- 対象: 全社向け
- テーマ: マネジメント
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人的資本経営を成功に導くタレントマネジメント
現代の企業経営において、人材を「コスト」ではなく「価値創造の源泉」として捉える人的資本経営の重要性が高まっています。この経営手法を実現するうえでの中核となるのが、従業員一人ひとりの能力やスキルを最大限に活かすタレントマネジメントです。
本記事では、人的資本経営とタレントマネジメントの関係性や導入メリット、具体的な実践方法について詳しく解説します。従業員規模1000名以上の企業で人事や人材育成を担当する方々が、自社での導入・運用に活かせる実践的な内容を解説します。
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人的資本経営を実現するタレントマネジメント実践ガイド
人的資本経営とは何か
人的資本経営とは、従業員を企業価値創造の重要な源泉として捉え、中長期的な投資を通じて組織力を強化する経営アプローチです。
人的資本経営の基本的な考え方
従来の経営では、人件費を「コスト」として削減対象とみなす傾向がありました。しかし、人的資本経営では、従業員への投資が企業の競争力向上と持続的成長につながるという考え方が基盤となります。
この経営手法では、従業員のスキル、経験、知識、創造性などを「人的資本」として評価し、これらの資本を最大化することで企業価値の向上を図ります。従業員の能力開発や働きがいの向上に積極的に投資することで、生産性の向上とイノベーションの創出を実現します。
人的資本経営が注目される背景
デジタル化の進展により、企業の競争優位性は有形資産よりも知識や技術といった無形資産に依存する割合が高まっています。とくに知識集約型産業では、従業員の持つ専門性や創造性が企業の差別化要因となります。
また、労働人口の減少や働き方の多様化により、優秀な人材の確保と定着が経営課題となっています。こうした環境変化に対応するため、従業員を戦略的資産として捉える人的資本経営への注目が集まっているのです。
人的資本経営の具体的なメリット
人的資本経営を実践することで、企業は複数のメリットを享受できます。まずは従業員エンゲージメントの向上により、離職率の低下と生産性の向上を実現できます。
さらに、従業員の能力開発への投資により、組織全体のイノベーション創出力が強化されます。多様な人材が活躍できる環境を整えることで、新しいアイデアや解決策が生まれやすくなり、企業の競争力向上につながるのです。
タレントマネジメントの基礎知識
タレントマネジメントは、従業員の能力やポテンシャルを体系的に管理し、組織の成果最大化を図る戦略的な人事手法です。
タレントマネジメントの定義と目的
タレントマネジメントとは、従業員のスキル、経験、特性などの情報をデータベース化し、一元管理することで、効果的な人材配置、育成、評価を実現する手法です。1990年代に欧米で「War for talent(人材獲得競争)」という概念から発展した経営手法として注目されました。
この手法の主な目的は、組織内の人材を戦略的に活用することで、企業の業績向上と競争優位性の確立を図ることです。従業員一人ひとりの能力を最大限に発揮できる環境を整備し、組織全体のパフォーマンスを向上させます。
従来の人事管理との違い
従来の人事管理が管理業務中心であったのに対し、タレントマネジメントは戦略的な人材活用に重点を置いています。単なる人事データの管理ではなく、ビジネス目標の達成に向けた人材戦略の実行が主眼となります。
また、従来の画一的な管理手法とは異なり、タレントマネジメントでは従業員の個別特性に応じたアプローチを採用します。これにより、多様な人材が持つ異なる強みを活かし、組織全体の力を最大化できるのです。
タレントマネジメントの対象範囲
現代のタレントマネジメントは、正社員だけでなく全従業員を対象とする傾向があります。パートタイムや契約社員も含めた多様な雇用形態の人材を、統一的な視点で管理・活用することが重要です。
とくに人材不足が深刻化する中、限られた人材リソースを最大限に活用するため、雇用形態に関係なく能力とポテンシャルに基づいた人材マネジメントが求められています。これにより、組織の柔軟性と適応力を高めることができます。
人的資本経営とタレントマネジメントの関係性
人的資本経営の実現において、タレントマネジメントは不可欠な実行手段として機能し、両者は密接に連携して企業価値の向上に貢献します。
タレントマネジメントが人的資本経営を支える仕組み
人的資本経営では従業員を「資本」として捉えますが、その価値を最大化するには、各従業員の能力や特性を正確に把握する必要があります。タレントマネジメントは、従業員のスキルや経験をデータ化し、可視化することで、この課題を解決します。
データに基づく客観的な人材評価により、企業は戦略的な人材投資の判断を下すことができます。どの従業員にどのような育成投資を行うべきか、どのポジションに配置すればもっとも効果的かといった戦略的意思決定が可能になるのです。
両者の相乗効果による価値創造
人的資本経営の理念とタレントマネジメントの実践が組み合わさることで、組織は従来以上の価値創造を実現できます。従業員のモチベーション向上と能力開発が同時に進むことで、生産性の大幅な向上が期待できます。
また、データドリブンな人事施策により、従業員の適性と業務のマッチング精度が向上します。これにより、個人のパフォーマンスが最大化され、組織全体の競争力強化につながります。従業員満足度の向上も同時に実現できるため、持続可能な成長基盤を構築できるのです。
戦略的人材育成の実現
両者の連携により、企業は中長期的な視点で戦略的人材育成を展開できます。ビジネス環境の変化に対応できる人材を計画的に育成し、将来の組織ニーズに備えることが可能になります。
とくに後継者育成や次世代リーダーの発掘において、タレントマネジメントのデータは重要な判断材料となります。従業員の潜在能力を早期に発見し、適切な育成プログラムを提供することで、組織の継続性と発展性を同時に確保できるのです。
導入によって解決できる課題
人的資本経営とタレントマネジメントの導入により、多くの企業が直面する人事課題を体系的に解決することができます。
人材不足・優秀な人材の定着
労働人口の減少により、多くの企業で人材不足が深刻化しています。タレントマネジメントでは、既存従業員の能力開発と適切な配置により、限られた人材リソースの最大活用を図ることができます。
また、従業員一人ひとりのキャリア目標と能力を把握し、個別の成長支援を行うことで、優秀な人材のエンゲージメント向上と定着率向上を実現できます。従業員が自身の成長を実感できる環境を提供することで、離職防止にも大きな効果を発揮します。
組織の生産性向上
従業員のスキルと業務の適切なマッチングにより、組織全体の生産性を大幅に向上させることができます。タレントマネジメントシステムにより、各従業員の強みと専門性を正確に把握し、最適なプロジェクトや部署への配置が可能になります。
さらに、データに基づく客観的な評価により、従業員のモチベーション向上と公平性の確保を同時に実現できます。これにより、組織全体のパフォーマンス最大化が期待できるのです。
実際、このような考え方を背景に、企業の人材活用にも新しい潮流が生まれています。
最近は、ジョブの公募やマッチングを行うプラットフォーム、「タレントマーケットプレイス」を導入する企業も増えてきた。
「ただ、手作業でマッチングを進める方法はかなりの困難を伴います。そこで、デジタルツールや生成AI、クラウドベースのタレントマネジメントシステムを組み合わせる手法が取り入れられるようになりました。その流れからスキルベース型を検討する企業もあります」
引用元:“スキル”で照らす人の力、企業の未来「スキルベース型組織」がジョブ型を回す
https://jhclub.jmam.co.jp/acv/magazine/content?content_id=22699
多様な働き方への対応
現代の職場では、フレックスタイム、リモートワーク、副業など、働き方の多様化が進んでいます。タレントマネジメントでは、従業員のライフスタイルや価値観も考慮した人材配置と育成が可能になります。
多様な背景を持つ従業員それぞれの特性を活かすことで、組織のイノベーション創出力を強化できます。インクルーシブな職場環境の構築により、多様性の価値を最大限に引き出すことができるのです。
具体的な導入ステップ
人的資本経営とタレントマネジメントの効果的な導入には、段階的で計画的なアプローチが重要です。
現状把握と課題の明確化
導入の第一段階では、組織の現状を正確に把握することから始めます。従業員のスキル、経験、キャリア志向などの人材データ収集を行い、現在の人材配置や育成状況を分析します。
同時に、経営戦略と人事戦略のギャップを明確にし、解決すべき課題を特定します。どのような人材が不足しているか、どの部署で生産性向上が必要かといった具体的な課題を洗い出すことで、導入後の効果測定基準も設定できます。
目標設定とロードマップ策定
現状分析の結果を基に、3〜5年の中長期的な人材戦略目標を設定します。業績向上、従業員満足度向上、離職率低下など、定量的な目標を明確に定めることが重要です。
また、段階的な導入計画を策定し、各フェーズでの達成目標とマイルストーンを設定します。全社一斉導入ではなく、特定部署でのパイロット実施から開始することで、リスクを最小化しながら効果的な導入を進めることができます。
システム化と運用体制の整備
効果的なタレントマネジメントの実践には、ITシステムの活用が不可欠です。人材データベース、スキル管理システム、評価システムなどの統合的なプラットフォームを構築し、データドリブンな人事施策を実現します。
システム導入と並行して、運用体制の整備も重要です。人事部門だけでなく、各部署の管理職も含めた推進チームを編成し、継続的な運用とデータ更新の仕組みを確立します。従業員への研修も実施し、新しいシステムへの理解と協力を得ることが成功の鍵となります。
成功事例から学ぶ実践のポイント
実際にタレントマネジメントを導入し、成果を上げている企業の事例から、効果的な実践方法を学ぶことができます。
株式会社日立製作所でのグローバル人材配置最適化事例
株式会社日立製作所では、全世界に約27万人の従業員を抱える中、グローバル共通の人事基盤がないことが課題でした。そこで、タレントマネジメントシステムを導入し、全世界の従業員のスキルや経歴、評価といった人材情報を一元化。グローバルでの人材の可視化を実現しました。
この仕組みにより、国や地域を越えて最適な人材を検索・発掘し、プロジェクトへ登用することが可能になりました。また、データに基づいた戦略的な後継者育成(サクセッションプラン)も推進しており、グローバルで統一された基準による客観的な人材配置と育成を実現し、事業の成長を支えています。
出典:サステナビリティレポート2024|株式会社日立製作所
https://www.hitachi.co.jp/sustainability/report/social/human_capital.html
株式会社サイバーエージェントでの抜擢人事と適材適所事例
株式会社サイバーエージェントでは、「GEPPO(月報)」という独自の組織診断ツールなどを活用し、社員のコンディションやキャリア志向をデータで把握しています。このデータを人材データベースと連携させることで、社員の才能を開花させる抜擢人事や、新規事業への適材適所な配置に活かしています。
社員一人ひとりの「個」の情報を詳細に把握し、上司や人事だけでなく経営陣もその情報を閲覧できる体制を構築。これにより、年齢や経験にとらわれない抜擢が生まれやすくなり、社員のモチベーション向上と事業の成長を両立させています。実際に、これらの取り組みが挑戦を促す組織風土の醸成に大きく貢献しています。
出典:87%の社員が「働きがいがある」と答える環境を実現ーーCHO曽山が語るエンゲージメントを高める人事施策|CyberAgentWay
https://www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id%3D27642
導入時の注意点と成功要因
タレントマネジメントの導入を成功させるためには、いくつかの重要な注意点と成功要因を理解しておく必要があります。
従業員の理解と協力の獲得
タレントマネジメントの成功には、従業員の積極的な参加と協力が不可欠です。システム導入の目的や期待される効果について、透明性の高いコミュニケーションを行うことが重要です。
従業員が「監視される」と感じないよう、データの使用目的やプライバシー保護について明確に説明し、信頼関係を築くことが必要です。また、タレントマネジメントが従業員の成長支援とキャリア開発に役立つことを具体的に示し、参加のメリットを理解してもらうことが重要です。
継続的なデータ更新と改善
タレントマネジメントシステムの効果を維持するには、定期的なデータ更新が欠かせません。従業員のスキル向上、新しい経験の蓄積、キャリア志向の変化などを継続的に反映させる仕組みを整備する必要があります。
また、運用状況を定期的に評価し、システムの改善を図ることも重要です。従業員からのフィードバックを収集し、使いやすさの向上や機能の追加を継続的に行うことで、長期的な成功を実現できます。
経営層のコミットメントと投資
タレントマネジメントの導入と定着には、経営層の強いリーダーシップと継続的な投資が必要です。単なるシステム導入ではなく、組織文化の変革を伴う取り組みであることを認識し、長期的な視点で支援することが重要です。
また、投資対効果を適切に測定し、成果を可視化することで、継続的な投資の正当性を示すことができます。従業員満足度、生産性、離職率などのKPI設定と定期的な効果測定により、改善点を明確にし、より効果的な運用を実現できます。
まとめ
人的資本経営とタレントマネジメントは、現代企業の競争力向上と持続的成長に不可欠な経営手法です。従業員を戦略的資産として捉え、その能力を最大限に活用する仕組みを構築することで、多くの経営課題を解決できます。
- 人的資本経営では従業員への投資が企業価値向上の源泉となる
- タレントマネジメントにより従業員の能力とポテンシャルを体系的に管理できる
- 両者の連携で戦略的人材育成と生産性向上を同時に実現可能
- 人材不足や多様性への対応など現代的課題の解決に効果的
- 段階的導入と継続的改善により長期的成功を確保できる
まずは自社の現状把握から始め、明確な目標設定と段階的な導入計画を策定してください。従業員の理解と協力を得ながら、データドリブンな人事戦略を実践し、組織の競争力強化を実現しましょう。
人的資本経営を実現するタレントマネジメント実践ガイド
導入からデータ活用、成果を最大化する戦略までご紹介
本資料では、人材を「資本」と捉え、戦略的に活用・育成する「人的資本経営」と、その実現を支える「タレントマネジメント」について徹底解説。導入からデータ活用、成果を最大化する戦略まで、具体的なステップや成功事例を交え、貴社の人材戦略強化を支援します。
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