
心理的資本(Psychological Capital)とは、働く人が将来や仕事に対してポジティブな感情を持ち、前身しようとする心の力のことを指します。人的資本経営を実践し、VUCAの時代を乗り越えていくために重要な要素として、近年注目されています。
この記事では、心理的資本が注目されている理由、経営への活かし方、4つの構成要素「HERO」について解説します。企業の経営者や、人事・人材育成に関わる方は、ぜひ参考にしてください。
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心理的資本とは
心理的資本とは、働く人が仕事に対して自信や希望を持ち、前向きに困難を乗り越えようとする心の力のことです。米国ネブラスカ大学名誉教授で、経営学の研究者としても知られるフレッド・ルーサンス氏を中心に2002年ごろに提唱されたもので、ポジティブ心理学の研究テーマの1つとして知られています。
心理的資本には4つの構成要素があり、その頭文字を取り「the HERO within(自分のなかにいる英雄)」とも表現されます。
心理的資本が注目される背景
心理的資本は、近年注目を集めている概念です。その理由を解説します。
ワーク・エンゲージメントの向上
心理的資本は、厚生労働省の「令和元年版 労働経済白書」において、ワーク・エンゲージメントを促進する要因として、就業条件、対人関係、仕事の進め方などの仕事に関する環境整備と並んで重要であることが指摘されています。
ワーク・エンゲージメントとは、「従業員が仕事に対してポジティブな感情を持ち、充実している状態」のことで、離職率の低下や生産性の向上などの効果が期待できます。
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人的資本経営の推進
先述のとおり、心理的資本はワーク・エンゲージメントを高めることに効果的です。
また現在は、人材を「資本」と捉え投資の対象とし、企業価値を高めていく経営手法である「人的資本経営」が重視されています。
持続的な企業価値向上に向けた人材戦略についてまとめられた『人材版伊藤レポート2.0』では、人的資本経営における3P5F(3つの視点、5つの共通要素)モデルにおいて、従業員エンゲージメントを人材戦略の重要な要素の1つとして取り上げています。
これらのことから、心理的資本を人的資本経営に組み込むことで、エンゲージメントの向上を通じて企業の人材戦略を支援できるということが考えられます。
心理的資本の人的資本経営における活かし方
たとえば、心理的資本を、人的資本経営実践のKPIの1つとして設定し、社内外にその背景や理由を発信・説明していく。あるいはAs Is – To Beギャップ(現状と理想とのギャップ)の定量把握として、心理的資本やエンゲージメントのスコアを活用するといったようなことを行うとよいでしょう。
伊藤レポートの実践事例集にも、心理的資本やエンゲージメントのスコアを測定している企業の事例が挙げられています。
従業員一人ひとりの心理的資本を高めていくことによって組織や従業員の行動がポジティブに変化し、業績向上につながることが見込まれます。
業績に影響する人の力とは?
元々、心理学においては人のネガティブな側面を改善していく研究が主流でした。
一方、1990年代の終わりごろから「ポジティブ心理学」の本格的な研究が始まり、人の力を引き出す考え方が注目され始めています。今日ではその研究領域は多岐にわたり、成果は医療、教育、職場など様々な場面で活用されています。
人材1.0=人的資本(Human Capital)
この研究において、まず最初に注目されたのは、人の知識やスキル、経験などの「何を身につけたか」ということを重視する考え方です。
そのため、企業は様々な研修やeラーニングといった教育システムを取り入れ、学習環境を整えることを行いました。
人材2.0=社会関係資本(Social Capital)
次に注目されたのは、社内外のネットワークや人脈といった、「誰を知っているのか」を重視する考え方です。 知識やスキルを持っているだけではなく、それをネットワークのなかで活かし、コミュニケーションを取り共創することによって成果につながるということです。
なお、「プロティアン・キャリア」を提唱する法政大学教授の田中研之輔氏は、キャリア自律においても社会関係資本は重要であり、日本型雇用では不足しやすい要素であると言及しています。
人材3.0=心理的資本(Psycological Capital)
そして現在注目されているのが、ポジティブな心理的エネルギーが、業績に影響するパフォーマンスを後押しするという考え方です。人が仕事に熱中し生き生きと働く、ワーク・エンゲージメントが高い状態だといえるでしょう。
ポジティブな心理状態を持つことで、知識や人脈を活かしていこう・増やそうと考えられるため、心理的資本は人的資本や社会関係資本の土台となっています。
人のパフォーマンスを高め、業績を向上させるための基盤となる資本が、心理的資本だといえるでしょう。
心理的資本を構成する「HERO」とは
心理的資本は、「ホープ(Hope:希望)」「エフィカシー(Efficacy:自己効力感)」「レジリエンス(Resilience:回復力)」「オプティミズム(Optimism:楽観性)」という4つの要素から構成されており、その頭文字をとって「the HERO within(自分のなかにいる英雄)」と表現されることもあります。この4つの構成要素について解説します。
- Hope:希望
希望とは、目標に向かうエネルギーと目標を達成するための計画を持った積極的な状態のことを指します。
やりがいのある目標と期待を設定し、達成のためのエネルギーを持ちながら、「成功できる」と思える心理状態です。初期の計画が達成困難だとわかっても、計画を修正してでもやり遂げるといった考え方も含まれます。 - Efficacy:自己効力感
「自分ならできる」「きっとうまくいく」と思える認知状態が自己効力感です。必要な動機づけや集中力、行動方針を用いて正しく実行できる自分の能力に対する信念のことを指します。自己効力感の高い人は、自分自身に高い目標を設定し、難しいタスクを自ら選択する、挑戦を歓迎する、やる気に溢れている、目標を達成するために努力を惜しまない、障害に直面したときも粘り強く取り組む、といった特徴があるといわれています。 - Resilience:回復力
逆境や対立、失敗などから回復したり、跳ね返したりする能力を指します。
困難だけではなく、昇進における責任の増大といったポジティブな変化にも対応して、前に進もうとできる状態です。困難を克服して乗り越えると、さらに力を増していく上昇スパイラル効果もあるといわれています。 - Optimism:楽観性
心理的資本における楽観性は、出来事が発生した理由を、ポジティブあるいはネガティブに捉えるか、現在・未来のどちらに帰属させるかという物の見方を基準に考えます。
楽観性が高い状態とは、現在および未来における成功をポジティブな要因に結びつけることです。また、ポジティブな出来事に対しては内的要因(自分の能力や努力など)に結びつけ、ネガティブな出来事については、外的要因(一時的な経営環境の悪化など)に帰属させる力も含みます。
たとえば、自分に起きた不運な出来事について、悪い出来事が続いてしまうだろうと捉える人はペシミズム(悲観性)を持ち、「今だけ」と捉える人はオプティミズム(楽観性)を持つとされています。
心理的資本の2つの特徴
企業が従業員の心理的資本を高めるうえで知っておきたい2つの特徴について解説します。
測定ができる
心理的資本は、測定し管理することが可能です。心理的資本を提唱したルーサンスは、4つの構成要素についてそれぞれ6問ずつ、合計24の質問を行うことで心理的資本を測定し、定量把握できると述べています。
また、研究から、心理的資本は以下のような状態に影響を与えることが明らかになっています。
- パフォーマンス
- 満足度
- 組織コミットメント
- 幸福感
- Wellbeing
- 健康
- 人間関係
- やりがい
- 自己開発、成長への投資
など、様々な結果に結びつくことが示されています。
さらに、前段で心理的資本を高めることはワーク・エンゲージメントの向上に貢献すると述べましたが、『令和元年版 労働経済白書』によると、職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化、労働時間短縮や働き方の柔軟化、業務遂行に伴う裁量権の拡大といった雇用管理の取り組みがエンゲージメントスコアと正の相関がありそうだとしています。
また、人材育成の取り組みとしては、指導役や教育係の配置、キャリアコンサルティング等による将来展望の明確化、企業としての人材育成方針・計画の策定といったものが、エンゲージメントスコアと正の相関がありそうなものとして挙げられています。
このことから、心理的資本を測定し、その増加に資する取り組みと検証をPDCAサイクルのように繰り返すことが大切であるといえるでしょう。
開発することができる
心理的資本のもう1つの特徴は、研修等によって強化が可能であるということです。
手法としては、4つの構成要素のそれぞれに着目した小規模な研修を実施することが効果的だといわれています。
具体的には、「目標達成力開発セッション」「レジリエンス開発セッション」の2つのセッションで構成された介入研修が開発されており、1時間から3時間程度の研修の実施によって、心理的資本が2~3%増加するという研究があります。
まとめ
心理的資本は、人的資本経営が求められるいま、ますます注目されています。人的資本をさらに活用するうえでも、心理的資本やエンゲージメントの測定を行うことは大変重要だといえるでしょう。
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