- 対象: 人事・教育担当者
- テーマ: 人事制度・評価
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EVPとは何か?人事担当者が知るべき「従業員価値提案」の基礎とエンゲージメント効果を徹底解説

人材獲得競争が激化する現代において、多くの企業が優秀な人材の確保と定着に苦戦しています。給与の引き上げだけでは限界があり、従業員が真に求める価値を提供できなければ、離職率の高さや採用難に直面することになります。そこで注目されているのが「EVP(従業員価値提案)」です。
本記事では、EVPの基本から具体的な策定方法、エンゲージメント向上への効果まで、人事担当者が知っておくべき重要なポイントをわかりやすく解説します。
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EVP(Employee Value Proposition)の基本概念と重要性
EVPは現代の人事戦略において欠かせない要素です。まずは、EVPとは何か、なぜ注目されているのかをみていきましょう。
EVPとは
EVP(Employee Value Proposition)とは、直訳すると「従業員価値提案」を意味します。企業が従業員に提供する価値を明文化し、魅力的なメッセージとして示す仕組みです。
従業員が企業で働くことで得られる価値を整理し、総合的に伝えるものと捉えるとわかりやすいでしょう。
EVPには金銭的報酬に加え、福利厚生、キャリア支援、働きやすさ、企業文化など多様な要素が含まれます。つまり、「なぜこの会社で働くべきか」に対する企業からの明確な答えです。
現代社会でEVPが求められる背景
日本では少子高齢化による労働人口の減少で人材獲得競争が激化しています。また終身雇用の崩壊と転職の一般化により、従業員の価値観も多様化しています。
安定だけでなく、自分らしく働ける環境や成長機会を求める人が増加しており、企業は選ばれる存在になる必要があります。そのため、自社の魅力を整理し、ターゲット層に響く言葉で発信することが大切です。
EVPが企業にもたらす効果
適切に設計されたEVPは、採用・定着の両面で企業に効果をもたらします。採用活動では自社の魅力を明確に伝える武器となり、ミスマッチの防止にもつながります。
既存の従業員にとっては、自社の価値を再認識する機会となり、帰属意識や満足度の向上に寄与します。EVPが浸透すれば、モチベーションが高まり、離職率の低下や生産性の向上が期待できます。
とくにグローバル市場ではその重要性が高く、シンガポールの日系企業を対象とした調査でもEVPの確立が鍵とされています。
「採用・リテンションの強化」を目的とした取り組みにはさまざまなものが存在するが、EVP(Employee Value Proposition:企業が現在および将来の社員に提供する価値)の確立・浸透が中心的な施策になる。 シンガポールのような人材獲得競争が激しい市場においては、製品のブランドと同様に、雇用主としてのブランドの確立が極めて重要である。金銭的報酬、非金銭的報酬、キャリア機会、会社評判等の側面において、自社が競合と比較して従業員に何を提供できるのかを明確にして、訴求することが求められる。日本国内で安定的な労働市場に恵まれていたことや、海外拠点において主要ポジションの多くを駐在員が占めていたことから、日系企業にとってEVPの確立は一般に不慣れな領域だが、本格的な人材獲得競争を勝ち抜くための必須の取り組みとして位置づけるべきであろう。
引用元:グローバル調査レポート 第8回 ~在シンガポール日系企業拠点の現状と課題~ カギは採用・リテンション強化と役割・責任権限の明確化
https://jhclub.jmam.co.jp/acv/magazine/content?content_id=2095
EVPとエンゲージメントの関係性
EVPは従業員のエンゲージメント(愛着・貢献意欲)に強く影響します。ここでは、その関係性を解説します。
エンゲージメント向上のメカニズム
EVPがあることで、従業員は自分がなぜその企業で働くのか、どのような価値を得ているのかを明確に理解できます。この理解が仕事への意味づけを深め、意欲的な行動を生み出します。
また、EVPを共有することで価値観が一致し、従業員同士の一体感も醸成されます。共通の目的意識を持つ仲間の存在は、個々のモチベーション維持にもつながります。
組織エンゲージメント指標への影響
EVPの効果は、各種の組織エンゲージメント指標にも反映されます。従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイにおいて、EVPが明確な組織では総じて高いスコアを記録する傾向があります。
とくに、「会社に対する誇り」「仕事のやりがい」「将来への期待」といった項目で顕著な改善が見られることが多いです。これらの指標の向上は、最終的に業績向上や離職率低下といった具体的な成果につながります。
定期的なエンゲージメント測定により、EVPの浸透度合いを客観的に把握し、必要に応じて改善策を講じることが大切です。
離職防止策としてのEVP活用
優秀な人材の流出を防ぐためには、従業員が転職を考える前に、自社で働き続ける魅力を再認識してもらうことが重要です。EVPは、そのための有効な手段として機能します。
従業員が他社からのオファーを受けた際、自社のEVPが明確であれば、転職によって失う価値と得る価値を客観的に比較できます。
また、定期的にEVPの内容を従業員に伝え直すことで、現在の職場の良さを再認識する機会となります。これにより、転職への関心が高まる前に、組織へのコミットメントを再強化することが可能です。
EVPの構成要素と具体的内容
効果的なEVPを構築するためには、どのような要素を含めるべきかを理解することが不可欠です。ここでは、EVPの主要な構成要素について詳しく説明します。
報酬制度設計の重要性
EVPの基盤となるのは報酬制度です。基本給、賞与、手当などの金銭的報酬は、従業員の生活を支える基本的な要素です。
ただし近年は、金額だけでなく制度の透明性や公平性が求められています。
成果と報酬の関係が明確で、納得できる評価基準を設けることが、EVPの信頼性を高めるポイントとなります。
また、ストックオプションや利益分配制度など、企業の成長を従業員が実感できる仕組みも差別化に有効です。
福利厚生とワークライフバランス
近年重視されているのが、福利厚生とワークライフバランスです。健康保険や退職金に加え、時代に合った制度の導入が求められます。
リモートワークやフレックスタイム、時短勤務など、柔軟な働き方を支援する制度は、私生活との両立を支援します。
とくに子育て世代や介護を担う従業員にとって、柔軟な勤務形態は転職判断の重要な基準となるため、EVPの中核に据えるべきです。
キャリア支援と成長機会
従業員の成長を支援する環境づくりもEVPには不可欠です。研修制度、資格取得支援、メンタリングなど、スキルアップの機会が求められます。
キャリアパスを明確にし、将来的に目指せるポジションや必要なスキルを提示することで、目標設定がしやすくなります。
社内公募や部門間異動を通じて、新たな挑戦の場を提供することも重要です。
多様なキャリア選択肢を示すことで、成長意欲を刺激し、組織への帰属意識も高められます。
企業文化と価値観の共有
組織文化や価値観もEVPの要素です。職場の雰囲気や人間関係、上司との信頼関係は、仕事の満足度に大きく影響します。
企業理念やビジョンに共感しながら働ける環境は、価値観を重視する若い世代にとって大きな魅力となります。
またダイバーシティ推進も不可欠です。多様な人材が活躍できる職場づくりは、組織の魅力を高めるうえで重要な要素となります。
EVP策定の具体的手順
EVPを効果的に策定するためには、体系的なアプローチが必要です。ここでは、実際にEVPを作成する際の具体的な手順を説明します。
現状分析とニーズ調査
EVP策定の第一歩は、従業員の現状把握から始まります。自社の従業員がどのような価値を感じているのか、またどのような不満を抱えているのかを正確に捉えることが重要です。
アンケートや面談を通じて、報酬や福利厚生、働く環境、キャリア支援、企業文化など、従業員が重視する要素に対する満足度と重要度を調査します。このプロセスを通じて、従業員が求める価値と企業が提供している価値のギャップを明らかにすることが可能になります。
さらに、退職者へのインタビューを行うことで、転職理由や他社に感じた魅力を把握し、自社の改善点を見つけることも有効です。
競合他社の分析
自社の魅力を客観的に評価するには、競合他社や人材獲得競争のある企業のEVPを分析することが重要です。他社がどのような価値提案をしているか、どのような人事制度や施策を展開しているかを調査します。
この際、業界を超えた先進的な取り組みも参考にすると、より広い視野で自社の立ち位置を把握できます。また、人材紹介会社から求職者のニーズや動向についてフィードバックを得るのも効果的です。
この分析により、競合との差別化要素や自社独自の魅力を発見し、それを明確に打ち出すことがEVP成功の鍵となります。
EVPの言語化と体系化
調査と分析の結果をもとに、EVPを言語化していきます。従業員にとってわかりやすく、共感を得やすい表現を心がけることが大切です。
EVPは単なるスローガンではなく、従業員の心に響くメッセージであるべきです。抽象的すぎず具体的すぎない、バランスの取れた表現で、企業の特徴と魅力を伝える必要があります。
また、EVPは一つの長い文章ではなく、報酬、成長機会、職場環境、企業文化などの要素ごとに整理された体系的な構造にすることで、より実効性の高いものとなります。
社内浸透策の立案
策定したEVPを形骸化させず、組織内に定着させるには浸透策が欠かせません。管理職向け説明会や従業員研修、社内報やイントラネットでの発信など、複数のチャネルを活用します。
とくに管理職の理解と実践が大切です。彼らが日々の業務や対話を通じてEVPを体現することで、従業員の信頼を高めることができます。
EVPは策定して終わりではなく、日々の行動や制度に反映させ、継続的に発信し続けることで、初めて企業の価値として根づいていきます。
EVP成功事例と学ぶべきポイント
実際の企業でのEVP活用事例を通じて、成功のポイントを学んでいきましょう。様々な業界の事例から、自社に応用できる要素を発見できます。
Spotifyの柔軟な働き方重視型EVP
ストリーミングサービス世界大手のSpotifyでは、従業員の創造性と自律性を最大限に引き出すため、「Work From Anywhere(どこからでも仕事)」を主軸としたEVPを構築しています。完全リモートの自由な働き方、フレキシブルな勤務時間、必要に応じたオフィス利用など、従来の枠を超えた柔軟な制度を導入しています。
この企業のEVPのキーワードは「自由と責任」です。従業員に高い自由度を与える一方、成果への責任を明確にし、「働く場所」ではなく「仕事の価値」で評価されます。SpotifyのCRO(CHRO)であるKatarina Bergは「仕事は行くべき場所ではなく、やるものだ(Work is not a place you come to, it’s something you do)」と語り、従業員を“子ども”扱いせず、成人として信頼する姿勢を貫いています。結果として、Spotifyは2022年第2四半期に離職率が15%低下し、採用速度も向上。多様な人材の獲得と高い定着率を実現し、業界でも“リモート志向のモデル企業”として注目を集めています。
この事例から学べるポイントは、ターゲットとする人材(とくに高度な専門性を持つ人材)の価値観を深く理解し、「自由と責任」という明確な価値観に基づいた大胆な制度設計を実行することの重要性です。
出典:
・Spotify's HR Chief Says the Company Won't Be Following Amazon and Others in Return-to-Office Trend|Entrepreneur
https://www.entrepreneur.com/business-news/spotify-keeping-work-from-anywhere-policy-no-rto-mandate/481338
・Spotify’s CHRO on the return-to-office debate, layoffs and HR’s changing role|Raconteur
https://www.raconteur.net/talent-culture/spotify-chro-office-return-layoffs-hr-role
JTBの顧客価値創造型EVP
日本最大級の旅行・総合サービス企業、JTBでは、顧客への価値提供を通じた社会貢献を前面に出したEVPを構築しています。従業員が“提供する体験の社会的意義”を実感できるよう、旅行者からの感謝の声を社内で共有する仕組みや、観光地支援や地域イベントへのスタッフ参加機会を提供しています。
この企業のEVPの特徴は、仕事の意味づけを重視している点です。給与や福利厚生といった物質的な価値だけでなく、「人と人、人と場所をつなぐ社会的使命」に誇りを持てる環境を整備することで、従業員のモチベーション向上を図っています。JTBでは、地域社会や取引先と連携したイベント実施によって、顧客と従業員双方の絆や感謝が生まれる体験価値を創出しています。
結果として、従業員の顧客対応品質が向上し、顧客満足度の向上と業績向上の好循環が生まれ、EVPが企業の業績向上にもつながる良いモデルとなっています。この事例は、EVPとして「顧客価値の創造」を通じた社会貢献ストーリーを前面に出すことが、従業員のやりがいや定着、企業業績にも良い影響を与えることを示しています。
出典:
・JTB group essence book
https://www.jtbcorp.jp/jp/domains/essencebook.pdf
・観光経済新聞
https://www.kankokeizai.com/
まとめ
EVPは現代の人事戦略において、従業員エンゲージメントの向上と優秀な人材の確保・定着を実現するための重要なツールです。本記事では、EVPの基本概念から具体的な策定方法、活用事例まで幅広く解説しました。
- EVPは従業員に提供する総合的な価値を明確に言語化した企業からの約束
- 報酬、福利厚生、キャリア支援、企業文化など多面的な要素で構成される
- 現状分析と競合分析を基に、自社独自の魅力を発見し言語化することが重要
- 継続的な改善とアップデートにより、現実との整合性を保つことが成功の鍵
人材獲得競争が激化する現代において、EVPの策定と活用は企業の競争力を左右する重要な要素です。まずは自社の現状分析から始めて、従業員が本当に求める価値を発見し、魅力的なEVPの構築に取り組んでみてください。
調査資料|パフォーマンスにつなげるエンゲージメント調査
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