多くの企業がDX推進やコンプライアンス強化を進めるなか、従業員教育のデジタル化は急速に広がっています。また、働き方の多様化が進む今、時間や場所を選ばないeラーニングは、企業の研修インフラとして定着しつつあります。しかし、「導入したものの活用が進まない」「学んだ内容が実務に活かされていない」といった課題を抱える企業も少なくありません。
効果的な人材育成とは何か、eラーニングに求められることとは何か――本コラムでは、eラーニングのサービス開発を行う阿部 洋一のインタビューを通して、行動変容を促す効果的な活用についてご紹介します。
インタビュイー
株式会社日本能率協会マネジメントセンター
ラーニングデベロップメント本部 コンテンツ開発部コンテンツ開発第2センター センター長
阿部 洋一
関連サービス
関連サービス
ハラスメントやコンプライアンスなど、全社理解におすすめ
「守りの教育」をこれ1つで!eラーニングライブラリ®
「やらされ感」を超える — 40年の教育実績から生まれた行動変容を促すeラーニング
Q: どのような考え方に基づいてeラーニングのサービス開発をされているのでしょうか?
阿部:私たちは1980年代から「メディア教育」という言葉を掲げ、社団法人時代から先進的な取り組みを続けてきました。その根幹にあるのは「人を動かす学び」です。
多くのeラーニングは「受講率」や「受講の修了」が目的になり、現場では「やらされるタスク」と化しています。しかし、本来学びとは成長を実感し、高揚感を得られる楽しい体験であるはずです。
受講者が「なりたい自分」に近づく喜びを感じ、自発的に行動を変えたくなるような設計を何よりも大切にして開発を行っています。
学んだ人が単に知識をインプットするだけではなく、「学びによって自分の行動が変わり、それが実際の業務に役立っている」と心から実感できる状態を作ることがゴールです。このとき重要になるのが、組織と個人の成長をどうリンクさせるかという視点です。
「組織の成長」とは、会社が目指すべきビジョン、つまり「組織としてありたい姿」に近づいていくプロセスだといえます。一方で「個人の成長」とは、従業員一人ひとりが「なりたい自分、こうありたい姿」を実現していく過程を指します。しかし、現実には、そのどちらにも「理想」と「現状」の間には必ず課題(ギャップ)が存在します。
その課題を解決するための手段こそが「学び」であるべきなのですが、これまでのeラーニングは、ただコンテンツを流すだけの「情報の提供」に終始していました。私たちはそのギャップを埋めるために、まず「学習意欲を高めること」と「具体的な行動変容を促すこと」の2点を重視しています。
本来、「学び」とは自身の成長や新しい発見に伴う高揚感、喜びを感じる体験であるはず。自分自身の課題が解決され、なりたい姿に一歩近づく。その実感を伴う学習体験こそが、個人のエンゲージメントを高め、結果として組織全体の強さ、つまり人的資本の最大化へと繋がっていくと考えています。そのため、教材の設計段階から「なぜこれを学ぶのか」「どう仕事が変わるのか」を腹落ちさせるためのしかけを、様々な視点で組み込んでいます。
Q: 研修、通信教育など他の学習手法と比較して、eラーニングが特に効果を発揮できる領域や強みについて、どのようにお考えですか?
阿部:JMAMでは、長年、集合研修や通信教育、アセスメントなど、全方位的な人材育成のソリューションを提供してきましたが、そのなかでeラーニングの役割を「ラーニングエントランス(学習の入口)」と定義しています。そのため、「初めの一歩に寄り添う圧倒的な手軽さとわかりやすさ」が特長です。
多くのビジネスパーソンは、「新しいプロジェクトにアサインされた」、「管理職に昇進した」など、働くうえで、様々な「初めて」に出会います。未知の領域や新しい役割に直面した際、最初に触れる学びの場として時間・場所の制約がないeラーニングは最適です。しかし、初手の段階から専門用語ばかりの難しい解説が出てきたら、受講者は一気に意欲を失ってしまいます。だからこそ、私たちのコンテンツは「わかりやすさ」にこだわっているのです。
たとえば、専門家の視点を一方的に押し付けるのではなく、受講者と同じ目線に立ち、現場で起こりうるシチュエーションに置き換えて解説します。「これはあの時のあの問題のことだ」「こんな悩み、感じたことある」と自分ごとに感じてもらうことで、学習の心理的ハードルを下げます。この「入り口」でしっかりと本質を理解して前向きな意欲を持つことができれば、その後の集合研修や実践の場での学びの効果は飛躍的に高まります。
あらゆる学びの起点となり、成長のサイクルを回し始める「最初のスイッチ」としての役割。これこそが、長年多様な教育手法を開発し続けてきたJMAMだからこそ提供できるeラーニングであると自負しています。
ガバナンス強化が組織を強くする基盤をつくる
Q: 全社員教育向けeラーニング「eラーニングライブラリ®」※を立ち上げた背景をお聞かせください。
阿部:JMAMでは、インターネットがインフラとして定着した2000年代にeラーニング事業を開始しました。
サービス開始当初はテーマごとにコンテンツを提供する形態が一般的で、これまでの紙べ―スにかわる新たな社員教育手段として採用いただき、普及してきました。その後、時代の変化とともに、お客様の課題も多岐にわたってきました。従来のテーマごとに提供する形態でカバーしきれなくなってきたこともあり、2010年に「定額制・学び放題」のサービスとして、全面的にサービスをリニューアルしました。当時としては、サブスクリプション型eラーニングサービスの先駆けであったと自負しています。
「会社で一つ入れれば全部署で、様々な目的で使える」というワンストップの利便性を追求し、ハラスメントやコンプライアンスといった、企業が今すぐ解決すべきテーマを常に拡充しながら、今の形を築き上げてきました。おかげさまで、現在に至るまでにのべ440万人を超える方にご受講いただいています。
※eラーニングライブラリ®:1年間、定額で学び放題の企業向けeラーニング。2010年以降累計で1.8万社以上、440万人以上の導入実績。「eラーニングライブラリ®」は、株式会社日本能率協会マネジメントセンターの登録商標です。
Q: 「eラーニングライブラリ®」が、コンプライアンスやハラスメント防止など「企業活動の基盤を支える学び」を提供することに重点を置いている理由をお聞かせください。
企業のガバナンスが脆弱であれば、たった一人の不適切な行動や情報漏洩が、長年築き上げてきた企業の信頼を一瞬で失墜させてしまいます。だからこそ、全従業員が「何が正しい行動なのか」という共通認識をもち、自ら正しい行動をとれるようになる必要があります。
また、これらは一度学べば終わりという性質のものではありません。社会の規範や法規制は刻一刻と変化していき、かつては許容されていた言動が、今では深刻なハラスメントと見なされることも少なくありません。そのため、継続的に学び、常に知識と規範意識をアップデートすることで、正しい行動を「習慣化」させることが不可欠なのです。
ガバナンスが徹底されハラスメントのない心理的に安全な職場環境が保たれていることは、結果として従業員のエンゲージメントを高め、自由な意見交換や新しいアイデアの創出を促します。つまり徹底したガバナンス強化のための教育は、働きやすさを向上させ、組織がリスクを恐れずに挑戦できる「攻め」の状態へ転じるための、最強の土台づくりなのです。
イノベーションを生むためのインフラ整備として、全従業員がこの基盤を共有することの意義は、今後さらに増していくと考えています。
現場での実践に繋がるeラーニング — リアルなシナリオで実現する知識の定着
Q:「定着する、実践につながるコンテンツ」を提供するために、どのような工夫をされていますか?
阿部:eラーニングにおいて注意しないといけないのは、「見ただけ・聞いただけ」になるという点です。単に動画を見て、最後に確認テストを受けるだけでは、一時的な記憶にはなっても、現場での実践には繋がりません。この課題を解決するために、私たちが徹底してこだわっているのが受講者の「自分ごと化による定着・行動変容」の実現です。
そのひとつの例が、シナリオのリアリティを追及することです。現場で実際に起こりうる悩み、葛藤、あるいはつい口にしてしまいそうな「本音」をセリフなどに落とし込むことで、「こういう場面あるよね」「この悩み、今の自分と同じだ」という共感を呼び起こすことが重要なポイントのひとつです。感情が動いて初めて、人の脳は「これは自分にとって重要な情報だ」と認識し、しっかりと情報が定着します。
実際に起きた事例をベースに、キャラクター設定やセリフを丁寧に作ることが受講者の「自分ごと化」に繋がり、「明日からこう動いてみよう」という具体的な行動変容への意欲、つまり実践へと繋がっていくのです。
企業課題・目的に合わせ多様なeラーニングを展開
Q: コンプライアンスやハラスメント防止などの他には、どのようなサービスを展開されていますか?
阿部:当社では、お客様の課題や目的に応じて、領域別にeラーニングサービスを展開しています。
たとえば、技術継承が課題となっている製造業向けには、製造現場に特化したeラーニング「技術・技能ライブラリ」を提供しています。ベテラン社員のノウハウや暗黙知を体系的に学べることが特長です。
また、「従業員の健康」は、生産性や働きがい、ウェルビーイングを高めるうえで欠かせない要素と考え、「健康経営®※ライブラリ」を展開しています。従業員一人ひとりの健康リテラシー向上を支援します。
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
さらに、企業の重要な経営課題であるDX推進に対応するため、「DXライブラリ」を提供し、デジタル時代に求められる知識や考え方の習得を支援しています。
加えて、経営者・管理職層向けには、慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)と連携した「J-クロシング」を通じて、経営に必要な思想や教養、リベラルアーツを学ぶ機会も提供しています。
タレントマネジメントとeラーニングの連携から、一人ひとりの成長に寄り添う学びの支援
eラーニングライブラリ®では、2025年6月に「タレントパレット」との連携を開始しました。これからの人材育成を象徴する取り組みです。
eラーニングの受講履歴データをタレントマネジメントシステムと連携させることで、従来の人材情報と紐づけた育成が可能となり、一人ひとりの成長により効果的につなげられる仕組みを実現しています。
Q: eラーニングにおける人材育成をどのように進化させていくのか、今後の展望についてお聞かせください。
阿部:企業活動の基盤を支える教育サービスとして学習ニーズに合わせたラインナップの拡充を進めていくとともに、常にお客様のリアルな課題を踏まえたアップデートを最優先に考えています。
さらに、受講者一人ひとりに最適化された学習機会を提供したり、学んだことを職場での実践に繋げるためのサポートを提供したりできるよう進化させていきたいと考えています。操作性や学習体験を向上させ、成長の履歴を可視化し、企業として継続的に学び続ける環境を提供していくことが重要だと考えています。
Q: 企業における自律的な学びの風土は、どのように醸成すべきでしょうか?
阿部:昨今、多くの企業で「自律的な学び」が推奨されていますが、ここで私たちが改めてお伝えしたいのは、自律とは決して「従業員に任せきりにすること」ではないということです。重要なのは、企業の戦略や現場の課題と連動した育成計画のもとで、学ぶ意義を社員自身が理解できる環境を整えることです。そのうえで、学習時間の確保や成果を共有・称賛するしくみ、実務で試行錯誤できる機会を制度として用意し、学びを行動変容へとつなげていく必要があります。
人材育成への継続的な投資こそが、自律的な学びの風土を醸成し、企業の持続的な成長の源泉になると考えています。
Q: 最後に、従業員の学びを検討されている方に向けてメッセージをお願いします。
阿部:私たちはeラーニングをはじめとする学習手段を単に提供するだけではなく、お客様が抱える組織の課題解決に正面から向き合うパートナーでありたいと考えています。
「基盤となる教育を大切にすること」、そして「学んだことが実際の行動変容に繋がること」。この二つを軸に、これからも自律的な学びの「あるべき姿」を追求し、企業と個人の成長を全力で伴走・支援してまいります。
eラーニングライブラリ®
コンプライアンスなど「守りの教育」をこれ1つで!
変化が激しい中「守り」の教育は、 企業存続の前提条件。ハラスメント、コンプライアンス、情報セキュリティ等、今全社に必要な教育をこれ一つでまるっと解決!
- いま企業が必要としている教育をラインナップ
- 1年間定額で学び放題
- デジタルで、全社の受講管理もかんたん
関連商品・サービス
あわせて読みたい
Learning Design Members
会員限定コンテンツ
人事のプロになりたい方必見「Learning Design Members」
多様化・複雑化の一途をたどる人材育成や組織開発領域。
情報・交流・相談の「場」を通じて、未来の在り方をともに考え、課題を解決していきたいとの思いから2018年に発足しました。
専門誌『Learning Design』や、会員限定セミナーなど実践に役立つ各種サービスをご提供しています。
- 人材開発専門誌『Learning Design』の最新号からバックナンバーまで読み放題!
- 会員限定セミナー&会員交流会を開催!
- 調査報告書のダウンロード
- 記事会員制度開始!登録3分ですぐに記事が閲覧できます




