コラム
  • 対象: 管理職
  • テーマ: マネジメント
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大課長化から脱却する「部長職」の在り方を再定義 ―十年後の企業競争力を左右する育成の見直し―

大課長化から脱却する「部長職」の在り方を再定義 ―十年後の企業競争力を左右する育成の見直し―

労働力不足やAIの台頭など、企業を取り巻く環境が激変する中、次代の企業競争力を左右するキーパーソンとして「部長」の役割が問われている。多くの企業では、現場のトラブル対応や個別管理に追われる「大課長化」が常態化し、本来の戦略的な役割を果たせていない。これからの部長には何が求められ、企業は部長をどのように育成すべきか。株式会社日本能率協会マネジメントセンターの荒木啓介氏が、部長職に求められる非連続な役割転換と、集団天才を生み出すリーダーシップのあり方、強いチームをつくるための実践的な育成アプローチを解説した。

※本記事は、人と組織を伸ばすHRイベント、日本の人事部「HRカンファレンス2026-春-」に弊社が登壇したセッションの内容をまとめたレポートです。

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大課長化が引き起こす「負のサイクル」

株式会社日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)は、管理職育成やリーダーシップ開発、人材・組織開発領域において、日本企業の現場に根ざした実践的な支援を長年にわたり展開している。

同社の強みは、管理職が人と組織を動かし、確実に成果を生み出すための育成設計にある。階層別研修の枠にとどまらず、個人の能力開発と組織の実行力向上を一体として捉えたプログラムを提供。特に2000年代初頭からは、リーダーシップ研究の世界的機関であるセンター・フォー・クリエイティブ・リーダーシップ(CCL)と提携し、20年以上にわたって日本の経営幹部向けのリーダーシップ開発プログラムを展開してきた実績を持つ。近年は、AIを活用したマネジメント支援システムの開発にも注力しており、テクノロジーと対話の質を融合させた新たなソリューションの提供を推進している。

現代の企業経営において、人手不足の深刻化やAIによる業務変化、有形資産重視から人的資本を中心とした無形資産重視への転換が進んでいる。2035年には日本の労働市場で1日あたり1775万時間の労働力が不足するという調査結果もあるほど、労働力不足は深刻だ。今後は、今いる人材の力をどれだけ引き出せるかが企業の競争力そのものとなる。

さらに、定型管理やデータ分析といった業務はAIが代替していくため、進捗(しんちょく)管理を中心とした従来型のマネジメント方式は限界を迎えつつあり、「人でしかできないこと」に焦点が当たっていく。組織の協働・創造力が競争力に直結するため、部長層には、これまで以上に対話や動機付けが求められる。

こうした変化の中、企業の人事担当者は部長層に対して、事業を構想して動かす力や戦略的視座を強く期待している。しかし、現場の実態は大きく異なるという。JMAMの荒木啓介氏は管理職調査の結果を示し、組織が抱える深刻なギャップを指摘した。

「調査では、課長層の52.8%、部長層の49.4%が『正直、部長でも課長と同じような仕事をしていると感じる』と回答しています。これは、『部長の大課長化』が一部の特殊なケースではなく、多くの組織で常態化していることを示唆しています」

多くの企業の人事責任者にインタビューした結果、共通した課題が見えてきたという。部長が大課長の業務も担い役割分担が曖昧になっている、戦略を描いても現場で遂行しきれずに火消し対応に追われている、課長への権限委譲が進まず部長が直接ピープルマネジメントに介入してしまうなど。さらに、社内での越境経験に乏しく視野がサイロ化してしまう点や、メンバーの主体性を引き出すための対話力の不足も深刻な課題となっている。

これらの問題はそれぞれ単独で発生しているわけではない。役割が曖昧であるがゆえに大課長化し、短期業績へ過集中してしまう。その結果、中長期の戦略を遂行しきれず、成果が出ないために再び強いリーダーへの依存し、チームの力を十分引き出せない状況が続く。組織の多様な知恵が引き出されず、最終的に顧客起点での価値創造ができなくなるという「部長機能不全の負のサイクル」が形成されているのだ。

このサイクルに陥ると、現場の従業員は明るい未来を描けなくなり、エンゲージメントの低下や離職率の悪化といった組織全体の負の連鎖につながっていく。荒木氏も、管理職や若手メンバーが希望を持てずに疲弊している企業を数多く目の当たりにしてきたという。部長層の機能回復は、ただの業績改善にとどまらず、組織全体の活力を取り戻すための最重要課題となっている。

講演写真

課長と部長は「野球とサッカー」、部長に求められる四つの役割

大課長化がまん延する根本的な要因として、荒木氏は「課長と部長の役割の違いが正しく認識されていない」と指摘する。課長は担当組織の成果を直接支え、部下を育成しながら業務を管理する役割を担う。思考のベクトルは「How型」であり、複雑性に対処しながら短期的な目標達成を目指し、自部門最適で動く必要がある。

一方、部長に求められるのは「Why型」の思考だ。なぜこの方向に進むのか、どこに資源を配分するのか、何をやめて何を残すのかという、不確実性を伴う創造に向き合わなければならない。長期的な視野を持ち、全社最適や社会起点を前提に、複数のチームを統括しながら経営と現場をつなぐことが求められる。荒木氏は課長と部長の役割の違いを、スポーツに例えて表現した。

「課長と部長の役割は、野球とサッカーぐらい違うと言っていいかもしれません。どちらも球技で、身体能力やチームワークが必要な点は同じです。しかし、ルールや各ポジションの役割、勝ち方、見なければならない景色は大きく異なります。役割の違いを意識しない昇格は、野球の名選手に、明日からサッカーの司令塔をお願いしますと言っているようなものです」

つまり、課長から部長への昇格は、業務の延長線上という「連続的な変化」ではなく、「非連続な役割転換」である。にもかかわらず、多くの企業では部長に昇格した瞬間に本人が自然と変わることを期待する。これが機能不全を招く最大の要因となっているのだ。

では、これからの部長はどうあるべきなのか。荒木氏は「今の事業を最大化し、将来の成長基盤を築く人」と定義し、求められる役割を四つの象限で整理した。

縦軸に「探索(未来)」と「深化(現在)」、横軸に「事業(成果)」と「組織(基盤)」を置く。一つ目は、深化と事業の掛け合わせである「成果を最大化する」役割。二つ目は、深化と組織を掛け合わせて「協働の質を高める」役割であり、意思決定や権限委譲の仕組みを通じて実行力を高める。三つ目は、探索と事業による「次の成長を創る」役割で、新商品や新市場の構想を担う。四つ目は、探索と組織による「変革の土壌を創る」役割で、新たな挑戦が生まれる関係性を構築する。

一見すると矛盾しているように思える四つの役割を統合し、両立していくことが、これからの部長に求められる本質となる。短期的な成果を追い求めるだけでは不十分で、かといって未来の構想だけを語ってコミットメントを求めるだけでは組織は動かない。現在と未来、そして事業と組織という軸を同時に見渡し、バランスを取りながら推進していく高度なマネジメント能力が問われているのだ。

強い個人から「集団天才」へ――対話で生み出すDACモデル

四つの高度な役割を、部長一人の力で完遂することは現実的ではない。そこで重要になるのが、優れた一人のリーダーに依存するのではなく、チーム全員の相互作用でリーダーシップを生み出す「集団天才」という発想だ。荒木氏はCCLが提唱する「DACリーダーシップモデル」を紹介した。

DACとは、Direction(方向性)、Alignment(連携)、Commitment(主体的関与)の頭文字をとったもの。目指すべきゴールと成功の定義をチーム全員で共有し、各自の役割や資源が調整されて相乗効果を生み出しながら、全員が「自分たち」の成功を自分事として捉えて貢献を誓っている状態を指す。強いチームをつくるリーダーシップには、目指す方向を言葉にして優先順位を共有する「方向性をそろえる力」、役割と責任を明確にし、立場を超えて権限と意思決定の流れをつくる「連携を整える力」、心理的安全性のある場を作り、挑戦を後押しする「主体性を引き出す力」が求められる。このリーダーシップを日々の職場で体現するための中核となる手段が、対話だ。

「部下との1対1の面談だけを『対話』と言うわけではありません。内省を通じて自身の判断軸を整える『自分との対話』から始まり、経営の意図を理解する『経営との対話』、認識をそろえる『チームとの対話』、権限委譲を進める『課長との対話』、全体最適を進める『他部門との対話』、そして視野を広げる『社外との対話』という、少なくとも六つの重要な対話シーンが存在します」

日本の企業で育ってきた管理職層は、長らくメンバーシップ型の雇用環境で過ごしてきた。上意下達のコミュニケーションが中心だったことも影響して、対話の経験が必ずしも豊富ではない。だからこそ、属人的なセンスに任せるのではなく、体系的な育成を通じて対話力を高める必要がある。

対話を支えるのは、経営環境や組織構造、人の特性に関する「知識」、未来洞察や意思決定、両立思考やストーリーテリングといった「スキル」、長期志向や自己・他者理解といった「視座・姿勢」だ。たとえ高度な知識やスキルを持ち合わせていても、相手の可能性を信じて内省を促す姿勢や、自ら責任を引き受ける覚悟がなければ、対話の効果は半減してしまう。全てがそろって初めて、矛盾する要請を乗り越え、チームを同じ方向へと導くことが可能になる。

立体的な学習設計で支える、次世代部長育成の五つのアプローチ

役割の非連続性を乗り越え、対話を起点に集団天才を生み出す部長を育成するためには、従来のような短期的な階層別研修の見直しだけでは不十分だ。荒木氏は、知識の獲得にとどまらず、役割転換の実感と行動変容を促すための「立体的な学習設計」の必要性を説いた。

JMAMでは、部長のトランジションを支えるために五つの支援を体系化している。一つ目は「リーダーシップ実践支援」。経営活動シミュレーションによる濃密な疑似体験を通じて、強いチームを作る部長としてどのように判断し、影響を与えるべきかを実践的に学び直す。二つ目は「対話実践支援」。経営陣や課長、他部門との重要な対話場面をケーススタディーやロールプレイで体験し、方向性や連携を生み出す対応力を実践的に磨いていく。

「この二つの実践支援が育成の中核となります。あるべき姿を一方的に教えるのではなく、チームの中でリーダーシップをどのように発揮するか、対話を個別マネジメントの手段ではなく、チームを動かす中核としてどのように据えるかという実践体験が、新たな部長役割へのトランジションを力強く後押しします」

二つの中核支援を支える基盤として、三つ目の「自己認識支援」がある。アセスメントセンターや360度診断などを通じて、非連続な役割転換に向けた自身の現在地と行動特性を多面的に可視化し、伸ばすべきテーマを明確にする。四つ目は「伴走支援」。プロのコンサルタントによる個別対話や内省を通じて、タフな実務アサインメントと並行しながら、職場での行動変容を支えていく。そして五つ目が「テーマ別支援」で、両立思考や権限委譲、心理的安全性といった個別の知識やスキルを対象者の状態に合わせて補強する。

これからの部長育成は、単なる階層別研修の見直しではない。部長に求められる役割は、課長の延長線上ではなく、かつての部長とも異なる。今の事業を最大化しながら、将来の成長基盤を築き、強いチームをつくることが求められるのだ。現場でのプレッシャーや数々のトラブル、短期業績の重圧にさらされる中で、部長が孤独に悩むことなく新しい役割を担えるよう、会社として体系的な支援環境を整えることが急務である。知識やスキルを教えるだけではなく、自己認識を深め、リーダーシップと対話を実践的に磨き、実務への定着まで伴走する立体的な学習設計が不可欠だ。荒木氏は最後に、「部長育成の見直しこそが10年後の事業と組織を作るため投資だ」と結び、戦略的な育成への転換を強く呼びかけた。

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今の時代の管理職には、ただ指示を出すだけでなく、部下と対話してチームで成果を出すことが求められています。「研修を受けても現場での行動が変わらない」という悩みは多いもの。その原因が「自分はできている」という思い込みにあると指摘し、客観的なデータで自分の実力を知り、本当の意味で行動を変えるための新しい育成方法を紹介します。

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管理者育成を成功させる新常識行動変容型育成とは
JMAM HRM事業 編集部

文責:JMAM HRM事業 編集部
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