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- テーマ: 働き方
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EAP(社員支援プログラム)とは?導入方法や効果を高めるポイント

EAP(社員支援プログラム)は、企業におけるメンタルヘルスケア対策として注目されている取り組みです。離職率の低下や企業イメージの向上などを目的に、リスクマネジメントやCSR(企業の社会的責任)の一環として導入する企業が増えつつあります。
今回は、EAPの導入方法や効果・メリット、運用のポイントなどを解説します。
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EAP(社員支援プログラム)とは?
初めに、EAPの概要や誕生の背景から「EAPとは何か」を説明します。
EAPの概要
EAPは、「Employee Assistance Program」の略称で「社会支援プログラム」と訳されます。発音は「イーエーピー」または「イープ」です。従業員の心身の健康と職場の生産性向上などを目的に、ストレス管理やメンタルヘルス不調者を支援するプログラムを表します。
EAPは、厚生労働省が2006年に策定した「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で紹介され、日本でも知られるようになりました。この指針では、メンタルヘルスケアの柱となる「4つのケア」の重要性が述べられています。
- セルフケア
自分自身でストレスに気付き、適切に対処することを意味します。職場の立場や役職を問わず、ストレス管理を学ぶ機会やストレスチェックなどを通じて、メンタルヘルス不調の予防に努めます。 - ラインケア
管理職が従業員の支援にあたることをラインケアといいます。従業員の様子の見守りや相談対応をはじめ、職場環境の改善、職場復帰に向けた支援などを行います。 - 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
産業医や保健師、衛生管理者、人事労務部門など、企業内の担当者が従業員のメンタルヘルスケアを支援します。必要な従業員に事業場外資源の利用を勧奨する役割も担います。 - 事業場外資源によるケア
外部の専門家が従業員のメンタルヘルスケアに従事します。外部の専門家であるため、社内には知られたくないことも相談できます。また、依頼に応じて管理職や人事労務担当者への助言や指導・教育のほか、企業へのコンサルテーションも行います。
このうちEAPは、一般に「事業場外資源によるケア」に該当します。
EAPが誕生したアメリカでは、職場でのパフォーマンス向上を目的に、メンタルヘルス以外にも下記のような問題をケアの対象とします。
- キャリア形成
- ワークライフバランス
- 家族関係、夫婦関係などの家庭内の問題
- 経済問題 など
出典:厚生労働省「EAP / 社員支援プログラム(EAP)」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-085.html
EAPが生まれた背景
EAPの歴史は、1950年代のアメリカから始まりました。当時のアメリカでは、第二次大戦の帰還兵たちのアルコール依存症や薬物依存が社会問題化していました。その対策として発展したのがEAPです。その効果が認められ、日本では1980年代後半から導入され始め、2000年頃に浸透していきました。
現在の日本は、グローバル化やデジタル化の進展、成果主義の導入などによる職場環境の変化で心理的な負担が増し、メンタルヘルス不調に陥る労働者が増加傾向にあります。
厚生労働省の調査によると、2020年の「精神疾患を有する総患者数」は約615万人にのぼり、2014年から約1.5倍に増加しました。「令和4年 労働安全衛生調査」では、82.2%の労働者が「仕事や職業生活にストレスを感じている」と回答しています。
出典:
・厚生労働省「個別事項(その6)精神医療について(その1)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001169812.pdf
・厚生労働省「令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf
こうした状況を背景に、従業員のメンタルヘルス不調は個人だけでなく、企業でも取り組むべき課題と捉えられるようになりました。その影響で、EAPをリスクマネジメントやCSR(企業の社会的責任)の一環として導入する企業は増えつつあります。
EAPを導入する効果・メリット
企業がEAPを導入する効果やメリットを紹介します。
離職率低下につながる
EAPの大きなメリットは、ストレス状態にある従業員を早い段階で支援することにより、離職の可能性を下げることです。
職場でのメンタルヘルス対策は大きく次の3段階からなり、早期の予防ほど健康障害のリスクや職場への影響、発生するコストを低減させるといわれます。
予防段階 | 内容 |
---|---|
1次予防 | メンタルヘルス不調を未然に防止する |
2次予防 | メンタルヘルス不調の早期発見と適切なケアを行う |
3次予防 | 従業員の職場復帰を支援する |
EAPを通じて企業から支えられている実感が得られれば、従業員の満足度やエンゲージメントも向上します。その結果、定着率が高まることで、新たな採用コストや教育コストを削減できる点も経営上のメリットといえます。
社内の人間関係や連携が円滑になる
EAPを活用することで、従業員が仕事上の悩みやストレスを相談しやすくなり、精神的な負担が軽減されます。その結果、従業員同士のコミュニケーションがスムーズになり、職場全体でお互いにサポートし合う風土が醸成されることもメリットです。
さらに、EAPを通して怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」に関するスキルを習得することも可能です。従業員が怒りのコントロールや対処法が分かれば、チームワークの向上だけでなく、自らの心身の不調も減らすことが期待できます。
企業イメージが改善される
離職率の悪化は、企業イメージを低下させる要素のひとつです。また、労働災害や過労死の発生によって悪い噂が広まることも、企業にとっては大きな社会的損失です。
近年は、従業員も含めたステークホルダーへの社会貢献によって「企業の社会的責任(CSR)」を果たすことが企業に求められています。さらには、企業を支える「資本」として人材の価値を引き出す「人的資本経営」の重要性も高まっています。
こうした状況のなかで、従業員の健康や成長を支援するEAPの取り組みは、株主に好印象を与えられるほか、顧客の獲得や競合他社との差別化にも効果的です。
加えて、特に若い世代は、ワークライフバランスやメンタルヘルスを重視する傾向があるため、EAPによる働きやすい職場づくりは採用面にもメリットをもたらすでしょう。
EAPを導入する方法
EAPを実施する方法は、大きく分けて内部EAPと外部EAPの2つです。企業によっては、これらを併用するケースもみられます。
内部EAPを実施する
内部EAPは、企業が自社内でEAPを提供する形態のことを指します。社内に常駐する産業医や保健師、カウンセラーなどが、従業員のメンタルヘルスや職場の悩み、ストレスに関する相談やサポートを行います。
日本では、従業員50人以上の企業で産業医の選任や年1回のストレスチェックの実施が義務づけられていますが、それも内部EAPの施策といえるでしょう。
企業側のメリット、デメリットは下記の通りです。
メリット | ・社内に窓口があるので、迅速に対応できる ・企業内部の状況や組織風土への理解が深く、実情に合ったアドバイスや支援、職場へのフィードバックができる |
---|---|
デメリット | ・専任の担当者を常駐させる分、人件費が発生するので外部委託よりコストがかかる ・利用者が少ない場合は、人件費がかさむリスクもある ・社内に情報が漏れる懸念から、相談を躊躇される傾向がある |
内部EAPは、一般的にEAPスタッフが社内に常駐しており、利用しやすいことが特徴です。
外部EAPを導入する
外部EAPは、社外の専門機関に相談窓口を委託する方法です。人材コンサルタント系、心理カウンセラー系、医療系など、組織の母体によって得意分野が異なります。
企業側のメリット・デメリットは下記の通りです。
メリット | ・スタッフを常駐させる内部EAPよりも、コストを抑えられる ・医師やカウンセラーなど、多様な専門家が在籍する組織が多い ・相談者の置かれた状況に合った専門家へ引き継いでもらえる場合もある ・外部の視点から社内環境のアドバイスを得られる |
---|---|
デメリット | ・企業内の情報や具体的な職場の状況などの把握が難しい ・社内との連携が薄い ・場所や利用方法によっては、従業員への利用をすすめにくい |
外部EAPは、身近ではない外部の専門家とやり取りするため、従業員にとって敷居が高く感じられることがあります。そのため内部EAPよりも利用されにくいのが特徴です。
外部EAPの効果を最大限に活かすためには、企業側が従業員に対して利用のメリットやプライバシーの保護に関する説明を十分に行い、アクセスしやすい仕組みを整えることが重要です。
EAPの導入前にしておくべき4つのこと
EAPの成功は、導入前の準備が鍵を握っています。続いて、EAPの導入前にしておくべき4つのポイントを解説します。
EAPの目的・利用方法を明確にする
EAPは、導入目的によってアプローチ方法が異なります。まずは導入目的を明確にして、適切な方法を選択しましょう。
導入目的は、「EAPでどのような問題を解決したいか」「達成したい目標は何か」といった視点で検討します。
例えば、下記のような導入目的が考えられます。
- セルフケアの啓発
- ハラスメント対策
- メンタルヘルスの不調に陥る従業員の低減
- 従業員のモチベーションと生産性の向上
- 社内環境の改善
- 企業のイメージアップ
また、具体的なEAPの利用方法には次のような内容が考えられます。
- 管理職を対象とした相談窓口
- 啓発を目的とした研修・セミナーの実施
- ストレスチェックと実施後のフォローアップ
- 管理者や人事労務担当者へのコンサルテーション
- 休職者・復職者の支援
- 災害時・緊急時のストレスマネジメント
EAP導入後の役割・フローを明確にする
導入前にEAP運用の役割分担と対応フローを明確にしておきましょう。それぞれが担う役割と具体的な業務内容や手順を関係者が理解することにより、スムーズな対応が可能となります。一般に、EAPの各関係者が果たす役割は次の通りです。
関係者 | 主な役割 |
---|---|
産業医 | ・専門的な立場からの状況の把握 ・長時間労働者およびストレスチェック結果で高ストレス者への面接指導 ・セルフケアやラインケアの支援 ・研修、情報提供などへの助言・指導 ・事業場外資源との調整 |
保健師 | ・従業員やその上司からの相談対応 ・保健指導 ・セルフケアやラインケアの支援 ・研修の企画や実施 |
衛生管理者 | ・産業医の助言・指導などを反映させた研修の具体的な企画や実施 ・相談体制の整備 ・セルフケアやラインケアの支援 ・事業場外資源とのネットワーク形成 |
人事労務管理担当者 | ・労働条件や労働環境、人材配置などの管理・調整 ・研修の企画や実施 ・事業場外資源とのネットワーク形成 |
管理職 | ・勤務状況の把握 ・相談対応 ・職場環境の改善 ・復帰支援 |
従業員 | ・セルフケア ・メンタルヘルスケアの研修、講座などを受講 |
主にメンタルヘルス不調者と関わるのは、直属の管理職や産業医、保健師、人事労務担当者ですが、多くの場合、衛生管理者や労働組合、衛生委員会なども社内連携に関与します。
EAPの円滑な運用のため、各関係者がメンタルヘルスケアの基本方針や互いの役割分担を事前に把握・共有しておくことが重要です。
ほかにも必要なフローとして、例えばストレスチェックや休職、職場復帰支援などがあります。対応の流れや互いに連携を取るべき関係者などを整理した上で、さまざまなケースを想定したフローを考えましょう。
外部EAPを利用する場合は、情報共有や利用者のアフターフォロー、緊急時の対応などの方法を事前に決めておく必要があります。情報共有や定期的なミーティングなどで連携強化に努めることが、外部EAPを有効活用するためのポイントです。
メンタルヘルスケアの重要性を周知する
従業員がいくらメンタルヘルスケアに取り組んだとしても、長時間労働やハラスメントなど、ストレスとなる要素の多い職場環境のままでは、思うような効果は期待できません。
メンタルヘルス不調を引き起こすような職場環境の改善は、企業全体で取り組む必要があります。EAPへの全社的な理解を得て、働きやすい職場環境を整備するためにも、導入前にメンタルヘルスの重要性を社内に周知しておくことが大切です。
具体的には、下記の方法が考えられます。これらを組み合わせてメンタルヘルスケアの効果やメリットを繰り返し伝えましょう。
- 朝礼
- 社内報
- 社内ポスター
- 社内メール
- 社内ポータルサイト
加えて、管理職への定期的な研修、講習もEAPの浸透・定着に役立ちます。なぜならラインケアに従事する管理職は、EAPの運用における重要な役割を担うからです。管理職の意識を高めることで、その部下の従業員もEAPを利用しやすい雰囲気が醸成されます。
JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)では、職場のメンタルヘルスケアについて学ぶ管理職向けのコースを提供しています。部下のメンタルヘルスの不調を早期発見・早期対応するポイントや復職の際の支援方法なども盛り込んだカリキュラムです。
詳しい内容は下記からご覧いただけます。
EAP導入のKPIを決める
実施後の費用対効果を検証するために、EAPの導入目的に合わせた評価指標としてKPIを設定しましょう。KPIは「数値で計測できるか」「具体的な目標か」「努力すれば達成可能か」などの基準で策定すると、目標の明確化や定量的な評価に役立ちます。
具体的には下記のような指標が考えられます。
- 利用人数や利用率
- 利用者の満足度
- 離職率
- メンタルヘルス不調が原因の休職者数
- 平均休職日数
- 相談内容の種類
EAPの効果を高める運用のポイント
EAPは、次の3つのポイントを押さえて運用することで、より効果を高められます。
情報管理を徹底する
EAPで知り得る従業員の情報には個人情報が含まれる場合があるため、社内外に従業員の情報が漏れないように情報管理を徹底することが重要です。
職場の人間関係や家族間のトラブル、金銭問題などは他人に知られたくないものです。産業医や保健師に話した情報が周囲に漏えいすれば、信頼を損なうだけでなく、プライバシーの侵害となるおそれもあります。
外部EAPを利用する際も同様です。利用にあたっては、守秘義務や個人情報に関するルール、情報セキュリティ体制などについて十分に確認しましょう。
利用率を高める工夫を取り入れる
利用促進の取り組みとして、導入後も引き続き社内周知に努めましょう。例えば、社内報や社内メール、社内ポータルサイトなど、後で個人的に見返せる媒体に連絡先や利用方法などを掲載しておくと、利用の際に便利です。
また、次のような対面以外の相談方法も取り入れることで、相談しやすくなります。
- チャット・メール相談
- 24時間365日対応の電話相談
- オンライン相談
そのほか、健康診断時にストレスチェックを実施し、必要な従業員にEAP利用を促すのも効果的です。管理職や人事労務管理担当者に試してもらい、EAPの良さを実感してもらうことで、従業員が活用する機会を増やせる場合もあります。
なお、EAPの利用率の低さは、必ずしも周知不足とは限りません。働きやすい職場づくりが進むことによって、利用率が下がるケースもみられます。EAPの利用状況は、職場の状況も見守りながら注意深く判断する必要があります。
定期的に効果を検証する
導入にあたって策定したKPIを基に、「導入当初に定めた目的を達成できたか」「望む成果を上げられたか」を定期的に検証しましょう。
効果検証の結果、KPIを達成できていなければ、EAPの体制や内容の見直し、費用対効果の検証などを実施します。外部EAPを利用している場合は、検証結果に応じて提携先の変更も検討してみてください。
まとめ
従業員のメンタルヘルス不調は、企業イメージの低下や離職率の悪化などを招き、経営や採用にも影響を及ぼす問題です。職場のメンタルヘルスケア対策のひとつとして、EAPの導入が効果的です。
メンタル不調に陥る従業員の早期発見・早期ケアをはじめ、休職者のスムーズな復帰や職場環境の改善なども目指せます。EAPを社内に浸透・定着させるには、導入目的の明確化、十分な社内周知、効果検証などの方法が有効です。
メンタルヘルスケアの社会的な重要性が増すなか、EAPは生産性や企業価値の向上にもつながるため、企業競争力の強化の観点からも効果を期待できる取り組みといえます。
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