人的資本経営が重視される昨今、現場のリーダーが直面する課題はかつてないほど複雑化しています。「リーダーが誰よりも働き、背中で引っ張る」という従来のスタイルは、なぜ今の時代に通用しなくなっているのでしょうか。
現在、リーダーシップ・マネジメント・レジリエンスを専門領域として年間120日以上の研修に登壇し、13名の講師チームを率いるマネジャーでもある前田 真一へのインタビューを通じて、これからの時代に求められる「シェアド・リーダーシップ」と、その実践に向けた「環境づくり」について解説します。
インタビュイー
株式会社日本能率協会マネジメントセンター
ラーニングデベロップメント本部 研修開発部 研修ラーニング第2センター センター長
前田 真一
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シェアド・リーダーシップの基礎知識や組織にもたらすメリット等をまとめた資料です
シェアド・リーダーシップな全員活躍チームを実現する管理職とは
JMAMが考える現代リーダーシップのあり方|「シェアド・リーダーシップ」とは
Q: 現代の企業における「リーダーシップ」のあり方について、どのようにお考えですか?
前田:かつては、強烈なカリスマ性を持つ「公的なリーダー」が組織をグイグイと引っ張っていくことこそが、リーダーシップの唯一の正解とされてきました。もちろん今でも、そうした強力な牽引力が必要な場面はあります。
しかし現代は、環境の変化が激しく、その都度柔軟な対応が求められます。また、メンバーの価値観は多様化し、個々が持つ知識や強みも「分散」しているため、リーダーには画一的な指導ではなく、多様な人材への配慮が不可欠です。
多くの課題とメンバーを抱える状況では、リーダーひとりがすべてを抱え込み最適解を出し続けるような「スーパーマン」であることは不可能です。また、現場に近いメンバーの方が状況を深く理解しているケースも増えており、リーダーの判断が必ずしも最適解とは限りません。
そのような状況で「強烈なリーダーシップ」に固執すれば、リーダーが判断を誤った瞬間にチーム全体が道連れになりかねません。同時に、メンバーのモチベーションも損なわれ、組織としての成果が最大化されないリスクが生じます。
だからこそ今求められているのは、メンバー同士が相互作用しながらチーム全体でリーダーシップを発揮する「分散型」の組織です。リーダーの役割も、自ら答えを出すことから、メンバー一人ひとりが強みを活かせる「環境づくり」へとシフトしています。
全員が主体的に動く組織へ|「シェアド・リーダーシップ」の実践
Q: メンバー全員がリーダーシップを発揮するには、何が必要でしょうか?
前田:私たちが目指しているのは、多様な価値観がブレークスルーにつながる「全員活躍チーム」です。メンバー全員が自分の得意領域や「自分らしさ」を武器に、必要に応じて代わる代わるリーダーシップを発揮する――これが「メンバー全員のリーダーシップ」のあるべき姿だと考えます。
その目的は大きく2つあります。
① チームが高い目標を達成するため
多様なアプローチを認めることで、イノベーションが起きやすい土壌をつくります。
② メンバー全員に「当事者意識(責任感)」を持ってもらうため
リーダーから提示された目標をこなすだけでは、本当の意味での情熱は生まれません。メンバーがリーダーや仲間と活発に意見交換できる環境があれば、目標は「自分のもの」になり、より主体的に動ける組織へと変わっていきます。
なお、シェアド・リーダーシップは指揮系統を壊すものではありません。ピラミッド型の組織図は維持しつつ、影響力の発揮については「広く、動的に」行うことを目指しています。
コロナ禍以降、リモートワークをはじめとする多様な働き方が広がり、リーダーが全員を物理的に把握・統制することは事実上不可能になりました。「前を向いて突き進んでいたら、ふと後ろを振り返ると誰もついてきていなかった」――そんな悲劇を防ぐための解決策が、シェアド・リーダーシップです。
管理職を取り巻く「5つの大きな環境変化」
JMAMは、現代の管理職が直面する「5つの大きな環境変化」によって、個人のリーダーシップだけでは職場を支えきれなくなっていると指摘しています。
| 変化 | 内容 |
|---|---|
| 複雑化 | 解決すべき課題が高度化し、一人の知見では太刀打ちできない |
| 少数化 | 労働力不足により、少ない人数で高い成果が求められる |
| 多様化 | 働き方・キャリア観・国籍など、メンバーの価値観がバラバラである |
| 分散化 | リモートワークなど、物理的に離れた場所で仕事をする |
| 多忙化 | 業務の見直しが追いつかず、リーダー自身の余裕が枯渇している |
コロナ禍以降、これら5つの変化はさらに加速し、「強力なリーダーシップで組織を統率する」というモデルに限界が生まれました。リーダーがメンバーの細部まで把握・統制しようとすればするほど、リーダー自身への負荷は高まり、かえってコミュニケーションは困難になります。
オフィス回帰の動きがある今でも、多様化した価値観がコロナ禍以前の状態に戻ることはないでしょう。会社が一方的に方向性を押し付けにくくなった今、リーダーは仕事のあり方とリーダーシップそのものを根本的に見直さざるを得ない局面にあります。
リーダーに求められる「環境づくり」の具体像
Q:「メンバーがリーダーシップを発揮できる環境づくり」に向けて、具体的にどのようなシフトが必要でしょうか?
前田:リーダーには、以下の3つの要素が求められると考えます。
① 目的の共有と「旗を振り続けること」
チームがどこを目指しているのかというビジョンをリーダーが示し、メンバー全員と常に「握り続ける」ことが求められます。羅針盤が明確だからこそ、メンバーは安心して自分の判断で動けるようになります。
② 心理的安全性の醸成
これがなければシェアド・リーダーシップは成立しません。「これを言ったら怒られる」「リーダーと違う意見を出すと評価が下がる」という恐怖がある職場では、メンバーは口を閉ざしてしまいます。異論に対してもまず耳を傾け、発言してくれたことへの「感謝」を伝える関わり方が重要です。
③ リーダー自身のマインドシフト
「自分はスーパーマンではないし、それだけが正しいリーダー像でもない」と認め、弱さを開示することも時には必要です。自分がすべてを把握・コントロールすることを手放したとき、初めてメンバーが主体性を発揮するスペースが生まれます。
Q: シェアド・リーダーシップが組織にもたらす具体的なメリットを教えてください。
前田:シェアド・リーダーシップにおいて重要なのは、「創発性」です。これは、個々の要素の単純な足し算を超えた現象が起きることを指します。チームで言えば、場面ごとに「今はこの人が適任だ」とリーダー役が自然と湧き出てくる状態です。メンバー間の相互作用によって、一人のアイデアが刺激となり別の誰かがさらに良いアイデアを重ねる――そんな好循環が生まれることが重要です。
個人の知識の総和を遥かに超えたアウトプットが生まれる流れこそが、シェアド・リーダーシップが機能している証です。
具体的には、以下の4つのメリットをもたらします。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 創造性の向上 | 多様な視点が組み合わさることで、イノベーションが起きやすくなる |
| 変化対応力の強化 | リーダー一人に依存しないため、トラブルや急激な環境変化に対してもチーム全体がレジリエンス(回復力)を持って柔軟に対応できる |
| エンゲージメントの向上 | 自分の強みや個性を活かして貢献できているという実感が、やりがいや所属意識を強くする |
| 次世代リーダーの発掘 | メンバーが日常的に影響力を発揮する機会があるため、次に組織を率いるべき人材が自然と見えてくる |
管理職の「働きかけ方」に焦点を当てた「シェアド・リーダーシップ研修」
Q: これまでの「リーダーシップ研修」とどのような点が異なりますか?
前田:シェアド・リーダーシップを実現できるかどうかは、ひとえに「リーダーがこれまでの理想のリーダー像を手放せるか」にかかっています。
多くのリーダーは、「自分でやること」で評価されてきました。そのため、無意識に権限を手放したくないという心理や、メンバーの失敗を許容できないという恐れを持っていることも少なくありません。しかし、リーダーのマネジメントスタイルが変わらなければ、メンバーはいつまでも顔色を窺うだけで、組織は硬直化していきます。
リーダーが変わればチームに好循環が生まれ、変わらなければ悪循環が続く。
スポーツの世界でも、かつては強烈なカリスマでチームを引っ張るスタイルが主流でした。しかし今は、WBCで世界一を達成した栗山英樹監督や、サッカー日本代表の森保一監督のように、選手一人ひとりを尊重し、信じて任せるスタイルが成果を上げています。ビジネスの世界も、まさにその転換期にあります。
定着を実現する「個人学習 → 集合研修 → 職場実践」の3ステップ
Q: 研修後の成果につなげるためのポイントを教えてください。
前田:研修そのものは「きっかけ」に過ぎないと、私たちは考えています。人が劇的に成長するのは、研修の場ではなく、「職場」での経験を通じてです。
このプログラムでは、1回目の研修で学んだことを職場で即実践し、1ヶ月後の2回目の研修でそれぞれが結果を持ち寄ります。成功した人はなぜ上手くいったかを分析し、上手くいかなかった人は他者のアドバイスを受けて改善策を練る。この「経験学習サイクル」を回すことが、定着化の鍵です。
即実践する人は変化を早く実感できます。一方、目の前の業務を優先して「行かされている研修」として終わらせてしまう人は、このサイクルの外に置かれてしまいます。「職場こそが、学びを本当に自分のものにする実践の場」――この意識を持てるかどうかが、成果の分かれ目です。
Q: 研修のゴールとして掲げている成果を教えてください。
前田:まず大前提として、今のリーダーに重要なのは、メンバーの「弱み」ではなく「強み」を見ることです。欠点ばかりを指摘されれば心理的安全性は損なわれ、力を発揮できません。その理解を深めたうえで、研修を通じて以下の4つの成果を目指します。
① プレイヤーからリーダーへのトランジション(移行)
「自分が動く」から「メンバーを活かす環境をつくることで目標を達成する」という、意識と役割の切り替えです。これこそが、今求められる新たなリーダー像です。
②「5つの環境変化」の腹落ち
知識として外部環境の変化を理解するだけでなく、それを自組織に当てはめ、「なぜ今のやり方では通用しないのか」を自分事として納得することが重要です。腹落ちして初めて、環境変化に耐え得る組織づくりが可能になります。
③ 実践による気づきと定着
研修で得た知識・理論だけでなく、現場での試行錯誤とフィードバックを通じて、自分なりの「チーム運営のノウハウ」を蓄積します。
④ 自分らしいリーダーシップ像の確立
多様性が当たり前の現代では、リーダー像はリーダーの数だけ存在します。「自分と自分の組織に相応しいリーダー像とは何か」「チーム全員がリーダーシップを発揮できるようになった前提で、自分はどこでリーダーシップを発揮していくか」――そのアイデンティティを明確にしていきます。
今後の展望|リーダーの役割は「引っ張ること」ではなく「引き出すこと」へ
Q: 最後に、これからのリーダーシップについてメッセージをお願いします。
前田:リーダーシップとは、役職や肩書きのことではありません。それは「行動」そのものです。そしてその行動は、性格や資質といった先天的なものとは関係なく、ちょっとした訓練を積むことで誰にでもできることです。つまり、「自分はリーダータイプではないから無理だ」と諦める必要はないのです。
自分の強みを活かして周囲に良い影響力を与えること、それ自体が立派なリーダーシップです。そして今、リーダーにはチーム全員の影響力を引き出す「ファシリテーター」としての役割が求められています。JMAMはその道のりに伴走し、「全員活躍の時代を共に目指していきたいと考えています。
シェアド・リーダーシップな全員活躍チームを実現する管理職とは
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