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- テーマ: ビジネススキル
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ピープルアナリティクスとは?メリット・進め方・事例をわかりやすく解説

現代の企業において、人事業務は「経験と勘」から「データに基づいた客観的判断」へと大きく変化しています。この変化を支える手法が「ピープルアナリティクス」です。
「ピープルアナリティクス」を用いることにより、従来の属人的な人事判断では見落とされがちだった優秀な人材の発掘、離職率の大幅な削減、採用精度の向上といった効果が期待できます。本記事では、ピープルアナリティクスの基本概念から具体的な導入方法まで、初心者でもすぐに実践できる内容を分かりやすく解説します。
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ピープルアナリティクスとは何か
ピープルアナリティクスとは何か、基本的な定義や従来の人事手法との違い、メリットまで、ひとつずつ抑えていきましょう。
基本的な定義と背景
ピープルアナリティクスは、人事データを統計的に分析することで、採用から育成、配置、離職防止まで幅広い人事課題を解決するアプローチです。従来の人事担当者の経験や直感に頼った判断ではなく、客観的なデータに基づいて意思決定を行います。
この手法が注目される背景には、企業を取り巻く環境の急速な変化があります。労働人口の減少や働き方の多様化により、限られた人材をより効果的に活用する必要性が高まっているためです。
では、このピープルアナリティクスが具体的にどのようなプロセスを指すのか、さらに詳しく見ていきましょう。
「People Analytics」とは、組織内の人材に関するデータを収集・分析し、人事業務や人事領域における施策実行・意思決定に活用するプロセスと手法のことを指します。具体的には、従業員の勤務データ、昇進/異動歴、スキル、パフォーマンス、満足度、リーダーシップなど、様々な人材関連データを収集し可視化・集計することで現状把握をしたり、記述統計分析、回帰分析、クラスタリング分析、機械学習といった各種分析手法を用いた結果に基づき、ビジネス上の意思決定や戦略策定に役立てることです。
引用元:戦略人事成功に資する、People Analyticsの価値
https://jhclub.jmam.co.jp/acv/magazine/content?content_id=21951
従来の人事手法との違い
従来の人事業務では、面接官の印象や過去の経験則が重要な判断材料でした。しかし、データドリブンなアプローチでは、応募者のスキルや経歴、性格特性を数値化し、成功パターンと照合して採用判断を行います。
たとえば、従来は「営業経験が長い人材がよい」という漠然とした基準で採用していましたが、ピープルアナリティクスでは「どのような特性を持つ営業担当者が実際に高い成果を上げているか」を具体的なデータで明らかにします。
タレントマネジメントとの関係性
タレントマネジメントが人材の適正配置と能力開発に焦点を当てているのに対し、ピープルアナリティクスはデータ分析による意思決定支援が主な目的です。両者は相互補完的な関係にあり、組み合わせることでより効果的な人材活用が可能になります。
具体的には、タレントマネジメントシステムで蓄積された人材データを、ピープルアナリティクスの手法で分析することで、より精度の高い人事施策を立案できます。
ピープルアナリティクス導入のメリット
ピープルアナリティクスの導入により、企業と従業員の双方に多くのメリットがもたらされます。
採用活動の精度向上
データ分析により、自社で活躍する人材の特徴やパターンを明確に把握できます。成功する人材の特性を数値化することで、面接時の主観的な判断を補完し、より客観的な採用基準を設定できます。
また、応募者の履歴書や適性検査の結果を既存の高パフォーマー社員と比較分析することで、入社後の活躍可能性を予測できるようになります。これにより、採用ミスマッチを大幅に減らすことが可能です。
人材育成の効率化
従業員のスキルレベルや学習進度をデータで可視化することで、個人に最適化された育成プログラムを提供できます。画一的な研修ではなく、個々の従業員の成長段階に応じたカスタマイズされた教育が実現します。
さらに、過去の研修データを分析することで、どのような研修プログラムが実際に業績向上につながっているかを定量的に評価できます。効果の低い研修は見直し、高い効果を示す研修に重点的に投資することで、教育投資の最適化が図れます。
公平性のある評価制度の構築
人事評価における感情的なバイアスや属人的な判断を排除し、客観的で公正な評価基準を確立できます。これにより、性別や年齢、出身などに関係なく、真の実力に基づいた評価が可能になります。
評価データの分析により、評価者間のばらつきも把握できるため、評価制度自体の改善にも活用できます。公平性が向上することで、従業員の納得感とモチベーション向上にもつながります。
離職率の低下と従業員満足度向上
過去の離職者データを分析することで、離職リスクの高い従業員を事前に特定できます。勤務態度や業績の変化、人間関係の悪化など、離職につながる兆候をデータで捉えることで、早期の対策を講じることが可能です。
また、従業員満足度調査の結果と業績データを組み合わせて分析することで、職場環境の改善ポイントを具体的に特定できます。働きやすい環境づくりにより、従業員エンゲージメントの向上と離職率の改善を同時に実現できます。
ピープルアナリティクスの進め方
効果的なピープルアナリティクスの実践には、体系的なアプローチが重要です。
目的設定と課題の明確化
まずは、なぜピープルアナリティクスを導入するのか、具体的な課題を明確にしましょう。「採用の精度を上げたい」「離職率を下げたい」「人材育成を効率化したい」など、解決したい課題を具体的に定義することが成功への第一歩です。
課題設定の際は、経営陣と人事部門だけでなく、現場のマネージャーや従業員の意見も取り入れることが重要です。多角的な視点から課題を捉えることで、より実効性の高い分析が可能になります。
必要なデータの収集方法
分析に必要なデータを体系的に収集します。人事データの種類には、基本的な従業員情報、勤怠データ、評価結果、研修履歴、従業員アンケート結果などがあります。これらのデータを統合的に管理できるシステム構築が重要です。
データ収集の際は、個人情報保護法などの法令遵守はもちろん、従業員のプライバシーに十分配慮する必要があります。データの利用目的を明確にし、従業員の理解と同意を得ることが不可欠です。
分析手法とツールの選定
収集したデータを適切な手法で分析します。統計分析の基本的な手法から、機械学習を活用した高度な予測モデルまで、課題に応じて適切な分析手法を選択することが重要です。
初心者でも扱いやすいBIツールから、より高度な分析が可能な専門ソフトウェアまで、組織の分析スキルレベルに応じてツールを選定しましょう。外部の専門家やコンサルタントとの連携も検討すると効果的です。
施策立案と実行
分析結果に基づいて、具体的な改善施策を立案し実行します。データに基づいた施策であっても、現場の実情に合わない場合は効果が見込まれません。分析結果を現場の知見と組み合わせながら、実行可能な施策を検討することが大切です。
施策の実行にあたっては、関係者への十分な説明と合意形成が重要です。データの根拠を示しながら、なぜその施策が必要なのかを分かりやすく説明し、組織全体の理解を得るよう努めましょう。
効果検証と改善サイクル
実施した施策の効果を定期的に測定し、継続的な改善を行います。PDCAサイクルを回すことで、ピープルアナリティクスの効果を最大化できます。効果が期待通りでない場合は、分析手法や施策内容を見直し、より効果的なアプローチを模索します。
効果検証では、定量的な指標だけでなく、従業員の声や現場の変化も重要な評価要素です。数値では表れない質的な変化も含めて、総合的に施策の効果を評価することが重要です。
導入時の注意点とポイント
ピープルアナリティクスを成功させるためには、いくつかの重要な注意点があります。
データの質と信頼性の確保
分析の精度は、元となるデータの質に大きく依存します。正確で一貫性のあるデータを継続的に収集する仕組みを構築することが不可欠です。入力ミスや重複データ、古い情報などがあると、分析結果の信頼性が損なわれてしまいます。
データの品質管理には、定期的なデータクレンジングと検証プロセスを組み込むことが重要です。また、データ入力の標準化やシステムの自動化により、人為的なエラーを最小限に抑える工夫も必要です。
プライバシー保護と法令遵守
従業員の個人情報を扱うため、プライバシー保護への配慮は極めて重要です。個人情報保護法やGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)などの関連法令を遵守し、データの取り扱いには細心の注意を払う必要があります。
従業員に対しては、どのようなデータを何の目的で収集・分析するのかを事前に説明し、透明性を保つことが大切です。信頼関係を築くことで、より正確で有用なデータの収集が可能になります。
組織文化への適合と変革管理
データドリブンな人事施策への転換は、組織文化の大きな変化を伴います。変革管理のプロセスを適切に実行し、従業員の理解と協力を得ることが成功の鍵となります。
とくに、従来の経験重視の文化からデータ重視への転換には、時間と丁寧なコミュニケーションが必要です。成功事例を積み重ねながら、段階的に組織文化を変革していくアプローチが効果的です。
専門スキルの習得と人材育成
効果的な分析を行うためには、データ分析スキルを持つ人材の確保と育成が不可欠です。統計学の基礎知識から、分析ツールの操作方法、結果の解釈まで、幅広いスキルが求められます。
社内での人材育成と並行して、外部の専門家との連携や研修プログラムの活用も検討しましょう。また、分析結果をもとに具体的な改善策を提案し、現場の実行を支援する能力も重要なスキルの一つです。
実践的な活用事例
実際の企業での活用事例を通じて、ピープルアナリティクスの具体的な効果を確認しましょう。
離職率改善とリテンション向上
NEC(日本電気株式会社)では、従業員の離職予兆分析を通じて、人材の定着率向上に成功しています。勤怠データや人事評価、サーベイ結果といった様々なデータを統合的に分析し、AIを活用して離職の可能性が高い従業員を予測するモデルを構築しました。
この分析結果に基づき、上司や人事部門が対象となる従業員へ早期に面談を実施するなどのフォローアップを実施します。個別の状況に合わせたケアを行うことで、従業員のエンゲージメント低下を防ぎ、最終的に離職率の抑制へとつなげています。
出典:日本電気株式会社
https://jpn.nec.com/
働きがい改革と生産性向上
カゴメ株式会社では、会社の生産性向上だけでなく従業員個人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上も目指す、独自の「生き方改革」を推進しています。その実現のため、時間・場所・キャリアに関する会社都合の制約をなくし、個人の価値観を尊重する制度を次々と導入しています。
具体的には、単身赴任をなくすための「地域カード」制度や、柔軟なテレワークとフレックスタイム制度、さらには副業(複業)を解禁しました。会社がキャリアを決めるのではなく、社員一人ひとりが自らの価値観に応じて働き方を選択できる環境を構築することで、従業員のエンゲージメントを高め、優秀な人材から「選ばれる会社」への変革を進めています。
出典:カゴメ株式会社
https://www.kagome.co.jp/company/
データに基づく人材育成と配置の最適化
富士通株式会社では、従業員のスキルデータやキャリア志向、プロジェクト実績などを分析し、戦略的な人材育成と配置に活用しています。従業員一人ひとりが持つスキルを可視化し、今後必要となるスキルとのギャップを明らかにすることで、効果的な研修プログラムの提供やリスキリングを促進しています。
また、プロジェクトの要求スキルと従業員のスキルプロファイルをマッチングさせることで、最適なチーム編成を支援します。これにより、プロジェクトの成功確率を高めると同時に、従業員にとっては自身のスキルを活かし、成長できる機会の創出につながっています。
出典:富士通株式会社
https://global.fujitsu/ja-jp
今後の展望とHRテクノロジーの進化
ピープルアナリティクスは、技術の進歩とともにさらなる発展が期待されています。
AI・機械学習の活用拡大
人工知能技術の発達により、より高度で複雑な人事データの分析が可能になっています。従来の統計分析では捉えきれなかったパターンや関係性を、機械学習アルゴリズムで発見できるようになります。
たとえば、自然言語処理技術を活用することで、従業員のフィードバックやアンケートの自由回答を自動分析し、従業員が業務に対して抱く感情の変化や組織課題を早期に発見することが可能になっています。これにより、より迅速で的確な組織改善が実現できます。
リアルタイム分析の実現
従来の月次や四半期ごとの分析から、リアルタイムでの継続的な分析へと進化が進んでいます。クラウドベースの分析プラットフォームにより、データの収集から分析、施策実行までのサイクルが大幅に短縮されています。
リアルタイム分析により、組織の変化や従業員の状態変化を即座に捉え、迅速な対応が可能になります。これにより、問題の深刻化を防ぎ、より効果的な人事施策の実行が期待できます。
働き方改革との連携強化
テレワークやハイブリッドワークの普及により、働き方の多様化に対応した分析手法の重要性が高まっています。従来のオフィスベースの指標に加え、リモートワーク環境での生産性やコミュニケーション効果を測定する新たな指標が開発されています。
これらの分析により、個人の働き方の特性に応じた最適な勤務形態の提案や、チームパフォーマンスの最大化を図ることが可能になっています。働き方改革の実効性を定量的に評価し、継続的な改善を行うことで、よりよい職場環境の構築が期待されます。
まとめ
ピープルアナリティクスは、データに基づいた客観的な人事判断を可能にし、採用から育成、離職防止まで幅広い課題解決に貢献する重要な手法です。導入により組織全体の人材活用効率が向上し、持続的な成長基盤の構築が可能になります。
- 従来の経験則から脱却し、データドリブンな人事施策で競争優位を獲得
- 採用精度向上、人材育成効率化、公平な評価制度により組織力を強化
- 目的設定から効果検証まで体系的なプロセスで着実な成果を実現
- プライバシー保護と組織文化への配慮で従業員の信頼を確保
- AI活用やリアルタイム分析でさらなる効果向上の可能性を展開
まずは自社の具体的な人事課題を明確にし、小規模なプロジェクトから始めることをおすすめします。段階的にスキルとノウハウを蓄積しながら、組織全体のデータドリブン人事の実現を目指しましょう。
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