が押さえたい教育設計の手順

人事教育担当者の重要な仕事の1つに「教育設計」があります。教育に対する期待や要素が高まり、その範囲ややり方も複雑になっている中、教育設計のスキルは人材開発担当者にとって必要不可欠といえます。
ニューノーマル時代においては、ビジネスパーソン1人ひとりが期待される行動(アウトプット)を実現するために、日々のプロセスから学びを深め、自律的に成長していくことが求められます。そのような人材を多く輩出するためにも、教育設計は「もっと主体的・効果的に時間を有効活用すること」をめざしていく必要があります。つまり、従来のカリキュラムか教育設計の手順は大きく「分析」「設計」「開発」「実施」「評価」の5つのフェーズから成り立っています。教育の効果測定の必要性が高まる一方であるので、教育設計フェーズの上流工程でゴールを設定して、教育の評価方法を選定しておくことがポイントとなります。そして、教育のゴールに至ったかを確認する必要があります。ゴールに至らなかった場合は、その原因を明確にし、改善していくことで教育のPDCAサイクルを回すことが可能となります。
以下、「分析」「設計」「開発」フェーズにおけるポイントをご紹介します。
考えるといった習慣から脱却し、設計思想を持って教育を開発していく必要があります。

分析フェーズ

(1)関係者のニーズ分析
次工程の「コンセプトとゴールの設定」に結びつけられるために「教育設計仕様書」を活用すると便利です。「教育設計仕様書」の要素としては以下の8つがあります。
①トップや上司の参加者への期待
②会社のビジョン・会社方針
③企画担当者の視点(思い)
④参加者の期待役割
⑤業界動向・ベンチマーク
⑥参加者の教育履歴
⑦教育実施上の制約条件
⑧教育体系における位置づけ

設計フェーズ

(2)コンセプトとゴール設定
「教育仕様書」の8要素を眺めながら。どのような教育を行うのが望ましいかを考えることがコンセプトを決めるスタートとなります。次に参加者が教育受講後にどのような状態になっているかを決める「ゴール設定」をします。

(3)評価方法の選定
教育のコンセプトと制約条件、ゴールとの関係性が整理されて「教育設計仕様書」ができあがります。その次に行うことが、教育の効果を測定するために、その評価方法を選定することが大切です。一般的には以下の4レベルがあります。
①レベル1(意欲):参加者の反応を測定(必要性や意義を理解し、意欲の促進がなされたか)
②レベル2(学習成果):参加者の知識やスキルの習得状態を測定(目的の能力を身につけたか)
③レベル3(行動変容):参加者の思考や行動の変化を測定(実際に職場で活用しているか)
④レベル4(活動成果):参加者の組織貢献度を測定(学習内容を活用してビジネス性かを向上させたか)

(4)教育コースマップの作成
教育コースマップは、教育の全体像と展開手順、内容を示したものです。作成するうえでは、教育のゴールと内容が明確になっていることが前提となります。

(5)教育構成表の作成
教育コースマップをもとに、教育の流れを時系列化したものが「教育構成表」になります。「教育構成表」の要素として①主要プロセス(研修の単元)、②成果の確認方法(単元ごとの到達目標)、③運用ポイント(理解促進をするためのポイント)、④リソース(理論やツール)、⑤障害と対策(不測事態の備え)が挙げられます。開発フェーズでは、この教育構成表の作成に基づいて学習教材やレッスンプラン、カリキュラムの作成が行われます。

開発フェーズ

(6)(7)リソースの確保・学習教材の開発
「教育構成表」に記載されたリソース(理論やツール)内容に基づき、教育テキストやシート、ケースなどに転換されます。リソースが少ないときは教育テキストも新規で開発する必要がありますが、制作時間の短縮や学習内容の網羅性を考え、通信教育やeラーニングなどを有効に活用し、シートやケースのみ自社にあった内容にすることもお勧めです。なお、学習教材開発の場合などは著作権の配慮は最も注意が必要となります。

(8)レッスンプラン・カリキュラムの作成
教育コースマップや教育構成表の内容に基づいて、実施時間も含めた具体的なスケジュールに落とし込みます。通常はリソースの確保・学習教材の開発と同じタイミングで実施します。教育研修に期待されているのは、受講者が研修の目的やねらいをよく理解し、習得した知識・スキル、態度・意欲などの学んだことを職場に持ち帰り、仕事に活かして成果を上げることや考え方や行動がよい方向へ変化することです。そのような状態になるための道筋をつくるためにもレッスンプランの作成などは重要となります。

まとめ 社内外と連携した継続活動が成果を高める

教育設計を進めていく際は、新規・見直しに関わらず、基本フローに基づき自社の現状とありたい姿を整理・具体化していくことが有効です。加えて、経営陣を巻き込みながら進めていく、現場からの育成・教育ニーズを把握することにより、よい質の高い設計になります。ただし、一つひとつの研修プログラムを紹介した手順で作成していくことは時間と労力が必要です。そのためリソースを保有している外部パートナーと連携して進め、スピードと品質の両方を実現していくことも目的を達成するためには有効といえます。最後に研修プログラム設計に関するチェックリストを用意しました。自社の現状を把握する情報としてご活用ください。

チェックリスト