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  • テーマ: ビジネススキル
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デザイン思考とは?基礎知識から従業員の育成方法まで詳しく解説

デザイン思考とは?基礎知識から従業員の育成方法まで詳しく解説

商品開発やDX推進において、「他社と差別化できる商品・サービスが欲しい」「イノベーションが起きるような画期的なアイデアが生まれない」などの悩みはつきものです。デザイン思考は、このようなさまざまな課題の根本的な解決を目指す思考法です。

今回は、デザイン思考のメリットや実践のための5つのステップ、デザイン思考を醸成するためのポイントを取り上げます。DX推進とデザイン思考の関係性についても解説しますので、ぜひ参考にしてください。

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デザイン思考とは

デザイン思考(デザインシンキング)とは、顧客やユーザーのニーズを起点に、優れたデザイナーの思考プロセスをビジネスの課題解決やイノベーションの創出に活用する考え方です。

アメリカのデザインコンサルティング会社「アイデオ(IDEO)」によって提唱されたのが始まりです。予測が困難なVUCAの時代を迎え、情報技術も発達するなか、多様化する顧客ニーズへの迅速な対応が急務となったことを背景に、2000年代前半にビジネスや教育の世界に広まっていきました。

ユーザー視点でスピーディーに多くのアイデアを試行するアプローチ方法がAppleやGoogleなどの世界的企業に受け入れられ、今や日本でも多くの企業が採用しています。

「デザイン」という言葉を耳にすると、ファッションに代表されるような視覚的かつ装飾的なイメージを想像しがちです。しかし、デザイン思考における「デザイン」は、サービスやシステムなどを設計するという意味であり、ビジュアルデザインを指すものではありません。

デザイン思考の目的は、まだ知られていない問題を発見し、解決までの道筋を立てることです。顧客やユーザーの真のニーズを見極め、開発段階で試作を重ねることにより、使用する側の立場で有益な機能やユーザビリティーを生み出します。

また、デザイン思考の主な特徴は、顧客やユーザーのニーズ、問題の本質を見極めて、解決すべき課題を発見しようとする点です。下記のような問いかけにより、顧客やユーザーのもつニーズや課題の本質を追求します。

  • 本当に困っていることは何か
  • どのような点に価値を感じるか
  • 使いやすさを感じる点はどこか

豊かなUX(顧客体験)を生み出すデザイン思考は、企業競争力の強化につながるため、今後ますます重要性が高まると予想されています。

デザイン思考がDX推進に必要な理由

人間を中心に据え、人々の真のニーズや課題とその打開策を追求するデザイン思考は、DX推進に欠かせない思考法といえます。

DXというと、デジタル化ばかりが注目される傾向にあります。しかし、本来のDXとはデジタル技術を活用して、「新規製品・サービスの創出」「顧客視点の価値創出によるビジネスモデルの変革」を実現することです。

変化の激しい顧客やユーザーのニーズをキャッチし、前例のない問題の解決策を導きだせなければ、真のイノベーションは実現できません。

どれほどインターネットが普及し、デジタル化が進んだとしても、商品やサービスを使うのは人間です。顧客やユーザーのニーズ、課題に向き合い、UXを向上させて満足感や喜びの感情などを引き出すことこそがビジネスの成果に直結します。

また、経済産業省は、今後の「ベンダー企業に求められる人材」として、「ユーザー起点でデザイン思考を活用し、UXを設計し、要求としてまとめあげる人材」をあげています。

そして、IPAの2021年度調査では、「今後身につけさせるべき重要度が高い IT 人材のスキル」として、28.5%の企業が「デザイン思考なども活用したビジネス企画スキル」を選択しました。

このことからも、デザイン思考は今後のDX推進に欠かせないスキルであることができます。

出典:
・経済産業省「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
・独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」
https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/gmcbt8000000botk-att/000108041.pdf

デザイン思考が企業にもたらすメリット

デザイン思考のメリットは、大きく次の3点に集約されます。

メリット1|革新的なアイデアの創造

デザイン思考のメリットのひとつは、革新的なアイデアを創出しやすくする点です。デザイン思考では、ユーザーの視点に立って問題を深く理解し、解決策を発想します。このプロセスを通じて、企業は従来の製品やサービスではカバーできなかったニーズに気づき、それに対応する新たなアイデアを生み出すことができます。

一般に、デザイン思考では次のような5つのステップを通じて課題を発見し、その課題の解決方法を探ります。

1.共感 (Empathise)

ヒアリングや観察、体験を通じて、ユーザーの感情や考え方、背景を把握し、実際のニーズに共感する。

2.定義(Define)

共感のフェーズで得られた情報をもとに、具体的な問題点を明確に定義する。

3.創造・概念化(Ideate)

問題を解決するためのアイデアや解決策を考える。ブレインストーミングなどの手法を用いて、多くの可能性から最適なアイデアを導き出す。

4.試作(Prototype)

アイデアを具体的な形にするために、低解像度の試作品(プロトタイプ)に変換し、視覚的に表現する。

5.テスト(Test)

実際のユーザーや条件のもとで試作品をテストし、フィードバックを得る。このフィードバックをもとに、さらに製品やサービスを洗練させるための改善点を特定し、再び試作とテストを繰り返す。

上記のプロセスにおいて、多様な視点をもつメンバーが自由な発想で積極的にアイデアを出し合います。チーム内でのアイデアの共有やフィードバックは、一度で終わることはありません。PDCAサイクルを回して、新たな気づきやより良い施策を探ります。

なお、各ステップについては次項で詳しく解説します。

メリット2|組織力の向上

デザイン思考では、年齢や役職などにかかわらず、自由に意見交換できる雰囲気が重んじられます。結果としてフラットな関係性が構築され、チームや組織の連帯感、互いの信頼感を深められるのです。

また、関係者間のコミュニケーションが活発化することで共通認識をもてるようになり、プロジェクトの方向性も統一されやすくなります。加えて、組織力が強化されれば、さらに優れたアウトプットが生まれ、ひいては商品やサービスの品質向上にも大きく寄与します。

メリット3|競争優位性の向上

ユーザーエンゲージメントの向上を目指すデザイン思考は、長期的にみて市場での競争優位性を高めるといわれています。

ユーザーエンゲージメントとは、ユーザーと商品・サービスとのつながりを意味する言葉です。支持や愛着を得られる魅力的な製品は、ユーザーの行動や感情への理解を深め、本質的なニーズに応えることで生まれます。

デザイン思考に基づく開発のステップでは、ユーザーからのフィードバックをもとに改良が重ねられます。短期間で試作を繰り返すことにより、移り変わりの速いユーザーニーズにも継続的な対応が可能となるため、中長期的な競争力の獲得に有効です。

デザイン思考を実践するプロセス

デザイン思考の実践は、5つのステップで進める方法が一般的です。

ステップ1|共感

ファーストステップである「共感」は、顧客やユーザーのニーズ、課題を定義するにあたって、前提となる価値観、感情、状況などへの理解を深める段階です。

このフェーズは、デザイン思考の鍵を握るといわれています。なぜなら顧客やユーザーの本質的なニーズ、課題を理解するには、偏見や思い込みをなくし、ユーザー視点で物事をみる目を養う必要があるからです。

顧客やユーザーのニーズは、大きく顕在ニーズと潜在ニーズの2種類に分かれます。顕在ニーズとは、本人も自覚しているニーズのことで、多くの場合、解決策がすでに市場に存在します。

一方、潜在ニーズとは、自分自身も気が付いていないニーズのことです。このケースではほとんどの場合、市場に解決策が用意されていません。開発段階で潜在ニーズを探り当てることができれば、ビジネスチャンスを手にできる確率が高くなります。

潜在ニーズの発見につながるような「共感」を得るためには、観察やヒアリングといった方法に加え、下記のようなフレームワークも有用です。

  • 共感マップ
    特定のユーザーやペルソナの感情、行動の関係性をマップとして整理・可視化する手法。具体的には、「見ているもの」「聞いていること」「考えて(感じて)いること」「言っている(している)こと」「ストレスを感じていること」「欲しているもの」の6要素をまとめます。
  • カスタマージャーニー
    顧客の感情や行動の分析・理解を目的に、商品・サービスを利用する際の過程を時系列で可視化する手法。

ステップ2|定義

「定義」は、「共感」のステップで収集した情報を掘り下げることで、顧客やユーザーが抱える本質的なニーズ、課題を定義する段階です。焦点が絞り込まれた定義を設定できれば、有効な施策を見いだしやすくなります。

このフェーズでは、潜在ニーズの発見につながるような「着眼点(Point of View)」を探します。有益な着眼点を探すポイントは、下記の通りです。

  • ユーザーが置かれた状況や背景も具体的に表現する
  • ユーザーの抱える問題が発生する理由を考える
  • ユーザーのしたいことを動詞を使った表現に落とし込む

ニーズや課題を正しく定義できなければ、有益な解決策は生まれません。先のステップへ進んだとしても、結局やり直しを余儀なくされます。この段階で有益な着眼点を見つけられないようなら、「共感」のステップへ戻りましょう。

「定義」では、次のようなフレームワークが役立ちます。

  • HMW(How Might We~?)
    着眼点や問題の具体化などを目的に、「どうすれば私たちは~できるだろうか?」と問いかけることでアイデアを言語化する手法。

ステップ3|創造・概念化

「創造・概念化」のステップでは、ブレインストーミングで創造的なアイデアを出し合い、定義したニーズや課題の解決策を探ります。

ブレインストーミングは、イノベーティブなアイデアの創出が目的です。下記のポイントを参考に、ひとつでも多くの意見を出し合いましょう。

ポイント 概要
質より量を重視する アイデアの量が質を担保します。実現性や効果よりも、アイデアの多様性を重視しましょう。
他者のアイデアを否定しない アイデアの否定や批判は、人を萎縮させます。あらゆるアイデアを受け入れる雰囲気が大切です。
他者のアイデアから連想する 自分のアイデアにこだわらず、他者の意見と組み合わせたり、発展させたりすると、さらに効果的です。
視覚的な方法を活用する アイデアは忘れないようにホワイトボードや付箋にメモしましょう。マインドマップやフローチャートなどによる図式化も役立ちます。
上下関係に左右されない 社内の役職にとらわれることなく、互いにフラットな立場で発言できる雰囲気の醸成も重要です。

ステップ4|試作

「試作」はプロトタイピングとも呼ばれます。「創造・概念化」のステップで創出したアイデアを評価し、試行錯誤しながら具体化を目指す段階です。

早い段階で試作品を作り、失敗を重ねることで、現実に即したより良い商品・サービスに改良することが可能です。デザイン思考を提唱したIDEO(アイデオ)社では、下記の「3つのRの原則」に基づいてプロトタイピングが行われています。

  • ラフ(Rough)
    大雑把な状態でも良いので、細部までこだわらずにアイデアを形にします。1つのプロトタイプに費用をかけ過ぎないことも重視されます。
  • ラピッド(Rapid)
    時間をかけずに、素早くアイデアやイメージを形にします。
  • ライト(Right)
    アイデアの一部のみであっても、頭にあるイメージをそのまま形にして試行を重ねます。

ステップ5|テスト

「テスト」のステップでは、試作品の改善や着眼点を見直すことを目的として、試作品の体験を通じてフィードバックを求めます。フィードバックを得る方法は、主に2つです。

  • ユーザーに試作品を体験してもらう
    実際に試作品を使用してもらい、体験しているユーザーの様子を観察したり、感想や意見を集めたりします。
  • ステークホルダーからの承認を得る
    経営陣をはじめとするステークホルダーとのすり合わせも重要です。品質だけでなく、予算や納期などの面から意見やアドバイスを求め、最終的には理解者や支援者になってもらうことを目指します。

収集したフィードバックの分析を行い、試作品の改善と再テストを繰り返すことで製品・サービスの完成に至ります。

従業員のデザイン思考を育てるには?

次に、企業において従業員のデザイン思考を育成するためのポイントと注意点を紹介します。

実践形式の研修を取り入れる

デザイン思考は、ユーザーニーズの深掘りやプロトタイピングが重視されるという性質上、実践を積み重ねていくことが重要です。そのため、座学やディスカッションによる学習のみではなく、具体的なアイデアを出すワークショップなど、実戦形式の研修を取り入れましょう。グループワークやワークショップなどを通じて、実際にデザイン思考のプロセスを体験することで、既存の枠にとらわれずにアイデアを創出するマインドが養われます。

さらなる気付きが得られるように、基礎編が終了した後の継続的なフォローアップが用意された研修もあるので、必要に応じて活用してみるのもおすすめです。

JMAMでは、フレームワークを活用したデザイン思考の実践方法を学べる研修を提供しております。DX推進の一環としてデザイン思考の習得にご興味がある企業様は、ぜひ一度お問い合わせください。

デザイン思考を社内に浸透・定着させる工夫も重要

デザイン思考を根付かせるには、社内で必要性を理解してもらうことが大切です。まだ新しい概念のため、場合によっては「難しくて実践できない」「抽象的なので、実務で活用できるイメージがわかない」などのように、肯定的な意見ばかりではないことも考えられます。

社内でデザイン思考を浸透させ定着させるには、その重要性を発信したり、実際に体験してもらったりする試みが効果的です。

その際、経営者をはじめ、人材開発担当者や教育担当者などの研修企画者が当事者意識をもつことが重要になります。率先して自社の抱える課題に向き合おうとする姿勢を周囲に示さなければなりません。

「ビジネス思考は本質的なビジネス課題の解決に役立つ考え方」だと自分自身が理解できれば、社内に向けて発信されるメッセージにも説得力が出ます。また、企業においてデザイン思考の重要性が浸透し始めたら、実践場として以下のような機会を定期的に設けましょう。

  • デザイン思考に関する研修・ワークショップの開催
  • デザイン思考に基づくディスカッションやブレインストーミングなどの実施

なお、デザイン思考を含むDX推進に課題を感じている企業様は、下記のコラムもご覧ください。DX推進が遅れる原因から成功させるポイント、具体的なステップまで紹介しています。

研修後はフィードバックを行う

デザイン思考が実務で発揮されるには、研修後の適切なフォローアップが有効です。単に研修を実施しただけでは、従業員のデザイン思考を養うことはできません。

具体的には、管理者からのフィードバックが効果的です。面談で従業員から研修の感想や実感できた効果などをヒアリングし、その内容を基にデザイン思考による発想法や実践方法のアドバイスを行いましょう。

まとめ

デザイン思考は、ユーザーの本質的な課題やニーズを理解し、ビジネスの課題解決につなげるほか、革新的なアイデアを生み出すための思考法です。商品・サービス開発やDX推進におけるイノベーションを起こすポテンシャルが秘められています。

デザイン思考を日々の業務で活用するには、右脳を活用したクリエイティブな思考だけでなく、左脳も活用した論理的な思考が必要です。実践形式の研修を取り入れて、この思考法を活用できる人材を増やしましょう。

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