コラム
  • 対象: 人事・教育担当者
  • テーマ: 人事制度・評価
  • 更新日:

人事戦略とは?人材戦略との違い・立て方・フレームワーク・事例を解説

人事戦略とは?人材戦略との違い・立て方・フレームワーク・事例を解説

現代のビジネス環境では、人材こそが企業の競争優位性を決定する最重要な経営資源となっています。しかし、多くの企業が人事戦略の立て方に悩み、経営戦略との連動が十分に行えていないのが現状です。本記事では、人事戦略の基本的な定義から具体的な策定手順、実践的なフレームワーク、そして成功企業の事例まで、人事担当者がいますぐ活用できる情報をわかりやすく解説します。この記事を読むことで、自社の経営目標達成に直結する人事戦略を自ら策定・実行できる知識と具体的な手順を身につけられます。

関連資料

JMAM 目標管理・人事評価調査

関連資料

目標管理制度の運用実態について調査結果をまとめました。

人事戦略の基本的な定義と目的

人事戦略とは、企業の経営戦略や事業目標の達成に向けて、人材に関する計画や施策を体系的に立案・実行することです。これには単なる人事業務の改善にとどまらず、経営全体と連動した戦略的なアプローチが求められます。

人事戦略が企業に与える価値

人事戦略の最大の価値は、経営目標達成のための人材活用を明確化することです。採用活動や社員研修といった従来型の人事業務を、経営戦略の観点から再構築します。

具体的には、事業拡大に必要な人材スキルの特定、組織文化の醸成、パフォーマンス管理の仕組みづくりなど、人材を通じて企業価値を向上させる取り組みを指します。これにより、人材投資の効果を最大化し、持続的な成長を実現できるのです。

従来の人事管理との違い

従来の人事管理は、労務管理や給与計算といった管理業務中心の運営でした。一方、人事戦略は経営課題の解決に向けた戦略的思考が基盤となります。

たとえば、採用活動においても単純な欠員補充ではなく、将来のビジネス展開を見据えた人材ポートフォリオの構築を目指します。また、人材育成も個人のスキルアップではなく、組織全体のケイパビリティ向上を重視した施策設計が特徴です。

人事戦略と関連用語の違いを整理

人事領域では似たような用語が多数存在し、それぞれの定義や役割を正確に理解することが重要です。ここでは、混同しやすい人材戦略や戦略人事との違いを明確にします。

人材戦略との違いと関係性

人材戦略は人事戦略の一部として位置づけられ、とくに人材の最適化や確保・育成に焦点を当てた概念です。人事戦略が組織全体の人事施策を包括するのに対し、人材戦略はより具体的な人材活用の方法論を扱います。

たとえば、人事戦略では評価制度や報酬体系の設計も含まれますが、人材戦略では採用計画や育成プログラムの詳細設計が中心となります。両者は相互補完的な関係にあり、人材戦略の成果が人事戦略全体の成功に直結します。

人事戦略と戦略人事の違い

戦略人事は、人事部門が経営パートナーとして機能することを重視した新しい概念です。従来の人事部門が経営陣から指示を受けて実行する役割だったのに対し、戦略人事では人事担当者自らが経営課題を特定し、解決策を提案します。

よく似た言葉として「人事戦略」がありますが、「人事戦略」は人事に関わる戦略そのものを指すのに対し、「戦略人事」は、人事課題に対し戦略をもって取り組む手法のことを指します。

戦略人事の概念では、人事データの分析や市場動向の把握など、戦略的思考力が求められます。また、経営会議への参加や事業部門との連携強化など、組織内での人事の立ち位置も大きく変化しています。

経営戦略との連動の重要性

人事戦略は経営戦略と深く連動させることで、その効果を最大化できます。経営戦略で設定された目標達成に必要な人的リソースを明確化し、それに基づいた人事戦略を展開することが基本です。

たとえば、新規事業への参入が決まった場合、必要なスキルセットの特定から採用計画の策定、既存社員のリスキリングまで、一貫した人事戦略が必要になります。このような戦略的整合性を保つことで、企業全体の競争力向上につながります。

このような戦略的整合性を実現するために、現代の人事部門にはどのような役割が求められているのでしょうか。

“そのような取り組みのなかで、人事に求められることは何か。人的資本経営とは、戦略人事だと識者は口をそろえる。自社のビジネスの方向性、何の事業をどう展開していくのかという経営戦略を把握することはもちろん、それと連動する人事戦略に基づき、採用、育成、配置を行っていく戦略人事は、人的資本経営の要といえるだろう。加えて、現場と連携を取りながらその戦略や施策を浸透させ、一人ひとりを巻き込み風土をつくっていく役割も求められるはずだ。
経営戦略と人事戦略をつなぎ、戦略や施策と現場をつなぐ。人事と経営、人事と現場もつながりながら、人的資本経営を現場に浸透させていく―― 。そんな役割を人事は意識して担っていく必要があるのではないだろうか。”

引用元:「開示元年」を未来につなげるために必要なこと
https://jhclub.jmam.co.jp/acv/magazine/content?content_id=21742

人事戦略策定のための具体的なプロセス

効果的な人事戦略を策定するためには、体系的なプロセスに従って段階的に進める必要があります。ここでは、実践的な5つのステップを詳しく解説します。

現状分析と課題抽出の方法

人事戦略策定の第一歩は、自社の人事関連データを詳細に分析することです。従業員数の推移、年齢構成、離職率、採用コストなどの定量データと、社員満足度や組織風土といった定性データの両方を収集します。

さらに、事業部門へのヒアリングを通じて、現場が抱える人材課題を具体的に把握します。たとえば、特定のスキルを持つ人材の不足や、管理職の育成が追いついていないなど、経営目標達成の阻害要因を明確化することが重要です。

目標設定と指標の定義

現状分析の結果を基に、人事戦略の具体的な目標を設定します。目標は経営戦略との整合性を保ちながら、測定可能で達成期限が明確なものにする必要があります。

たとえば、「3年以内に管理職候補を30%増加させる」「離職率を業界平均以下に抑制する」といった具体的な数値目標を設定します。同時に、進捗を測定するためのKPI(重要業績評価指標)も定義し、定期的なモニタリング体制を構築します。

施策立案と優先順位付け

設定した目標の達成に向けて、具体的な施策を立案します。採用手法の見直し、育成プログラムの開発、評価制度の改革など、多岐にわたる施策の中から効果と実現可能性を考慮して優先順位を決定します。

施策の選定においては、予算制約や実行期間、必要なリソースを総合的に判断することが大切です。また、各施策間の相互作用も考慮し、シナジー効果を最大化できる組み合わせを検討します。

実行計画の策定と評価方法

立案した施策を具体的なアクションプランに落とし込みます。誰が、いつまでに、何を実行するかを明確化し、実行責任者と進捗管理の仕組みを定義します。

また、施策の効果測定方法も事前に設計しておくことが重要です。定期的な効果検証を通じて、必要に応じて施策の修正や追加を行い、PDCAサイクルを回しながら継続的な改善を図ります。

実践的なフレームワークと活用方法

人事戦略の策定において、既存のフレームワークを活用することで効率的かつ体系的な分析が可能になります。ここでは、実践的に活用できる代表的なフレームワークを紹介します。

SWOT分析による人事領域の整理

SWOT分析は人事戦略策定において非常に有効なツールです。自社の人事領域における強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)を内部要因として整理し、市場や競合他社の動向から機会(Opportunities)と脅威(Threats)を外部要因として分析します。

たとえば、優秀な技術者が多いことを強みとして認識し、一方で管理職のマネジメントスキル不足を弱みとして特定します。同時に、DX人材への需要増加を機会として捉え、競合他社の積極的な採用活動を脅威として評価することで、戦略的な方向性を明確化できます。

バランススコアカードの人事戦略への応用

バランススコアカードを人事戦略に応用することで、多角的な視点から人事施策の効果を測定できます。財務的視点、顧客視点、内部プロセス視点、学習・成長視点の4つの観点から人事指標を設定します。

財務的視点では人件費効率や採用コストを、顧客視点では従業員満足度を、内部プロセス視点では採用プロセスの効率性を、学習・成長視点では研修受講率やスキル向上度を指標として設定します。これにより、総合的な人事戦略の成果を評価できます。

9ボックス・グリッドでの人材評価

9ボックス・グリッドは、従業員のパフォーマンスとポテンシャルを軸にした人材評価手法です。縦軸にパフォーマンス、横軸にポテンシャルを配置し、9つのボックスに従業員を分類します。

この手法により、ハイパフォーマーの特定や後継者候補の選定、育成が必要な人材の把握など、戦略的な人材配置が可能になります。また、各ボックスに応じた具体的な育成施策や配置計画を策定することで、人材ポートフォリオの最適化を図れます。

成功企業の人事戦略実践事例

実際の企業が実践している人事戦略の成功事例を通じて、具体的な取り組み内容と成果を確認しましょう。業種や規模の異なる企業の事例から学べる点が多くあります。

製造業における人事戦略の革新

トヨタ自動車は、トヨタ生産方式と連動した独自の人事戦略を展開しています。継続的改善(「カイゼン」)の思想を人材育成にも適用し、現場の問題発見・解決能力を持つ人材を体系的に育成してきました。

同社では「自工程完結」という考え方のもと、各従業員が自らの業務品質に責任を持つ文化を醸成しています。この結果、品質向上と人材成長の好循環を実現し、同社がもつ高いグローバル競争力の源泉となっています。

出典:トヨタ生産方式|トヨタ自動車株式会社
https://global.toyota/jp/company/vision-and-philosophy/production-system/

Googleの戦略的人材獲得

Googleは、データドリブンな採用戦略で知られています。同社では採用プロセスにおいて、徹底したデータ主義に基づき、卒業大学の独自のランキングや大学時代の成績表(GPA)、勤務先の業界内での位置づけなど、自前のデータによる厳格な評価基準を設けています。

さらに、選考では、前の面接官から次の面接官へと詳細なレポートが引き継がれ、疑問点を深掘りするなど集団的なプレーによって候補者の総合的な分析が行われます。また、収集されたデータの裏づけや整合性を徹底的に確認し、まるで企業の会計監査のような緻密さで人材選考を実施しています。この取り組みにより、Googleは「最も賢い人だけ雇う」方針の下、「優秀な人だけを大量に採用する」という矛盾を解決し、優秀な人材の獲得を大規模に実現しました。

出典:「優秀な人だけ大量採用」という矛盾 グーグルが見せた解決策と執念|日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00740/042200003/

スターバックスでの組織文化変革

スターバックスは、従業員エンゲージメントを重視した人事戦略で成功しています。同社では従業員を「パートナー」と呼び、充実した福利厚生を提供することで、従業員の企業への帰属意識を高めています。

また、定期的な研修プログラムとキャリア開発支援を通じて、従業員のスキル向上と職務満足度の向上を図っています。この結果、高い顧客満足度と従業員満足度を同時に実現し、ブランド価値の向上につなげています。

出典:パートナーが築く未来|スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
https://www.starbucks.co.jp/recruit/sc_career/future/?srsltid=AfmBOop4flhMl_rNk6Nd60Nl31mKITRUsdFBtNAUNJAdBxApCQpioolT%22

人事戦略策定時の注意点と失敗例

人事戦略の策定と実行において、多くの企業が陥りやすい落とし穴があります。これらの注意点を事前に理解しておくことで、失敗を回避し効果的な人事戦略を実現できます。

経営戦略との不整合

もっとも多い失敗例は、人事戦略が経営戦略と乖離してしまうケースです。人事部門が独自に策定した施策が、実際の事業ニーズや経営方針と合致せず、投資対効果が低下してしまいます。

この問題を回避するためには、策定プロセスの初期段階から経営陣や事業部門との密接な連携が不可欠です。定期的な戦略レビュー会議を設置し、事業環境の変化に応じて人事戦略を柔軟に調整する仕組みを構築することが重要です。

短期的視点による施策の偏重

人事戦略では中長期的な視点が重要ですが、四半期業績などの短期的成果を重視しすぎると、本来の戦略目的を見失ってしまいます。たとえば、コスト削減を優先して人材投資を削減した結果、将来的な競争力が低下するリスクがあります。

このため、短期的な成果指標と中長期的な成長指標のバランスを取ることが大切です。採用コストの削減と優秀人材の確保、研修費用の最適化と従業員のスキル向上など、相反する要素を適切に調整する必要があります。

現場の実情を無視した制度設計

理論的には優れた人事制度も、現場の実情に合わなければ期待した効果は得られません。本社主導で策定された評価制度が現場の業務実態と合致しない、研修プログラムが実際の業務に活用できないなどの問題が頻繁に発生します。

このような失敗を避けるため、制度設計段階から現場の管理職や従業員の意見を積極的に取り入れることが重要です。また、パイロット実施を通じて制度の有効性を検証し、必要な修正を行ってから本格導入することが推奨されます。

まとめ

人事戦略は企業の持続的成長を支える重要な経営要素であり、経営戦略との連動と体系的なアプローチが成功の鍵となります。本記事では基本的な定義から実践的なフレームワーク、成功事例まで幅広く解説しました。

  • 人事戦略は経営目標達成のための人材活用計画である
  • 人材戦略や戦略人事との違いを理解することが重要
  • 現状分析から実行まで段階的なプロセスで策定する
  • SWOT分析やバランススコアカードなどのフレームワークを活用する
  • 成功企業の事例から実践的なヒントを学ぶ
  • 経営戦略との整合性と現場実情の考慮が成功のポイント

まずは自社の現状分析から始めて、経営陣と連携しながら戦略的な人事施策の検討を進めてください。

解説資料|JMAM 目標管理・人事評価調査

目標管理制度の運用実態編

テレワークなど働き方が多様化している中において、さまざまな角度から調査した目標管理制度の運用実態をまとめました。

  • 調査概要/調査モデル
  • 組織目標、方針共有、目標展開、設定
  • 中間面談、日常支援
  • 達成度評価、成長支援
  • 提言
JMAM 目標管理・人事評価調査
JMAM HRM事業 編集部

文責:JMAM HRM事業 編集部
人事・人材教育に関する情報はもちろん、すべてのビジネスパーソンに向けたお役立ちコラムを発信しています。

関連商品・サービス

あわせて読みたい

Learning Design Members
会員限定コンテンツ

人事のプロになりたい方必見「Learning Design Members」

多様化・複雑化の一途をたどる人材育成や組織開発領域。
情報・交流・相談の「場」を通じて、未来の在り方をともに考え、課題を解決していきたいとの思いから2018年に発足しました。
専門誌『Learning Design』や、会員限定セミナーなど実践に役立つ各種サービスをご提供しています。

  • 人材開発専門誌『Learning Design』の最新号からバックナンバーまで読み放題!
  • 会員限定セミナー&会員交流会を開催!
  • 調査報告書のダウンロード
  • 記事会員制度開始!登録3分ですぐに記事が閲覧できます